零劇
「ーーーーーああ、最高だ」
遂に、遂に私の渇望は成し遂げられた
これこそ私の望んだ存在。これこそ私が祈った現象
神なんて、万能でも全能でもない
こんなにも時間を重ねないと成せないのだから
・・・・それでも、成し遂げた。遣り遂げた
総ては事象は私のため
総ての装置は貴方のために
「演劇は終わりを向かえ、後はその採点ね。・・・ふふ、仕上げは盛大に最高の花を咲かせましょう」
さあ、時は満ちた
ご招待しよう。演劇の舞台裏へと
フォルナ、いえ今は朔夜だっけ?あれ?どっちを名乗っていたのかしら
・・・まあいいわ。フォルナ、神がどういうものかを教えてあげる
大体は解っていると思うけど、それでも創造神や破壊神の説明はしておかないと
これからは・・・・貴方がその役目を担うのだから
ーーーーーーーーーーー20年後
荒野の大地にて黒いコートに身を包む一人の偽神が思い耽る
まさか、不可解禁止領域を滅ぼすのに10年以上掛かるとは思わなかった
原因たる新聖生命体を研究する支部は総て滅ぼし、後は不可解禁止領域を無くすだけだったのだが・・・
それが面倒で面倒で仕方なかった
何せあちらこちら、大小問わず在るのだから
そもそもどうやって無くすのか
それは簡単だ。魔法が使えない危険な領域
言うなれば反魔法物質とでも言うべきか
それが強力がために使えない
ならば、それと同じぐらいの魔力を浴びせれば相殺する
現に華炎との闘い。あの時元素魔法を使っていたが、あれだって立派な魔法だ
なのに使えた。それは反魔法物質を越えるほどの質量だったからだ
故に炎も、氷も、風も具現化できた
それと同じように、今度は物理魔法でその領域内に放ち相殺させる
理屈は単純だが、それほどの魔力を人間が持っていなかったためその手段が使えなかったのだろう
だからこそ、新聖生命体の力を利用するために実験を繰り返していた
結果、成功せず、被害は広まるばかり
逆に成功すればその人間を超えた魔力を持って滅ぼすことが出来た
が、一向に成功しなかったので俺自ら手を下し総ての不可解禁止領域をなくしたのだ
勿論、メリヤの実家である地域を最初に
被害に合った場合、家族がどうなったかは聞いていた。
一言で言うなら、メリヤ以外の家族が植物状態だったらしい
それはメリヤを含むこの魔法世界の人間総てが生命力、つまりは生気と同じくらい魔力が活動に必要だからだ
魔力が生きていくうえで必要不可欠だからだ。それは電化製品のようなものではなく重要性だけならば命そのものといってもいい
そういう生態性なのだ
故にずっと居た場合植物状態になってしまう。体が自由に動かなくなってしまう
そんな状態だって聞いたら真っ先に助けるしかないだろ
詳しい時間は聞いていなかったが、実家の場所は聞いていたのでそこで2年ぐらい待って、空から降ってくるディミウルーゴと融合した人間で瞬殺して終了だ
何ともあっけない。2年待ったのにほんの1秒で終わった
まあ、ムダとは思わないけど
後はその辺の町を転々と移動して不可解禁止領域の場所を特定しては消して特定しては消しての繰り返しだ
そんなことを続けて20年。ようやくこの世界から不可解禁止領域はなくなった
勿論、ディミウルーゴが未だに創られているという可能性もあるが・・・その場合はもう好きにしたらいい
めでたくカップルとなったオデュークとリア、そしてトートとメリヤに被害が出ないのなら俺は干渉しない
あいつらの平和を護ってやろう。最高で後100年ぐらいか。まあ不老不死の俺からすればあっという間だろう
死ぬ気がしない。化け物を殺せるのは化け物だけだ
この世界で俺を殺せるのは、恐らく新聖生命体と上手く融合を果たしたものだけだろう
そんな成功例。未だに聞いたこともないけどな
「・・・さて、次は何処へ行こうか」
世界は広い。転々と暮らし、どこまでも歩んできても未だに行ったことがない場所が沢山ある
今まで不可解禁止領域が存在する場所のみ狙ってきたので、それも仕方のないことなのだが
「この世界の観光が終わったら、また地球に戻るかな。そっちで観光し終わったら・・・今度はどこか別の世界へ」
流浪の神。故にどの世界へと旅立てる自由の神
とまあ自分を分析してみた結果がそれなのだが、自分で神とか言うと笑えてくるな
どっちかというとここまで人様の運命を操っている、というか干渉しているのだから運命の神のほうがしっくりくるが
そんなことはどうでもいい。俺は俺で好き勝手させてもらうさ
「・・・・よし、次は向こう行ってみるか」
行き先が決まったのですぐに足を歩み始める
その足取りは何処までいける無限の可能性を秘めていると感じながら
ーーーーーー・・・・だが、その歩みはほんの数歩で止まる
「・・・・・? っなーーーーーー!!!!」
久しぶりに間抜けな声を出してしまった
止まるじゃない。これは落ちる。今この瞬間、垂直に落下しているッ!
気づけば真下に存在してた落とし穴。それも底が見えない奈落の落とし穴
・・・落とし穴、なのか?
落とし穴にしては違和感がある
なら落とし穴ではなく、これは・・・そう入り口のような
何かの入り口。誰かのための入り口であり出口のようなモノ
どこまでも落ちる・・・堕ちる・・・・墜ちる・・・
何もなく、ただ暗黒が広がるその穴を
俺は落ちるーーーーーー
飛ぼうと思えば飛べる。回避しようと思えば回避できる
だが、それ以上にこの下に何があるのか気になったのだ
まるで、誘われたような感覚に陥られたのだ
ならば、行くしかあるまい。どこまでも続くこの穴だって、最後には底があるはずだ
・・・・解ってる、こんなこと人間が出来るわけがない
つまりは同格の、俺とは別の神の仕業
そいつに、会ってみたくなったのだーーーーーーー
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
「ここは・・・」
落下した先は一言で言うなれば、この世界は宇宙だ
何もない、ただ惑星が無数に煌く宇宙そのもの
星々が輝く満天の空、それは空という上だけでなく四方八方総てに広がる光景だ
不覚にも、目を奪われてしまう
美しく綺麗だと
だが、下にはその星々だけでなく・・・
これは・・・まさか、地球?
どうしてだ。俺は確かに時空を超えたはずだ。この宇宙には地球は存在しないはずなのに
「ーーーーー・・・・気に入ってくれたかしら?この場所は」
突如、声がした。透き通るような、それでいて威厳があり逆らえないような声がした
声がした、というより響くという表現の方が適切か
何せここには方角というものが解らないし地面も空もないのだから
辺りを見渡す。その声の持主を探すために
右・・・・・左・・・・下・・・・上・・・
そして、最後に上を見上げる。上といっても斜め上だ
その声の持主はそこにいた
片膝を着いて、嬉しそうな笑みを浮かべた
何もかもを視るだろうその瞳
長く、途轍もなく長いその髪の毛
その存在を一言で表すなら"黄金"
これこそが神だといわんばかりのその輝き
圧倒される。何もかもに圧倒される
黄金の眼、黄金の髪、白銀の衣服
それは、とても見覚えがあるような姿だ
まるで、お前はーーーーーーーーーー
「よく来てくれたね、フォルナ。心より感謝するよ」
「ーーーーーー・・・・ル、キ」
総てを見下すその眼と、邪悪に、優しく笑うその表情で神はそこに居た
・・・・・そうだ。この数十年の一番の疑問
それはルキの存在だ
アイツは"どこにも居なかった"
あの惑星に"存在していなかった"
もしかしたら存在する必要がなくなったから消えたのか?
ここに、本物の神格として生まれ変われたから
・・・だが、その口調は、その声はルキじゃない
だけど見た目はどうみても成長したルキそのものだ
アイツの身に何が起こったんだ?
「・・・ん?ああ、この見た目とルキの見た目が似ているという目をしているね。確かに彼女は私をベースに創ったから似ていても可笑しくはないよ」
ベースに・・・創った?
「さて、早速だけど私の渇望を叶えて欲しい。何、時間はとらせないよ。疑問があるなら総て答えよう」
あくまで見下ろすその視線
今の俺は文句の一つも言えない
それほどまでに圧倒されている。その存在がどういうものかを理解してしまっている
神格
これが純粋の神格。俺や華炎のような偽神とはまるで違う
総てが違う。存在が、風格が、威厳が比べ物にならない
この世界はいわば神格のための玉座だろう
居座るための、住むための玉座
その玉座に片膝着く神は俺にこう告げる
「ーーーーーー・・・・神《私》を、殺して欲しい」
神は神でしか殺せない
人間が同じ地上の存在しか殺せないように
神は神という位の存在しか殺せない
しかし、そも神とはどういう存在か
人間が作り出した概念に神が居るのではなく、神という存在がいるからこそ概念が存在する
故に人間が神を探知することはなく、神は人間でいう概念を自在に操ることが出来る。時間干渉、運命操作、不老不死、数をあげればきりがない。
そして人間という存在自体神の気まぐれによって創られたものだ
暇つぶしに、退屈しのぎに出来た副産物に過ぎない
それほどまでに神というものは暇なのだ
永遠だから、死ねないから、だらだらと無意味に存在しなければいけない
産んでしまったモノの責任を果たさなくてはいけないから
では、このルキに似ている神はどういう概念なのか
一言で言うなれば"創造神"
総てを創り、総てを存在させることが出来る神格
だが、そんな力を持ったこの女神も、何も最初から神だったわけではなかった
そう、見た目からも解るが元は"人間"だったのだ
地球で生まれ、感情を持ち、家族を持ち、恋人を持ち、平和に自然に暮らしていたただの凡人だった
神がどうやって生まれるのかはわからない。ただそこに、知らずそこに存在しているもの
無から生まれるものも居れば、彼女のように人間から知らず神になってしまうこともある
そして自分が神格なのだと自覚した瞬間、別の次元に投げ捨てられる
当然だ。何せその真理は創造。創造神が2つも存在してはいけないのだから
だから地球の創造神はその出来立ての創造神を追放した
知識だけを与え、地球という惑星から別の次元へと飛ばしたのだ
何もない。ただ宇宙が広がるその世界
それが何年、何十年、何億年と生活してきた世界だった
知識を貰ったが故に、自分の置かれている状況を理解してしまった
しかし、何かを創りたいとも思わず、ただただ呆然と宇宙を彷徨う
・・・それが、どのぐらい続いたのだろうか
創造しない創造神に意味があるのだろうか
意味は無い。存在する価値なんてない
ーーーーーー退屈だ、つまらない、何もない。
ならばその退屈凌ぎに母星である地球を真似て創ってみよう
地球という惑星を、何億何京という歳月を掛けて
そうして出来上がったのが今の惑星だ
だが模倣した地球を作ったはいいがこれからなにしようか迷っていた
とりあえず人間を作る。過程は適当で、それなりに人間らしいものを創ってみた
だが、人間を創造したはいいがその管理が面倒になったのだ
何せ何億という繁殖力を持っていた人間だ。神一人だけでは手に負えない
これではいけない、とそこに隕石を落とし総て無しにする
では今度は人間を産むはいいが、その時生まれた瞬間その人間を管理する神を創ろう
それがこの惑星の運命の神の誕生
人間一人一人に神が付き添い、その神の決定権でその人間を生かすか殺すか出来るようにしてみた
そうしたら今度はその運命の神どうして喧嘩するではないか
これではいけない、神は感情を持ってはいけないなと思い感情を無くす
人間だけではない、その地上に生まれる生命総てに感情が無い運命神を携えることで創造神は創造するだけに専念できる
我ながら画期的なシステムだ
だが苦難はこれだけではない、健気に地道に何度も試みる
・・・・それが3,000年ぐらい続いた
人間の"科学"は進化し続ける。それは地球と同じように
だが、そこまで歳月を重ねてようやく理解した
これでは母星と何も変わらない。平和で、平凡な世界を模写しただけではないか
勿論模写し、複写を試みていたのだ。それが当然である
だがそこで、完成してようやく気づいた。これでは退屈だ。意味がない。模写しただけでどうする
この現人神は決して強欲ではない
平々凡々な生活を暮らしてきたから、それなりの欲はあるがいざ何でも出来ますよなんて存在になったらなにも思いつかない
それこそ何京と神として過ごしてきたところで、生まれの、人間だった頃の生活を忘れることが出来なかった
・・・生命にとって、退屈こそが天敵だと誰かが言っていた
まさしくそうだ、何でも創れるなんていう力を持ったからこそ、何でもつまらなく感じてしまった
ーーーーーああ、なんていう生き地獄だ
それはさながら不老不死を閉じ込める真っ暗な牢獄だ
故に抱いた
神ゆえに不老で不死の存在
だけど、神だからって何でも叶うなんて思わない
不老はなくせる。その気になれば老人にだってなれる
だけど、女だからこそそこは永遠の美しさを維持していきたい
ならば・・・そう、もう解るだろう
不死
だからこそ死を望む
そしたらどうだろうか、死ねないではないか
課せられた義務からは逃れられない
故に死ねず、ただただ有象無象を創り続ける
・・・・死にたい
そこに神として、現人神として唯一の渇望を抱く
他の神なんか知らない。知ったところではない
私は、死にたい。もうここから抜け出したい
ならば、私を殺せる存在を創ろう
創る、創る、創るーーーーーーーーーーー
試行錯誤し何度も創り、何度もやり直した
そのための"魔法"という人間社会をより進化させるためのシステム
そのための"新聖生命体"という擬似神格であり私の分身
でも・・・やっぱり駄目だ
子が親を越すことは出来ない
純粋の神は創れないにしろある程度力を宿った神ならば創れる
でも、それでは神《私》を殺せない
その程度では私を殺せない
・・・・では、私が創った存在ではない生命を同じように神にしてみればどうだろうか
私が創った人間では成し遂げれないから、別の神が創った人間・・・そう、私と同じ地球の人間をここに連れてきて神に仕立て上げてはどうだろうか
人間というものは優秀だ
私が与えた新聖生命体を複製しようと頑張った結果、あろうことか本当に贋作だが偽神を造り上げてしまうではないか
ならば、これを使う手はない
私はそれは地球に落とした
出来るだけ気づかれないように、隠密に地球に干渉して
それが願わくば貪欲で強欲な、摂理や倫理すら覆そうと思う人間の手に渡ってくれるように願いを込めて
だが、アレと融合した人間を呼び寄せてみたはいいが
まさか、それと一緒に2人も付いて来るとは思わなかった
・・・この世界は生命に運命神が憑いて居なければ時期に消滅するように出来ている
私は察した。この二人も必要だと、瞬時に思った
故にこの二人には神《私》とかなり似ている新聖生命体なるものを用意し、憑依させた
ーーーーーそう、この3人こそが貴方達兄妹よ
貴方達が狂ったのは総て私のせい。総て総て、貴方達に纏わる悲劇は私仕組んだことだよ
どうやって終わらそうか・・・