第四十一章 集う視線
予選Hブロック。
マークレイという強敵に勝利し、それなりに意気揚々と引き上げる鋼であったが、
【まったく。おぬしの危なっかしい戦いを見ていたら、こっちの肝までキンキンの冷え冷えなのじゃ。
ちょっとネットでリアルヘラクラー君でも見て癒されてくるのじゃよ!】
シロニャはずいぶん心配してくれていたようで、ぷりぷりと怒りながらそんなことを言って消えていった。
鋼としては思うところもないこともないが、まあ仕方がない。
そういえば、ちょっと悪いことをしたな、と実況のリリーアを振り向くと、
「~~~!!」
何とも言語化できない声と共に、すんごい目付きで鋼をにらみつけてきていた。
それは特別な業界の人にとってはご褒美かもしれないが、鋼にそれほどの度量はない。
「あ、あはは」
お得意の愛想笑いを浮かべて手を振ると、
「ッ!」
何をされると思ったのか、弾かれたように動いて、自分のスカートの裾を押さえた。
「あは、はは……」
さすがにそこまで警戒されると鋼も傷つく。愛想笑いも枯れ気味になった。
しかし案外、観客の受けは悪くなかった。
鋼なんかより見た目はずいぶん強そうなガタイのいいおっちゃんが、
「その生き様、惚れたぜ、ちきしょう!」
とか叫んでくるし、最前列にいた巫女服の女性などはこちらに向けて親指を立てて、
「グッジョブ!」
と言ってくれた。
照れくさいが、少し誇らしい気分だった。
……何をほめられたのかは、深く考えないことにした。
建物の中に戻ると、仲間たちが出迎えてくれた。
「お疲れー、コウくん」
「あ、ララナか。うん」
「もう、うっすい反応だなぁ。
ああ! さては……」
「な、なんだよ」
「ボクがスカートじゃないから機嫌損ねてるんでしょ、エッチ!」
「別に僕がめくりたかったワケじゃないからな!?」
鋼はしばらく、あらぬ疑惑に悩まされることになりそうだ。
そこに、アスティがやってくる。
「全く、お前の戦いを見ていると格の違いを思い知らされる」
「え? いやいや、アスティの方こそ、あんなに俺TUEEEE!!して無双してたじゃん!?」
「……お前の言っている意味は分からないが、あれを見ろ」
アスティは観客席を指さした。
試合の直後だからか、いつにもまして、騒然としている気がする。
「お前は、ああやって見ている人間まで笑顔にしてしまう。
それは私には出来ないことだ」
「いやいや! 僕だってやってないから!」
観客が騒いでいるのは、おそらくスカートめくりの下りのせいで、誇れるようなことではない。
意味の分からないところで評価されても困る。
「いや、お前や、お前と共にいる人間を見ていると思うのだ。
私とお前たちの間には、越えがたい隔たりがあるのではないか、とな」
「それってアスティが疎外感を感じてるってことか?」
「いや、そうではなく、もっと、人として超えるべき壁を感じるのだ。
そう、なんというか、こう、変態の壁というか……」
「頼むからアスティだけはそれ超えないでくれよ!?」
鋼は一行最後の良心にそう懇願した。
「はぁ。アスティも、変なところまで真面目で困る」
と、頭を抱えた鋼のところに寄ってきたのは、見覚えのある修道服だった。
「コウ様。よく、わたしの下に帰ってきてくださいましたね」
「というか、ほんとに来てたんですね、ミスレイさん」
「失礼な! わたしは約束を曲げたことはあっても破ったことはありませんよ!」
「……それ、どう違うんですか?」
「わたしの気の持ちようです!」
「胸三寸!?」
この人相手に敬語を使わなくなる日も近いのではないかと鋼は思ったとか何とか。
で、図らずも順繰りに仲間に話しかけ、最後にラトリスの姿を探すと、彼女はなぜかお色気くノ一っぽい装束を身に着けて鋼の横に立っていた。
「ハガネ様」
「え、と、何?」
「着替えて参りました」
「え? ああ、うん」
だからどうしたというのか。
ラトリスにしてはめずらしく意図が不明瞭だ。
似合うとでも言えばいいのだろうか、と鋼が首をかしげていると、
「あの……この服ならスカートではなくともめくれると思うのですが」
「だからそういうんじゃないからな!?」
鋼への疑惑は、既に取り返しのつかないレベルまで進行していたことが発覚した。
「ふぅ……」
一通りあいさつとツッコミを済ませ、息をついたところに、狙い澄ましたかのように声がかかった。
【うぅ、コウ~】
「シロニャか。どうしたんだ?」
【ヘラクレスオオカブトって、リアルで見たら羽とか黄色じゃし、お腹とかメッチャグロいんじゃよー】
「知るか!!」
結局いつまで経ってもシロニャのツッコミ役という役柄からは自由になれないのだな、と鋼が肩を落とすと、
【ん? コウの頭、なんか変なのがあるんじゃぞ?】
シロニャの方から鋼に指摘が入る。
「そういえば、頭に何か変な感じが……」
たしかに髪の毛の間に変な物がはさまっている感触がする。
違和感の正体を手探りで探し、ゴミでもついたかとおかしな感触の何かを引っ張ってみると、
ブチッ!
という嫌な音がして、鋼の手に一輪の花が残った。
「え? なにこれ、どういうことだ?」
鋼が花を手に、混乱していると、突然シロニャが大声を上げた。
【あ、思い出したのじゃ!
昨日、発動したけど分からなかったタレント、『頭花くん育成記』の効果じゃがな?
水属性攻撃を喰らうと、頭の花が成長するタレントだったのじゃ!】
「……そっか」
水魔法を喰らってノーダメージだった謎が解けたはいいが、さらなるビックリ人間への道を歩み始めた鋼。
僕の人生はこれで大丈夫なんだろうかと悩み始める鋼をよそに、アナウンスが予選の全試合が終了したことを告げる。
第三十四回キョートー武闘大会。
その本選が、いよいよ始まろうとしていた。
そして始まった。
「時間経つのやたら速いな!」
思わず鋼がそう叫んでしまうほど、本選までの時間は短かった。
それは実際の時間の短さの他にも、鋼が仲間たちの対応にてんやわんやだったこともあるし、どうやって調べたのだが、次の対戦相手の特徴などをラトリスに叩き込まれていたこともあるだろう。
一回戦目は試合の間隔も短いため、アスティの戦いを観戦する暇もなかった。
本選の最初の戦いが始まったと思ったら、すぐに鋼の出番である。
アスティは自分の試合、ララナは観客席の場所取り、ラトリスは鋼の頼みごとでそれぞれその場を外しており、鋼の見送りをするのはどこからか湧いてきていたミスレイ一人だけだった。
「それじゃあまあ、面倒ですけど行ってきますね」
口ではそう言いながらも、鋼の目には押さえ切れない闘志が宿っている。
そうやって決意も新たにリングに向かおうとする鋼に、ミスレイは飛びついた。
「うわ、ちょっ?! ミスレイさん!?」
悲鳴のような鋼の言葉を無視し、
「コウ様ぁ、んちゅー」
抱きついたまま、その頬に唇を寄せる。
「や、あわわ……」
ミスレイに抱き着かれた瞬間から彫像と化した鋼に抗う術などなく、ミスレイの唇が鋼に接触する……と思われたのだが、
「あら?」
その時、ミスレイの唇と鋼の顔の間に、割り込んできた物があった。
ミスレイの暴挙を間一髪で止めた物。
それは、いつの間にか鋼の下まで戻って来ていたラトリスが突き出した、短剣の鞘だった。
「ハガネ様。ご所望されていた短剣です」
「え? ああ」
「それなりに良く出来た造りであるとは思いますが、所詮は既製品。
実力者からの攻撃をまともに受ければ、折れてしまう可能性もあります。
あまり過信なされないように」
「分かった。その、色々助かったよ」
呆然としていたのもつかの間、これが好機と短剣を受け取ると、
「それじゃ、試合あるから!」
鋼は大急ぎで会場に向かった。
鋼が去って行ったあとで、ラトリスはミスレイに冷たい瞳を向けた。
「ミスレイ様。試合前の選手に強化魔法を掛ける事は、大会のルールで禁じられています」
常人なら折れてしまうような圧力。
しかしミスレイは、そんなラトリスのまなざしに真っ向からぶつかっていった。
「けれどわたしなら! わたしの祝福なら、能力値だけを上げられます!
だから誰かがステータス画面を見ても気付かないはずですし、最悪コウ様自身が無自覚であれば、いくらでも…!」
しかし、その激昂したミスレイの言葉をすら、ラトリスは冷たい言葉でさえぎる。
「ミスレイ様。審神者は、全てを見ておられます。
ハガネ様を失格にさせるおつもりですか?」
数瞬の、沈黙。
「……ごめんなさい。冷静では、ありませんでした」
そして、あのミスレイが、深々と頭を下げた。
しかしそれでも、ラトリスは眉一つ動かさない。
「ただ待つばかりの身の上というのも、なかなかに辛いものですね」
そうして自嘲するようにミスレイが笑っても、ラトリスの視線の鋭さは和らがない。
逆に、どうしても看過できぬことがあるとばかりに、ラトリスはミスレイの前に、あらためて立ち塞がった。
「この際なので、伺わせて下さい。
ミスレイ様。貴方はどうして、あんな下らない嘘を吐いてまでこの街にいらしたのですか?
いえ、貴方程の方が、どうしてハガネ様をそこまで気に掛けていらっしゃるのですか?
返答次第では、いくら貴方と雖も……」
聞きようによっては詰問するようなその言葉に、ミスレイはやわらかく微笑んだ。
「ではあなたは、どうしてそこに立って、わたしほどの人間にそんな質問を投げかけているのですか?」
「……仰っている意味が、分かり兼ねます。
理由を問われるなら、私は自らのミスからハガネ様のお命を危険に晒しました。
ですから……」
「ですからあなたのその言い訳は、わたしの下らない嘘よりもそんなに上等なのかと聞いています」
「ッ! ミスレイ様!」
ミスレイの言葉の意味は全く分からなかったにもかかわらず、その言葉はラトリスの顔を怒りと羞恥で瞬時に赤く染めた。
「どうやらまた、口が過ぎてしまったようです。
いけませんね。どうも最近、ゴワゴワ分が足りないみたいで」
「ミスレイ様、まだ、話は……」
「心配なさらないでください。
わたしはただ、コウ様を面白おかしく見守っていたいだけです。
……ですから、そんな無益なことに労力を使うのは、やめてくださいね」
「ッ!!」
ミスレイが一瞬だけ意味深に視線をかたむける。
それだけで、ラトリスは身動き一つできなくなってしまった。
「それでは」
ミスレイはまるで無警戒に、ラトリスに背を向けて歩き出し、すぐに見えなくなってしまう。
それを、見届けて、
「……ハァッ」
ラトリスは、ようやく詰めていた息を吐き出した。
後ろ手に回した、武器を握った手には、じっとりと汗がにじんでいた。
ラトリスが観客席に行くと、ララナはきちんと二人分余計に席を取っていてくれていた。
「あれ? ミスレイ様は?」
「途中で別れました。別の場所で観戦なさるつもりでしょう」
そう答えるラトリスの口調は、すっかりいつもの調子に戻っていた。
「ふーん。まあミスレイ様がいたらボクたちも緊張しちゃうしね。
気を遣ってくれたのかな?
ま、アスティが来るかもしれないし、ちょうどいいか」
「ララナ様でも、勝てませんか?」
しかし、もしかすると先ほどの熱がどこかに残っていたのだろうか。
ラトリスは、普段なら口にしないような疑問をララナにぶつけていた。
対してララナは、いつもの能天気な顔のまま、答える。
「んー、どうだろ。
たぶんあの人、神様関連のワンオフタレント持ちだよね。
あの類は基本チート性能だからなぁ……」
「そうですか」
ラトリスにはララナの言葉の意味はよく分からなかったが、言いたいことの概要は伝わった。
「それよりさ」
そこでララナが、ぐっと身を乗り出してきた。
「コウくん、勝てるかな?」
いつも明るいララナが、めずらしく気弱な声で聞く。
「相手は魔法も属性攻撃も全く使わない格闘家。
アスティエール様ほどの戦闘能力はないでしょうが、アスティエール様より数段、油断も容赦もない方です。
正直に申し上げて、今のハガネ様では勝つのは難しいでしょうね」
「そっ、か…」
ラトリスのいつも通り冷静な返答に、ララナは気落ちした声を返した。
「ボクはさ。はっきり言っちゃうと、あのちんぴら二人を襲ったローブの怪人とか、正直どうでもいいんだよね」
ここに来て、ララナは今までの流れを真っ向から否定するようなことを平然と口にした。
「このせか…国は、いい人ばっかりいるからあんなのが目立つけどさ。
絡まれた奴に反撃しただけで、しかも魔法まで使ったのに殺さなかったなんて、危険度はずいぶん低いと思う。
ボクはただ、コウくんが大会に参加したら楽しそうだなって思って、手助けなんかもしちゃったけどさ」
「ハガネ様が危険に晒されるのは我慢出来ませんか?」
「……危険に、っていうか。コウくん、ボクが思ったよりずっと、本気だからさ。
あんまり負けたりは、してほしくないな、っていうか」
それは、めずらしくララナが見せた少女らしさだと言えた。
「私は逆に、少しだけ楽しみでもあります」
そしてそれは、ラトリスだって同じだ。
いつでも冷静で無感情に見えるラトリスにだって、個人的興味を持つ事柄がないワケでもない。
今の興味の対象は、当然、自らが仕える相手のこと。
アスティを心服させ、ララナを仲間とし、ミスレイにあれほどのことをさせる鋼の、その真価。
それをラトリスは、次の戦いで確かめることができるのではないかと考えていた。
「人は極限の状況の中でこそ、その本性を明らかにします。
ハガネ様が身の内に飼っているのは、臆病なネズミか、獰猛な虎か、はたまた狡猾な狐か」
そう口にしたラトリスは無自覚に、見る者を凍りつかせるような、冷徹な、しかし蠱惑的な笑みを浮かべていた。
それを目にした者は、異性にせよ、同性にせよ、その魂を縛られ、金縛りにかかってしまいそうな笑顔。
だったのだが、
「ぷはっ! やだなー、ラトリスちゃん。
そんなんじゃぜんぜんおもしろくないよ」
ララナはそれを一笑に付した。
「面白くない、ですか?」
「なんというか、当たり前すぎ。
そうだなー。百歩譲って、せめて狡猾なネズミとか、臆病な虎くらいじゃないとね」
「……ララナ様の感性には、少々ついていけません」
「あはは! 感性じゃなくて、ただ見てないだけだよ、それは」
「ララナ様?」
突然のララナの変わり様に、ラトリスはもう一度ララナの顔を見た。
さっきまで不安そうにラトリスを見ていた目は、どこかここではない遠くを眺めていて、震えていたはずの口元には、うっすらと笑みすら浮かんでいる。
「うん。思い出してきたよ。
最初に会った時、ボクはコウくんのこと、コウちゃんって呼んだんだ。
だって四つも年が離れてたしさ。
だけど今は、ボクはコウくんのことをコウくんって呼んでる」
「何の話をされているのか、私には理解出来ません」
ラトリスには、分からない。
ララナより先に鋼を見つけて、鋼より先にララナに出会ったはずのラトリスが、何も分からない。
それが、ラトリスの知らない鋼の話だということ以外、何も分からない。
「分からないならさ。見てればいいよ」
いつの間にか、二人の立場は逆転していた。
最初、ララナが尋ねたことにラトリスが答え、ララナはある意味、その言葉に踊らされていたはずだ。
しかし今は、ララナがその迫力でラトリスを圧倒し、その言動を縛ってすらいた。
「何を、ですか?」
ラトリスが盗み見たララナの顔に、既に先ほどまでの弱気は微塵もない。
そして、それを裏付けるかのように、
「ボクのコウくんが、勝つところをさ!」
雄々しくもそう言い切ったララナの目に存在するのは、鋼に対する絶対の信頼と、おどけた口調でも隠し切れないわずかな狂熱。
「……そうですね」
だがそれを、『危うい』と感じる前に、『疎ましい』と考えた自分に、ラトリスは内心、首をかしげるのだった。
同時刻。
「急がなくては、このままでは試合が始まってしまう!」
そんなことを口走りながら、闘技場の回廊を走る騎士姿の少女がいた。
本選第一回戦をほんの十秒、たったの一太刀で終えた、アスティエールその人である。
「おっと!」
角を曲がった所で近くを歩いていた通行人を避けきれず、肩をぶつけてしまう。
アスティは幸い少しバランスを崩すだけで済んだが、ぶつかった相手はそのまま転んでしまった。
「すまないな。私の不注意で。
ちょっと気になる試合があって……」
そう言いながら、ぶつかった相手に手を伸ばす。
アスティが衝突してしまった相手は見る限り女性で、全身を覆う『真っ白い』ローブを着けていた。
アスティの手につかまって起き上がりながら、女性が言う。
「いいえ。大丈夫です。
こちらに向かっていたということは、お目当てはハガネ・ユーキ様の試合ですか?」
「そうなのだ! と、いうことは、もしや貴女も?」
「はい。ようやく用事が終わったので、見に行こうかと」
同志を見つけた喜びに、アスティの顔がほころんだ。
立ち上がり、会場に向かいながら、ローブの女性が尋ねる。
「あの、ハガネ・ユーキ様とは親しいのですか?」
アスティはその不躾とも言える質問にも、全く嫌がる素振りもなく答えた。
「そうだな。ハガネは友人であり、目標であり、恩人であり、ライバルであり……。
とにかく、私の……一番大切な人だ」
「そう、ですか…」
ローブの少女は顔を隠すようにうつむいた。
そして、
「どうぞ、先に行ってください。
ワタシはもう少しのんびり歩いていくつもりですし、この人の入りでは、どうせ二人掛けの席なんて望むべくもありませんから」
アスティに一人で先に進むように促す。
「そうか? すまんな。では!」
元より気が急いていたアスティは、それを聞くとすぐに会場の方向に走り出した。
「ハガネ・ユーキの、友人……」
だからアスティは見逃してしまった。
そうつぶやいた少女のローブの裾が、まるでその感情の高ぶりに同調するかのように、白から黒へと明滅し、その色を変えようとするさまを。
「ワタシの、炎は……」
その後、闇色のローブに身を包んだ彼女が何を口にしたのか、耳にした者はいない。
その頃、鋼は試合会場となる第三闘技場前に着いていた。
予選よりも観客の数も熱気も増量されていて、それだけで萎縮してしまいそうになる。
「そういえば、みんなは見に来てくれてるかな?」
雰囲気に飲まれないよう、知り合いの姿を探すと、
「あ、ミスレイさん」
こちらに向かって笑顔を向けてくれる能天気シスターを発見。
周りに気付かれない程度にこちらに投げキッスなんてかましてくる。
「うあ……」
ふざけて頬にキスをされそうになったことを思い出し、鋼は赤くなる。
あわててミスレイから視線を外し、さらに仲間の姿を探す。
比較的目立つ集団だから簡単に見つかると思ったのだが、巫女服や真っ黒なローブを着た人なんかもいたりするせいで、思ったほどは目立っていないようだ。
「あ、いた」
それでも、鋼はララナたちを発見した。
よく見ると、ちょうど騎士服の少女、アスティと合流した所のようだ。
試合はもう終わったのだろうか。
鋼が仲間の試合に想いを馳せていると、ララナがこちらの視線に気付き、持ち前の元気な笑顔で手を振ってきた。
「あ、あはは」
無視するワケにもいかず、小さく手を振り返す。
「……ん?」
その時、視線を感じてふと顔を上げると、
「会場のみなさーん!
今回特別に、ここ第三闘技場で行われる、本選第一回戦、第四試合を実況させてもらう、リリーアでーす!」
実況席から、あの学院生アイドルだとかいう、リリーアがにらんでいた。
みなさーんとか言いながら、明らかにこっちをガンガンにらみつけていた。
(あんた女の子に手を振ってデレデレしてないで、さっさとリングに上がりなさいよ!)
みたいな心の声が聞こえてきた気がして、鋼はため息をついた。
たしかリリーアは、前の試合まではずっと別の会場で実況をしていたはずだ。
何も偶然こっちの会場に移った時に当たらなくてもいいのに、とは鋼の心からの声だ。
この会場の観客はまた別の意見を持っていそうだが。
それにしても、
「みんな、のんきでいいよなぁ……」
なんてことを、鋼は思ってしまう。
投げキッスをしてくるミスレイ、手を振ってくるララナ、いつも通り無表情なラトリス、目を輝かせているアスティ、ついでにこっちをにらんでいるリリーア。
全員、いかにも自然体で楽しそうだ。
彼女たちは、鋼が緊張と恐怖で今にも震え出しそうなくらいだということを、想像もしていないのだろう。
命のやり取りをするワケではないのだし、武闘大会なんて彼女たちにとっては遊びのような物なのかもしれない。
日本の現代人である鋼としては、いくら死なないとはいえ、実際に殴られたり斬られたりと想像するだけで恐くて仕方がないというのに。
しかし、そんな鋼の頭の中に、
【こ、コウ? あまり無理はするんじゃないんじゃぞ?
い、いくら死ななくても、殴られたり斬られたりすると、痛いんじゃからな?】
シロニャの声が響く。
あまりにタイミングのいいその激励に、思わず笑いそうになってしまう。
(もちろん、分かってるよ)
そうシロニャに返しながら、さっきまで感じていた不安が小さくなって、闘志に変わっていくのを感じていた。
やっぱりシロニャには恩返ししないとな、と決意を新たにしながら、鋼はリングにその足を踏み出していく。
――多くの視線が集まる中、鋼の真価を問う試合が、今始まった。