表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第十二部 賑やか帰還編
79/102

第六十九章 天才の真価

 サニーこと審神者の衝撃発言を聞いたシロニャは、


「わ、わたしの使徒、じゃとぉ!?

 こ、コウはワシの、ワシだけの使徒じゃぞ!

 こ、ここここ、この、この泥棒猫がぁあああああああああああ!!」


 逆上して審神者に向かって飛びかかろうと跳び上がる。


「む。やる気ですか! シロニャちゃん!」


 一方の巫女服女性、審神者も迎撃の構え。



 今にも二大色物女神による、夜のキャットファイト2が始まりそうだったが、



「いいから、みんな……」



 その時、ステージの上で固まっていたリリーアが大きく息を吸って、







「わたしの歌を聞けえぇえええええええええええ!!」







 聞くことになりました。









 ライブ終了後、リリーアのごり押しとラトリスの交渉力で、講堂をしばらく使っていいことになった。

 今はがらんとした講堂で、ふたたび話し合いが始まる。


「ええと、とりあえずなんだけど……」

 そう言って話し始めようとする鋼をさえぎって、


「まずはこの泥棒猫の処遇じゃよ! ギルティorデスじゃ!」


 シロニャが吼える。



「魔女裁判並みの悪辣さだな……」

 鋼は呆れながらツッコミを入れるが、

「わたしは構いませんよ!」

 そこに審神者が割って入った。

 そして、余裕の笑みでシロニャを見下ろす。

「ふふ。浅はかなり、シロニャちゃん!

 審判を司るわたしに事の真偽を問うとは……。

 よろしい! ならば裁判です!」


「さ、裁判じゃと!?」

 いささかも動揺することのない審神者に逆にシロニャが動揺させられたものの、

「と、とにかくワシとコウの真実の愛の前にはだれも入り込むスキはないのじゃ!

 その裁判、受けて立つのじゃよ!」

 実に威勢よく啖呵を切った。


 ちなみに、威勢のいいシロニャに対して、

「わー。初めて見ました。あれが、負けフラグ、って奴ですねぇ」

「相手の態度で負け戦だと分かりそうな物ですが……」

 仲間二人は意外と辛辣だった。


 と、そこで、不意に審神者が尋ねる。

「ところで、裁判の前に聞いておきたいんですけど、シロニャちゃんが鋼さんに祝福をかけたのは、いつなんですか?」

「ぬ? それは、たしか一ヶ月半くらい前じゃが…?」

「へぇ。そうなんですかぁ。ふぅぅん?」

 それを聞いて、さらに余裕を見せる審神者。

「な、なんじゃよ! この泥棒猫女!

 何か申し開きがあるのなら聞いてやってもよいのじゃぞ!?」

 嫌な予感を覚えつつも、シロニャはせいいっぱいの虚勢を張った。


「ふふ。いいんですか?

 審判の神であるわたしの能力は、『過去視ポストコグニション』。

 過去のありとあらゆる情報を全て、わたしは確認することができるんですよ?」

「だからなんなのじゃ!

 御託はいいからさっさと弁解でも何でもすればいいのじゃ!」


 シロニャの声に応えるように、


「では開廷!!」


 審神者が両手を振り上げる。

 すると、


「な、なんじゃこれ!?」


 講堂の舞台の奥に、映画館のような巨大なスクリーンが出現した。

 そして、突然のことに驚くみなを尻目に、審神者が愉快そうに宣言する。


「みなさんにはこれから、鋼さんの過去の記憶を見てもらいます。

 今から三か月ほど前、武闘大会二日目の朝の物です」


「武闘大会じゃと? 今さらそんな……」

 何かを言いかけるシロニャを無視して、審神者がふたたび両手を振るう。



「では証拠VTR、スタート!!」



 やけに俗っぽい言葉と共に、スクリーン上に過去の映像が映し出された。




【 ひどく残念な気分になった鋼が、それからもしばらくノーガード戦法で巫女服の変態さんの話を聞いていると、突然、彼女が手を打った。

 「そうだ! 鋼さんにはこんなによくしてもらいましたから、何かお返しをしましょうか!」

 「おかえし、ですか…?」

  機械のようになっていた鋼の目に、ほんの少しだけ光が灯る。それは大体、ザ〇ⅡJ型のモノアイ程度の光量だったが、反応ありと見たその人は攻めてくる。

 

 「あ、そうだ! わたし、この大会の審判もやってるので、もし鋼さんが望むなら……」

  ニヤリ、と邪悪な笑みを見せる女性。これには鋼もあわてて正気に戻った。

 「いやいやいいです! そんな不正をしてまで勝ちたいとは全然思ってないんで!」

  というか、余計なことをされても困るというのが本音だ。

 

  これはさすがに言いすぎたと気付いたのか、巫女服の女性も頭を下げた。

 「うぁ、なんというか、サーセン。

  考えてみればわたし神の代理人って立場があるんで、そういうことやっちゃいけないんでした」

 「はぁ……」

  何か思い込みが激しいと思ったら、宗教関係の方だったのか、と納得する鋼。しかも大会の審判を任されているのなら、リリーア並みの知名度があることだって考えられる。

 

  これは早々に退却を、と思ったのだが、

 「あ! そうです! ならせめて、祈らせてください」

 「え? いや……」

  両手をガッとつかまれて、

 「あなたとあなたの道行きに、幸福と幸運の天秤が傾きますように。

  そしてあなたの魂が、迷うことなく我が身許に召されますように」

  変な台詞みたいな物を聞かされたと思ったら、

 

  ――チュッ。


  トドメとばかりに手にキスをされた。

 

 「うあぁあ!」

  こっちの世界にやってきて色々な経験をしたが、いまだに女性に免疫のない鋼はあわてて飛びのいた。

 「祝福が終わりました。これできっと、また会えますね」

  一方、巫女姿の女性は、一仕事終えたような満足そうな顔をしている。

 「じゃ、また次の試合もアレ、期待してます!」

 「次は絶対そんなことしないですから!」

  そんなやり取りの果てに、巫女姿の女性は、結局名乗りもせずに行ってしまった。】




「まぁ、このくらいでいいですかね?」

 という審神者の言葉と共に、映像も途切れる。

 だが、スクリーンに何も写されなくなっても、シロニャはじっとその方向を見て固まっていた。

「う、ウソじゃよ。これはなにかのまちがいじゃよ……」

 というかすかな声も、鋼の耳に届く。



 鋼も、あらためてあの時の光景を見て、思う。

 神の祝福なんて知らなかった時はただの怪しげな宗教の人に見えたのだが、シロニャから祝福を受けてから見てみると、これ以上ないくらいあからさまだった。


 あなたの魂が我が身許に召されますように、みたいなこと言ってるし、手にとはいえキスされてるし、最後の方なんて、祝福が終わりました、とかそのものズバリ言っちゃってるし、ダメ押しの、これでまた会えますね、なんて台詞は死後の転移のことを言ってるとしか思えない。


 もうどう考えてもこれで祝福を受けてないとか逆にないだろ、ってくらい完全完璧に、鋼はこの時、審神者から祝福を受けていた。




「ふふふ。シロニャちゃん。これで、分かりましたよね?」

 勝ち誇った顔で審神者がシロニャに声をかける。

「な、なんじゃ…?」

 対して旗色の悪くなったシロニャは、あとずさりしながら答えた。


 そんなシロニャに、審神者は有能な検事か弁護士のように、キレのある語調で言葉を投げかける。

「実は! わたしはシロニャちゃんがまだ鋼さんに祝福をかけることを考えてもいなかった三か月近く前から、鋼さんの実力を見抜いて祝福をかけていたんです!」

「ま、まさか…!」

 ビシッと突きつけられた審神者の指にシロニャはよろめく。


 だが、

「いやいや、実力見抜いてはいないだろ……」

 鋼としては、そこはツッコまずにはいられない。

 祝福をかけたのは実際にはリリーアのスカートをめくったお礼という理由だが、その辺りの会話はVTRより前にされていた話なのでうまいこと隠蔽されていた。審神者、さりげに策士である。


 ともあれ、審神者の糾弾は続く。

「そうなると、わたしが鋼さんに祝福をかけた『後に』、なんと『一ヶ月以上も遅れて』シロニャちゃんは鋼さんに祝福をかけたことになります。

 つまり……」

 そこで審神者はタメを作ると、『異議ありッ!』のポーズで斜めに立ってシロニャを指さし、



「シロニャちゃん!! 泥棒猫は、あなたです!!」



「にゃ、にゃんじゃとぉおおおおおおお!!!」

 鮮やかにシロニャに罪を跳ね返したのだった。







「まあ、その、おぬしがサニーのやつの祝福を受けていたことは、とりあえず渋々ながら認めてやるのじゃ。

 それで、おぬしはそのことにずっと気付いておったのか?」

 復活したシロニャが、鋼に尋ねる。


 ちなみに泥棒猫呼ばわりされてしばらくは、

「ワシが、ワシが、泥棒猫……」

 とぶつぶつ言いながら落ち込んでいたシロニャだったが、鋼が、

「ま、まあ、泥棒猫っていうのもかわいいんじゃないか?

 ほら、なんか……猫って感じで!」

 と超適当な慰めを言うと、

「ふふん! 泥棒猫はステータスなのじゃ!

 えらい人にはそれが分からんのじゃよ!」

 とか何とか戯言を言いつつ瞬時に復活した。


「いや、僕も気付いたのはこっちの世界に来てからだよ。

 ほら、もどってきた日の夜、カードでフィート欄を見ただろ?

 あれで、サニーさんに祝福されてるって分かったんだ」

「あ! そういえば、急に祝福がどうとか言い出した時があったのじゃ!」

 言われて、シロニャもその時のことを思い出した。


 フィート欄をたしかめた時、おそらくクロニャ戦で獲得したと思われる『輪廻転生』の下、魔法学院で獲得したと思われる『魔道書の詠み手』の上に、『審神者の祝福』が書かれていた。

 ダンジョンの時にはフィートは獲得していないとすれば、書かれていた場所からして、審神者から祝福を受けたのは武闘大会の時期でしかありえない。


 と、そこまで説明して、

「で、武闘大会の時、何かおかしなことはなかったかなと思い返して、あの怪しい巫女服の女の人が審神者だったんだ、って見当をつけたってことだよ」

 そう鋼は締めくくった。

「もう! 怪しいなんてひどいですよ!

 頑張って真人間を装ってたのに!」

 とわざとらしく審神者が怒っていたが、色々な意味で怪しかったのは間違いなかったので鋼は訂正しなかった。

 大会中シロニャも『サニーの声が聞こえたような……』とか言っていたし、審神者は鋼との会話の途中、『ほぁあああああ!!』と叫びそうになって無理矢理ごまかしたりもしていた。

 これが怪しくなくて何なのだろうか、と鋼は思う。


 ついでに言っておくと、考えてみれば二つ名の『神落とし神』の説明に『三柱の神の寵愛を受けている』とはっきり書いてあった以上、その時点でシロニャとルウィーニアの他に何らかの神様の助力を受けていることに気付けたはずで、そこでフィートを見ていればすぐに判明したことではあるのだが、今さらな話であるので鋼は黙っていた。




 そして、鋼の説明を受け、ラトリスがメガネを光らせて質問をした。

「ではその時から、ハガネ様は自殺してこちらの世界に戻ってくる方法を考えていたのですか?」

 ラトリスの問いに、鋼はうなずく。


「ああ。だって、行き帰りで二ヶ月ずつ時間がかかったら、さすがに長すぎるだろ?

 なぁんて言っても、いくらすぐ生き返るとはいえさすがに死にたくはないから、次の日まで迷ってたんだけどな」

「あ、じゃあ帰ってきた次の日、ずっと悩んでたのは、こっちの世界にもどるかもどらないか、ではなくて、こっちの世界にもどるのに神の祝福を使うかどうか、だったんですね」

 クリスティナがその日のことを思い出しながら、うなずいた。

「ああ。それでその日の夜、色々考えたけど、祝福を使うのが最適だなって思って、今回の計画を立てたんだ」

 鋼もクリスティナの言葉を肯定する。



 そこで食ってかかったのがシロニャだった。

「じゃ、じゃったら何でそれをワシらに話してくれなかったのじゃ!」

 悲痛とも思えるようなシロニャの叫び。しかし、その言葉を聞いた鋼は、何言ってるんだ、という顔をした。

「だから、シロニャに真っ先に打ち明けただろ?」

「な、なんじゃと?」

 シロニャの目が点になる。


「いや、この計画を思いついたのはいいんだけど、やっぱり今回はシロニャが賛成してくれるかちょっと心配してたんだ。

 シロニャ以外の神様の力を借りることになるし、僕が痛い思いをするのはシロニャも心配してくれるみたいだし、異世界に『行く』ためじゃなくて、元の世界に『もどる』ためにシロニャに力を使ってもらうワケだからさ」

「当然なのじゃ!」

 シロニャはうなずく。


 まず、シロニャはこちらの世界に人を送り込むための仕事をしているのであって、元の世界にもどすのは本来の自分の役目に反する行為だ。まあそれは鋼のためだったらむしろ喜んで行うだろうが、他の二つは別だ。

 鋼が他の神様の力を借りるなんてまっぴらご免だし、いくら生き返るとはいえ、鋼が死ななければ移動できないというのなら、シロニャは猛反対しただろう。


 しかし、鋼はそこで感心したような顔でこう言った。

「なのに実際にシロニャに話してみたら、祝福のこととか自殺して向こうに移動するってことを知ってた上に、他の神様の力を使うのも気にしないから存分にやれって言ってくれて……」



「え?! ワシが!!??」



 シロニャ、今日一番の驚きであった。



「ちょ、ちょっと待つのじゃ!

 ワシが本当にそんなことを言ったのか?

 ニセモノとかじゃなくて!?」

 そんな記憶はなかった。というより、そんなことを言うはずがなかった。

「偽物、かどうかは分からないけど。

 元の世界にもどった次の日の夜に二人で外に出た時のことだぞ?

 祝福のことはずっとお前の隣にいたからなんとなく分かっていた、とか、神様の力だろうとなんだろうと、この状況なら使わないといけない、とか、そんな感じのことを……」

「ワシ、覚えとらんのじゃけど!?」


 たしかにその日、鋼と一緒に歩いた記憶はある。

 しかしその時は、鋼がこちらの世界に移動することを決めたのを聞かされて、シロニャは力がたまったらそれを世界転移に使うことを約束しただけだったはずだ。


 同じ記憶を共有しているはずなのに噛み合わず、混乱する二人。



 そこに、


「ふっふっふ! ここは証拠VTRの出番ですね!」


 なぜか自慢げに審神者がしゃしゃり出て来る。



「えーと、鋼さんが元の世界にもどった次の日の夜、だったらこの辺りかなー」

 という何ともアバウトな調整で、しかし要求ぴったりの時間の映像がスクリーンに再生される。




【「これは、宣言、というか、シロニャへの頼み、になるんだけど……」

  そう前置きして、シロニャの顔を正面から見つめる。

  シロニャの曇りない瞳も、鋼の目を正面から見返していた。

 「まず、これから二ヶ月でたまるシロニャの神様としての力。それを世界移動のために……身勝手だけど、僕たちがもどるために使いたい。使って、ほしいんだ」

  鋼としては、一世一代というくらいの勇気を振り絞って言ったその言葉に、しかしシロニャは、

 「そうか。やはりおぬしは、覚悟を決めたのじゃな」

  まるで予想していたかのようにうなずいた。

 

  狼狽したのは鋼だ。

  しかしシロニャは、まるで鋼の提案が当然のことのように泰然としていた。

 「な、なんで……」

 「ワシがおぬしを転生させた時、おぬしはどこにでもいるような、普通の学生の目をしとった。

  じゃが、今日、外に出ないかとワシに声をかけた時のおぬしは……死に正面から立ち向かう、戦士の目をしておった」

  その言葉に、鋼はハッとした。

 

 「もしかして、シロニャ。

  じゃあお前、今日僕がずっと考えていたことも、全部分かってて、それで……」

  シロニャは自嘲するように笑った。

 「なんとなく、じゃがな。

  ふふ。ワシはこれでも神様じゃぞ。しかも、だれよりもおぬしの傍にいた神様じゃ」

  そのシロニャの言葉に、鋼は唖然としながらも、どこか納得したような顔をする。

 「…そっか。そう、だよな。

  あ、はは。敵わないな、シロニャには……」

 

  鋼は少しだけ笑って、すぐにまた、真剣な顔をする。

 「ごめん、な。思いついた時、すぐ、話さなくて……。

  やっぱりお前が、気を悪くするんじゃないかって思って」

 「どうしてそう思ったのじゃ?」

  本当に不思議そうに問いかけてくるシロニャに、鋼は歯切れ悪く答える。

 

 「どうして、って。当たり前だろ。

  だって結局は、僕たちだけの力で解決するのを早々にあきらめて、他の、しかもなんというか、すごく強大な、神様の力、ってのに、安易に頼るってことで、それはやっぱり、あんまりいい気持ち、しないだろ?」

  よみがえるのは、シロニャの口にした、『気まぐれで人にほいほい力を授ける、力ばっかりありあまった神様に、それに安易に乗っかる愚民共』という言葉。

  暴走しての言葉だったとはいえ、アレだって間違いなくシロニャの本音の一部だったはずだ。

 

 「でもそれが分かってるのに、それでも僕は、自分勝手な望みのためにシロニャの力まで借りようとしている。

  だからシロニャには、僕を怒る権利が……」

  鋼の心の底からの、もしかすると初めてかもしれない、シロニャへの謝意。

  しかし、シロニャはそれを、

 

 

 「なんじゃ。そんなことか」

 

 

  たったの一言で切り捨てた。

 

 

 「そんなこと、って……」

  普段のシロニャの言動からは考えられないような言葉に、鋼は絶句した。

  だがシロニャは、淡々と続ける。

 「ワシはただ、必要もないのに神の力に頼るやからを非難しただけじゃ。

  むしろおぬしくらい切羽つまっとるなら、神の力でもなんでも、利用しないと怒っておるところじゃ」

 「シロニャ……」

  シロニャの意外な反応に、鋼はその名を呼ぶことしかできなかった。

 

 「それに、おぬしが自分のためにワシの力を借りるのを、ワシが怒る?

  そんなのはまるっきり逆じゃよ。状況がどうであれ、おぬしに頼られてワシが喜ばないはずがないではないか!」

  そう口にしたシロニャの顔には、一点の曇りもない。本当にシロニャが心の底からそう思っているのが分かって、

 「ありがとう……」

  鋼は、それだけを口にするのが、やっとだった。】




 そこで、映像は終わった。


「…………」

 それを見たシロニャには、もう言葉もなく、

「なんという……薄氷を踏むようなアクロバットな勘違い!!」

 あのラトリスでさえ、感嘆の言葉を禁じ得なかった。

 そしてクリスティナに至っては、

「これが、これが鋼さんの特殊能力(マ〇ナス)、『誤解(オール)(ミスアンダー)天才(スタンディング)』」

「いやちょっと! 人をどこかの大嘘憑きみたいに言うのはやめてくれるかな!?」

 なんか鋼に過負荷をかけていた。


 そして、どうやら全体的にツボったらしい審神者は大笑いして、たまにキリッとした顔で、

「なんとなく、じゃがな」

 とか、

「なんじゃ。そんなことか」

 とか、シロニャの台詞を真似しては腹をかかえて爆笑していた。

 性格最悪であった。






 そして、鋼は、



「あれ? もしかして、だけど。……みんな、何か誤解してた?」


「「「「「「 今頃気付いたのかよ!! 」」」」」」



 めずらしく、ツッコミを受ける側に回っていたという。










 と、そこで一人、他とは違う目線で鋼に尋ねたのがマキだ。

「ちょっと待って! それじゃ、あんたの両親はどうなの!?

 まさか、あんたがもう出発するって知らずに、家で待ってるとか……」

 そんな彼女の危惧を、

「え? ああいや、父さんと母さんには僕が直接説明したから、大丈夫だと思うよ。

 それに、篤志にも一応メールしておいたし」

 鋼はあっさりと一蹴する。


「というか、みんなも最後、ちゃんとお別れ会っぽいのやっただろ?」

 それを言われて、シロニャたち三人はハッとする。

「じゃ、じゃあ今日の昼、めずらしく全員で出かけたり、豪華な夕食が出たりしたのは、イブだからじゃなくて、最後の日だったからなのか?」

「成程、あの食事は正に『最後の晩餐』という訳ですか。

 そういえば出かける前、ハガネ様は外出前に珍しく長い間、お二人に見送られていらっしゃいましたね」

「今日に限ってお父様やお母様がわたしたちに構ってくれたのは、別れを惜しんでたってことなんですか!?」

 それぞれの心当たりを思い出し、それぞれに声を上げるシロニャたちに、鋼もうなずいた。



 そうして、これで質問は大体出そろったかな、と鋼が油断した時、思わぬところから伏兵が現れた。

「話は終わった?

 それじゃ、わたしからも質問させてもらおうかしら!」

 話し合いに参加してから、いや、そのずっと前から怒りに肩を震わせている、リリーアである。


「あ、そういえばまだあいさつしてなかったな。

 リリーア久しぶり、元気だった?」

「あ、うん。元気だけど……って違うわよ!

 なんか全体的に話がよく分からないけど、それはいいわ!

 とにかく、わたしが聞きたいのは一つ!

 どうしてあんたは、わたしのライブに乱入してきたかってことよ!」

 ギラッとリリーアの目が光る。


 下手なことを言えば、たたじゃおかないわよ、とその眼光が語っていた。

「そういえば、何でこのクリスマスイブの日に転移をしたのか、その理由はまだ聞いてなかったのじゃ」

 そんなシロニャからの援護射撃も入り、みなの視線が鋼に向く。


「ああ。それは単純だよ。

 区切りがいいから自殺の踏ん切りもつくかな、って理由もあるけど、もう一つは某神様、つまりサニーさんにとって、今日が特別な日だったから」

「特別な日、じゃと?」

 シロニャが首をかしげる。


「まあそもそもは、この魔法学院に来れたら面倒がなくていいな、ってくらいだったんだけど、シロニャから古神の人たちは人が住めないようなところに住んでるって聞いて、絶対にクリスマスイブにしなきゃなって思ったんだ」

「どういうことじゃ?」

 シロニャには、まだ分からない。


 鋼は根気よく説明を続けた。

「だから、サニーさんが自分の住居にもどってる時に転移したら、転移した瞬間、僕もついてきたみんなも死んじゃうだろ?

 それを避けるには、確実にサニーさんがこっちの世界に降りてきている時に転移しなくちゃいけない。でも運のいいことに、たった数時間だけ、ほぼ確実にサニーさんが下界に降りている時間帯を僕は知ってたんだ」

 そう言って、鋼が懐から取り出したのは、一枚のチケット。


「そ、それ! 今日のわたしのライブのチケット!」

 思わず、というようにリリーアが上げた声に、鋼はうなずいた。

「そう。リリーアの大ファンであるサニーさんなら、このライブにはどんなことがあっても参加するだろうと思ってた。

 だから、クリスマスイブの午後8時、ちょうどリリーアのライブが始まる時間を狙って、僕は祝福を発動したんだよ」

 その言葉で、今度こそ、全ての疑問と謎は解けた。



 みなは納得して黙り込み、リリーアもさっきまでの怒りを収めて、静かに問いかける。

「そ、っか。じゃあ、あんなタイミングでやってきたのは、別にライブを滅茶苦茶にするつもりじゃなくて、この時間じゃないと、うまくこっちにもどってこれるか分からなかったからなんだ」

 リリーアの言葉に、鋼は首を縦に振った。

「ああ。それにまあ、せっかくチケット受け取ったから、できれば見て行きたいって気持ちもあったし。

 その、いいライブだったと思う。

 ちょっと、感動したよ」

「そ、そ、そう? な、なら、仕方ないわね」

 リリーアはつま先をせわしなく動かしながら、目を逸らした。


 それを見て、

「あ、そうか! リリーアさんて、もしかしてリアルツンデ……」

「黙りなさい!」

 クリスティナが余計なことを言いそうになって、すごい目でにらみつけられたりしたのだが、それは余談である。







 そうして、とりあえずこれで一件落着か、誰もがそう思った時、講堂のドアが開き、そこから一人の人物が飛び込んできた。


「み、み、見つけ、見つけ、たぁ…!!」


 息を切らせて、肩を上下させる小さな体。

 日本人の特徴である、黒髪黒目という容姿に、魔法学院の服を着た、鋼にもどこか見覚えのある少女。


 そして小さな歩幅で一直線に鋼の下まで駆け寄って来ようとする、彼女は、彼女こそが――


「ゆ、ゆ…………マメシローー!!」


 ――真白あらため、マメシロだった。


 マキは鋼目がけて駆け寄ってきたマメシロをがばっとインターセプト。抱きしめて、頬ずりし始めた。

「もうしばらく見ない間にこんなに小っちゃくなっちゃって!!

 というかかわいー! 持ち帰りたーい!!」

「ちょ、ちょっとマキ痛い! え、ていうか、マメシロって何?

 さっき明らかにゆっきーって言いかけてたのに、言い直したよね!?」

「そんなの決まってるっしょ! 小っちゃい真白で、豆白!

 んー、豆白ちゃーん! もふもふもふー!」

 見た目十二歳女子に際限なく頬ずりをするマキに、全員ドン引きである。


「漢字表記まで決定!? というか、もふもふしてないよ私!?」

 と、途中まで完全にマキのペースに飲み込まれた真白だったが、すぐに自分を取り戻した。

「って、違う! マキ、私、私聞いちゃったんだからね!

 マキとコウくんが、だ、抱き合って、き、き、キスしてたって!!」

「う、それは……」

 その言葉には、ハイテンションになっていたマキもさすがに黙る。


「ねえ? やっぱり本当なの!? マキ! コウくん!」


 真白が二人を激しく問い詰めた、その時、






「一大事だぞ、ハガネ!!」

「大変だよ、コウくん!!」






 ふたたび扉が開いて、鋼には見覚えのありすぎる二人、アスティとララナが飛び込んできた。


 それを見て、一瞬呆けていた鋼は、キリッ!とした顔で言った。



「よし、話を聞こうか!!」










 そしてそんな鋼を見て、元からその場にいた全員が、こう思ったという。





((((((( こいつ、ごまかしやがった!! )))))))





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 祝福は「上書き型で重複」して「消耗品」だった!!!
[良い点] 楽しませてもらってます。 [気になる点] 最後に祝福された神が優先される設定だからしろにゃが居た日本で復活したのかと思ったんだけど、復活先の神を選べるのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ