第八十五章 神風
怒りに震える鋼に、
「その下も、出せ」
と言われて、審神者はてへ、と舌を出して鋼に思いっ切り引っ張られるというミニイベントをはさんだ後、
「こ、こええす」
審神者は舌を引っ張られたまま、二枚目と三枚目の紙も差し出した。
魔王 予想所持技能
タレント名『ラスボス設定』
即死やHP割合攻撃などを含む、全状態異常を完全に無効化する。
また、完全にHPを失ってからも長い捨て台詞を話すことができる。
その代わり、勇者っぽい人たちに決闘を挑まれると断ることができない性質が付加される。
追記 魔王の前口上は全部聞くと七分間ありますが、一応スキップ可です byサ
「…………」
鋼は一つ目のタレントを見ただけで、もう何だか見るのが嫌になって地面に両手をついた。
「……なんだろう、この能力のネタっぷりと、それに反した高性能っぷり。
もはややりきれない思いすら感じるんだけど」
僕はこんなのと戦わなきゃいけないのか、と鋼は色々な意味で憂鬱になった。
仕方なく続きも見ていく。
タレント名『魂の収奪』
自分で殺した者、自分の近くで死んだ者の魂を吸収することができる。
魂を吸収された者は、いかなる手段をもってしても復活できない。
魂を吸収した場合、相手の能力値の二割、相手のタレントやアビリティの三割をランダムで自分の物にできる。
これってラスボスっぽくないですか? byサ
それよりお前我のプリンを食べただろう byル
食べてないですぅちょっとお腹に避難させただけですぅ byサ
それを食べたというんだこの脳みそプリン女め! byル
脳筋フラレ女に言われたくないですねー byサ
お前ちょっと表出ろ! byル
「何でタレントの説明より後のどうでもいい言い争いの方が長いんだよ!!
というかデータをメモ代わりに使うなよ!! って、あ……」
鋼は思わず紙に向かって怒鳴ってしまって、仲間からかわいそうな人を見るような目で見られた。
もう二度とツッコんだりするもんかと思いつつ、続きに目を落とす。
スキル名『ザ・世界が仰天するほど丸見え』
「むしろパクリが丸見えじゃないか!!」
だが鋼は次の一行でツッコんでいた。
ツッコミ我慢選手権とかあったら最下位になるほどの弱さである。
するとそこで、審神者にぽんぽんと肩をたたかれた。
なんだろうと思って振り向くと……。
「パクリじゃなくて、オマージュですから」
「嘘つけこらぁ!!」
いつになくツッコミの言葉が汚くなる鋼だった。
それでも何とか気を取り直し、続きを見て行く。
スキル名『ザ・世界が仰天するほど丸見え』
発動すると一分間、半径200メートル以内にいる生物の時間が停止。
その間は一方的に攻撃を加えることができる。
停止中に与えたダメージは、時間停止を解いた瞬間一気に襲い掛かる。
ただし超必殺技のため、ゲージを二本溜めないと使えない。
あ、あと時間停止は状態異常じゃないから耐性スキルじゃ防げませんよー
時間停止最強!! キリッ! byサ
効果時間の終わり際に「そして時は動き出す」って言うとよりスタイリッシュになるぞ! byル
「いや、ゲージって何だよ!!」
「え? だから必殺技ゲージですよ?
敵からの攻撃で溜まっちゃうと魔王の場合ほとんど撃ち放題になっちゃいそうなので、魔王が20発攻撃を当てるとゲージ一本溜まるようにしときました」
「格ゲー感覚か!!」
スキル名『悪食の獣』
黄昏よりも昏き闇の咢により、哀れなる贄は捕食される運命にある。
喰われた者はその人生の全てと、その力の半分を魔の王に供される定めとなった。
ど、どうだ? かっこよくないか? byル
はいはいワロスワロス
あ、補足ですけど、闇の咢で食べた物は魔王の体内に移動、能力を吸収されます
捕食した相手の強さとかによって消化の時間が変わるんですけど、食べた物を全部消化しきるまでは闇の咢を出せないので、注意です byサ
うぅー こんな説明、かっこよくないー byル
「中二かよ!」
「そ、そんなに我を若いと言ってくれたのは、コウが初めてだ……」
「そういう意味じゃねえよ!!」
スキル名『いたちの大足』
自分と戦闘状態にある者の内、一番素早さが高い者と同じだけの速度を得る。
ただし、毎秒MP1を消費する。
まあ実質使い放題ですよね byサ
何しろ一兆秒だからな、日にちに換算すると……ええと、ううんと、うん、まあ実質使い放題だな byル
「これがこの前言ってたスキルか。確かに厄介そうだなー」
「え? あはは、大丈夫ですよ! 鋼さんみたいな鈍足キャラには使ってきませんて」
「サニーさん、ちょっと舌、出してみましょうか?」
スキル名『第二形態解放ッ!!』
HPが25パーセント以下になった時、真の姿を開放する。
HPが全快して、全ての能力値が1.75倍になる。
これが、これが魔王の真骨頂ッ!! ほっ、ほぁああああああああ!! byサ
でも一気にダメージ食らうと、変身する前に死んでしまうのだよな byル
そんなのダメですよ! みんな、魔王はじわじわいたぶって倒しましょうね!! byサ
「ようやく魔王を倒せる、そう思った瞬間に見せる第二形態!
絶望の表情を浮かべる勇者たちを想像すると、ゾクゾクしますよね!」
「サニーさんって実は邪神だったりしませんよね?」
「あはは。わたしそもそも神様じゃありませんよ。
やむなく神様の力に覚醒しちゃったただの巫女です」
「その割には好き勝手に神様ライフをエンジョイしてるみたいですけどね」
スキル名『エターナルポースブリザード』
人生という大海原を行く旅人は、その標を失って凍りつく。
相手は死ぬ。
これじゃあ何の効果があるのか分からないと思いますけど、中~遠距離向けの殲滅技です
ブリザードとか書いてますけど別に氷属性でもない無属性魔法で、自分から半径50~500メートルの範囲全てを無差別に攻撃します
範囲が範囲だけにそうそう回避できませんし、たぶん軍隊とか街とかの真ん中で使うと全滅させられるんじゃないかってくらいの火力はあります byサ
「なんというか、どっちが作った技なのか読んでてすぐに分かりますね」
「あー、ルウィーニアちゃんの作った技って厨二っぽいですからね」
「サニーさんの作った奴はえぐいですしね」
「なんですとー!!」
スキル名『ジキル&ハイド&シーク&ビハインド』
私の中にいるもう一人の自分。
そして恋は追いかけっこの鬼ごっこ。
でも気付けばあなたの隣にいる私。
そんな私に我はなりたい。
これ、失恋直後にルウィーニアちゃんが泣きながら書いてたポエムからヒントを得ました。
相手の後ろにいきなり出て来て刺す技ですが、その際元の場所に分身を残すので相手はびっくりします。
有効射程は三十メートル。
ルウィーニアちゃんの恋の有効射程は……あ、ちょっとルウィーニアちゃん冗談ですってば、ちょ、アッーー!! byサ
「これ……」
「あ、や、違うぞ?! 我はもう、昔の恋愛なぞ引きずってはおらんからな!?」
「その前にこのポエムを恥じる感性はないんだろうか……」
スキル名『魔王煉獄万物滅尽炎殺撃』
世界凍結中のみ使用可能。 (あ、世界凍結って『ザ・世界が仰天するほど丸見え』使用中ってことです byサ)
常人をはるかに凌駕した恐るべき速度による連続攻撃で、王に仇なす愚か者を処断する。
そのあまりの速さに体が赤熱し、赤い残像が見えるほどである。
具体的にはその一撃は通常の約三倍の重みを持ち、そんな攻撃をなんと三十秒間に一億とんで二千発も繰り出すことができる。
秒間三百万回なんてアホなスピードで攻撃できるなら、威力ももっとありそうなもんですけどね
ていうか、時間停止中なんだから、一発でかいのやるのもたくさん攻撃するのも変わらないと思いますけど byサ
美学の分からん奴め! これが様式美という奴だ!! byル
「ずっと思ってたけど、やっぱりセンスがシロニャと全く同じ!?」
「な!? し、失敬だぞ! 我をあんな残念センスと一緒にするな!!」
「そうじゃぞ! ワシもこんな邪気眼とひとくくりにされたらたまらんのじゃ!!」
「まあ、どっちもどっちなのは間違いないけど……」
スキル名『屈従の誓約』
相手の頭部に右手を当て、誓約の文言を唱えることで発動。
その相手は魔王に対する一切の攻撃行動を取れなくなる。
ただし、あくまで新規の攻撃行動が起こせない、というだけで、これを使われる以前に放っていた攻撃とか、攻撃のつもりでやってなかった行動とかまで無効化される訳ではないので注意 byサ
つまり、魔王を回復させるつもりでべホ〇ミを唱えて大ダメージを与えちゃった、なんてことは起こり得るということだ byル
「やっぱえぐい……」
「ええっ!? だってわたし、本当はこれを使われたら味方に襲い掛かるって設定にしようと思ったのに、魔王がそういう卑怯系の技を使うのはイメージ悪いかなって思って必死で自重したんですよ?!
わたし、えらくないですか?!」
「……そーですね」
「はぁ……」
一応全部の資料を読み終え、鋼は大きく息をついた。
ツッコみ疲れたというのもあるが、戦う上ではなかなかに障害になりそうなスキルが多く、ちょっと憂鬱になったのだった。
「まあ別に、現状魔王と戦う手段はないし、どんなに強くてもいいんだけどさ」
のんきに目の前で笑っている審神者たちを見ると、こいつらの気まぐれのせいで、とか色々思うところはあったが、鋼は色々と飲み込んで大人の対応をすることにした。
が、それを聞いて、
「あ、わ、忘れてました!」
と叫んだ人が約一名。
「で、ルファイナ? 何を忘れてたんだ?」
どことなく嫌な予感を覚えながら鋼が聞くと、
「人形を動かしてた時、言いかけてたことなんですけど……。
実は、封印の巫女に代々伝わる秘術を使えば、封印の回廊から魔王のところまで行けるんです!」
「……あぁ」
あまりに想像した通りの答えが返ってきて、鋼はなんとなくげんなりとした。
「あ、あの、何かいけないこと言っちゃいましたか?
魔王を倒してくれるって言っていたから、教えないとって思って……。
ご、ごめんなさい、やっぱりあれは……」
「ああいや! そういうことじゃないんだ!
情報自体はうれしいんだよ!
ちょっとタイミングの問題でね!」
泣き出しかけたルファイナをあわててフォローする。
鋼は何とかルファイナを持ち直させて、
「…ふぅ」
とため息をつく。
そしてそれを見て、
「賢者モード? 賢者モードですか?」
とこっそりとつぶやいてくる審神者がうっとうしさマックスだった。
しかしそんなのにいちいち付き合っていてはツッコミがいくらあっても足りない。
精神力を総動員して無視、ルファイナに問いかける。
「それで、魔王のところに行くにはどうすればいいんだ?」
この中では比較的常識人なルファイナは、特にボケもせずに素直に答えてくれた。
「は、はい。封印の回廊にある魔法陣に行って、わたしが直接力を流せば行けるはずです。
ただ、その方法を使って移動できるのは一人だけで、再使用には最短でも一年間かかります」
「一年、かぁ……」
それはかなり厳しい条件だ。
時間を加速させても一日以上かかるし、そもそも効果があるか分からない。
「だから、単独でしか行けませんし、魔王を倒して封印を解除しなければ、もどってくることもできません」
「ほとんど特攻隊、ってことか?」
鋼の言葉に、ルファイナは真剣にうなずいた。
「そう、なるかもしれません」
が、そこで鋼は気付いた。
「あれ? でも、『血縄の絆』とか、あとは普通に転移魔法を使えば……」
「それは無理、だと思います。月にはいくつも結界が張ってありますから普通の転移魔法ではとても……。
神様とか勇者とか、そういう人たちの転移なら何とかなるかもしれませんけど」
ルファイナが首を振って、
「う、ううぅ。ワシに力さえもどっていれば……」
最近ほとんど出番のないシロニャが歯噛みする。
と、そこで、
「あのー。それ相応の対価を払ってくれるなら、やってやれなくもないと思いますけど」
審神者が手を上げて言った。
ただしその視線は、なぜかリリーアのスカートの裾にロックオンされていた。
「ちょ! 何でわたしのスカート見てるのよ!」
「な、何でもないですよ? あ、いきなり風魔法が暴発して……」
言った審神者の手からとてつもない風の塊が打ち出される。
その向かう先は、当然リリーア……ではなくて、その隣にいる鋼だった。
当然、鋼のタレント効果によるパンチラ狙いである。
「は、ハガネ!」
「ちょっと、待っ…!」
仲間たちが焦る中、鋼は冷静だった。
「あー、はいはい」
特に気負うことなく、風魔法を受ける。
風魔法は鋼の体に当たった途端霧散して、
「え、きゃああああああ!!」
代わりに、リリーアのスカート……を注視していた審神者の巫女服が非常に大変なことになった。
「もう、お嫁にいけないです……。う、うっ、うぐぅ……」
見るも無残な姿になった巫女装束と自分の体を両手で隠しながら、今までに見たことがないくらい消沈して泣きべそをかく審神者。
ただうめき声がやたら狙ってきてる感があるので実はまだ余裕があるのかもしれない。
同様に、突然の事態に狼狽していた仲間も少しずつ落ち着いてくる。
シロニャなどは審神者の服がすごいことになった瞬間、
「あ、アイ・オブ・ポイズン!!」
とか叫んでいたが、
「うーむ。袴ってスカートのくくりに入れてよいのか?
あ、だからこそのタレント効果の暴走…?」
と、首をかしげてタレントの考察ができるくらいには回復してきた。
ちなみに『アイ・オブ・ポイズン』は直訳するとたぶん『毒の目』という意味になるが、シロニャ検定準八級くらいの鋼の読解力にかかれば、シロニャが『にゃー! こんなの目の毒なんじゃよもー!』と言いたかったのだと容易に想像できる。……想像できるだけで本当かどうかは鋼には分からないが。
「いや、それはともかくとして……」
審神者の一件はぶっちゃけ自業自得であり、手を下したのは鋼だといえ、特に反省するつもりはない。
それよりも、
「みんな、魔王の、ことだけど……」
今、これだけの情報を得て、そして定めた方針の方が、鋼にとってはよっぽど重要だった。
息を吸って、告げる。
自らの覚悟を。
これからの世界の運命すら変えかねない、決断を。
「決めたよ。僕は、これから一人で魔王を――うひゃぁっ!?」
思わず変な声を出してしまって振り向くと、そこには鋼に妙な声を出させた元凶、鋼の背中に絡みつくようにおおいかぶさる『アイ・オブ・ポイズン』の姿があった。
「うぅ。こんな姿を男の人に見られたからには、しょうがありません!」
「ちょ、ちょっとサニーさんいきなり何を……うわぁ!」
悲鳴を上げる暇もあればこそ。
突然、鋼はすごい力で押し倒された。
神様である審神者と人間である鋼では、もう赤子とプラナリアくらいの力の差がある。
なぜ赤ん坊を強い方に設定したのかは謎だが、鋼はそのくらい動揺していた。
「何やってるんですか、サニーさん!?」
「もうこうなったら鋼さんに、わたしが一万年以上守り抜いた純潔を捧げるしか!!」
「ちょっ! サニーさん?! 重いです! 色々な意味で!!」
のしかかっていく巫女服(R-18仕様)の女性と、必死で抗う元高校生。
その構図を壊したのは、やはり審神者と同じ、神であった。
「ず、ズルいぞ審神者! そういうことなら我だって……」
「わ、ワシだって混ざるのじゃ! コウはワシのものなのじゃよー!!」
「いやそこは混ざるんじゃなくて止めろよ!」
という鋼の必死の訴えも届かず、ルウィーニアとシロニャも参戦。
そして、
「ちょっと待てって! 今僕は意外と大事な……おい待てって言ってるだろ!?」
乱戦の模様を呈してきた鋼の周辺を見て、しみじみとララナが言った。
「なるほど。これが神々の最終戦争、ラグナロクってやつか。
まさか、直接この目にすることになるとは……」
「いやララナ! 無理にうまいこと言わなくていいから助け、ちょ、アッーー!!」
――この日、鋼は新たに『神落としすぎ神』のフィートを獲得したのだった。