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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第十二部 賑やか帰還編
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第六十一章 大説明会

「……から、すぐ来てくださいね、と。

 すみません、お待たせしましたぁ」

 しばらく見ない間に、クリスティナはスマートフォンを自在に操れるほどに現代に適応していた。


 驚きの再会からこちら、話もそこそこに鋼たちは家に入り、客間の布団……は現在クリスティナが使っているそうなので、鋼の部屋のベッドにラトリスを寝かしてきた。

 ラトリス自身は少し休めば元気になると言っていたが、原因が原因だけにあまり楽観視はできない。


 苦しそうに寝ているラトリスを不安そうに見ていた鋼だが、

「コウ! 異世界からやってきたのは、何もラトリスだけではないのじゃぞ?」

 シロニャのその言葉にハッとした。


「そうだ、忘れてた。クリスティナ、よく聞いてくれ!

 向こうの世界の人間がこっちに来ると色々危ないみたいなんだ。

 それは向こうの世界のなりたちとも関係があるんだけど、魔素という……」

 鋼は真剣な顔でクリスティナに話し始めたのだが……。



「あ、こっちの世界って魔力がないから、MP不足でぐったりしちゃうし、能力値も向こうの十分の一になっちゃうんですよね。

 わたしも来たばっかりの時はびっくりしました」



 逆に簡潔で分かりやすいクリスティナの説明を聞いて、シロニャと二人で地面に膝をつく結果になった。

「わ、ワシらがあんなに苦労して話し合ったことを、ほんの数行で……」

 何だかにわかに『クリスティナ、実はバカじゃない疑惑』が発生してしまった。


「ところで、その割にはクリスティナは元気そうだけど?」

「あ、わたしはMPを自動回復するアビリティを持ってますから。

 まあ元の世界にいた時に比べると、回復速度がすごく遅くなってますけど……」

「MP自動回復か……」

 これで鋼やクリスティナが比較的元気で、ラトリスが体調を崩している理由がほぼ判明した。

 そういえば魔法学院で判明したタレントの中に、MPを自動回復する物も入っていた覚えがあった。


「とすると、ラトリスの不調はMP不足か」

「MPってゼロになるとすっごく気持ち悪いんですよ。

 リリーアさんは『風邪と二日酔いがいっぺんにやってきた気分ね』って言ってました」

「あはは、リリーアらしいね」

 懐かしい名前に、つい鋼の口元もほころびる。


 だが、状況はそれなりに深刻だ。

 魔法に満ち溢れていたあっちの世界ならともかく、ここでは魔力を補充する方法なんて思いつかない。

 鋼が頭をひねっていると、クリスティナがおずおずと提案してくれた。

「あ、あの、だったらわたしのMP回復薬を使ってください」

「いいのか?」

「ハガネさんにはいい物を見せてもらった恩もありますし、わたしもMPがなくなった時のつらさは味わったことがありますから」

 いい物というのが何を指すのか分からなかったが、そう言って微笑むクリスティナに、鋼の中のクリスティナ株は天井知らずの上昇を見せたという。


 ラトリスに、クリスティナのアイテムボックスに入っていたMP回復薬を飲ませると、青白かった顔に赤みがもどり、見るからに表情がやわらいだ。

 もちろんこちらの世界にいる限りラトリスのMPは常に減り続けてしまうはずであり、回復薬も所詮対症療法でしかないが、血色のもどったラトリスの顔は鋼をずいぶんと安心させた。

 こんな時こそ情報収集を、と無理に起き出そうとするラトリスを何とか眠らせて、鋼はクリスティナから事情を聞くために居間にもどった。




 鋼とシロニャはもう一度しっかりとクリスティナと向き合う。

「それじゃ、あらためて、クリスティナがここにいる理由を聞きたいんだけど」

「あ、はい! ああ、でも、わたしだけじゃうまく説明ができる自信がないので、助っ人を……」

 クリスティナがそこまで言った時だった。


 ――ピンポーン。


 まるで図ったようなタイミングで玄関のチャイムが鳴らされた。


「あ、来たみたいです。

 ちょっと、出てきますね」

 そう言ってクリスティナは、鋼が止める間もなくぱたぱたと玄関に歩いていく。


「あ、待ってました。上がってください」

「お邪魔します」

 玄関から、誰かがやってくる気配。

 そしてクリスティナと共に現れたのは、鋼の学校の制服を着た女の子。


「あれ、マキ?」


 鋼とも親交のあった、三枝 牧だった。





 マキは、鋼の言葉にあいさつさえ返さなかった。

 ただ、冷たい視線で部屋の中を見回して、鋼を、そしてシロニャをねめつける。


「あんただけ? 真白は?」


 そして、聞くものが凍えるような冷たい声で、端的にそれだけを聞く。

 それを不思議に思いながら、鋼がただ首をかしげ、


「ええと、マシロ、って誰だっけ?」


 そう口にした瞬間、



 ――バシッ!



 鋼の頬に閃光が走った。






 一般人であるはずのマキの平手打ちは、こっちの世界で能力値十分の一、とかいう以前に頑強0の鋼には相当なダメージを与えた。

 打たれた頬を押さえ、びっくりした顔で自分を見上げる鋼に、マキは言い放った。

「あたしを恨んでくれてもいーよ。でも、あんたにはこれくらいしてやらないと分からないでしょ。どーせ、なーんも考えてないんだから」

 突然の事態に、鋼だけでなくマキを連れてきたクリスティナや、同じ部屋にいたシロニャまで固まっていた。


 しかし、ほかの二人はともかく、それだけ言ってもまだ驚いた顔をしたまま反応を見せない鋼に、マキも焦れた。

「なに、その顔。なんか言いたいことでもあんの?」

 不機嫌そのもの、という調子でそうマキが言って、ようやく鋼も口を開いた。

「いや、だってまさか、マキが泣くとは思わなくて……」

「ッ! な、泣いてない!」

 マキはそう言うが、それ以上に反射的に目元に持って行った腕が饒舌だった。


「にやにやすんな!」

「え、いや、でも……」

「でも、じゃない! いいから、正座!」

「えぇ?」

 鋼が助けを求めて左右を見たが、誰も目を合わせない。

 シロニャはまだ部屋の隅で震えているし、一方のクリスティナは、

「あのマキさんが一瞬で萌えキャラに……。

 これが、性王の力…!!」

 何だか震えながらぶつぶつ言っててある意味マキより怖かった。


 結局どうにもできずに視線をマキにもどすと、そこには当然顔を真っ赤にしたマキがいて……。

「せ・い・ざ!!」

「……はい」

 渋々ながら、その場に正座した鋼の前に、マキが鬼教官のように仁王立ちした。

「いーい? 今日という今日はあたしも容赦しないかんね!

 そもそも、あんたって奴はねぇ……」


 ――マキの説教タイムが始まった。



 本当ならその日、親子の感動の再会シーンが繰り広げられるはずだったのだが……。

 買い物から帰ってきた鋼の母親と、連絡を受けてあわてて仕事を切り上げて帰ってきた鋼の父親を出迎えたのは、同級生に正座で説教される我が子の姿だったという。







「その、本当に申し訳ありません。余所様の家で、あんなことを……。

 それに、結局お夕飯まで頂いてしまって……」

「いいのよ。マキちゃんにはクリスちゃんのことでもずっとお世話になってたし」

 我に返ってすっかり恐縮しているマキに、気にしなくていいとばかりに鋼の母親は朗らかに笑ったが、鋼がここぞとばかりに反撃する。


「いや、マキは逆に、普段の態度をちょっとは反省した方がいいって。

 ちょっと気が回るからって、かっこつけすぎなんだよ、いつも」

「あ、あんたは…!」

 マキが手にしたハシを投げつける態勢を見せたものの、さすがに投げることはできず、悔しげに手を下した。

 それを見て鋼が楽しげに笑う。

「ほら。スれたフリなんてしてるけど、ほんとはお嬢様育ちのくせに」

「……あんたの前では、普通に、してるじゃん」

 ふてくされるように言うマキ。

「性王の力……」

 なぜかそれを見て、鋼に憧れのまなざしを送るクリスティナ。

 一心不乱に焼き魚を頬張るシロニャ(猫形態)。

 それらを愉快そうに眺める鋼の両親。


 ――今日の結城家の夕食は、賑やかだった。





 夕食が終わったところから、各々の状況の説明が始まった。

 ちなみにラトリスは今は鋼の部屋でぐっすりと寝ていて、あとで話し合いの結果だけを伝えることに決めた。


 まず先陣を切って説明を始めたのは、クリスティナ。

 なんとクリスティナは四十日前、白猫シロニャが出て来た次元の穴を広げてこっちの世界に転がり込んできたらしい。おまけに鋼から神聖魔法言語を覚えようとした時に間違って日本語を習得したそうで、言葉の問題はなかったとか。

 鋼としては、なんじゃそりゃ、と思わなくもなかったが、実際クリスティナはここにいて流暢な日本語を話しているのだから、まあ疑う余地もないだろう。

 ちなみにクリスティナを鋼の家に連れて来たのがマキで、その縁でクリスティナともメル友になっているらしい。……クリスティナ、ちょっと現代に適応しすぎじゃね、と思わなくもない。


 次にマキの話だが、何でも彼女の親友の真白が鋼を追って異世界にやってきていたらしい。まさかと思ってシロニャを振り返ると、

「にゃ!」

 と肯定されたから間違いない。……今の形態だと、否定の時でも「にゃ!」と言いそうだが、たぶん間違いない。

 ついでに、真白についてはあれからすぐに思い出した。数えるほどしか話をしていない相手であっても、クラスが同じで名前がかぶっている相手を忘れるはずがない。その割にさっきすぐに出て来なかったのは、まだ日本から離れすぎていて、とっさに出て来なかっただけ……と鋼は自分に言い訳をした。


 鋼の両親からは、鋼が今、世間的にはどういう状況になっているかを聞いた。

 クリスティナとマキが訪ねてきてからは、鋼の失踪届を取り消し、学校は休学扱いということにしてもらっているらしい。

 あと、やっぱりちょっとだけ、感動の再会場面はあった。ただ、さすがに恥ずかしいので、鋼としてはそれについて語るつもりはない。


 最後に鋼がどうなったのかについての説明があって、やはりこれが一番長くかかった。鋼の死亡から転生、異世界での冒険の話は全員を驚かせた。

 鋼の異世界での行動を比較的知っているクリスティナも、特級魔術師の資格をもらったというところで、ほえーっと緊張感のない驚きの声を出していたし、両親は鋼が三度も死んだというところに反応していたし、マキに至っては、

「うっわぁ。ゆっきーまさか、ほとんど遭遇すら出来てなかったとかどんだけ……」

 完全にorzのポーズである。


 そしてさらに、話が『向こうの世界は近々魔物によって滅ぼされる』というところにまでおよぶと、聞いている全員が顔を青ざめさせた。

 鋼の両親は沈痛な面持ちで顔を見合わせ、マキはきゅっと唇をかみ、クリスティナは意味もなくオロオロと手を動かし始める始末だ。





 全員の状況確認が終わって、そこでようやく、これからについての話に移る。

「ええと、まずクリスティナ。お前の魔法でまた次元の扉?っていうのを開いたりできないのか?」

「あ、それは無理ですぅ。もう場所も分かりませんし、分かったとしても、十分の一になっちゃったわたしの魔力じゃとてもとても……」

 世界滅亡予告を聞かされて以来、すっかりダメ子にもどってしまったクリスティナが、弱々しい口調で答える。


 だとすると……みんなの視線が、焼き魚に食いつく猫に集まる。

 それに気付いたシロニャが、猫の姿のまま仁王立ちして胸を張る。

「ふっふん! ワシを誰と心得る! いやしくも神、シロニャ大明神様であるぞ!

 転生を司るワシにかかれば、異世界転移など朝飯前なのじゃ!」

「おぉー」

 どうせシメサバの味がするからと、鋼がシロニャにあげた焼き魚を片手に持ちながらの大演説である。


 が、

「ま、まあそれも全力状態での話であって、そもそも転生も召喚もなしに異世界転移とかかなりの反則技じゃし、そういう無理を通すには神様パワーがたくさん必要じゃし……」

 なんだか雲行きが怪しくなる話の流れ。

「それで、結局?」


「う、うむ。実はコウに祝福を使ったせいで異世界転移するには力が足りないのじゃよ!」


 そんなシロニャの言葉に、

「うわぁん! 神は死にました!」

 とその場に崩れ落ちるクリスティナ。

 こいつニーチェまで読んでんのか、と戦慄する鋼だが、その前にシロニャが食って掛かった。


「し、失礼なことを言うんじゃないのじゃよ!

 そ、そうじゃな。あと二ヶ月くらいじっとして、神様パワーがたまれば異世界転移くらい簡単にやってみせるのじゃ!」

 いきりたつシロニャに、

「神の再誕!」

 あっさり手のひら返しをするクリスティナ。


 こいつ意外とお調子者なんじゃ、と疑う鋼ではあるが、とりあえずこれでクリスティナの帰還の目処は立った。

「そうか。とりあえずそれなら、向こうに行くだけなら何とかなるんだな」

「はい! シロニャ様様様様で……あれ、様多いですか? とにかくそんな感じです!」

「今日が11月の10日だから、向こうに行けるのは、大体1月の10日くらいからか」

「だったら、学院もそろそろ授業をやり始める頃ですね!

 えへへ。向こうにもどったら、一緒にリリーアさんに会いに行きましょうね?

 ハガネさんがまた戻ってくるなんて思ってないでしょうから、きっと喜んで……」

 盛り上がる鋼とクリスティナ。

 だが、そこで、



「ちょっと、待ってくれないか?」



 今まで、ずっと黙っていた鋼の父親が、口を開いた。


「父さん?」

 鋼のいぶかしげな視線を正面から受け止めて、彼は言った。

「鋼。もう向こうに行くのはやめなさい」

「……え?」

 予想もしていなかった父親の言葉に、鋼が目をぱちくりとさせる。


「で、でも、ハガネさんは英雄で、魔術師で、向こうに仲間だって……」

 クリスティナまで混乱してまとまりのないことを言うが、

「それでも、だよ。滅んでしまうような世界、死んでしまうような場所に、親として、息子を送り出す訳にはいかない。

 ……いや、もうそんな言い訳はどうでもいい。なぁ鋼。わたしたちは、鋼にいなくなって欲しくないんだ。もう、二度と」

 それでも彼はぶれなかった。

 まっすぐ、鋼だけを見つめてそう言った。



 オロオロとするだけのシロニャとクリスティナ。

 鋼を見つめる父親とその父親の手に自分の手を重ねる母親。

 その視線を受け止めて、考え込む鋼。



 その中で一人、三枝牧だけが黙って顔を伏せていた。

 二律背反に苦しむように、うつむき、唇を噛み締めて、何も言わずに、ただ、下ばかりを見つめていたのだった。



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