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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第十三部 愉快な馬車旅編
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第七十四章 孤独の痛み

 クロニャの話、というのは、鋼たちにとって驚くべきものだった。


「魔王、の復活阻止、のため、あな、たたちに、王女、の、保護を頼みた、い」


 その言葉に、クロニャに以前煮え湯を飲まされたアスティが食ってかかる。

「信用ならんな! お前は前に言っていた。

 この世界は滅ぶべきだ、と!

 その考えが変わった理由を聞こう」

 そう言うと、アスティはどんな嘘も見逃すまいとクロニャをじっと見つめた。


 そんな視線をまるで無視して、クロニャが小さな口を開く。

「魔王、が、危険、だと分かっ、た」

「何を今さらそんな分かりきったことを!

 世界を滅ぼそうとするような者の言うことを信じろと言うのか?」

 激しい剣幕のアスティ。

 だが、クロニャは声を荒げない代わりに、まったく怯みもしない。

「この世界、に、滅んでほしい、のは、今も、そう。

 真神が、できる可能性、は、つぶした、い」


 しか、し、とクロニャは首を振る。

「ルウィーニア、と、審神者、が、がんばり、すぎた。

 魔王が復活、する、と、真神よ、り、危険と判断」

「どういう意味だ?」

「この世界、を滅ぼしたあと、魔王、は、おそらく他の世界も、侵略す、る。

 神をも倒しうる力、を持ちながら、因果律に影響され、ない。

 非常、に、危険」

 つまり、この世界の魔王というのは他の世界に迷惑をかける程度には凶悪だということか。

 神様の無軌道に鋼は今さらながらに呆れた。



「だか、ら、今回だけ、協力、す、る。

 でも、わたし、は、自由に、動けない」

「動けない?」

「神、との盟約。『清めの塔』の守護、を引き受けた」

 鋼には聞き覚えのない名称だった。


 後ろを振り返ると、何も言わずとも心得てラトリスが説明してくれる。

「『清めの塔』とは、魔王を封印する、封印の巫女でもあるラターニアの王族の女性しか入る事が出来ない塔と言われています。

 主な用途としては儀式前の巫女が、精神を集中するために籠る事らしいですが、それ以外にも王族としての証を立てるのに使う事もあったそうです」


 その解説を、今度はクロニャが引き継いだ。

「今回、は、その場所、を、シェルター、と、して、使う。

 そこ、に、封印の巫女、を、連れて来て、もらいたい」

「まさか、封印の巫女が狙われているのか!?」

 アスティの叫びに、クロニャはうなずく。

「その可能性、は、高、い」


「魔王は、12月31日に、復活する、との、予言、が、ある。

 この短期間、で、復活す、る、なら、封印の破壊、が予想され、る。

 なら、ば、狙いは、封印の巫女、か、その力を月、に送る封印の回廊、のどち、らか」

「その『封印の回廊』って奴は大丈夫なのか?」

 鋼の質問に、クロニャは即座に答えた。

「だいじょう、ぶ、だ。問題、ない。

 巫女、以外に、回廊、は、あつかえ、ない」

「だったら余計に、その封印の巫女って人を見つけなくちゃいけないワケだな」

 封印の巫女を押さえれば回廊は放置できるということは、何らかの方法で巫女を先に押さえられれば、回廊に何かをされる危険性もあるということだ。


「逆に31日、を、越えれば、しばらくは復活、の芽はない、とい、う予測。

 巫女、を連、れてきてくれれば、盟約に従い、31日まで、塔を死守、する」

 クロナ(神様の方)は、このままでは31日に魔王は復活すると言っていた。

 しかしそれは裏から見れば、鋼たち転生者などの不確定要素が混じると、復活を阻止できる可能性があるとも受け止められる。


「なら、僕らがその封印の巫女をその塔まで届けられるか。それが、魔王の復活の是非を分ける?」

 鋼のつぶやきに、

「その、とおり。期待し、ている」

 全肯定でもってクロニャは応じた。


「これ、で、話は、すんだ」

 そして一方的にそう言い切ってしまうと、なぜか鋼に近付いてきて、

「さっ、き、のキス。転移術式、を、仕込んだ」

「なっ!」

「神の祝福、と、同じ、ようなもの。

 彼らに、愛想を尽かせたら、わた、しを、呼んで。

 その、瞬間に、あ、なたは、わたしの前に現れ、る」

 鋼にしか聞こえない音量でそうささやいて、


「……また」


 とそっけない言葉を残し、どこかに飛び去ってしまった。

 勇者というのも、つくづく人間ではない。




「……どう思う?」

 クロニャがいなくなった後、鋼は一度馬車にもどり、みんなに意見を聞いた。

 御者役はいなくなってしまうが、しばらく先に進むような気分ではなかったので問題はない。

「ウソを言っている感じではありませんでしたね」

 とミスレイ。

 そしてその言葉には同意しながらも、

「うん。でも、一度本気になってない間に勇者と『当たって』みたことは正解だったと思う。

 もしこのあと、勇者が敵に回ったとして、『絶対的隔意』だけなら、たぶん次は破れる」

 ララナは確信を込めてそう言う。


「それって、次は勝てるってことか?」

 驚いて鋼が尋ねると、ララナは苦い物を食べたような顔をした。

「んー。今回向こうに戦意がなかったし、あんだけやっても一度も手を出してこなかったかんねー。

 魔力量からの勝手な見立てだけど、ガチでやったらボクじゃ五秒も持たないかなー。

 でも、ボクも勇者相手に正面から戦うつもりないし、あの驚きようからすると防御スキルは『絶対的隔意』しかない可能性もあるし……びみょー」


 その態度は、鋼からしてみれば不審だった。

 戦意がないと分かっていたとはいえ、本気で来られたら五秒持たないと分析している相手に勝負を挑んだこともそうだし、それより何よりも、


「何でクロニャが敵に回る前提なんだよ」


 クロニャと敵対することを想定した言い方が不思議だった。



 苛立ちが表に出て、鋼が意図していたよりも、きつい声が出てきてしまった気がする。

 だがララナは、あくまで軽い調子で答える。

「べつに、敵になるって決めてるワケじゃなくて、単なる備えだよ。

 でもね。これは、ボクの経験則だけど。

 大きいことをしている時ほど、意味のない出会い、ってないんだよ」

「意味のない出会いが、ない?」

 おうむ返しにつぶやいた言葉に、ララナはうなずく。

「そう。ここでクロニャと会ったことは無意味じゃない。

 きっと、クロニャは今回の事件の中で大きな役割を果たすと思う。

 それが本当に、額面通りの味方の役割ならそれで構わない。

 でも、もしかすると……」

 ララナはその先を口にはしなかったけれど、鋼にも何を言おうとしたかは分かった。


「どちらにせよ、これからは今までのようなやり方は通用しない。

 本気の戦いを強いられる、ということだな」

 アスティがその場をまとめるように言う。


 するとそこで、今まで考え込むように黙り込んでいたラトリスが発言した。

「国境を抜けたら、別行動を取りましょう」

「別行動?」

 意外な提案に、みなが首をひねる。


「はい。ラターニアなら私の伝手で幾らかの情報を得る事も可能です。

 それには単独行動をさせて頂いた方が都合が良いと思います。

 ハガネ様の護衛が出来なくなるのは少々不安ですが……」

 さらに、ラトリスに続き、

「あー。じゃあボクもバラけようかなー」

「お前もか?!」

 ララナまでが別行動を取りたいと言い出した。


「ボクは一応、仮にもこの国の危機って奴を救った英雄だからねー。

 たぶん、この国では目立ちすぎると思うんだよ」

「それは、そう、なのか?」

 鋼としては判断がつかない。

「その分、王族とか貴族の覚えはいいからさ。

 ちょっと王宮にでも潜り込んでみるよ」

「いや、そんな軽く言うけど……」

「あはは! だいじょぶだいじょぶ!

 魔王の復活を阻止しに来たって正直に言えば、ボクのこと邪険にはしないって」

「それは、そうかもしれないけどな……」

 なんとなく、仲間たちがバラバラになってしまうようで、鋼は少し不安だった。


 それを見て、リリーアがため息をつきながら言う。

「あんたねぇ、何を心細そうな顔してるのよ。

 何もずっと別行動ってワケでもないし、わたしはちゃんと一緒にいるから……」

 しかしリリーアのフォローの言葉を、

「あ、リリーアには一緒に来てもらうよ?」

「え? ええっ!?」

 ララナがあっさりとぶった切った。

「だってアイドルで顔割れまくってるし、それこそ王宮向きじゃん!

 ボクも歌は歌えるから、今度デュエットでもしようよ!」

「それは、そうだけど、う、うぅー!」

 何も反論できずにうなるばかりのリリーアも、こうして別行動組に。




「では、改めて確認を。これから私達は、国境を抜けた所で三組に分かれます。

 私は独自の伝手を頼りに情報収集、ララナ様、リリーア様は王宮に行き、王族、貴族から情報収集。

 そして、残ったハガネ様達ですが、こちらに向かって下さい」

 渡された紙には、ラターニア王国と思しき場所の地図があり、中心には目的地らしい場所の印がついていた。


「ここは…?」

 鋼の疑問に、ラトリスは厳かに答えた。

「第二王妃フィードラ様の邸宅、そして、フィードラ様の娘で今代の封印の巫女と目される、王女ルファイナ様の現在の住居でもあります」






「それじゃ、ここらで別れようか」

 クロニャと別れてからの道中は順調に進み、特に問題もなくラターニアの国境も超えることができた。

 その際にあらためて思い知らされたのだが、この国でのララナの知名度はやばい。何しろ国境を守る一兵士がララナの顔と名前、そしてその偉業を詳しく語れるほどなのだ。

 ここから街に近付けば往来の数も多くなるし、ララナの仲間と認識される前にバラけないと意味がなくなる。

 鋼は関所から見えなくなった辺りまで馬車を進めたところで、当初の予定通りに別れることを提案した。


 他のメンバーも特に否やはなく、ここで一度、鋼たちのパーティは解散することになった。

 まず、鋼のところにララナが近付いてくると、小さな人形を手渡す。

「これ、『身代わり人形』ってアイテム。

 ありがちだけど、致死性の攻撃を一度だけ代わりに引き受けてくれるんだ。

 コウくん、もらってくれる?」

「いいのか? これ、貴重なんだろ?」

「あはは。もらってくれないと、ボクが不安で出発できないよ」

「……そっか。ありがと」

 鋼が受け取ると、ララナはニコッとほほえんだ。


 そんな鋼のところに、次はラトリスがやってくる。

「では、僭越ながら私も」

 ラトリスが渡したのは、ごつい手袋だ。

「Sランクのアイテム、『税務長の手袋』です。

 これをつけてアイテムボックスに触れると、アイテムをランダムで一つ、強制的に抜き取ります。

 使い捨てですが、状況に依ってはハガネ様のお役に立てるかと思います」

「ラトリスまで……いいのか?」

「はい。特に使い道が思いつかないアイテムの中で、一番ハガネ様に恩を着せられそうな物を選びました。

 気兼ねなく受け取って下さい」

「……そ、っか。あ、ありがと」

 鋼が受け取ると、ラトリスはニヤッとほほえんだ。


「ま、待って! じゃあわたしも……」

 その二人の様子を見て、リリーアもあわてて自らのアイテムボックスを探り始めるが、

「ほらー、いいから出発するよー!」

「わー! 何でわたし最近オチ担当みたいな……ちょっとぉー!」

 ララナに首根っこをつかまれ、ずりずりと引きずられていってしまった。

「では、また」

 言葉だけを残して、ラトリスも風のように去っていった。




「せっかく六人そろってウィズパーティっぽかったのに、ずいぶん少なくなってしまったのぅ」

 シロニャがそう口にした通り、三人があっという間にいなくなって、残ったのは、鋼、シロニャ(猫分身)、アスティ、ミスレイの三人+一匹だけになってしまった。

「ま、まあ、しんみりしていても仕方あるまい。

 それより、人数低下による戦力の減少は免れんから、注意だけはしておかんとな!」

 アスティが場を取り繕うように言うと、


「戦力かぁ。そういえばさっき……ああっ!!」


 そこで鋼は、その場にいた全員が飛び上がるほどの大声を上げた。


「どうしたのじゃ? いったい何が……」

 シロニャの声に答える暇も惜しんで、鋼はアイテムボックスを操作。

 そこから取り出したのは、


「おろ? 木の枝?」


 ご存知、鋼の相棒、木の枝さんだった。



「危ない危ない。こっちの世界に来る時にしまっておいてから、そのまま出すのを忘れてたよ」

 道理で何か違和感あると思った、と言いつつ、定位置の腰に差し込もうとするが、鋼はそこで木の枝の異変に気付いた。

 特に何もないはずなのに、小刻みに震えている。

「あ、あれ? どうしたんだ?」

 鋼はいそいで木の枝のステータスを見た。


『伝説の』『名状しがたき』『殺戮好きの』『もの凄く嫉妬深い』『鋼愛主義の』『名を呼ぶことも畏れ多い』『相棒とか呼ばれていた頃が懐かしい』『ハガネ様専用の』『ボックスの中でも成長はしていた』『世界創造の』『猫が天敵な』『もちろん魔道具としても使える』『変化の』『流石に異次元からは駆けつけられなかった』『閉所恐怖症の』『アイテムボックスに強いトラウマがある』『出番がないとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗を味わった』ただの木の枝『ワールドエンド・ブランチ』+36SOS


「うわぁ……」

 どうやら長い間閉じ込めていたせいでつらい思いをしていたらしい。

 しかも+の数値の末尾が505と見せかけて、なんかSOSになっていた。


「わ、悪かったな、相棒。ええと、その……」

 鋼はいまだに震えの収まらない木の枝を見て、考えに考えた挙句、



「こ、今度、水にさしといてあげるから」



 と言ったら、思いのほか喜ばれたという。

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