第三十六章 遥か遠き武闘大会
「ふむ。キョートーの街か。
何度か訪れたことはあるが、やはり活気のある街だな」
「キョートーよ! ボクは帰ってきた! ああ、何もかもが懐かしい……」
「飛空艇だとあっという間ですね。でも、ここに来るのも久しぶりです」
「皆様、あまりバラバラにならないようにお願いします。
特にララナ様、武闘大会が近く気が立っている者も多くいます。
一人で勝手な行動を取られないよう」
という新しい街に来た時のテンプレ的会話を繰り広げている一行を余所に、
「よぉし、シロニャ! 実験だ、他人の迷惑にならない広い場所を探すぞ!」
【合点承知なのじゃああああああ!】
これからという時に中断されたせいですっかりテンションが上がっている二人組が、ドドドドド!と砂煙でも上げそうな勢いで、駆け抜けていく。
「……勝手な行動云々、と言っていたが、アレはいいのか?」
「ハガネ様の行動を私が制限する訳には参りません。
それにハガネ様なら糸はつけておりま……今、切れました」
「あはは! コウくんはなんだかんだで自由人だからね!」
「はい、あの方も伊達に聖王に見初められてはいませんからね。
でも、万一はぐれてしまっても、ラトリスなら同じ街にいる人を見つける程度、造作もないでしょう?」
早速一人はぐれても、あくまでのんびりマイペースなご一行たち。
「ところで、その、似たような前科のある私が言うのも何なのだが、最前より私は一つ、どうしても気になっていることがあるのだが……」
「奇遇ですね。実は私も同様なのですが、どうか自重なさって下さい。
一度ツッコミを入れれば最後、30個のボケで返してくる方です」
「え、みんな何かあるの? ボクは全然分かんないんだけど」
「え? 何の話ですか? わたしも混ぜてくださいよぉ。
あ、ちなみにケロちゃんの髪型のことなら、三つともソフトモヒカンっていうのにしてますよ?」
(((誰も聞いてねえよ!)))
という思いを、その時残された三人は仲良く共有したという。
「ここならよさそうだな」
その頃鋼は、首尾よく公園らしき場所を見つけていた。
武闘大会が近いからか、何人かが魔法の練習をしているようだから、少しくらい無茶な実験なんかをしても許されるだろう。
場所に満足して、鋼は切り出した。
「これから僕のタレントとスキルを調べていくワケだけど、そのためにはまずノートの使い方を知りたいところなんだよね」
【そうじゃの! ……あ、そ、それはともかく、あれなんじゃったかなぁ?
こう、商売の方法で、本部が傘下の店舗にマニュアルとか店名を渡してチェーン展開とかするアレなんじゃが、ほら、ふ、ふら、ふら何とかという……】
「話題転換下手過ぎだろ。
……フランチャイズ、とかじゃないか?」
【よし今じゃ! 手帳を見るのじゃ!】
「え? ああ」
シロニャの声に押され、手帳を開いてみる。すると、
『瞬間記憶復元』
1997.9.30 13:20
たしかにそこには、今まで見た覚えのない文字が書かれていた。
【ふっふっふ。これが、手帳の力じゃ。
発動したタレント名と、その日時が表示されるのじゃ。
分かるとは思うのじゃが、一応数字は、年、月、日、時間の順じゃな】
自慢げに話すシロニャ。どうやらさっきの言葉は、鋼に思い出しにくい言葉を考えさせて『瞬間記憶復元』を使わせるシロニャの策略だったらしい。
これで手帳の力は証明されたのだが、鋼としては俄然気になることができた。
「1997、って西暦じゃないよな?」
考えてみれば、こちらに来てからはその日暮らしな生活をし過ぎて暦を確認するのを忘れていた。
元の世界で鋼がいなくなったのが9月の20日くらいだったはずなので、リンクしているような気はするのだが。
「聖王歴じゃな。年は違うが、月と日は基本的に地球と同じじゃ。
そういう世界にしたのじゃからな」
鋼もたまに忘れるが、ここは地球とは全く違う法則が根付く異世界。
大地はそもそも球ではなく平面であり、星という概念が通用しない以上、自転周期や公転周期とかいうものは存在しない。
なのに一日の周期が24時間で、一年が365日というのはあまりにおかしな話だが、これは神様がそういう風に作ったのだから仕方がないとしか言いようがない。
他にも重力とか潮力とかコリオリの力とかは存在するのかどうなってるんだとか言い出せばキリがないので、鋼はもう思考を放棄していた。
神様っていうのは、少なくとも衰退した世界の妖精さんくらいには理不尽な存在なのである。
神様の理屈無視のチートっぷりを再認識しつつ、次に確認しなければいけないのは鋼の現在の能力だ。
LV24 HP6679 MP2218
筋力92 知力0 魔力0
敏捷45 頑強0 抵抗0
「心なしか、筋力と敏捷がまた少しだけ上がってるような……」
【筋力は素振りで上がるんじゃし、あの……ええと、名前を忘れたんじゃが、あの剣……】
「魔剣グラン・ウィンド?」
鋼が正解を教える。ちなみにその瞬間、手帳に二つ目の『瞬間記憶復元』の文字が浮かび上がったのは内緒である。
【それじゃな! それを振ったせいかもしれんし、敏捷なんて最悪ちょっと速く歩くだけでも上がるのじゃよ】
「その割に、他が全然上がってないよな」
【知力は本を読めば上がるのじゃ。魔力は魔法を使えば。
頑強と抵抗はそれぞれ物理攻撃、魔法攻撃を受ければ上がるはずじゃ!】
「あれ? でも、僕はクロニャに思いっきり殺されかけたはずだぞ?」
【あれはあれじゃよ。システム外スキルじゃったから、体が攻撃と認識できてなかったんじゃな】
「よく分からないけど、すごいな異世界勇者」
今思えば、よく撃退できたものだと思う。
【じゃが、あいつはこの世界に手の内を見せすぎたのじゃ。
あの攻撃はもうこの世界に組み込まれ、新種のスキルとして登録されとるはずじゃよ】
「ふーん」
何かあと一つか二つくらいなら奥の手を隠してそうだが、おそらくそれも使って行く内にこの世界に認知され、新たな技としてここの血肉になっていくのだろう。
この世界のシステムというのもなかなかにしたたかだ。
【ともあれ、これだけのHPとMPがあれば、昔は使えなかったスキルが色々使えるはずなのじゃ!
今回は覚えている限り、スキルの解説もしていくのじゃぞ!】
今日は最初から元気いっぱいなシロニャ。
聞いてはいないが、もしかすると例の鬼とやらがいなくなったのかもしれない。
「なら、とりあえず使えそうなスキルから調べていくか」
幸いなことに覚えている技の中には露骨なパクリっぽいものはふくまれておらず、それは鋼を大いに安堵させた。が、
【なぜじゃよ! なぜ『亀亀波』とか『邪蛇闇拳』とか『てんしょうりゅうせん』とか『回転丸』とかがないんじゃ!
こんなのってないのじゃ! こんなのってないんじゃよ!】
シロニャがネタ動画で投稿されそうなくらい本気で悔しがっていた。
【おぬしもおぬしじゃよ! なぜそんな冷静な顔をしておるのじゃ!
おぬしも中学二年生の頃は、『オッス! オラ海賊になるってばよ!』とか口癖のように言ってたじゃろ!?】
「変な黒歴史を捏造するなよ!?
僕の中学二年生はもっと落ち着いてたよ」
【ふん! 灰色の青春じゃな!】
負け惜しみのように言うシロニャの言葉を聞きながら、鋼は内心で考えていた。
(まあ、それより前、小学生低学年くらいの頃なら、そのくらい言ってたかもしれないけど)
少し年上の友達なんかと、毎日バカみたいなことばかりを話していた時期だ。
その当時なら、たしかに口癖のように「オレ、大きくなったらヒーローになるんだ」とか言っていたかもしれないし、最悪、「勇者王に、オレはなる!!」くらい言っていたような気もする。
色んな意味で、鋼は多少早熟だったのだ。
そして、ようやく能力の検証である。
その検証内容は多岐に渡り、ついでに言えばノートに出てきたりスキル欄にあったりしてもシロニャが効果を忘れているものなどがあったりして色々と大変だったのだが、二人は騒ぎながらも楽しそうに検証作業を続けた。
代表的な物を挙げるなら、こんな感じである。
タレント名『正確に不正確なる打鍵』
【ちょっとワシの名前を呼んでみるのじゃ……おお! 発動したのじゃ!】
「どんな効果なんだ?」
【うむ。名前を呼ばれた相手は十秒間、確率と確立、自身と自信、以外と意外の変換を確実に間違えるのじゃ】
「みみっちい上にこの世界じゃ全く意味ねえよ!」
タレント名『ゾロ目キーパー』
【例えばコウがこれから体を鍛え続け、筋力777になったとする。
すごく縁起がいいじゃろ。じゃが鍛えたらすぐ778になってしまう。
さあどうする?】
「鍛えるのをやめて寝る」
【はい残念この人間のクズー! 正解は、このゾロ目キーパー!
これを使った能力値は、なんとどれだけ鍛えても全く上がりません。
一家に一台、ゾロ目キーパー、さあご感想は?】
「何で後半ノリがテレビショッピングなんだ?」
【もはやタレント自体に興味なしじゃよ!?】
タレント名『天空への階梯』
「おお! 本当に空に階段があるみたいに歩けるぞ!
ルビを見た時嫌な予感がしたけど、これは当たりなんじゃないか!」
【そうじゃろそうじゃろ! 『天空への階梯』はすごいのじゃ!
ワシも上ったら最後、下りる方法が分からないという欠点がなければ、自分で試したいくらいじゃよ!】
「……なあ。もう僕、二十メートルくらい上っちゃったんだが」
スキル名『被造物瞬間消去』
消費MP 45
【なんとなんと、ゴーレムやホムンクルスなどの人工的に作られた相手なら、その一部に触れながらキーワードを唱えるだけで消滅させられる、超絶スキルなのじゃ!】
「超絶……。まあ、それなら確かに一撃必殺っぽいけど。
ちなみにキーワードって?」
【神様お勧め早口言葉百選じゃ!】
「悠長すぎるわ! どこが瞬間なんだよ!」
【むぅ。消滅自体は、一瞬なんじゃがなぁ……】
スキル名『フラッシュ・カウンター』
消費MP 15
【たったの消費MP15で使える高性能カウンターじゃぞ!
発動している間のダメージを無力化し、その予測ダメージを次のこっちの攻撃力に加算できるのじゃ!】
「ダメージをただ返すだけじゃなくて、攻撃力に加算っていうのが新しいな!」
【そして気になる発動時間はなんと、絶対時間にして約0.017秒の刹那、そこからズレた攻撃のダメージは百倍になるという胸熱仕様じゃ!】
「バグだよそれ! それ明らかに一つの攻撃終わらないじゃん! 攻撃食らってる最中に時間切れじゃん! 何考えてんんだよ、お前は!」
【え? 1フレームカウンターとかめっちゃ燃えるじゃろ?】
「格ゲー感覚か!!」
「ずいぶんと、調べたな……」
【そう、じゃな。ワシもちょっと、疲れて来たのじゃ……】
検証を始めたのは昼過ぎからだが、今はそれから既に二時間以上が経っている。
「まだ、何か調べられるのあったっけ?」
【属性系、がたぶんいくつかあるはずなんじゃがな】
「属性系?」
聞き慣れない言葉に聞き返す。
シロニャは簡潔に答えた。
【特定の属性の魔法が強力になったり、特定の属性の魔法を防いだり、とかじゃな】
ゲーム的に言えば、『火属性耐性』とか、『火属性魔法強化』とか、だろう。鋼は簡単にそう見当をつける。
【じゃが、それには魔法を使えるか、魔法を使う人に協力してもらわんと……】
シロニャはそう言うが、だとしたら問題はもう半分は解決している。
「だったらさ。協力してもらえばいいんじゃないか?」
【むぅ?】
「周り、見れば分かるだろ。僕たち以外、この人たちみんな、何しにここに来てるかってことだよ」
【おお!】
武闘大会前でにぎわう公園。そこには、魔法の練習をする数多くの人たちがいた。
そして、
「こんなもので、いいかな?」
【そう、じゃな。属性は一通り、試したような気は、するのぅ】
さらに疲労困憊しながらも、鋼たちは属性系の検証を一応終わらせることができた。
まだ発動したのに効果が思い出せないタレントや不明瞭な効果のタレントはあるが、これで八割方出尽くしただろう。
「別に体力使った感じはしないけど、何だか疲れたよ」
【おぬしのは、アレじゃ。ツッコミ疲れじゃろ】
「そうかも。だったらシロニャのはボケ疲れだな」
【ふふっ】
「あはは…」
なんとなく河原で殴り合ったライバル同士のノリで、スポーツをしたあとの心地よい疲労感的なものを感じながら、力なく二人して笑い合う。
ほどよい脱力感の中、鋼は、
(いつかこいつに、恩返しをするってのもいいかもしれないな)
なんてことを思っていた。
「あ、やっと見つけたぁ!」
その時、タイミングのいいことに別行動だったララナが鋼の姿を見つけて、駆け寄ってきた。
「探しちゃったよ! 見つかってよかったぁ!
コウくんも武闘大会、出たいんだよね?」
「え? ああ、そうだな。あんまり真剣に考えてなかったけど……」
とりあえずノリと勢いと流れだけでここまで来てしまっただけだ。
しかし、意識はしていなかったが、こうして自分の能力を確かめているということは、もしかすると柄にもなくやる気になっているのかもしれない。
そんな鋼の様子を見て、深くうなずくララナ。
「あ、やっぱりそっかー。実はね。武闘大会って、明日からなんだ」
「え?」
「いやー。だいたいこの時期だって分かってたんだけど、まさかもう明日とは思わなくてさー。
あ、それでね。大会の受付って、前日の日没までなんだってさ」
「え?」
まったくラトリスも知ってたなら言ってくれればいいのにねー、なんて呑気に話すララナを見て、それから鋼はゆっくりと空を仰ぐ。
見上げた空は、既に赤く染まり始めていた。
「え?」
――日没は、近い。