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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第十四部 真面目にファンタジー編
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第七十七章 王女発見!?

「あーもー! 納得いかないってのよ!

 なんなのこの客寄せパンダポジション!!」

「まーまー。おいしい物も食べられるんだし、いいじゃん」

 王宮内の豪奢な一室。

 そこで荒れる少女を、もう一人の少女が楽しげになだめていた。


「よくないわよ! ここには情報を集めるためにやってきたんでしょ!?

 なのに集まって来るのは下心満載の男たちばっかりじゃないの!」

「あはは! うまいこと言うねえ!」

「うまくないしうんざりしてるって言ってるの!」


「だけど、リリーアだってノリノリだったじゃん。

 昨日のパーティでは、急に振られたのにその場で歌を歌ったりしてさ?」

「アイドルとして、あそこで逃げるワケにはいかないでしょ!

 それに、むしろ歌った後が問題よ!

 何あの人の波! アイドルに鼻の下伸ばす前にやることあるでしょうが!」

 憤然とするリリーアをやっぱり楽しそうにララナが眺めていると、


 ――コンコン!


 部屋がノックされる。


 すると、

「はーい!」

 瞬間的にアイドルの顔にもどるリリーア。

 こういう対応するから男が寄って来るんじゃないかなーとララナなどは思うが、職業病なのだろう。

 それに、すぐにそんなことを考えていられる場合ではなくなった。

 やってきたラターニアの王からの使者が、部屋に入るなりこう叫んだからだ。

「た、大変です! 王女様が、ルファイナ様が見つかったそうです!!」





「これで一件落着、かしらね?」

 リリーアは、早足で移動しながらも、隣を歩くララナに小声で尋ねた。

「んー。だといいけど……」

 しかし、ララナは最高の朗報を聞いたにもかかわらず、あまり明るい顔をしていない。


 突然の報せから数分後、王からの使者の後をついて、二人は王宮を歩いていた。

 目立たない部屋で、特別にラターニア王レドリックから、直々に事情の説明をしてもらえるらしい。


「何か気になることがあるの?」

「うん。神様の予言って、そのままにしてればだいたい当たるんだよ。

 だから今回、神様の予言にとって計算外の要素がからまないと、12月31日に魔王は復活するはずなんだ。

 なのにボクらはまだ何にもしていない」

「つまり、この展開も織り込んだ上で魔王は復活するってこと?

 ちょっと考えすぎじゃない?」


 疑わしげなリリーアの言葉に、ララナも苦笑する。

「かもねー。

 でも、見つかった王女が移動の途中で襲われるかもしれないし、もしかするとその王女は偽物かもしれない。

 なんとか王様を説得して、無事に彼女を『清めの塔』に入れるまでは油断でき……あ、着いたみたいだ」

 使者にうながされて目の前の部屋の中に入ると、そこにはラターニア王レドリックがいた。


 王の印象は一言で言えば『温和』だ。

 為政者としては若干頼りなく見えるが、それでもあまり民から不満は出ていないようなので、それなりには名君なのだろうとララナは思っている。

 そして、前回の国難の時、ララナの力の恩恵をもっとも大きく受けた人間であり、しかも義理堅い。

 彼に裏切られる可能性はほとんどないだろうとララナは踏んでいた。


「あ、レドリックおじさんおひさー!」

「ちょ…っ!!」

 ララナの一国の王に対するあまりにぞんざいな口調にリリーアが焦った声を出すが、

「よいのだ。ララナどのは我が国の恩人だからな」

 当のレドリックがそれを制した。


「それに、この場には私しか居らんから問題ない。

 こう見えて、ララナ殿は公の場ではきちんと気を遣ってくれるのだ」

 苦笑しながらそう続ける。

「はぁ……」

 むしろここに王様しかいないという状況も大概まずいのではないかとリリーアも思ったが、リリーアが心配することでもないだろうと思い直す。


「王女様、見つかったんだって?」

「ああ。フィードラが死んだと聞かされた時は目の前が真っ暗になる思いをしたが、せめて娘だけは生きていてくれてよかった」

「それは、なんと仰っていいか……」

 レドリックの穏やかながら憂いを帯びた表情に、リリーアは言葉に詰まった。

 どうしても他人事という感覚があったのだろう。

 この瞬間まで意識していなかったが、フィードラは第二王妃。目の前の男の愛した女性で、彼女は死んでしまったのだ。


 しかしあくまでララナはマイペースだ。

「それで? 王女様はどうしたの?」

 そんな感慨に飲み込まれることもせず、リリーアをはらはらさせる傍若無人さで尋ねる。

「ああ。そうだな。その話だった。

 数時間前だ。ルファイナは、フィードラの家の近くの街にある騎士団の詰め所に保護を求めに来た。遠方ゆえ、私が直接駆けつけるワケには行かなかったが、魔術通信で連絡を取った」

 そこはさすがに一国の王と言うべきか。

 レドリック王は自身の懊悩を隠し、事務的な口調で話し始めた。


「ルファイナは憔悴していたが、見たところは外傷もなく、長かった髪が一房、不自然に切り取られている他は元気そうではあった。通信中もショックを受けていたようで俯きがちだったが、気丈にも私の質問にきちんと答えてくれた」

「じゃあ、襲撃してきた犯人も分かったの?」

「ああ。フィードラの家の侍女の一人が、突然襲いかかってきたそうだ。暗殺者が侍女に化けたのか、あるいは最初からそのつもりで使用人として潜り込んだのかは分からない。だが、自分と同年代の侍女がいきなり刃物を取り出し、母親や屋敷の人間を殺し始めたのだと教えてくれた」

「侍女に変装か。なるほどねー」

 ララナはうなずいた。殺された人間の一部は抵抗をしていなかったという情報は、ララナの耳にも入っていた。そこへ来ると、内部犯というのは説得力がある。


「それで、本人は? まだその街にいるの?」

「いや、私はすぐにその街まで迎えを寄越すと言ったのだが、もう誰も信用できないから、自分以外入ることのできない『清めの塔』にこもると言い出した。

 普段であれば反対するところだが、身内に裏切られたルファイナの気持ちも分かる。それに、今、あそこには最強の守り手がいるのだろう?」

「異世界勇者、クロニャ……」

 リリーアが、歌うようにつぶやく。

 彼女はたしかに最強の守り手だろう。

 彼女が守れないようであれば、世界中のどんな人間にも不可能に違いない。


「あの場所にはラターニアの王族の血を引く女性しか入れず、現在それに該当するのはルファイナだけだ。

 万が一でも見つかったルファイナが偽物であるという可能性は除けるし、身内のフリをした賊に襲われることは絶対にない」

「うん。いい判断なんじゃないかな。

 実はボクも、王女様が見つかったら『清めの塔』に行かせるのがいいと思ってたんだ」

 ララナもそう言って王様の決断を支持した。


「それじゃ、残るはどうやってルファイナ様を塔まで護衛するかという問題だけですね」

 リリーアが真剣な表情でそう聞いた。

 聞けば、ルファイナが駆け込んだのは街の騎士団の詰め所。

 そんなに多くの戦力はいないはずだ。

 いざとなれば自分たちか鋼たちが護衛として付こう、と考えていたのだが、


「ああ、いや。それならもう済んだ」


 王の言葉に、その考えは意味のない物になった。

「え? ど、どういうこと?」

 この場に来て初めて、ララナまでが驚きの表情を見せる。

 それに対して、レドリック王はしれっと言った。


「ついさっきのことだ。ルファイナを護衛していた騎士から連絡があった。

 ルファイナは無事に『清めの塔』に辿り着き、問題なく王族の女性と塔に認められて、中に入ったそうだ」

「「えええええーーー!!」」


 ララナも、リリーアすら、驚きの声を漏らした。


 こうして、鋼たちの全くからまない場所で、この事件の大きな山場が終わってしまったのだった。





 ただ、これで一件落着、とはさすがにいかなかった。

「まあ、問題が残っていない訳ではない。

 実は中に入る直前、ルファイナからは面倒な要求をされてな」

「面倒な要求?」

 立ち直ったララナが聞くと、王は渋い顔をして言った。

「ここ数十年途切れていた封印の儀式。

 それを今月の終わり、31日にやりたいと言ってきたのだ」

「31日に…?」

 ララナたちの体がこわばった。


「封印の儀式とは、封印が一番弱まると言われる年の終わり、封印の回廊で巫女が舞を納める儀式だ。

 封印の強化につながると伝承にはあるが、効果は眉唾ものでな。

 とりあえず封印の健在をアピールする意味はあったが、魔王の脅威に対する意識の薄れた最近では行われていなかった」

「それをまた何で……」

 口にしたのは、だんだんと口調が砕けてきたリリーアだ。


「民の間で広まっている魔王が復活するという噂を払拭して、人々を安心させたいのだそうだ。

 実際にここ数日、国民の間でも魔王の復活がまことしやかに取沙汰されている。

 その問題には、たしかに頭を悩ませていたから、こういう状況でなければ大歓迎なのだが……」

「あの、思い切って中止させるワケには……」

 おずおずとリリーアが問いかけるが、レドリックは横に首を振る。


「残念ながら、それはできない。もうルファイナが儀式を行うということ自体、噂として広まってしまっているのだ。

 ルファイナが道中に民たちに話してしまったのだろう。今中止などすれば、余計に人々の間に不審と不安が広まるだけだ。私は王として、儀式を執り行わざるを得ない」

 リリーアとしては、そんなことより魔王が復活する方が問題じゃないかと言いたかったが、グッと堪えた。


 自分が我慢しても、ララナがもっと過激な言い方で言ってしまうのではないかと心配したのだが、

「なら儀式については後で考えるとして、フィードラ様たちを襲った犯人の方の目星はついているの?」

 リリーアの予想は外れ、ララナは冷静にそんなことを聞いただけだった。


 そして、それに対してはめずらしく笑みを浮かべ、レドリックは答えた。

「ああ。こちらも最近の情報なのだがね。

 顔まで隠すローブの下に侍女服を来た怪しい女をフィードラの城の周辺で目撃した者がいるらしい。

 しかもその女、手に白い髪の毛を握っていたとか」

「怪しすぎるねー、そいつ」

 ララナが呆れた風に言う。

 全身を隠すローブでワンストライク、侍女服を着ているのでツーストライク、白い髪の毛を持っているでスリーストライク。誰が見ても完全アウトだ。


「一度はつかまえかけたのだが、奇妙な三人組が割って入って、逃げられたそうだ。

 彼らがその女の共犯者の可能性が高い」

「へー。そいつらの特徴は?」

「神官風の女が一人に、騎士風の女が一人、そして……」

 その二人の特徴に、なんとなく嫌な予感を感じながらリリーアたちが聞いていると、レドリック王は決定的な言葉を吐いた。


「奇妙にも肩に白猫を乗せて、木の枝を武器に戦う少年が一人、だそうだ」


 その、次の瞬間、



「何やってるのよあのバカはぁあああああああああああ!!」



 王が目の前にいることさえすっかり忘却したリリーアによる、歌手の超絶肺活量から繰り出す大絶叫が狭い部屋に響いたとか。












 そしてその時、当のバカが何をやっていたかというと、


「隣の客はよく柿食う客だ! 赤巻紙青巻紙黄巻紙! 生麦生米生卵!

 ……どうだ!?」

「おお、すごいのじゃよ! 新記録、二分五十二秒じゃ!

 ついに三分の壁を破ったのう!」


 早口言葉のタイムトライアルを行っていた。



「いや、というかこの非常時に、さっきからお前たちは何をやっているのだ?」

 呆れて聞いたのはアスティだ。

 鋼たちご一行は、あの後、意識を取りもどさない少女を連れたまま、馬車で逃亡を続けていた。

 どうやら鋼たちの特徴はすっかり騎士団連中に覚えられてしまったらしく、さっきから追っ手には事欠かない。


 弁解して誤解を解きたいところだが、そのために少女を突き出すのは気が引けた。

 せめて少女が目を覚まして事情を話すまでは守り抜こうと、鋼たちは襲ってくる騎士団の人間を無力化しながら逃げ回っていた。


「いや、違うって! これは遊びじゃなくて敵と戦う訓練だよ!?」

 アスティの冷たい視線に、鋼は必死で弁解して誤解を解こうとする。

 これはゴーレムやホムンクルスなどの人工的に作られた相手を一瞬で倒すという鋼のスキル『被造物瞬間消去』を使う練習だった。


 しかしこれだけ練習してみておいて言うのもアレだが、武闘大会前の実験の時『悠長すぎるわ!』とシロニャにツッコんだ通り、とても戦いに活用できるものではないという事実が判明してしまった。

 相手の体に触れながらじゃないと発動できないという条件だけでも抜群に厳しいのに、その上で早口言葉百個というのは絶望的な条件だ。


(やっぱりこりゃ、戦闘じゃとても使えそうにないな……)

 鋼は一人、心の中でうなずいた。

 たぶん武闘大会直前に調べた能力の中では、『名前を呼んだ相手が十秒間、確率と確立、自身と自信、以外と意外の変換を確実に間違える』という使い道の分からない効果を持つ『正確に不正確なる打鍵』の次に役に立たない能力じゃないだろうかとまで思った。


 こうなったら仕方がないと、

「なぁ、シロニャ。やっぱり……」

「あー!!」

 鋼が話しかけると、シロニャはいきなり叫び出し、がっくりとうなだれた。


「お、おぬしが急に名前を呼ぶから、つい漢字の変換を間違えてしまったのじゃ!」

「はぁ? お前、一体何やってるんだよ?」

 白猫の方はぼうっとしていただけなので、本体の方が何かをしているのだろう。

 そう思って尋ねると、その答えは、


「ちょっと暇ができたから、『零夜の奇妙な転生』に感想を送ってたんじゃよ!」

「いや、この非常時にお前は何をやってるんだ!?」


 鋼の想像以上に下らないものだった。



 しかしシロニャはまったく悪びれもせず、

「ううー。ワシとしたことが、確率と確立、自身と自信、以外と意外の変換をまちがえるとは……まるでネット初心者じゃよ」

 と一人で頭を抱えていたが、


(あれ? 『正確に不正確なる打鍵』、役に立った?)


 ちょっとした事実に気付いてしまう鋼。

 あっという間に『被造物瞬間消去』が鋼内での使えない能力ランキングナンバーワンになってしまったが、それはまあいい。

 いや、よくはないのだが、仕方ない。

 しかし、切り札の一つ目が使えなくなったとすると、もう一つの切り札を本格的に用意することを考えなければならない。


 正直気は進まないがこうなったら仕方がないと、シロニャにもう一度話しかける。

「なぁ、シロニャ。やっぱりこのスキルはあきらめて、違う攻撃手段を確保しようと思うんだ」

「な、なんじゃと!? もうあきらめるのか!?

 北斗七星の横に見えるあの巨神の星に、一緒に二分の壁を突破すると誓い合ったではないか!」

「一瞬たりともそんな目標持ってねえよ!!」

 そしてこの世界には北斗七星はない。……たぶん。


「とにかくもういいから、シロニャにあのアイテムを借りたいんだよ!」

「あのアイテム?」

 なぜかあざとく可愛げに首をかしげるシロニャに、怒鳴るような勢いで鋼は言う。

「あっただろ!? 現実世界にいた時、勉強する時とかに使っ……」

 が、


「ん、うぅ……」


 その言葉は、気を失っていた少女がそんな声を漏らしたことによって、またも中断される。


 どうしてあのアイテムを欲しがる度にこうも邪魔ばかり入るのか、と思わなくもなかったが、今は少女が目を覚ますことの方が重大事だ。

 鋼はうっすらと目を開け始めた少女に近付いていって、彼女の顔を覗き込むようにして笑いかけ、

「おはよう。大丈夫? ケガとかはしてないみたいだけど、急に倒れたから心配し……え?」

 そう口にした瞬間、視界が反転する。


 気が付くと鋼は、さっきまで少女が寝ていた馬車のイスの上に仰向けに倒れていて、その喉に冷たい物を突き付けられていた。


「王女は、どこにいる?」


 冷たい物、つまりは少女が持っていたナイフ越しに、それ以上に冷たい少女の青い瞳が、驚きに見開かれた鋼の瞳をまっすぐに貫いていた。


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