第六十二章 おいかけるいし
※注意
感想欄でご意見を頂いたので、念のため警告をさせて頂きます
帰還編のラストを盛り上げるため、この章前後からシリアス風な描写が入ります
いつもより若干重い雰囲気になるかと思いますが、所詮この作品ですので、あまり深く考えずに安心してお楽しみ頂ければ幸いです
マキの家は、そこそこ厳しい。
それでもクリスティナ関係で結城家にはよく来ていたため夕食までは許可が出たのだが、まさか何の準備もなしに泊まりというワケにもいかない。
話し合いには結論が出ないままではあったが、マキは家に帰ることになり、自然、鋼がそれを送るという流れになった。
懐かしい自分の部屋にあらためて感傷的な気分になりながら、ラトリスが寝ていることを確認して以前の普段着に手早く着替える。
何だかちょっとサイズが合わない感じがして違和感があったが、すぐに気のせいだと思い直してマキが待つ玄関に向かった。
実は、何度か家に招かれたこともあるので、マキの家の場所は鋼も知っている。
なんと、鋼の家から徒歩でも十五分、自転車を使えば五分程度で行き来できる距離だ。
中学までとは違い、高校ではこんなに家の近い知り合いは他にはいないことが、鋼がマキに親しみを感じる理由の一つにもなっていた。
家までの帰り道、マキの口数は少なかった。
自分から何かを話すということはなく、鋼の言葉にも一言二言を返すだけ。
だが、もうすぐ家が見えてくる、というくらいの時になって、突然自分から口を開いた。
「あたしは、引き留めないからね」
「え?」
驚いて横に振り返る鋼に、マキは言葉を重ねる。
「真白が向こうにいる以上、あたしが引き留めるなんて思うな、って言った」
「あ、ああ。うん」
鋼はいきなりの話題に驚いたが、たぶんマキだってずっと考えてたんだろう、と逆に納得もした。
「そういやマキは、ずっと真白さんと仲良かったもんな。そりゃ、心配だよな。
じゃ、もし僕が向こうへ行くって言ったら、マキは応援してくれるってことか」
それはそれで心強いかもなー、と呑気に漏らす鋼に、マキは苛立ちを隠さずに答える。
「何でそーなんの? ぜんっぜん、そーゆーこと言ってるワケでもないけど」
「そうなのか?」
やはりどこか気の抜けたようなやり取り。
「いくらあたしでも、死ぬかもしれない場所に、行ってこい、なんて言ったりしないって」
「でもそれって、背中は押してくれるってことだろ?」
「ちがう!!」
夜の街に、マキの余裕のない声が響く。
「…マキ?」
突然の怒声に目を丸くする鋼に、マキは目をあわせずに言う。
「大声出して、ゴメン。
ただ、あたしは真白の味方だから、あんたが行くのをあたしが反対するワケにはいかないってだけ。
それ、だけだから。あたしからはそれ以上、何も言うつもりはないよ」
鋼には何がどう違うのかは分からなかったが、これ以上この話を続けてもいいことはなさそうだ。
軽い調子でまとめることにする。
「ま、行くか行かないか、なんて、向こうに行けるようになってから考えればいいだろ。
今のところ二ヶ月は行く手段はないんだから、そんなに真剣に考えることじゃないって」
その、鋼の論調に、
「あいつと似たようなこと、言ってんじゃないっての…!」
かつていなくなる直前の親友の言葉を思い出したマキは、小声でそう吐き捨てた。
「ん?」
それに気付かず、不思議そうな顔をしている鋼に、マキは首を振った。
「もう、ここでいい。家、着いたから」
「え? …あ」
鋼が見上げると、そこにはたしかに見覚えのある建物があった。
「ああ。そうだな。じゃあ、マキ」
「…なに?」
マキは家の方を向いたまま、振り向きもしない。
「今日は、じゃないか。……今まで色々、ありがとう」
「ッ!?」
「それじゃあ」
そこで踵を返す鋼の腕に、
「え? マ、キ…?」
マキが、しがみついていた。
鋼の腕に顔をうずめるような姿勢なので、マキの顔は見えない。
だけどあのマキが、こんなことをするなんて鋼には信じられない。
たしかに、何らかの異常な事態が起こっていた。
放さないと言いたげに、まるで抱きしめるように腕をつかんだままで、マキは、ぼそぼそとしゃべり始める。
「あんたも、真白、いや、ゆっきーの奴もさ。
どっちもどこ飛ぶか分かんない鉄砲玉みたいで、そんなのあたしなんかに止めれないってのは、分かってんだ」
くぐもった、なのに不自然なほど明るく、軽い声。
「なに、言ってるんだよ」
鋼はそこに余計に暗い物を感じて、背筋がぞわっと総毛立つ心地がした。
これ以上マキを追い詰めないように、できるだけ自然に、鋼は言葉を返す。
それでもマキの口調は変化しない。
平坦なほど、明るい声で、
「だっからさ。せめていなくなる時は、あたしに一言欲しいよって話。
メールなんかじゃなく、もちろん直接ね」
「そんなの、言われなくても……」
「ウソでしょ、それは。だったら何で、あんたもゆっきーもいきなりいなくなったのさ」
それを言われると、鋼としては言葉もない。
「勘違い、しないでよ。責めてるワケじゃないから。
ついていけない、あたしが悪いだけ」
「そんなこと……」
抱きしめられる鋼の腕に、ギュッと力が込められた。
「ゆっきーが大事だってんなら、あたしが向こうに行って探してくればいい話で、あんたが何より大事ってんなら、友達見捨てる覚悟で引き留めればいいってだけの話でさ。
どっちもできないあたしは……ちゅーとはんぱでずるい、んだ」
「そりゃ、気にしすぎ、だろ」
マキの震えが、腕を通して伝わってくる。
だが、いつも気丈にふるまってきたマキの、意外な本音が聞けた気は、した。
そこで崩れ落ちてしまうかと思ったマキは、
「そーかもね。そーいうとこは、あるのかも」
しかしやっぱり、気丈だった。
今度は震えもない、けれど真摯な口調で、鋼に頼み込む。
「だけど、あたしには一緒に行くことも、止めることもできないのは、ホント。
だからせめて、約束してよ。
どこかに行く時は、もう一度あたしに会いに来るって。
黙っていなくなったり、しないって」
「むり、かな?」
やっぱりもう、マキの声は震えてはいない。
けれど、つかまれた腕にこもった力は、もう痛いほどになっていた。
最近女の子との約束が多いな、と思いつつ、鋼はうなずいた。
「分かったよ。約束する」
「そ。さんきゅ!」
マキはそう答えると、鋼の腕から離れて、パッと後ろを向いた。
「ほーらほら。用事済んだら、さっさと帰った帰った」
そしてすぐ、鋼を追い出しにかかる。
この変わり身の早さには鋼も苦笑した。
「せめてこっち向いてくれてもいいだろ?」
しかし、その返答は意外なもので、
「だめ。いま、顔、見せらんないから」
なんてマキに言われれば、鋼も引き下がるしかない。
「それじゃ、また」
そう言って歩き出すと、
「うん。また、ね」
後ろ向きのまま、マキが手を振って送ってくれた。
――鋼が角を曲がって見えなくなってしまっても、マキはずっと、手を振り続けていた。
「……ふぅ」
一人きりの家路について、鋼は肺にたまった息を吐き出した。
マキと二人きりの時間は独特の緊張感と他では得られない刺激があり、それはそれで貴重なのだが、一方で何か物足りない気もした。
マキと他の人で、一体何が違うのだろうか。
鋼はちょっとだけ考えて、
「ああ、そうか……」
すぐに、気付いた。
「マキといると、ツッコミ入れる隙がまったくないんだ」
そしてそれを物足りなく感じる辺り、鋼は結構因果な人間なのかもしれなかった。
家に帰ると、玄関で両親が待っていた。
二人そろっての「おかえり」の言葉に、こちらも「ただいま」を返すと、避けては通れないことを話し合う。
クリスティナやシロニャにも退席してもらって、時には涙がこぼし、時には怒声を交えながら、納得がいくまでとことん話し合った。
鋼は向こうの世界に行くか行かないか、どちらかまだ決めかねていることを話し、もし行くことを決めたなら、二人にはそれを認めてほしいと伝えた。
両親は渋ったものの最終的にはそれを了承し、交換条件で、異世界に行くか行かないかにかかわらず、次の月曜日からはまた学校に通うように説得された。
休学措置がそう簡単に解除できるのかはよく分からなかったが、両親がはっきりと請け負ってくれたので、鋼はそれを了承、こうしてめでたく両者は合意を得た。
その話し合いが終わった頃には、すでに時計は夜中と言える時間を示していた。
とりあえず鋼も眠ることにしたのだが、病人であるラトリスを動かすワケにはいかないので、鋼が自分の部屋に予備の布団を敷いて寝ることになった。
というか、気を利かせたクリスティナが、もう布団を敷いてくれているらしい。
そして、鋼が自分の部屋に帰ると、
「なにやってんの、お前ら」
鋼が寝るはずの布団の上で、猫が枝にじゃれついていた。
「冬は猫科動物の温かさが恋しくなる時期なんじゃ!」
と意味不明なことを叫びながら白猫が枝に飛びかかって布団から落とそうとすると、
『隣に寝るのは、相棒の役目です!』
とばかりに枝がブルブル震え、白猫を振り落とす。
ツッコミどころ、満載である。
だがそれを見て、鋼は不覚にも家に帰った時よりも『帰ってきた』気分になってしまった。
しかし、あんまり甘くするとこれが毎日の恒例行事になりかねない。
「な、なぁに。ちょっと領土争いをな」
などと不審なことを言うシロニャを右手で脇にどけ、シロニャを威嚇するように振動をしていた木の枝を左手でつかんで机に立てかける。
疲れているのに、布団を乗っ取られてはたまらない。
「ここは、僕の領土だからな」
一応そう主張してから、布団の上に横になった。
横にどけられた白猫と枝が『ここからが本当の勝負だ!』と言わんばかりににらみ合っていたような気がしたが、特には気にせず、
「ああ、そういえば……」
思いついて、鋼は着替えの時にポケットに移しておいた冒険者カードを取り出す。
魔力がないはずのこの世界でも、冒険者カードはきちんと機能していた。
「能力値は……変化なしか」
こっちの世界では能力は十分の一になっているはずだが、カードの数値上は特に変化はないようだった。
他に特に変わっている物はなく、アビリティやタレント欄はあいかわらず不明のまま。
「そういえば、フィート欄は全然チェックしてなかったな……」
言いながらフィートの項目を見てみると、そこには鋼の歩んできた異世界での歴史が刻まれていた。
鋼の中に、次々と懐かしい思い出がよみがえる。
最初の『戦女神の加護』はミスレイの手紙によって手に入れたフィートだった。
次の『元生物史上最弱』は、少し変わっているものの、ギルドで最弱ランクをたたき出した時のもの。
これらは初めてギルドに行って、受付をしていたギルド員、キルリスに教えてもらったものだと思い出す。
そして、次。
たしか『異界の神とマブダチ』とかだったなと思ってそこに書かれている項目をたしかめようとして、
「あぶなぁああああああああああああい!!!」
危険すぎる内容に、思わず叫んでしまっていた。
「あ、危ないのはおぬしなんじゃよ!
いきなり叫んでどうしたんじゃ!?」
「う。悪かったよ……」
シロニャにまで注意されることになってしまって、鋼も反省しきりである。
だが、こんなものを見てしまっては、ある程度は仕方ないと思うのだ。
三番目に書かれていたフィートは『異界の神とマブラブ』。
おそらくだが、シロニャとの仲が発展してマブダチとラブラブの間くらいになったからこう変化したのだろうが、余計なことをしてくれた物である。
本家のタイトルの方も似たような連想からついたのだろうか。だが、
「ま、まあ、『ヴ』じゃなくて『ブ』だから平気だよな、うん」
無理矢理自分を納得させて、次へ。
「やっぱりあったのか、この称号」
称号ではなくてフィートなのだが、鋼はあまり細かいところは気にしなかった。
マブラブの次に出て来たのは『竜殺し』。
間違いなく巨竜を倒した時に手に入れたものだろう。
ゲーム好きの鋼からすれば、『竜殺し』とは実に胸おどる響きである。
ただ、ラーバドラゴン自体は中級冒険者が倒せる相手だったので、このフィートの希少価値は実に低そうだ。
「あれ、これって……」
その次にあった『命名者』というフィートに鋼は戸惑う。
「もしかして、クロニャに名前をつけた時……?」
しかし、その程度のことでフィートは手に入るものなのだろうか。
だが次の項目を見ると、そこにあったのは『輪廻転生』というエンジェルナイトにクラスチェンジできそうな物だったので、一度死んでしまったクロニャ戦の時の物でまず間違いない。
だとすると、その直前で何かを名付けたとなるとクロニャの件しかないはずだ。
疑問を抱きながらも、鋼の視線はその下へ向かう。
順番からすれば、次はダンジョンを攻略?した時の物になるが、あれは洞窟の見張りに立っていた冒険者に作業も手柄も全て丸投げしてしまったので、特に何も獲得していないだろうというのが鋼の予測だった。
そして、その予測は当たったようなのだが……。
「……なぁ、シロニャ?」
鋼は、少し硬い声でシロニャに尋ねた。
「なんじゃ?」
少し不機嫌そうなシロニャに、しかし鋼は構わず質問をぶつける。
「もしかして、シロニャが僕に祝福を使ってくれた時、フィートに『シロニャの祝福』みたいな物が追加されたりしたのかな?」
鋼の問いに、シロニャはあっさり答えた。
「そりゃそうじゃろ。フィートなんて実益のある二つ名みたいなものじゃが、特に神様関連の恩恵には敏感じゃからの。
祝福なんぞを受けた日には、その瞬間に追加されるはずじゃ!
……もしや、ワシのことが何か書いてあるのかの?」
「い、いや……」
鋼は言葉を濁す。
「ふぅむ? じゃったら最後に獲得したフィートをワシに教えるのじゃ!」
「え、ええと……『魔道書の詠み手』だな」
「ウソじゃよ! 今一瞬、目が下のを見てから上にもどったのじゃ!
一番下には何が書いてあったのじゃ?! 早く吐くのじゃ!」
「何でそんなことばっかり目ざといんだよ!!」
鋼は叫ぶが、それは自白とほぼ同義だった。
「やっぱり隠してたではないか! ほらほら、早く言うのじゃよ!」
当然の帰結として、さらに勢いを得たシロニャが鋼を問い詰めにかかるが、
「いや、本当にホントなんだって! 最近フィートは手に入れてないみたいなんだうわー残念だなー!」
「そんな大根にも笑われるような演技でワシは騙されんのじゃぞ!?」
それでも鋼が言えるはずがない。
おそらく『シロニャの祝福』があったであろうフィート欄の最後に、『シロニャの思慕』なんてフィートがあったなんて……。
シロニャにだけは絶対、言えるはずがなかった。
と、激しく動いた鋼の服のポケットから、何かが落ちた。
「あ、それ……」
落ちたのは、二つの小さな石。
どちらも大きめの飴玉くらいの大きさで、真珠のように白く輝いている。
冒険者カードと一緒に、洋服に移しておいた物だ。
これは話を変える好機と、鋼が飛びつく。
「なぁ。これって一体なんなんだ? 『ドール・ア・ガーの塔』の最上階で見つけたんだけど」
「おぉ! これはまちがいなく『相思相愛の証石』じゃな」
「『相思相愛の証石』?」
「そうじゃ。使い方としては離れ離れになる恋人同士がお互いを見つけられるように片方ずつ持ち合う、とかじゃったかな?
効果は……まあ見てもらった方が早いのじゃ。
一つをワシに、もう一つを持って、隣の部屋に行くのじゃ」
うまく話がそらせたことをしめしめと思いながら、証石の片割れをシロニャに預けて、隣の部屋に。
【そこで、証石を落としてみるのじゃ】
久しぶりのオラクルでシロニャの声を聞いた鋼は、証石を握っていた手を開く。
すると証石はゆっくりと落ちて……と思ったら、途中から引き寄せられるように鋼の部屋の方へゆらゆらと動いて、
「か、壁を抜けた?」
壁に潜り込むようにして消えていった。
あわてて鋼が元の部屋にもどると、ちょうど鋼が落とした方の証石がシロニャのところに届くところだった。
証石はシロニャにぽてっとぶつかると、ぽわわぁん、と淡く光って、落ちた。
「な、なんなんだ、今の?」
「ん? 再会の演出じゃよ? もっと長い距離を進むと、もっと強く光るのじゃ!」
「いや、そういうことじゃなくて!
それ、なんか壁抜けとかしたんだけど!?」
鋼が動揺しながら報告すると、シロニャは鷹揚にうなずいた。
「この証石は人と人をつなげる力を持った石なんじゃ。まあ、正確に言うと、生物と生物を、じゃが。
片方の証石を離すと、その証石はもう一つの証石を持った生き物のところへ、あるいは、最後に証石に触れていた生き物のところへ飛んでいくのじゃ」
「この場合は、その生き物っていうのがシロニャだったってことだな?」
鋼はどこか嫌そうに確認する。
なんとなくこの石の設計思想に邪なものを感じたせいだ。
「うむ。これのすごいところは途中にどんな障害物や怪物があっても全てすり抜け、必ず直線距離で目標のところまで飛んでいくので相手を逃がすことがないということじゃな!」
「すでになんか、恋人同士の発想じゃないんだが……。
でも、それでも逃げられないってことはないだろ?
たとえばほら、相手が石を壊したら?」
「なんとこの石、どうやっても壊せないのじゃ!
ダンジョンの壁と同じ、破壊不可能オブジェクトという奴じゃな!」
「なんという無駄スペック! でも待て、じゃあ、相手が素早く逃げたらどうするんだ?」
「相手が加速した分だけこの石も加速するのじゃ! しかも相手が減速してもこちらは減速しない!」
「性格悪いな! だけど途中で誰かに石を譲ればさすがに解決だろ?」
「それは……たしかにそうなのじゃ。
じゃから、どうしても逃がしたくない相手に使うなら、愛用の武器か防具にこっそり組み込むに限る、と酒の席でルウィーニアが言っていたのじゃ」
「やっぱり犯人は光の女神様かよ!!
というかこれ、相思相愛どころか完全にストーカー用のアイテムだよな!」
ベルアードが手に入れたりしなくて本当に正解だったと鋼は思った。
「と、ところでじゃが……」
「うん?」
シロニャがめずらしく健気な雰囲気で話し始めるので、どうしたのかと思ったら、
「こ、この石、びっくりするくらい綺麗じゃよな。
他意はないんじゃが、片方だけでいいからワシに譲ってくれるかの?」
「今の話をした後で平気でそんなことが言える、お前の度胸にびっくりだよ!!」
図太いとか図々しいとかいうレベルじゃなかった。
だが、シロニャは微塵も動じない。
「ふっ、当たり前じゃろ?」
不敵に笑うと、自分を指さして、言った。
「じゃってワシの心はぜんぶ、鋼でできているのじゃからな!」
「うまいこと言ったつもりかぁあああああああ!!」
猫のくせにドヤ顔をしているシロニャにイラッとした鋼が、シロニャにつかみかかる。
「にゃんとぉー!!」
対して、猫形態になって敏捷性の増しているシロニャも果敢に反撃。
「シロニャァアアアアアアアアアアアアアア!!」
「コォオオオオオオオオオオオオオオオオウ!!」
熱い夜は、まだまだ始まったばかりである。
ちなみに鋼vsシロニャの戦いは、騒ぎを聞きつけてやってきたクリスティナが、
「これがほんとの、夜のキャットファイト…!!」
とつぶやいてみなを凍らせるまで、ずっと続いたそうな。