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5、顔合わせ。

何か食べてばかりです。すみません。

 昨日と同じように今度は朝早くに昨日と同じ墓地に出かけた。着いた墓地ではさっさと調査し終えた。そのまま他の墓地にも足を運んでいた。それぞれの墓地に行くときにそこに近い花屋に必ず寄った。昨日と同じように寄った先で噂話をしてみると、やはり噂が浸透していて、墓参りの人が減少しているのは間違いなかった。


「これじゃ墓荒らしのやりたい放題じゃない」


 墓地はどこも大体同じ作りになっている。そのため昨日よりも効率良く作業が進んだ。それだけではなく、自分以外の人の存在が全くないのが一番の理由だ。最初は人目を確認して作業していたが、どうにも人は来ないと分かってからは作業自体は楽になって短時間でさくさく進められた。人目を気にしないでいいのはありがたいが、それは良くない兆候だというのは間違いないから複雑な心境だった。

 あらかた終わったと気がつけば、太陽は真上に来ていてお腹も鳴っている。


「ここでお昼食べてから職場に向かおう」


 さすがに自分の足だけで全ての墓地を調査するのは不可能だ。後は担当者に頑張ってもらおうと決めていそいそとお昼の準備にとりかかる。

 木陰になってる場所を選ぶ。暑くはないが、日焼けもしたくない。適度に涼しい場所で持ってきた荷物を漁る。鞄にしまいこんでいたお弁当を取り出す。魔法瓶も取り出して気分はピクニックだ。この魔法瓶は、文字通りの代物だ。それなりの値段はしたが、値段に見合った物だ。冷たい物は冷たいまま1ヶ月は持続する優れ物で、砂漠地帯ではかなり重宝されているらしい。少し残念なのは、日本の魔法瓶みたいにいろいろ可愛くない所くらい。

 地面にはちゃんとシートの代わりになる布を敷いて準備万端にした。ここが桜スポットじゃないのが非常に残念に思える。周囲は緑だらけで花は小さな野の花ぐらいしかない。人の声もない自然の音しかない昼間でなければ寂しく思えるが、こういうのも嫌いじゃないので、のびのびとリラックスできる。

 濡れたタオルで汚れた手を拭いてお弁当箱を開けた。


「それじゃいただきます」


 手を合わせていざご飯とお箸を手に持った。不意に耳に人の声が届く。


「こんな所でご飯ですか?」


 いつの間にか目の前には二人の若い男性がいた。かなりの美形組だ。

 一人は私に声をかけてきた茶色の髪に青目が綺麗なのに、目の奥が笑ってない、どうにも油断できない癖のありそうな人物。もう一人はまだ少年で金髪に緑目の傲慢そうな雰囲気がある金持ちのボンボンタイプに見えた。どちらもギルドの制服着用しているが、同じ制服なのに金持ちな雰囲気が漂っている。座っている自分に目線を合わそうと屈んでいるが、かなり高身長のようだ。

 二人とも自分を観察してるのが伝わってきたが、特に悪いことをしてるわけでもないので気にせず食べ始める。

 その様子を不快に感じたのか、傲慢そうな金髪の男性が脅すように口を開く。


「無視とはいい度胸だ」

「そうですか? 見知らぬ男性に声をかけられるのは怖いので聞こえなかったふりをしましたけど、いけませんか?」


 私の言葉を聞いて慌てて愛想の良い声で別の男性が、注意を引いた。

 

「我々は見て分かるようにギルド職員です。不審者ではないのでご安心下さい。お嬢さんはこちらにはお墓参りですか?」

「ええ。今はお昼中です」


 答えはするが愛想は振りまかない。せっせとお弁当を口に運ぶ。見た目は楽しめる美形だが、雰囲気が険悪なのであまり顔を上げて彼らを見たいと思わない。当然、彼らの顔を見上げることもない。それが相手には気に入らないのだろうというのが空気で伝わる。


「こんな所でか?」

「ここって居心地良いと思って。あなたたちが来るまでは最高だったんですが……」

「お邪魔をして申し訳ありません」

「本当にね」


 うんうんと頷くと二人共一瞬押し黙る。まさか素直にそう言われるとは思わなかったのだろう。

 けれどこちらだってせっかくの休憩時間を邪魔されて嬉しいわけがない。

 普段は墓地にいそうにない有能そうな美形二人がこんな場所にいることから、今回の仕事の担当者になるだろうというのは分かった。単なる墓参りならわざわざ制服など着用しない。

 本来ならもう少し愛想を良くして情報提供して、スムーズに仕事ができるようにするべきだろう。でもこんな美形たちだとその気もない。下手に愛想でも振りまこうものなら、この手の人間は面倒事を持ってくるからだ。それに、人目がないと言ってもここは外だ。誰が聞いてるか分からない場所で詳細を話し合うのは良くない。


「失礼ですが、お嬢さんはいつもここに来るんですか?」

「いいえ。お二人こそ今日はなぜここに? お仕事ですか?」

「ええ、最近墓荒らしがいくつかあると聞いて調べています」

「それはご苦労様です」

「何かご存知じゃないですか?」

「私がですか?」

「ええ」


 胡散臭い笑顔を浮かべたまま茶髪の人が質問したが、首を振って否定した。


「……そうですか」

「おい! そろそろ行くぞ」

「それではお食事中お邪魔しました」

「いいえ。そちらもお仕事頑張って下さい」


 優雅にお辞儀をしてくれたので、慌ててこちらも軽く頭だけ下げる。彼は無愛想な金髪の人と一緒に墓地の入り口方向に去った。その姿を確認して大きな溜息が出た。


「あーあ。やだなー」


 ギルドに行ったら彼らと対面するのは間違いないみたい。そうすると、きっと今のやりとりについて文句を言われるだろうと思うと憂鬱だ。


「今はしっかりご飯を堪能しましょうか」


 その後は誰にも邪魔されることもなく休憩は終わった。

 ギルドに行く前に他にもいくつかお店を巡り、噂を集めた。結局はおやつ時間に職場に到着した。


「リナ、おかえりなさい」

「ただいま」


 受付に座るアンナさんたちに挨拶をする。鞄にしまっていたおやつのパンのいくつかをアンナさんともう一人の受け付の人に手渡す。


「これ新製品ですって。皆さんで食べて感想聞かせて下さいね」

「いつもありがとうね」

「これっていつもくれるパン屋さんでしょ? 前に行ったときに、リナの名前出したらおまけしてくれたの。凄く助かっちゃった」

「そうですか? また買いに出かけて下さい。今日のも凄いおすすめ商品になりそうですよ」

「楽しみにしてるわね」


 受付の方たちとは仲良くしといて損はないので、こうしたやり取りはいつのもことだったりする。女性の味方は女性に限るので、どうにか社会人として適度な距離を築くようにしている。


「事務室にはバルクスがいるわよ」

「あ、了解です」


 報告待ちだろう上司を浮かべて事務室に向かう。

 ノックをして返事を聞いて室内に入る。正面にはバルクスさんがいた。軽くお辞儀をしてロッカーに荷物を放り込んだ。制服を取り出して腕に引っ掛ける。

 正式な報告ではないので、背中を向けたままお互い話し出す。


「よお。どうだった?」

「大体テリーさんが言ってた通りでしたよ。噂は少し違いました」

「違った? 嘘だったのか?」

「いえ、テリーさんの所でやると墓荒らしに合うというよりも呪われるって内容が主流です」

「呪い?」

「はい。呪いによって墓荒らしや泥棒に合うって話でした。あそこはだめだ、呪われるって子供が怖がるような噂話で広まってます。かなり状況がまずいです。お墓に供えるお花屋さんなどいくつかの関連のお店も墓参りの自粛で客が減ったみたいです。売り上げは微妙に減ってる程度でさほど実害は出ていないようですが、なんにせよ妨害にあってるのは間違いないかと思われます。それよりも墓地にはかなり長い時間いたのに、お墓参りの人には誰一人会いませんでした。」

「……そうか」


 制服を持ったまま、バルクスさんの目の前に立つ。バルクスさんが難しい顔で顎を触る。昨日は夜遅くまで仕事をしていたようだ。アンナさんのお陰だと思うが、バルクスさんは仕事が忙しいと身なりに気を使わなくなって不精髭を生やす。あまり髭自体は好きではないけど、その姿は渋くて密かに憧れる。普段は強い男性が弱ってるギャップにきゅんとくるのは秘密だ。アンナさんにはバレバレで少し恥ずかしいが、他の女性職員たちも同じように思ってる人はいるので皆でたまにおしゃべりネタにしている。


「それで誰に任せるかは決まったんですか?」

「ああ。もうすぐ来る。応接間を使うから茶を入れとけ」

「分かりました」


 さきほどの二人だと分かっているでの心構えをしっかりしておく。バルクスさんがさっさと応接間に行くのを確認して着替えを済ませた。

 いつも通りにお茶を淹れ、自分のおやつにと買ってきたパンをお皿に移す。ノックをして応接間に入る。バルクスさんだけだった。来るのは同じ部署の人だし気にしないことにしてパンに齧り付く。


「おっうまそう」


 バルクスさんがパンを食べる。私がいつもお弁当やらおやつやらを持ち込んで食べるのを見てバルクスさんは、毎回自分が食べるのが当たり前みたいに平然としている。多忙なときでも私が変わらず食事するのを見てバルクスさんも食事はきちんと食べるべきだと思い始めたみたいで、それは良かった。でも自分の分は自分で用意しろと声を大にして言いたい。いつだって量は大目に用意しているから問題はない。今回もたまに買うパン屋さんに試食を頼まれてもらったから多めだった。


「新しいやつか? 毎回うまいわ」

「キャシーさんのお店にはいつも美味しいしか言えないのに、こうして試食用ってお裾分けもらえてありがたいですよね」

「でもお前はギルドの連中に店を案内したり、休みの日に客寄せまでして凄く助かってるって彼女も言ってたぞ」

「そうならいいですけどね」


 しばらくお互い無言で美味しくパンを食べていると、ノックがして扉が開いた。


「バルクス、戻りました」

「おう、こっち来いよ」


 扉が開いた時点でさきほどの二人なのを確認済みだ。お客様ではなく同僚なので席を立つことなく、そのまま残っていたパンを平らげる。


「あっ! お前、さっき墓地にいた奴っ」

「リナ、こいつらに会ったのか?」

「はい。お昼中に声をかけられました」

「ああ、お前は飯時に邪魔されるの嫌がるもんな。どうせ適当に相手したんだろ?」

「きちんと話しましたよ」

「それより、お前たちもこれ食うか?」

「何当たり前に勧めてるんですか? これは私のおやつです」


 私とバルクスさんは二人を気にせずおやつ時間を楽しむ。


「いつも気にしないだろう。それより二人は自己紹介はまだだよな? こいつはリナ。前に話した新人だ。この通りマイペースだがそれなりに使える。リナ、こっちはお前と今回組むことになる奴らだ。金髪がドムだ。でこっちの茶色いのがセイ。ちなみにマークはリナより年下の18だ」


 バルクスさんが紹介してくれたので、慌ててパンの残りを飲み込んで頭だけ下げる。


「リナです。よろしくお願いします」

「セイです。こちらこそよろしくお願いします」


 マークと呼ばれた金髪の人は、私をじろっと睨んで何も言わずにテーブルのパンに手を伸ばす。その手がパンに届く前にセイが止めた。


「マーク、挨拶はしましょう」

「嫌だね。こいつ墓地で俺たちに会ったときに何も言わなかったんだぜ? きっと一緒に仕事を組むって分かってたのに!」

「マーク!」

「おいおい、坊ちゃん。相変わらず空気読めない奴だな」

「ええっと、一応よろしくマークさん」

「ふん!」


 腕を組んで鼻を鳴らす姿はまだまだ彼を子供に見せる。バルクスさんは少し厳しい表情になった。


「マーク、いい加減にしろよ。これは仕事だ。仕事に感情を挟むな。ミスに繋がる。リナ、こいつはこんなんだからセイを使うようにしろよ」

「分かりました。セイさん、いろいろご面倒おかけします」

「いえ、こちらもこの通り問題児で申し訳ない。あ、自分のことはセイと呼んで下さい。こちらもあなたをリナと呼びますから」

「あ、はい」


 こうして私は、厄介そうな同僚たちと新しい仕事に就くことになった。

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