第五十一章 新たな仲間との関係
「キングクリ〇ゾン!」
「のわっ!」
鋼は自らの肩で急に大声を出されて、大きくのけぞった。
「な、何だよシロニャ。急にどうした?」
「にゃ? あ、うむ。あれからだいぶ過ぎたなと思ったのじゃ……」
「あれからって僕たちがこの学校に入ってからか?
まあ、もう一ヶ月近くになるからな、たしかになじんできたとは思う。
しかし、それと急な絶叫に何の関係が?」
「細けぇこたぁいいのじゃよ!」
などと二人が話す通り、鋼たちはずいぶんとこの学校にも慣れた。
最初はおっかなびっくりだった授業にも、最近ではあまりおどおどせずに参加できるようになった。
たかが学校の授業にビビるなんて何をバカな、と思う人もいるかもしれない。
しかしさすが魔法エリートが集まる魔法学院。
現代人の鋼の感覚からすれば、その授業内容は過酷の一言に尽きる。
今日の授業、しかも鋼が見ている中だけでも、その厳しさについてこれず、魔術戦に対する忌避感を覚える者、自らが修めんとする言語の秘める力に戦慄する者、魔法の暴走を恐怖する者などが、次々と現れた。
もし、そこにとある教師のフォローがなければ、実際に魔術師を志すことをあきらめてしまった者もいるかもしれない。
ラーナ魔法学院の授業は、それほどまでに厳しいものであった。
例えば、一時間目に行われた魔法実技の授業では、二人一組での変則的な魔法組手が行われた。
「これから貴方方には攻撃側、防御側に分かれ、一対一の魔法戦を行ってもらいます。
ルールは簡単です。制限時間の五分間で、攻撃側は自らの魔法で防御側を倒してください。ただし、条件として攻撃側の移動、魔法以外の攻撃、は禁止とします。
防御側は魔法、非魔法等の手段は問いません。とにかく攻撃側の仕掛ける魔法から身を守り、制限時間が過ぎるまで生き残ってください。ただし、攻撃側に対しての攻撃行為は禁止、例外として相手の魔法を跳ね返す行為のみを許可します」
監督として前に出たその女教師の言葉を聞いて、生徒の顔色が変わる。
制限時間の五分の間、攻撃側に回った人間は相手を一方的に魔法で攻撃することができ、防御側はひたすらそれから逃げ回ることになるのだ。
自らの魔法に自信のある者はにやりと唇を歪め、そうではない者は顔を青くした。
それでもその程度の覚悟ができていない者はいない。
すぐに組み合わせが決まり、二人ずつ舞台に上がっていく。
ちなみにその舞台は闘技場ほどではないが安全対策が取られており、舞台上でHPがゼロになった者はHP1の状態で舞台の外に投げ出されるようになっている。
それでも痛みや死の恐怖が軽減されるワケではない。
舞台上に上がる者、特に今回防御側に当たった者のほとんどが、顔から血の気をなくしていた。
「では、始め!」
女教師の合図で、あちこちで魔法の詠唱が始まり、一方的な魔法戦が始まった。
「くそ! くそ! くそ!
オレはやれる! オレはやれるんだ!」
そしてとある舞台の上、蒼白になり、だらだらと脂汗を流しながら、必死で魔法の詠唱をする生徒がいた。
程度の差はあれ、どこの舞台でも同様の表情をしている者はいる。
いくら防御魔法を使えるからと言って、相手の魔法を完全に防げる保証があるワケでもなく、魔法がぶつかれば当然痛い。
しかし、顔を青くするその男子生徒が特別だったのは、彼が『攻撃側』の生徒だったことだ。
彼が別に魔法が全く使えない人間であるとか、自分の技量に自信がないというワケでは決してない。
「くそおおおお! サンダーボルトォ!」
現に、今彼が放った雷魔法も同学年の生徒の基準で言えばかなりの威力であり、さらに彼は火の魔法と地の魔法も使いこなす、優秀な魔法学生なのだった。
あるいは彼の実力なら、制限時間の半分も過ぎない内に防御側の魔法をかいくぐり、相手を戦闘不能にすることもできたかもしれない。
対戦相手が、能天気な顔をしたこの黒髪の少年でさえなかったら……。
彼はにらみつけるように自分と向かい合う対戦相手を見る、というのは正確ではない。いや、対戦相手というのは間違ってはいないが、そもそも相手と向かい合ってはいない。
彼の対戦相手は、自分に向けて高威力の魔法が飛来する中、横を向いて舞台の外にいる猫と話をしているのだ。
「おお! すごいのじゃぞ、コウ!
さっきの雷魔法で、ワシのP〇Pが電池一本から一気に三本まで充電されたのじゃ!」
「いや、電池切れて泣くのはシロニャなんだから、こまめに充電しとけよ」
「じゃってあの電源ケーブル、ワシに反抗的なんじゃぞ。
この前寝ながらプレイしとったら、首に絡まって死ぬかと思ったのじゃぞ!」
「最低の死因だなー、それ」
「そもそも、ワシのP〇Pはすごくてエ〇ァより長く動くのじゃから大丈夫なのじゃ!」
「比較対象おかしいだろ……」
魔法の嵐の中、のんきに雑談をする彼らを見て、男子生徒は泣きそうになった。
それでも一縷の望みをかけて、彼は魔法を紡ぐ。
「オレはやれる! オレはやれるんだ!
ストーンバレット・フルスピード!!」
現れたのは石の飛礫。それも、彼のオリジナルの術式で、速度を限界まで速め、威力を増大させた物だ。
練習での成功率は今一つだったが、今回は会心の出来。
これなら、と思って撃った石の弾丸は、狙い過たず対戦相手の少年の側頭部に命中する。
「どう、だ……?」
相手は人並み外れた魔法抵抗力を持っている。
この一撃だけで倒せるなんて甘いことは考えていない。
だがせめて、自分がここにいることを示したかった。自分がやっているのは独り相撲などではなく、相手に何らかの痛痒を与えていると、せめてそう感じたかった。
彼のまんじりともしない視線が見つめる中、対戦が開始されてから初めて、その少年が彼の方を向いた。
そして、
「あのーすみませーん!
こいつが今度は3〇Sも充電したいそうなんで、もう一回、雷魔法お願いできますかぁ?」
その言葉に、精一杯地面に立っていた彼の足が、とうとう折れた。
「オレは、べつにお前らのために魔法撃ってるんじゃねえんだよ……」
そして膝と一緒に完全に心も折れていた。
「どうかしましたか?」
その時、異変を察知して舞台に近づいてきた監督の女教師に彼は思わず弱音を吐く。
「先生、もう無理です。
あいつ、オレがどんな魔法を撃ってもけろっとしてるんです。
それどころか、充電がどうとか言って喜ぶんです。
しかも何を血迷ったのか、もっと撃ってくれとかリクエストしてくるんです。
オレ、あいつと戦うの、もう嫌です。
いや、もう魔法戦闘なんて、二度とやりたくない!」
しかしその女教師は、彼の言葉を一言も口をはさまずに全て聞くと、
「だから、どうしたと言うのですか?」
そんな言葉をかけた。
「え? でも、だって……」
「考え方を変えてみるのです。
彼はどんなに魔法を撃っても全く文句を言わない、いわば壊れない天然のサンドバッグです。
彼相手になら、どんなに強力な魔法もえぐい魔法も打ち放題です。生身の的に魔法を撃つ機会なんて、そうそうある物ではありませんよ。これを幸運と思って、自らの限界にチャレンジしなさい」
そう教師にさとされ、その男子生徒はハッとした。
「そうか。オレは、目先のことにばかり気を取られて、この大きなチャンスを見逃すところだったのか……」
次に顔を上げた彼の目からは、もう迷いの色が消えていた。
「ありがとうございます、先生!
オレ、全力でやってみます!」
そうして、彼は自らの対戦相手、いや、的に目を定める。
手加減なんていらない。
普段魔法を使う時、無意識の内にかけている枷を取り外す。
体内に横溢する魔力を、一つの形に練り上げる。
「極熱! フレアボール!!」
さっき自分の限界だと思っていた石の飛礫など比較にならない、驚異的な威力の魔法が完成した。
そしてそれを、
「これが、限界を超えたオレの力だぁああああああああああああ!!」
渾身の叫びと共に、投擲する。
そうして生まれた炎熱の火球は、
「あ、すみません、ちょっと待ってください。
シロニャがまだノートパソコン出してないので」
と言って、対戦相手の少年が突き出した右手に当たり、
「え?」
威力を倍加されて跳ね返り、少年のところに帰ってきた。
「あ、ノートパソコン、用意できたみたいです。
雷魔法を……あれ?」
きょとんとする対戦相手の少年の向かい、HP1になって舞台の外に転がる本日初めての攻撃側の死傷者を見て女教師は、
「良く頑張りましたね」
とうなずいたという。
次の時間は、魔法言語の授業だった。
しかしそこでも、魔法学院の苛酷さは顔を出す。
今はただの音読の時間だというのに、教室は異様な雰囲気に包まれていた。
例えるなら桃髪絶壁の少女が錬金をする時みたいな異様な緊張感に包まれていた。
教卓の上の教師が、次に音読をする人間を指名する。
「あー。
ではこの続きを次の………………………………………………ユーキくん、読みなさい」
ちなみに途中の三点リーダーは担当教師の葛藤の時間である。
教室中が戦々恐々とする中、指名された生徒は立ち上がり、教科書を読み始める。
「そこで『炎の巨人』と『氷の巨人』を退けるため、彼は『地響き』の二つ名を持つ……」
彼がそこまで読んだ時だった。
その朗読に合わせて、炎が踊り、窓が凍り付き、地面が揺れた。
「ちょ、ちょっとユーキくん!
もうちょっと魔法言語の発音を不正確にしてください!
さっきから魔法が発動してしまっています!」
「いえ、でも英語でも何でも、発音は正確にしろと昔……」
ともめだす教師と、指名を受けた男子生徒。
問題が起こると分かっているのに真面目なため彼を飛ばせなかった教師と、適当に読めばいいのに変に真面目なため手を抜けない男子生徒の奇妙なぶつかり合いだった。
そしてそれを見て、教科書をそっと閉じた一人の女子生徒がいた。
それは、普段ならそんな行動を取るはずのない、非常に真面目で勤勉な、信心深い生徒だった。
「どうしたのですか?」
そんな彼女に、補助として教室の後ろについていた女教師が声をかけた。
「わたし、怖くなってしまったんです。
わたしは今まで、何も考えず、この言葉を学んできました。
けれど、最近の授業を見ていて、思ってしまったんです。
ただ口にするだけで、火を呼び。物を凍らせ、大地を揺るがせる。
これは、悪魔の言語なのではないでしょうか?」
それは信心深い彼女だからこその悩み、そして葛藤だった。
その女教師は、メガネの奥の醒めた、しかし冷たいばかりではないまなざしを彼女に向け、じっくりとさとす。
「考え方を変えてみるのです。
確かに魔法言語には大きな力があります。
今の炎も氷も地震も、将来貴方が起こすかもしれない災厄と言えます」
「だったら!」
興奮する女生徒の言葉をさえぎって続ける。
「貴方は彼が何を口にした時に何が起き、何を口にした時に何も起きなかったか、覚えていますか?
そうでなければ、彼の朗読を良く聞きなさい。
そして、何が起こったか、あるいは起こらなかったかを見極めなさい。
彼が口にして何かが起こったのなら、それは貴女が口にしても何かが起こる可能性がある言葉です。
そして、彼が口にして何も起こらなかったなら、それは貴女が口にしても必ず何も起こらない言葉なのです」
その言葉を聞いて、その生徒はハッとした。
「危険な言葉だからこそ、その危険性を知らなくてはいけないんですね。
そして、それはきっと、神の御心にも適う」
女教師は何も語らなかった。
だが、その怜悧なまなざしは、女生徒の考えを認めてくれたように思えた。
「わたし、頑張ります!
頑張って、魔法言語を覚えます!」
とその女生徒が声を張り上げた、その瞬間、
「ええと、『風起こしの儀』によって……」
結局続きを読み始めた生徒の音読によって風が巻き起こり、女生徒たちがみなスカートを守る中、彼女だけは教科書を死守したという。
その結果、彼女には『いちごの守護者』という二つ名がつくことになるのだが、その詳しい理由については本人と、その隣で鼻血を出して倒れた初心な男子生徒の名誉のため、語るのは控えることとする。
危険かつ過酷な魔法の授業は続く。
次は、魔法創作の授業だった。
特別に魔法で保護された魔法実験室で各々が好きな魔法を試す中、一人だけ、何もしていない女子生徒がいた。
そこに、メガネを光らせてとある女教師が近づいていく。
「どうしたのですか?」
「そ、その、大丈夫なんでしょうか?
わ、わたしが試そうとしているのは、威力も高くて制御が難しい魔法です……。
もし、魔力が暴走してしまったら……」
その言葉に、メガネの女教師は優しげな笑顔を浮かべて彼女を安心させたりすることはない。
しかし、冷静な言葉で彼女をさとす。
「最初に説明したように、この特別な魔法がかかった実験室では、魔法の威力は実に千分の一に抑えられます。
ここでは焚き火程度の火を起こす事すら困難で……」
と言っている女教師の後ろで、
ちゅどーん!
という感じの爆発が起こった。
当然たき火などというレベルの火力ではない。
幸い爆心地にいた爆発を起こした張本人以外はケガはしなかったが、近くにいた何人かが爆風にあおられて倒れ、それ以上に突然の事態に恐慌状態になっていた。
続いて、爆発の中心に二人の、いや、一人と一匹の姿が見えるようになる。
そこからは、
「まぁた爆発したではないか!
おぬし、火魔法の調節を間違ったのじゃな!?」
「そんなはずないって!
だって今日は水の曜日だろ!
『日替わり強化』のタレント効果で火の魔法は弱くなるはずじゃないか!」
「おぬし、もしやここが密閉された空間じゃということを忘れておるのじゃあるまいな!
『疑似粉塵爆発』の強化倍率は大きいのじゃぞ?!」
「ちゃんと計算に入れたよ!
火属性系の七種類の基本タレントの効果は計算したし、それどころかちゃんと条件タレントの『上級初級魔法使い』の二倍効果も『無詠唱の達人』の五割増し効果も入れたし、『夕日の魔術師』の三割増しまで計算したんだぞ!?」
「むむ。あ、いや、待つのじゃ! ちょっと消費MPを見てみるのじゃ!
もしかするとその威力なら『高威力廃ブースト』が付加されてさらに三倍になっておるかもしれんぞ!」
「ええ! まさかたかがファイアーボールで……」
などという口ゲンカというか痴話ゲンカのような言い合いが聞こえたが、大部分の生徒はそれどころではなく、安全なはずの魔法実験室でいきなり起こった爆発に怯えていた。
それは当然、最初にメガネの教師に話しかけた女生徒も同じ、いや、もっと怯えていた。
「わ、わたし、やっぱり無理です。
もし、もしわたしの魔法も暴走して、あ、あんなことが起こったら……」
そう言って実験を投げ出そうとするその女子生徒に、相談を受けていた女教師は冷静に告げる。
「考え方を変えてみるのです。
あの彼でも、あの、ちょっとした手違いでドラゴンに変身し、運動場を泥濘の沼に変え、ほんの一秒足らずの間に全女子生徒のスカートをめくり、昼間に夜を作り出し、雨乞いをしては流星群を降らせる、『あの』彼でも、ここでは精々この程度の爆発しか起こせないのです」
その言葉を聞いて、その女生徒はハッとなった。
「そ、そうですよね。彼でもあの程度なら、わたしなんかが失敗しても……。
なんだか、今まで怖がってたのがバカみたいです。
わたし、チャレンジしてみます!」
そう言って彼女は果敢に実験に取り組み、制御の困難な魔法を見事にやってのけたのだった。
全てを終えたその生徒は、
「先生……」
熱っぽい目で、無表情な、けれど暖かい心を持った女教師を見上げる。
ちなみにその後ろではまだ、
「そうじゃよ!
この前、おぬしの魔力が123に上がったじゃろ!
もしさっきの音読の時に124になっておったとしたら、ギリギリ可能性があるのじゃ!」
「それは考えてなかった!
あ、やっぱりMP消費三倍になってる!」
「これで原因は分かったのじゃ!
ふふん。ワシのおかげじゃな!」
「う、まあ、助かったよ。
ま、こんなの手帳があればすぐ分かったんだけどね」
「あれはおぬしがここに来て一週間で使い切っちゃったじゃろ!
そもそもアレじゃってワシが作ったものじゃし……」
「なぁんだよもうこの、猫のくせにー」
「にゃ、やめるのじゃよコウ!
ひ、卑怯じゃぞ、そんなとこばかり……」
「ほーれほれほれ!」
「にゃーにゃー!」
などと猫と少年が戯れていたが、少女の瞳には目の前の美人教師しか映っていなかった。
「良く頑張りましたね」
メガネの教師が言うと、
「ブルレ先生!」
ひしっ、とその女生徒は彼女に抱き着いたのだった。
そして、その後の休み時間である。
教室を抜け出した鋼が、突然「キングクリ○ゾン」とか叫び出したシロニャをなだめ、思い出話に花を咲かせている時だ。
「あれ? ブルレ先生?」
鋼のいる授業に常に顔を出していたある女教師が、鋼たちの前に立っていた。
「ハガネ様。何度も申し上げておりますが、私に敬語や敬称は不要です」
すると教師、ラトリス・ブルレ特別講師は、ほんのわずかに顔をしかめてみせた。
それに応じて、鋼もいつもの口調に切り替える。
「いや、でも一応先生だしさ。
というか、何度も思うけど、よくこんなにすぐ、学校に潜入できたよね?」
「もともと、こちらの学院で陰陽術の講師をやってみてはどうか、という打診はたびたび受けていたのです。
ハガネ様がこちらに来なければ、一生お受けする機会はなかったのでしょうが」
「そういえば、ラトリスは陰陽術とか使ってたな……」
なんて言いながら、鋼は一月前を思い出す。
鋼も初めてラトリスを学院で、しかも教師として見た時は少なからず驚いたものだった。
しかし、今ではそれをふくめて多少学院に慣れたと言えるだろう。
「それにしても、ラトリスもすっかりこの学院に慣れてるよね。
僕なんていまだに授業とかあるとドキドキなのに……」
鋼が羨望混じりの言葉を投げると、
「潜入も忍びの職務の内ですので」
答えにならない答えを彼女は返した。
そして、常と変わらぬ硬質な態度で、
「今日の放課後、ハガネ様のお部屋にお邪魔致します。
少し、話がありますので」
それだけを伝えると、流れるような動きでどこかへ歩き去ってしまった。
それを見届けて、鋼がはぁ、と嘆息する。
「ラトリスの考えることばっかりは、僕にはよく分からないよ」
「たしかに、あまりしゃべらんのじゃよな。
まあ口数だけじゃなくて胸もリトルじゃしの!」
「まだこだわってたのか、それ……」
楽しげに笑う一人と一匹。
彼らが、ラトリスの陰の尽力を知ることはないのであった。