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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第十部 魔法学院脱出編
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第四十八章 彼女の戦い方

「つまり、この媚び媚びな生き物は神の眷属ってワケね」

 白猫形態のシロニャをいやそーに見ながら、リリーアが言った。

「いや、媚び媚びってさ……」

「だってそうでしょうが! なんだこの生きてるだけで可愛さ全開な不思議生物!

 ああ! アイドルとしては妬ましいのににらんでる姿すら可愛い!!」

 そんな台詞を吐かれているシロニャがどこにいるかというと、リリーアの膝の上だった。

 いくら神とはいえ無力な猫の身。

 洗面所から出て来たところをあっさりリリーアに捕獲され、ぐちぐちと文句をつけられながらも、ぐしぐしと撫でまわされまくっているという次第である。

 その後ろではクリスティナが、

「わたしにも! わたしにもさわらせてくださいぃ!!」

 と騒いでいる。


 神の眷属、と言われた通り、この白猫はシロニャ本体ではないらしい。

 まあ眷属ではなく単なる分身で、もう一つの肉体を遠隔操作していると考える方が近いらしいが、面倒なので二人とも特に訂正しようとはしなかった。

 むしろ鋼が気になっていたのは別のこと。

「でも、シロニャって不器用そうなのに、二つの体を動かすとか、よくそんな器用な真似ができるな?」

「なっ! なめるのではないのじゃぞ、コウ!

 ワシはかつて、左右の手に金銀を二刀流し、レック〇ザをゲットせしめた女じゃぞ!」

「ハートゴー〇ドとソウルシ〇バーのことかぁああああああ!!!」

 毎度おなじみではあるが、鋼はツッコミになるとテンションが上がる。


 急に叫びだした鋼に引き気味になりながらも、

「まあそれはそれとして、クリスティナも起きたみたいだし、昨日の話の続きをしてもいい?」

 リリーアは本題を切り出した。

「ああ。頼むよ」

「ふむ。ワシもその計画とやらに乗ってやろう」

「あ、わたしも聞きたいです」

 即座に返ってくる賛同の返事。

「いや、クリスティナには一度話してるんだけど……まあいいわ」


 三人+一匹は、狭い部屋でふたたび車座になる。

「昨日はあんたに学院長を倒して欲しい、って言ったけど、もちろん一対一で勝てなんて無茶は言わない。

 幸い、学院長は何人でかかってきてもいいって明言しているわ。ついでに勝った時、その場に立っていられた全員に魔術師資格を与える、とも」

「つまり、僕とリリーアとクリスティナの三人で一斉にかかるってことか?」

 鋼がそう聞くと、リリーアはまさか、と首を振った。

「この前の武闘大会を見てあらためて感じたわ。学院長の力は、はっきり言って隔絶してる。

 少なくともわたしが見た人の中では、一対一で学院長に敵うような人間なんていなかった。

 だからわたしは、数の力を頼る」


「もしかして、一対十くらいで、学院長をボコるつもりだったり?」

 それはちょっと卑怯っぽいなと思いながら鋼が問いかけると、リリーアはもう一度、まさかと言って首を振った。

「その程度だったら過去に何組かが試したわ。結果は惨敗。というより、今まで学院長に挑んで勝った人間はいないそうよ」

「じゃあ、どうするんだ?」

「だから、数の力に頼るって言ったでしょ。十人でダメなら二十人、二十人でダメなら三十人……なんて、みみっちいことは言わないわ」

 そこでリリーアは、まるで獰猛な肉食獣が牙を見せびらかすように笑って、言った。




「三百人よ! 一対三百の状況を作って、数の力で圧殺してみせるわ!」




 その言葉に、さすがの鋼もしばし言葉を忘れた。

「卑怯もここまで来るといっそ豪快だね」

 という精一杯の皮肉も、

「でしょ?」

 という一言で軽く流された。

 武闘大会の一回戦ではあんなに卑怯だとか言ってたくせに、と鋼は思わなくもない。


「でも、そもそも人がそんなに集まるかな?」

 という当然の疑問には、

「あのねぇ。わたしが誰か忘れたの? 超学院生アイドル、リリーア・マリルリールよ。

 わたしには学院長の魔法に耐えるほどのタレントもないし、クリスティナほどの魔法の才能もない。

 でも、わたしには人を惹きつける才能がある。だからこれはわたしの戦いよ。

 このわたしの名にかけて、これからの三か月で、最低でもそれだけの数は集めてみせる。

 だからあんたは、大船に乗った気でいなさい」

 非常に男前の台詞で返された。


 ここまではいいのだが、

「ええと、それじゃあ僕は、ただその三百人に交じって戦えばいいのかな?」

 肝心の鋼の役割が見えてこなかった。

 集団に交じって戦うだけなら楽そうだなとは思ったのだが、やはりそうでもないらしい。

「いくら三百人がいたって、学院長が自由に魔法を使えば、あっさりやられかねないわ。だから、前に立って学院長の魔法に耐えながら、学院長の詠唱の妨害をする人材がどうしても必要なのよ。

 おまけにその人が、間違って味方の魔法を受けても無事な人間なら、言うことないわね」

 そう言って、ちらりと鋼を見るリリーア。

「なるほどね」

 ここに来てようやく、リリーアが鋼のタレントを過剰とも思えるほど気にしていた理由が分かった。


「ま、そういうことよ。あんたには学院長に張り付いて戦ってほしいんだけど……。

 ちなみにあんた、無効化できない苦手な属性とかある?」

「ええと……少なくとも調べた限りでは大体防げると思うけど、条件によって発動するタレントが違うから、苦手な属性ってのもなくはないかな」

「たとえば?」

 リリーアの顔が真剣味を帯びる。


「火属性の攻撃を頭に食らうとやばいかも」

「もしかして、弱点だったりする?」

「弱点というか……頭に火の攻撃を喰らうとその強さに応じた時間、ドラゴンに変身する、から」

「…………………………は?」

 目を点にしているリリーアに鋼は説明をする。


「いや、火の属性のタレントって異様に多いからさ。当たった場所によって発動するタレントが変わってきちゃって、左手だったら普通に吸収するんだけど、右手に当たったら威力を二倍にして跳ね返すし、同じ右手でも指先の方なら花火が出せるようになるし、足に当たったらロケット的な……」

「分かった! もういいわ!」

「いや、苦手なのはまだあるんだけど……」

「いいから! ちょっと黙って!」

 渋々と、鋼は口を閉じた。


 本当に、色々大変だったのだ。魔法を跳ね返した時は実験に協力してくれたエルフの女の子に当たりそうになって危なかったし、ドラゴンになった時はエルフの女の子は逃げてしまって実験中止になりかけたし。

 まあ幸い、思いっきり巨大化したにもかかわらず、戻った時に服がそのままだったので二次災害は起こらなかったのだが。

 あれで全裸にでもなっていたら、協力してくれたエルフの子には二度と話をしてもらえなかったかもしれない。


 そんな鋼の感慨などに構わず、というかむしろ目障りだとでも言いだしそうな口調で、リリーアが強引に話をまとめる。

「あんたには前衛をやってもらうわ。どんな魔法が来ても平気そうだし。

 ただ、風魔法だけは禁止ね!」

 怒っているように見えても、その辺りリリーアは抜かりない。

 そして、鋼はあっさりと前衛に決定されてしまったようだった。





「ただ、前衛を務める人間には、どうしても防げなくちゃいけない学院長の得意魔法があるの。

 あの魔法だけは属性もよく分からないから、ちょっと試してみなくちゃいけないんだけど、そのためには学院図書館に行かなきゃ」

「学院図書館?」

「あんたそれも知らないの?

 ラーナ魔法学院の魔法の図書館って言えば、有名だと思うけど。

 まあ、半分以上は悪名だけどね」

「ふぅん」

 そう言われると、鋼も少し興味が湧いてきた。

 やはり、魔法の学校と言えば図書館だろう。おまけに秘密の図書館でもあれば、なお良し、である。


「ずっとここに缶詰だと、いつまで経っても仲間を増やせないし、それを考えてもそろそろ……」

 そこまでリリーアが話した時、



「こぉねぇこちゃんたちぃいいいいいい!

 おっべんきょうのぉぉ、時間だよゴラァアアアアアアア!!」



 扉を蹴倒しながら、レメデスが部屋にやってきた。

 なぜ毎回毎回ホラーかつバイオレンスな登場をしないと気が済まないのか理解できない。趣味なのだろうか。


「あれ? 今朝は本当に子猫がいるねぇえ?」

 入ってきたレメデスは、すぐにシロニャをロックオン。

 やばいシロニャが狙い撃たれるぜ、と鋼は焦ったのだが、

「何だ神様か。じゃあ生徒じゃないね」

 と言って、それきり見向きもしなくなった辺り、彼女は体格以上に大物なのかもしれない。


 しかしなんにせよ、レメデスの勢いの止まったこの機を逃す鋼ではなかった。

 他の二人が迫力に呑まれて動けない中、鋼だけが機敏に行動する。

「レメデス先生! お願いがあります!」

「あん?」

 柄の悪い感じに眉を上げるレメデスの前に素早く飛び出していき、深々と頭を下げた。


「昨日レメデス先生に色々とご教授頂き、僕は自分の至らなさを知りました!

 自らの不明を恥じ、これからもご指導ご鞭撻を賜りたい所ですが、それでは先生のご負担になります!

 つきましては、この学院の知が集まる場所と名高い、学院図書館へ向かう許可を頂けないでしょうか! 僕は、浅学な自分を少しでも成長させるため、可能性のあることは全部試してみたいんです!」

 頭を下げたまま、口早にそう言い切った。


 まあとりあえず口から出まかせだが、実際レメデスがいくら補習の必要があるとはいえ、三人ぽっちの生徒にかかりきりになっているワケにはいかないというのはたしかだろう。

 だとすれば、自習する態度を見せれば図書館に行けるかもしれない、というのが鋼の目論見だった。



 そして、それに対するレメデスの返答は、


「お前、何か変な物でも食ったか?」


 の一言であった。



「あ、あのですね……」

 ちょっとは生徒の向学心を信用しろよ、と言いたい鋼だが、その前にハッとなって飛び出してきて、要らない告げ口をするおバカが一名。

「あの、た、食べてました! というか、飲んでました!

 今まで見たことないような、ものっすごい変な物!」


「「なにぃ?」」


 これには、レメデスだけでなく鋼まで目を剥いた。


 泣きそうになりながら、おバカ……もといクリスティナは話す。

「あ、あの、何かごぽごぽ泡立ってどろっとした紫色の溶岩みたいな危ない薬を、ごくごくおいしそうに飲んでたんです!

 どうしよう、あれのせいで、ハガネさんが真面目な人に……」

「あれはスープだよ!?」

 小腹が空いたので、ちょっとシメサバ味のスープを飲んでいただけなのに、ひどい言われようである。

 ついでに真面目な人じゃないと思われていたことにもちょっとショックを受ける鋼だった。




 まあ、その後もなんやかやとあったのだが、最終的にはレメデスも鋼の図書館行き自体は認めてくれた。

「向学心云々はともかく、自習するというのならわたしが止める理由はないねぇ。

 ただ、学院図書館には『アレ』があるからね。

 さすがに一人で行かせるってワケにも……」

 そこでレメデスが言いよどむと、

「だったらわたしがついていきます!」

 リリーアがすかさず立候補した。


「ふぅむ。マリルリールか。

 お前を外に出すのも不安だが、まあ、しょうがないねぇ」

 レメデスも不承不承ながら認めると、絶え間ないリリーアの撫でまわしにグロッキーになっていたシロニャも、抜かりなく鋼の肩に飛び乗ってくる。

「あ、ええとわたしも……」

 出遅れたのは、レメデスが入って来てからこちら、一度だけ余計な口をはさんだ以外ぼけっとしていたクリスティナで、

「じゃ、あんたはここで補習の続きだね。

 まだまだ課題はたぁぁっぷりあるからねぇえ!」

 一人居残りが決まったのだった。






「これでようやく、計画を始められるわね」

「お手柔らかに頼むよ」

「うにゃー!」

 こうして三人は、新たな舞台に向け、意気揚々と歩いていく。



「ほぅら、補習再開だよぉぉお!

 まずは昨日の復習からぁぁああああああ!」

「ひぇえええええええええん!!」


 生贄の羊の悲鳴を、背中に感じながら……。




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[一言] なんだ神様か ...これ枝以外で勝てるんですか?
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