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暗黒街の沈黙  作者: take.
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第六話 殺人会社

 闇社会――。

 世間で言われてるほど恐ろしくはないが、昨日会った人が今日死んでいるような世の中だ。小さい頃教え込まれてきた多くの常識が、単なる奇麗事に過ぎなかったのだと気づかされてしまう。

 目の前にいる白髭の老人はファミリーのドンであり俺の親父だが、こうして向き合ってみるとやはりこの闇社会で培ったであろう独特の雰囲気にある種の恐怖を覚えてしまうのだ。

「つまりお前は私に武器と車両の提供を要求しているのだな?」

「提供の要求というか、必要なんだ。その、つまり仕事に」

 幹部と話をするだけで済むはずだった”道具”のお願いも秘書の余計な計らいによってわざわざ親父と話すことになってしまっていた。

「武器はともかく車両は無理だ。お前だって見てきたろう、庭を」

「庭?」

「駐車場のことですよ。今は工事中なんです」

 親父のそばに控えた顧問が口を挟んで言った。

「全ての車両は別所に移してあります。つまりジョンソンに渡せる車両はないということですよ」

 俺は首をすくめて見せた。

「まいったな。車両なしには仕事はできないぜ? でもまあ仕方ない、せめて俺達がここまで乗ってきたセダンはもらっておくよ」

 親父は軽くうなずいて了承した。

 俺は武器も要ると言ったがこれも返事はノーだった。

「今月はニューヨーク市警の密輸防止キャンペーン月間でしてね。まとまった量の銃器は郊外に移してあります」

「いやしかし、ここに全くないって事はないだろ」

「もちろん一定量常に貯蓄されていますがすべて”親衛隊”が使うものでしてね。お渡しできませんよ」

 顧問の冷静な物言いが気に障る。彼はファミリーに専属で雇われた、確か会計士だ。雰囲気にもそれらしさを垣間見せる。実は俺の一番嫌いなタイプだ。

 俺は一晩中鏡と練習した、”冷ややかな不満の表情”というのをやって見せた。

「というわけでこちら側からは何のフォローも出来ない。私たちも多忙でな、時期が悪かったのかもしれんよ」

 親父の口からそんなことを聞くのは意外だったのかもしれない。俺は助けを求めるように顧問を一瞥した。

「そう言えば……、ポルトマンがこのあいだの恩を返したいとか言ってました、あそこの会社を利用しては?」

 親父は顎に手を当てて軽く頷いた。

「ポルトマンか。悪くないかもしれん。ジョンソン、お前はまだ奴を知らなかったな?」

「ああ。名前も聞いたことがない」

「いい機会だ。マーカス、奴に紹介してやってくれ。」

「わかりました。今奴を来させましょう」

 親父にマーカスと呼ばれた顧問は立ち上がって足早に部屋を出て行った。

「ポルトマンというのは何者なんだ? なにかの会社の経営者か?」

「そうだ。奴はMMMの社長をしている」

「MMM?」

「Mac's Murder Makersだ。巷じゃ殺人会社とか呼ばれているな。ポルトマンはそこの社長だが、マックレガーという奴が先代社長だった。今はキューバの刑務所にいるがね」

「キューバの?」

「そうだ」

「なぜ?」

 親父は答えなかった。何か別な事情があるのだろう。

 しかしまあ、キューバの刑務所ときたら理由は大体決まっている。キューバとの密輸事業においてカストロ議長に充分な金を払わなかったせいで捕まる連中というのは多勢いる。特にキューバ危機からは特に国防総省ががFBIをけしたてて警戒に当たらせている。

 親父の顧問が再び部屋に入ってきた。MMMの社長ことポルトマンはすぐにこのオフィスに来るとのことだった。

「わかったな。しっかりやれ」

 それだけ言い残すと親父はさっさと奥のプライベートルームに入っていってしまった。”書斎”の別名で呼ばれるその部屋は親父が誰にも侵入を許していないという特別な部屋だ。

 親父抜きということで若干不安でもあったが、俺はポルトマンを迎えるべく顧問に連れられて別室に移った。




 オフィスの奥の奥にあるこの部屋はその手の人と話をする時専用なのだという。広いオフィスの中を歩かせて     するのが目的なのだろう。

 部屋には俺と先の親父の顧問マーカス、そして俺の知らない眼帯の男だ。マーカスの話によると彼はオーロッフ・バリスという名の男で、ファミリーのナンバーツーなのだという。

 さしずめ、マーカスでは顔不足だということなのだろう。ニューヨーク市リトルイタリ―地区を最初に制圧した武闘派であるというバリスは片目でじっと俺の方を睨みつけていた。

 やがてドアの向こうから足音が聞こえてきた。ポルトマンが来たのだろう。

「会う前に言っておきます。彼はこの社会の人間というより純粋なビジネスマンです。いつものやり方が通用する相手ではないことを常に意識してください」

 マーカスの言は意外だった。相手は殺人会社の社長なのだ。この社会の人間でなくて何なのだろう。俺は商店街で人殺しを商売とする店など見たことがない。

 ドアが開かれた。

 入ってきたのは、なるほど、この社会の人間ではない。しかし割と若い男だった。四十ぐらいだろう。

「マーカス様。先日はお助けいただきまして、誠にありがとうございました。ファミリーのお力がなければどうなっていたことか。感謝、感謝でございます。」

 ゆっくりと独特の口調で話す様はこの社会でないことを確かに示していた。何処がというわけではない。何となくだ。

「ああ、お金の件は心配ない。回収済みです」

「了解しました。今回はそのお礼ということで、しっかり勤めさせていただきます。バリス様もご同席ですしね」

 ポルトマンは軽くバリスに会釈しながら言った。

 マーカスが席に座るよう促した。机には茶色の封筒が置かれていた。ポルトマンは黙って封を開けた。

 俺は少し不機嫌だった。マーカスとバリスには例があったが俺にはなかった。俺だってドンの息子なのだ。

「エルクラーノと一戦交えることになりました。武器、車両、それから人員を少し」

 ポルトマンは目を上げて言った。

「そうですか。エルクラーノ・ファミリーと……。あそことその地域に関して幾つか情報を持っていますがいかがですか? 今なら、例のこともありますし、お安くしますが」

「ジャリオ街の警察署長が交代する件?」

「いえ、もっと新しい話です」

 マーカスはバリスの方を見たが、バリスは何も言わなかった。

「スミス・ファミリー様には重要なお話だと思いますがねえ」

 マーカスは黙ってうなずいた。

「買いましょう」

 ポルトマンは胸ポケットから伝票を取り出した。

「お支払いは?」

「キャッシュ。いや付けといてくれ」

「徒にはならんか」

 ここで初めてバリスが口を開いた。とても低くて、聞き取りずらい声だった。

「無料にですか。無理ですね。それだけ価値のある情報だとご理解下さい」

 バリスは何も言わなかった。ただ、その片目でポルトマンを睨みつけただけだった。

 ポルトマンは無視して話を続けた。

「責任者はマーカス様で宜しいですか?」

「いや、こちらジョンソン・スミスだ。初仕事になる」

「ドンのご子息で?」

「そうだが……話にあっただろう」

 ポルトマンは黙ってうなずいただけだった。

「ではジョンソン様、例の警察署長の件はご存知ですね? なるべく時期が早い方がいいということです。細かい話し合いは……そうでしうね、明日などはいかがですか?」

 俺は快諾した。早い方がいいということはダンからも聞かされていた事だった。

 マーカスがポルトマンが差し出した契約書にサインして話は終わった。ポルトマンはバリスに連れられて部屋を出て行った。




「彼がポルトマンという男ですよ。MMMこと殺人会社の社長のね。いかがでした? 悪い男ではないでしたでしょう? あの手の男は商売の相手してはやりやすいほうですよ」

 部屋に残った俺とマーカスは話を続けた。

「そうだな。さっき、彼は純粋なビジネスマンだという言い方をしたが何のことだか分った気がしたよ」

 マーカスは笑いながら答えた。

「そもそもMMMは時代の古い組織なんです。南北戦争のときにも北軍指揮下で暗躍した連中ですからね。組織自体も巨大ですしねアメリカを本拠地としてヨーロッパ、アジアなんかにも子組織があります。フランスじゃ外人部隊の兵士のほとんどがMMMです。ジャパンなんかでも金大中事件の決行メンバーはMMMの連中です。そうやって国家レベルで信用されてるんです。そういう意味でこの社会の人間ではないとの言い方をしたのですよ」

 笑って答えたマーカスだったがそこには幾つもの皮肉を含んでいた。或いは自虐とも取れるその響きは俺のいるこの社会の本質を意味していたのかもしれない。この社会はその意味で言えばとても孤独なのかもしれない。恐ろしいといえばそうだ。ただ、その言葉だけで語れない何かがあると、俺には思えてならないのだ。



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