第一話 仲間
俺の名はジョンソン・P・スミス。この街を牛耳るスミス家の御曹司だ。そう言うと聞こえはいいが、俺は別に特別な存在じゃあない。親父があまりこの俺を家族扱いしないからだ。二十歳になる昨日まで家の仕事も手伝わそうともしてくれなかった。俺を他人扱いし顔を見るのもめったにない。ときたま街で見かけても声を掛けられることもない。ただ、生活する金だけを払っていただけだった。しかも俺をバカにしてピーチ・ボーイだなんて呼びやがる。全く失敬な野郎だ。
でも昨日、この俺が初めて親父に呼び出されんだ。仕事をやるからこの金で仲間を集めてこいとね。俺は受け取った金で早速仲間を集めた。知り合いのつてで集めた奴ばかりで幼馴染はいない。皆初対面だ。
三人の仲間を集めた俺は今日皆を呼び集めた。今日そろって親父にご面会というわけだ。それなのに―――。
まったく、この寒いのに外で待たされるなんてこんなことが許されたもんか。俺の集めた仲間って言うのはどうもものぐさな奴ばかりだ。昨日は二つ返事でうけたくせに今日は禄に集まりもしない。
「そういえば昨日クレイブが風邪っぽいって言ってましたよね。熱でも出したんじゃないですか」
そう言って並木に寄りかかっている男は我がグループの頭脳となるはずの男、ダンだ。もと財務省だったが横領の嫌疑を掛けられてクビ。いつか自分をはめた連中に仕返しをするために暗黒街をうろつきまわっていたのだ。
「あの大男が風邪? そんなことあってたまるか。馬鹿は風邪引かないと言う諺がある」
「知ってます。でも彼はああ見えてとても病弱なんですよ。聞いた話によると十五のときに結核に……」
知り合いにも忠告されたが彼は長話が好きだ。一度話し出すと止まらない。
「……それで彼のかみさんも結核になりかけましてね。ここからがおもしろいんです」
「分ったよ、ダン。もう黙れ」
「……はい」
「それで、リューは何処いったんだ。あいつは病弱じゃないだろう」
「さあ、何処でしょうか。私は前にも中国人に会ったことがありますが未だに中国人というものが理解できませんね。そういえばこないだも……」
また始まった。彼の優れた頭脳と情報処理能力を買ったのだが、今となっては自分の選択が間違いであったようでならない。
リューというのは街で麻薬を売買するチャイニーズ・マフィアのひとりだった。顔が広く人の信頼も厚かったので高位まで上り詰めたようだが、売り物の薬に手をつけて仲間に殺されかけた。いつか自分を撃った男を血祭りに上げようと躍起になって暗黒街で仲間を探していた。
ダンは相変わらずしゃべり続けている。
「あははは。その中国人の彼がひっくり返っちゃったんですよ、そこで。いやーあれは面白かった。しぬかと思いましたもん。あはは。あ、リューが来ましたよ」
ダンが指差した方に目をやるとそこにはリューがいたが、俺は自分の目を疑わざるをえなかった。
彼はチャイナドレスを着ていたのだ。
訳がわからないぞ。いくら中国人だからってこんなステレオタイプな登場なし方があるか。しかも彼はもちろん男だ。リューはこの人通りの多い道を悠然と歩いていた。
そこへダンが気さくに挨拶する。
「やあ、リュー。元気かい?」
「もちろんね。少し遅れてしまったよ、すまないね」
「いやあ、いいんだよ。素敵な格好だね。民族衣装かい?」
「ああ、中国人は皆これを着るよ」
ダンのおしゃべり好きとリューの常識のズレは波長がよく合うようだ。しかしダンだってあれが女性の着る物だって事ぐらいわかってるはずだ。話をあわせているんだろうか。いやこの際そんなことは問題じゃない。
「リュー、その格好はどうしたんだ。まるでオカマだぞ。この間会った時はちゃんとスーツを着てただろ?」
「あれは仮の姿ね。中国人は皆これを着るよ」
「何言ってんだ。それはドレスだろう。女の着物だろう。俺の仲間にオカマはいらないぜ。ふざけるなよ、とっとと着替えて来い!」
「だからこれは男の正装なのね」
「嘘つけっ!」
「インディアン嘘つかないのよ!」
いつからてめえはインディアンなんだ、と突っ込む元気も俺にはなかった。元大物マフィアの中国人ということで雇ったのに、何なんだいったい。
こうなると人柄が期待できそうなのはもう一人の男、クレイブだけになる。早く着てくれるといいんだが。
「ところでクレイブに会いませんでした? まだ来てないんですが」
「会うも何もそこにいるじゃないのさ」
ふりむくとそこには確かにクレイブがいた。神妙な面持ちで煙草をくゆらせて突っ立ていた。
彼は元FBIだ。マフィアに潜入捜査をしていたがやっているうちにマフィアに興味が出て本当にマフィアになってしまったという男だ。その後元FBIだということがばれて信用できないということでお払い箱になった。
このメンバーの中で彼だけはスミス家の顧問の紹介だった。用心棒だけはちゃんとした奴をつけさせようとしたらしい。
「クレイブいたのか。来たら声掛けろよ、びっくりしたじゃねえか」
「いえ、あまりにダンが忙しくしゃべっていたので」
「まあいい。えーと、これで全員揃ったわけだな。じゃ、行くぞ」
俺達四人は車道に停めておいたキャディラックに乗り込んだ。運転はクレイブだ。スミス家の顧問によれば彼は無口で愛想が悪いが仕事はきっちりこなすということだ。だから安心して運転を任せられる人間ではある。リューなんかに運転させた日にゃあ、どうなるか分ったもんじゃない。俺は少し用心してリューと一緒に後部座席に乗り込んだ。
今は真夜中だ。歓楽街をでて暗くまっすぐな道を走ってオフィスに向かう。
クレイブが運転しながら話しかけてきた。
「スミスさん」
「ジョンソンでいいよ」
「ええ、ジョンソン。昨日会ったときには言ってなかったのですが、なぜスミス・ファミリーはあなたにこのメンバーを集めろと……?」
「わからねえな。何しろ親父とはあまり話をしないんだ。この間だって初仕事をさせるからメンバーを集めろと言われたがいったいそれがどんな仕事なのか聞く暇もなかった。どんな仕事なのかはあってみないとわからない」
「簡単な仕事かいね?」
リューが口を挟んできた。
「ああ。未経験の俺に任すんだ。難しい仕事じゃあるまいさ」
「この仕事が終わったら私の仕事手伝ってもらえるんだよね?」
「あのあだ討ちの件?」
「そうよ。私を追い落とした連中に仕返しをするのさ」
「どうだろうな。皆が納得すればだが」
するとダンも早口でまくし立て始めた。
「スミスさん、私の分もお忘れなく。私とて連中に仕返ししてやらねば気が済まんのです。あの連中ったら卑劣極まりない屑どもの集まりです。前に私が食事に言った特もそうでした。連中はフォークを落としたのを私のせいにしてですね」
「わかったよ、ダン。その件とて皆が納得すればの話だ。わかるな? 要は皆が納得するか否かなんだよ」
ダンは不機嫌そうだったが素直に口を閉じた。
車が郊外の住宅地に入った。真夜中ながら車通りがある。
考えてみるとこのメンバーの中でただ金で雇われたのはクレイブだけだ。顧問の紹介とはいえ、他のメンバーが金だけでなく他の件でも面倒を見てくれるといわれれば奴も何か求めるのではないだろうか。尋ねてみたがクレイブの返事はそっけないものだった。
「ありませんよ。私の場合この前にいろいろとスミス家にお世話になったので」
「そうなのか?何だよ。言ってみろ」
「……」
「言えないような事か?」
「いえ、そういうわけではないんですがね」
一瞬、リューがにやりとした。何か知ってるんだろうか。
俺が問いただそうとすると突然車にブレーキがかかり急停車した。後続車が一台、ぎりぎりのところで追い越して行った。
「どうした? 尾行されてたか?」
ダンは笑った。
「まさか。昨日結成されたメンバーですよ。他のファミリーの耳もそこまで早くないでしょう」
ダンが車を降りた。俺も後に続く。
「じゃ何だ。どうしたんだ」
「ついてこないでくださいよ」
ダンは道路脇の草むらまで歩いていった。
「おい、ダン。説明しろ。何があった」
「小便ですよ。我慢してたもので」
俺はダンの尻を蹴り飛ばしてやった。ついでに急停車させたクレイブにもだ。あいつ無口な癖して根は不真面目と見える。やれやれだ。バカ三人組に囲まれてこれからが大変に、なりそうだ。




