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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
最終部 最後は魔王とガチバトル編
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第八十六章 鋼と最後の七日間

「……なんとか、まいたか」

 三柱の神に(ある意味)襲われた鋼だったが、三者の仲たがいを加速させることで死中に活を見出し、どうにか生き延びることができた。

 自分がどうしてこんな状態になっているのかさらさら分からなかったが、もう野良犬に目をつけられたとでも思って忘れるしかないと思う鋼。

 神様相手にナチュラルに失礼な奴である。


「世界で一番怖いのは、魔王より魔法より、やっぱりストーカーだな、うん」

 そう独り言を言って、一人でうなずいていると、


「呼びましたか、ハガネ様?」


 いきなり背後からラトリスが声をかけてきて、鋼の心臓はハイジャンプして、たぶん脳細胞がいくらか死滅した。


「いや、ぜんっぜん呼んでないんだけど?」

「いえ、しかしハガネ様のストーカーの第一人者と言えば私でしょう。

 こればかりはいくら神様相手と言えど、譲る事は出来ません」

「言っとくけどそれ、最高に不名誉な称号だからな!?」

 なんて怒鳴るが、ラトリスはこたえない。

「久しぶりの罵倒が、まるで光のシャワーのようです」

 よく分からないたとえで、むしろ鋼の叱声を享受していた。


「あーもう全く、どうしたものやら……」

 神様たちの暴走が、仲間の変なスイッチまで押してしまったような気がする。

 鋼がげっそりとしていると、

「まあそんなに暗い顔をするな。

 コウにそんな顔をされると、我まで哀しくなってしまう」

 当たり前みたいな顔をしてルウィーニアが肩に手を置いていた。


「うぇえ?! な、なんで?!」

 驚く鋼にルウィーニアはほがらかに笑う。

「コウが誰の加護を受けているか忘れたのか?

 自分が加護を与えた人間の居場所くらい、力の流れをたどれば分かるさ」

「そんなインチキ!?」

 加護でこれなら、祝福なんてされていたらどんな裏技を使われた物か分からない。

 鋼はルウィーニアの祝福を受けなかったことを神に感謝、……したかったが目の前に神がいたりするので結局感謝しなかった。


「そう怖がらなくていい。

 ベルアードの時に押しすぎはダメだと学習した。

 コウに準備が出来ていないなら、これ以上無理に迫ったりなどしない」

「それは……ありがたいけど」

 こんなに物分かりがいいというのも逆にうさんくさい。


「それに……ふふ。約束があるからな」

「約束……あ!」

 ほくそ笑むルウィーニアに、鋼も思い出した。

 魔王との一件が落ち着いたら一緒に温泉に行く約束をしていたような気がする。

 そんなのずっと先のことだと思っていたが、このまま魔王と決着がつけば、すぐに実現することになる。


「お、温泉……裸……裸と裸で……はぁ、はぁ!」 

 完全に性犯罪者の呼吸になっているルウィーニアにあわてて釘を刺す。

「あ、あの、ルウィ……じゃなかった、ニア様? 二人きりじゃないからですね!?

 約束通り、他の人も連れて行ってくださいよ?」

「う、うむ。……ちっ、覚えていたか」

 こういう時のテンプレみたいな台詞で闇の顔を見せた光の女神に鋼はひきつった笑いを浮かべるが、このままではまずいとさらに念を押す。


「それと、あんまり温泉で喧嘩とかしないでくださいね?

 神様の喧嘩とか、巻き込まれたら死んじゃいますから」

 しかし、ルウィーニアはそんなことかと手を振った。

「ああ、そこは心配ない。秘湯とはいえ仮にも神の保養地だからな。

 非戦闘区域に指定しているから、どんなに攻撃しても攻撃行動扱いされないし、当然ダメージも入らない」

 むしろその設定って喧嘩すること前提なんじゃ、と鋼は思ったが、それは鋼にとっても都合がよさそうなので、認めておくことにした。

 適当にうなずいておく。


「ちなみにその温泉ですけど、勇者とか神様とか呼んだりするのは……」

「む? やはり呼ばないとダメか?

 とりあえずコウに近しいクロニャとかいう勇者は呼ぶつもりだし、シロニャも呼んでやるつもりだが、審神者については……」



「あ、ひどい! わたしだって、仲間外れは嫌ですよ!?」



「って、え!? サニーさん?」

 噂をすれば影とはよく言ったもので、審神者の話をし出した途端、当の本神が出現した。


「さ、サニーさん!? どうしてここが?」

 ルウィーニアに続き、審神者まで現れたことに動揺する鋼だが、審神者は何でもないことのように答える。

「ふふ。わたしは審判の神ですよ。あ、神じゃないですけど。

 審判の力で『鋼さんがいるのはこっち?』とか問いかけながら行けば、やがて居場所は分かるってものです」

「そんな尋ね人を見つけるステッキみたいな探し方で!?」

 神様の力って奴は、あいかわらず間抜けだけど規格外だった。


「さぁ鋼さん! わたしをもらってください!

 もうこの際、神前婚でいいですから!

 ちょうど適当なのが横にいてお手軽にできますから!」

「ちょっと待て! 適当なのとは我のことか!?

 我にコウとお前の結婚を見ていろと言うのか!?」

 なんか変なことを言い出して、またルウィーニアともめる審神者。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

 ぐいぐい迫ってくる審神者に、鋼は必死で考えていた言い訳を投げつける。

「駄目ですって! 神様と転生者じゃ、やっぱり身分差が……」

 本音は迫ってくる理由と手段が唐突すぎてどうにも対処しきれないだけなのだが、そんなことを言ってこの場をおさめようとした。

 しかし、それは審神者のさらなる追及を呼ぶだけだった。


「そんなの問題ないです! この世界は神様作るために創られたんですよ?

 最初の内はレベルが上がってもHPとMPが上がるだけですけど、レベルが千を超えた辺りから色々と特殊能力がつくようになって、レベルが百万超えたくらいで鋼さんも立派な神様になってますから。

 そういうのが気になるんだったらとりあえず結納だけして、魔物虐殺ツアーにでも出かけましょう?」

「すみません、無理! 色々無理ありすぎますから!!」

 別にそんなレベル上げとかしたいワケじゃないし、虐殺とか言っている時点で不安すぎる。


「無理じゃないですよ! 鋼さんがケガしないように、神様チートを百個くらいつけますから。

 たぶん因果律崩壊して大変なことが起きますけど、わたしが守るから問題ないですし!」

「問題あります! むしろ問題しかないですって!」

 はっちゃけちゃった審神者は最大級のヤバさだった。


 そうやって鋼が審神者に迫られて困っていると、


「そこまでじゃ、サニー!」


 かっこいい見得と共に、どこからともなくシロニャが現れた。


 現れたシロニャに、やはり鋼が驚きを露わにする。

「な!? シロニャ!? ど、どうして――」

「ふむ、それはじゃな。オラク……」

 それを見て自慢げに説明しようとしたシロニャだが、


「――どうしてオラクルを使えば一瞬で僕のところまで分身飛ばせるはずなのに今まで出て来なかったんだ!?」


「…………」

 鋼の言葉に、シロニャのライフは一瞬でゼロになった。



 そのあともなんやかやがあってみんな集まってきて、アスティが無意味にしゅんとしたり、ララナがしきりにソウルネームを連呼したり、ラトリスが突然どこにも通じていない糸電話を取り出して話を始めたり、ルファイナが仲間になりたそうな目で鋼たちを見ていたり、ミスレイがゴワゴワ教にルウィーニアを勧誘して信者にしたり、リリーアがいきなりライブを始めようとしたり、鋼が自分が一人で魔王を倒しに行くことを宣言したりした。

 魔王を倒しに行くとか普通に一大事のはずなのに、オマケ感が半端なくて鋼はびっくりしたという。






 魔王と戦うのは一週間後と決めて、その間はルファイナの城でゆっくりと過ごすことにした。

 鋼が魔王と戦うと宣言してもかなりスルー気味だった仲間たちだったが、本当は何か思うところがあったのか、それからの七日間、鋼のところには入れ代わり立ち代わり、順番に仲間たちが尋ねてきた。



 最初の日にやってきたのはアスティだった。


 アスティはすっかり緊張してしまって意外と間が持たなかったので、鋼がランニングに付き合ってくれと頼むとアスティは快諾、そこから地獄の超長距離マラソンが始まった。


 基本的に底なしの体力と回復能力を持つアスティは、走るのに使うエネルギーより自然回復量の方が多いのか、はた迷惑なことに無限に走ることができた。

 誘った手前先に抜けるのは悪いと思っていたが、鋼は数時間走り通して、十分に走り込んだところでリタイア。

 結局走り通しの一日となったが、鋼はそれなりに楽しんだ。



 次の日訪れたのは、アスティについで体育会系、というよりアウトドア系なララナだった。


 部屋に来るなり、

「キャッチボールしよう!」

 と叫んだララナの手には、おなじみのグローブと鉄球。

 なぜ鉄球?とは思ったが、キャッチボールは昔従姉とよくやった遊びだ。

 懐かしさからなんとなくうなずいた……のが鋼の運の尽きだった。


 鉄球は厳密に言えば別に武器ではないが、投石アビリティを持つ者がアイテムを投げれば何でも攻撃になる。

 トップクラス冒険者の腕力と、高レベルの投石アビリティによって投じられる鉄球は正しく狂気、いや、凶器だった。

 というか、適当なボールがなかったからといって代わりに鉄球を持ってくる感性は絶対におかしいと鋼は何度も死にかけながら思った。

 そんな狂気の『客血暴留キャッチボール』を終え、鋼は鉄球を普通のボールみたいに飛ばせるようになったという。



 三番目に訪れたのはミスレイ。


 意外にもミスレイは長い間修道院で暮らしていたため、家事仕事や家庭的なことは得意だという。

 すっかりアウトドアに苦手意識を持っていた鋼は、この機を逃さずミスレイから裁縫を教わることにして、一日を部屋の中で過ごした。


 ミスレイの裁縫の腕前は確かで、聖王の法衣にしきりにケルベロスのアップリケを縫い込もうとする以外はよい教師でもあり、その日が終わる頃には鋼は、『さりげなく服に藁人形を縫い込む技術』をマスターしていた。

 たぶん修道院生活はストレスたまってたんだろうな、と想像した鋼だった。



 四人目はリリーアだった。


 一緒に楽しめることを、というのもあり、リリーアからはコスプレの着こなしを教えてもらった。

 着るのが難しい全身タイツ系の衣装をどうやって着るのかとか、どういうポーズがかっこいいのかとか、色々とアドバイスをもらい、最終的には、着ている服に魂を合わせることが大事、とか含蓄がありそうな助言をもらった。

 仕事でやっぱりそういうこともやったんだろうか。アイドルは大変なんだな、と鋼は思ったとか思わなかったとか。



 五人目、やってきたのはルファイナだった。


 一応国の人間や両親に生存報告をしてきたルファイナは、鋼をスポーツ観戦に誘った。

 身代わりとはいえあんな目に遭ったのにタフだなと思ったが、ルファイナがずいぶんと楽しみにしているようなので鋼は何も言わなかった。


 久しぶりの娯楽っぽい娯楽を楽しんだ後、せっかくだからと球場の土を持って帰ることにした。

 その球場の土はしっとりとしていてそれでいて手にくっつかない、絶妙のばらけ具合を持っている土だと鋼が褒めたら、ルファイナはほおを染めてうなずいた。

 どこに照れる要素があったのか、ルファイナのセンスもちょっとおかしいんだよなと再認識した鋼だった。



 六日目は、ラトリスと過ごす。


 遊びに費やした他の日と違い、ラトリスと過ごす一日は掃除に充てることにした。

 ラトリスの事務技能を頼って、鋼は間借りしているルファイナの城での自室、それから複製の腕輪やアイテムボックス、それに耳なんかを掃除してもらった。


 有能かつ果断なラトリスは掃除には適した人材で、仲間で唯一その威力を知っている人間にもかかわらず、ボックスから取り出した『ちきゅうはかいばくだん』を無表情かつ無造作に『不用品』に分類して捨てようとできるのは、彼女をおいて他にいなかっただろう。

 たださすがに危ないのでそれはやめさせ、アイテムボックスに収納し直したが。


 意外と形から入る人なのか、マスクと軍手をはめて掃除を始めたのには鋼も驚いたと言えば驚いたし、今さらそんなことで驚かなかったと言えばそう言えた。

 ただ、服が汚れますから、とか言ってそれ以外は全裸になろうとしたのはやっぱり驚いた。というか止めた。

 当然鋼も見ていただけではなく、ラトリスが渡してきた絶対掃除用ではないと思われる虎柄のマスクと、やはりラトリスからもらった手袋を使って掃除に参加。

 非常に疲れる一日にはなったが、かなりの成果があった日でもあった。



 そして、七日目。


 最後の一日は、シロニャと付き合って買い物をした。

 とはいえ、普通の買い物ではない。

 久しく使っていなかった、オラクル(テレビ電話付き)の機能を使ってシロニャに色々な場所を回ってもらい、疑似的にだが日本での買い物を楽しんだのだ。


 もちろん鋼は日本のお金を持っていないので、好きなように買い物を、というワケにはいかなかったが、シロニャがゲーム屋で何かに導かれるようにクソゲーばっかりに手を伸ばすのを止めたり、本屋で『零夜の奇妙な転生』が書籍化されていることに驚いたり、文具とかを中心に売っている大型量販店で買い物をしたりと、それなりに充実した一日を過ごした。





 ――そうして、次の日。


 とうとう運命の時はやってきた。

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