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2、依頼です。

誤字脱字よろしくお願いします。

 大きな声を出して扉を開けて中に入って来たのは、ここの副責任者の一人である男性バルクスさんだ。

 所属する部署の責任者はいくつかの部署の掛け持ちをしている多忙すぎる人とのことで、バルクスさんともう一人が副という名の実質一番上として責任を持っている。私は一番上の責任者の名前も顔も知らない。多分ずっと知らないままだろうと思う。

 バルクスさんは30代後半で体の大きさや無骨な雰囲気が熊みたいな人。やはり見た目通り物事に大雑把な人だが、私にここの仕事を紹介してくれた恩人でもある。仕事大好きな人なので紹介した仕事を私も喜んでやっていると信じている変人だ。

 仕事をくれたのは感謝しているが、その感謝も仕事に慣れてくると多少恨めしい気持ちの方が膨らんできている。バルクスさんは面倒見の良い仕事の出来る人だけど、こちらの心中は複雑ではある。

 仕事はありがたいが、バルクスさんみたいに仕事が趣味とか生きがいではないのだから困ったものだ。

 バルクスさんがこちらに足を運ぶということは新たな仕事が入ることを意味する。

 やはり彼の後ろには、背に隠されるように所在なげに立つこちらが知らない人がいた。


「いらっしゃいませ。こちらにどうぞお座り下さい」


 人に気付いてすぐに片手に飲み終えたカップをお客様から見えないように持ち、応接間のソファに促す。バルクスの後ろから出てきたのは50代くらいの男性。私に言われるがままにソファに腰を下ろすのを確認した。


「今、お茶をお待ちします」

「ああ、頼んだ」


 にやにやしてこちらの様子を観察するバルクスさんには構わずにお辞儀をして応接間を出る。

 たまにこうして不意打ちのようにバルクスさんは、応接間にお客様を通すのが困ったところだ。同じ副責任者がもう一人いるが、あの人はきちんと体裁を整えるだけの間を必ずくれる。だけどもう一人経由の仕事は滅多にない。そのためにバルクスさんの不意打ち攻撃にこちらもそれに合わせた対応スキルが上がってる気がする。

 あまり応接間を使わなければいいだけの話だが、それはこちらのストレスがたまるだけなのでどうしようもないものとして、日々スキル上げに勤しんでいる。


「あなたたち、子供みたいね」


 アンナさんは私たちのこのやり取りを最初に見たときに、呆れた表情を隠さずにそう述べた。

 バルクスさんは私を出し抜くために、私は出し抜かれないための戦いは現在進行形で就職したときから終わりを見せる気配はない。

 お茶と軽食をバルクスとお客様の分をワゴンに載せてまた応接間に戻る。二人の前にお茶と軽食を出してバルクスさんの後ろに控える。バルクスさんはマイペースに出されたお茶をごくごく飲んだ。

 その姿にお客様も多少は緊張が崩れたのか、目の前の軽食に手を出す。

 テーブルの上の物がある程度減った所で、バルクスさんが発言する。


「テリーさん、紹介が遅くなりましたが、これはうちの署員のリナです。こう見えて非常に優秀な人間ですので安心下さい。リナ、こちらはテリーさんだ。葬式の会社を経営されている立派な商人だ」

「テリーさん、始めまして。リナです。どうぞよろしくお願いします」

「テリーです。この街の外れで葬式の経営をしております」

「……では詳しい話を聞かせてもらいたい」

「はい。最近、良くない噂を耳にしまして。それで仕事への影響も出始めています」

「噂? 確かおたくの仕事は葬儀屋だったな」

「そうです。どうもここ半年ほどうちの顧客の遺品が墓荒らしにあってるようなんです」

「墓荒らし? それは今に始まったことでもないはずだが……」

「確かにそうです。でもほとんどの墓荒らしの被害は何年も経ってる場合が多かったんです。それがどうも葬式をした1ヶ月前後には被害に逢ってるということでして……」


 テリーさんによれば、本格的におかしいと気付いたのは先月の話になる。

 その2ヶ月前にたまたま葬儀をした遺族と再会した。商談を終えて軽く一杯飲もうと店に入ってお互いに気付いて、アルコールの力もあってすぐさま打ち解けたそうだ。それでいろいろ話をしている内に、実家に泥棒が入って金目の物がいくつか盗まれた。翌日、故人の子供が墓参りに行くと遺品を納めた場所が不自然に土が盛られていて触ると柔らかい。前日泥棒に入られたばかりのためにすぐに怪しく感じて遺品を掘り返したら、高価な遺品は全てなくなっていた。


「……酔いもありましたので、そのときは単にお気の毒にとしか思いませんでした」


 テリーさんは泥棒に入られるなんて悲惨だし、遺品を取られたのは心情としても苦しいだろうと思いはしても、あくまで自分には関わりのないことだと思っていた。

 ところがそう他人事ではいられなくなった。

 その数日後に、また違う遺族と会う機会があった。普段、遺族と会うことはほとんどないそうだ。というのも、テリーさんが仕事先にしているのはこの街よりもこの街周辺のそこそこ大きな町の資産持ちになる。その町にテリーさんが再び行くにしろ、顧客は資産家のためにテリーさんが寄るような店に来たりはしない。それが偶然にも2度も起こった。


「今から思えばそれは虫の知らせみたいなものですかね。二人に会ってなければ噂があったとしてもなかなかここまで来ようとは考えませんでした」


 その2人目の家も同じく窃盗被害者だった。墓荒らしと泥棒は同じ時期に起こってるのは間違いなかった。

 これは自分もきちんと調べるべきだと考えたテリーさんは、早速1年以内に行った葬式の調査をした。確認できる範囲で聞いた所で、8家族の遺族が被害者だった。

 単なる泥棒にしては下調べをしていると思って、同業者にも泥棒の話をいくつか尋ねた。

 結果的に他の業者でも同じように被害がいくつも出ていた。ただ一番被害者を多く出しているのがテリーさんの会社ということだった。資産家を相手にする機会が多いのがその原因だ。


「これは墓荒らしと窃盗は同じ犯人だと私は考えました。ほとんど同時期に泥棒も墓荒らしにも遭うなど偶然ではないですからね。ただ、調べてみたり犯人逮捕を依頼はしましたが成果はありません。……そうしている内に噂が出始めました」

「それで、その噂ってのは?」


 テリーさんは悔しそうな表情を浮かべてカップに視線を落とす。


「……うちが泥棒と組んでるというものです。もちろん、そんなことはしていません! この仕事をして数十年になります。今までだって何度も資金に困ったり、嫌な目にはあってます。だからといって自分の所に来た方を裏切るような行為はしませんよ」


 最近あまり仕事がないのをおかしいと思っていたが、まさか自分の所の噂のせいだと知ってテリーさんは非常に憤った。

 実しやかにテリーさんの所で葬儀をすると窃盗がある、というのをいくつかの資産家の所に出回っているそうだ。

 このままでは今までのようには仕事が出来ないと危惧したために本日テリーさんは、何とかして早期に解決をと願ってこちらに来た。

 何とかして欲しいという必死さがこちらにも伝わってくる。

 ただ、私の気持ちとしては溜息ものだ。

 わざわざ副責任者であるバルクスさんが相談に乗った時点で、この話は受けることが決まってるのだろう。

 でも現場に出るようなのは勘弁して欲しい。

 何度か事務のはずの私が現場に出るはめになったが、問題はその現場作業が終わったあとの書類による後片付け作業だ。通常の業務ができるまで休憩も短縮して事務室に1週間寝泊りするようなはめになった。

 あの地獄はもう経験したくない。

 そんなこちらの心の叫びに気付くわけもないバルクスさんは頼もしい笑みを浮かべて言い切った。


「……分かりました。早期解決に向けてこちらも出来るだけのお手伝いをしましょう!」


 ああ、これでまた仕事が忙しい。 

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