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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第八部 新たな旅立ち編
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第三十五章 羽化

「あの、そのように素で驚かれても……」


 天井に張り付き、こちらをじっとうかがっていた『何か』。

 それは、


「そんな素直な反応をされては、私が嬉しくなってしまうのですが」

「嬉しがるのかよ!?」


 鋼の同行者の一人、ラトリスだった。



「ミレイユから隠行を見破るのが得意と聞いていたので、お邪魔にならないよう昔ながらの方法を試してみたのですが」

 と、話すラトリスは鋼と同じ目線。つまり床に普通に立っている状態だ。ちょっと精神衛生上悪いので降りてもらったのだ。

 というか実際、さっきは恥も外聞もなく叫び声を上げてしまったのだが、鋼としてはしょうがないだろうと思っている。

 顔を上げると知り合いが天井に張り付いていたとか、マジで怖い。

 冷静になっても、何か平然と当たり前のように天井に張り付いていたラトリスの精神構造がマジ怖い。

 むべなるかな、むべなるかな、とか、そう言ってまわりたい気持ちだ。


「夜間、あるいは部屋での護衛は私が担当する物だと思っていたのですが」

 天井に張り付いていた理由を聞くと、あっさりとそう答えてくる。

「だったら普通に部屋に入ればいいだろ!」

「ですが、それではハガネ様が気になさるのではないかと」

「天井に張り付かれた方がよっぽど気になるわ!」

 鋼は手加減抜きで怒鳴った。

 今回はシロニャが気付いたからいいが、仮にもし気付かずにベッドに横になって天井を見上げた時に気付いたりしたら、確実にトラウマ確定である。


「いえ、宿等では流石にお部屋にお邪魔はせず、天井裏や外に潜んでいるのですが、何分特別な環境でしたので」

「そりゃ飛空艇は特別……いやちょっと待て!

 お前もしかして、宿屋の時点でこっちを護衛してたのか?」

 鋼がそう口にした途端、だった。


「ハガネ、様……」


 ラトリスの雰囲気が、変わった。

 何が、とは言えない。

 だがいつもの冷静沈着な仮面が剥ぎ取られ、その地金が一瞬だけだが顔を出した。鋼にはそんな風に感じ取れた。


「な、何だ?」

 それでも、鋼は平静を装って、聞き返し、


「先程の『お前』という言い方にはゾクゾクしました。

 もう一度仰って頂けませんか」

「だ・ま・れ!! こんの、変態がぁあああああああああああああああ!!!」


 恒例となった絶叫ツッコミをお見舞いしたのだった。



「確かに、昨夜も立ち去った振りだけをして、屋根裏から護衛をさせて頂きました。

 勿論、ハガネ様がダンジョンに向かわれるのも後ろからこっそりと見守らせて頂きました」

 鋼の絶叫ツッコミをものともせず、というより言われた瞬間プルプル体を震わせ、大変美味しゅう御座いました、みたいな感じで一礼した後、普通に話の続きに入る。

 ここは藪をつつくと八岐大蛇でも出そうだと鋼も追及はあきらめ、話を戻す。

「ということは、その、色々、見てたんだよな」

 それは例えば、鋼が『ちきゅうはかいばくだん』を見張りの冒険者に渡す所を、ということだ。


「はい。ハガネ様がニコライ様にアイテムを渡す瞬間も見ておりましたし、加えて言えば、さっき一人で色々と呟いていた内容も、全て聞いておりました」

「あー。その、それについては……」

「他言無用、という事で宜しいでしょうか?」

「あ、ああ。うん。頼む」

 あっさりうなずかれたことに多少の違和感を持ちながらも頼んだ。

 その心配を見透かしたように、ラトリスはメガネを光らせる。

「心配なさらなくても、私はハガネ様を裏切りません。ええ、私には多少の鞭と蔑みの視線があればそれで充分です」

「お前本当に真性だな!!」

 鋼はびっくりして叫んだ。


 しかし、どうやらHEN☆TAIである所のラトリスにはこういう台詞は単なるご馳走でしかないと鋼も気付いた。だから、

「あんまりしつこいと、もう何にもツッコまないからな?」

 と、一応釘を刺したのだが、


「放置プレイとか寧ろご褒美ですが何か?」

「お前は無敵か!?」


 打開策なし。

 鋼も変態の前には形無しだった。



 この変態どうしてくれようと鋼は思ったのだが、その変態が口を開いて、鋼は思考を凍りつかせることになる。

「お話の相手は異界の神様ですか?」

「……何で、そんなことを?」

 自然と声が硬くなる。

 シロニャ、異世界の神とオラクルをしているというのは、誰にも話したことがない、鋼の秘密の、いわば根幹だ。

「ハガネ様の声だけとは言え、先程の会話は聞かせて頂きました。今更です。

 それに、ハガネ様が手に入れたフィートはキルリスを通して伺っております」

「そう、か」

 鋼は少なくとも、口に出して神という単語を出した覚えはない。だが、このラトリスならそれくらいたやすく見破りそうだという思いもあった。

 ……だってメガネキャラだし。


「これも、内密という事で宜しいですね」

「まあ、そりゃあ、ね」

「心配されなくとも、ハガネ様には大きな借りがあります。

 これがある以上、ハガネ様に期待を裏切り、失望されるような行為は………………………失望、軽蔑、叱責、罰、お仕置き……ふ、ふふ」

「そこで笑うなよ!」

 鋼の秘密は風前の灯だった。


「と、とにかく、そういうことで、ラトリスは護衛をするにしたって僕の声が聞こえないくらいの場所にいてくれ。落ち着かないし」

 何がそういうことかは自分でも分からないし、秘密を守ってくれるかについて不安はあったが、それよりラトリスを追い出すことが先決と鋼は決断をした。

「分かりました」

 それにあっさりと素直にうなずいて、ラトリスは普通にドアから出て行こうとする。

 しかし、

「あ、待った。最後に一つだけ、いいか?」

 鋼には、やっぱり確かめておきたいことがあった。

 ラトリスがうなずいたのを認め、問う。


「ラトリスって、昔からそんななのか?」

 それはつまり、昔からHENTAIなのかということなのだが、ラトリスはすぐにその意味を正確に読み取った。

「そうですね。確かに昔から、見つかれば絶対に生還出来ないような敵地に単独潜入する任務を好む傾向はありました」

「そ、そうか」

「今思えば、忍びの修練は一つ残らず苛酷でしたので、その中で痛みに悦びを見出す資質を育てていたのかもしれません」

「そ、そうか……」

 やっぱり昔からの一本筋の通った変態さんだったらしい。


「しかし、人からの罵声が癖になったのは至極最近です。

 護衛を決める日の朝、前日の報告をしている時に開花しました」

「何だそれ後付けくせぇ!?」

「ハガネ様に激しいツッコミを頂いて、私の中に眠っていた資質が目覚めたのです」

「聞きたくなかったそんな最悪な覚醒!!」

 しかしそうなると、いわばラトリスという変態のさなぎを更なる変態に変態させたのは鋼ということになるのだろうか。

 鋼は胸の内でそう独白したが、明らかにただ『変態に変態』というフレーズを使いたかっただけだった。


 だがさすがのラトリスは鋼の葛藤も何のその、

「これで、良いでしょうか。では……」

 変態のくせに無駄に颯爽ときびすを返し、ドアを開き、

「ああ。そうでした」

 そこで、ドラマの刑事がするような仕種で振り返る。



「私は、SとM、両方行けますので」


「何のカミングアウトだよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 本日何度目かになる鋼の絶叫は、飛空挺のドアに阻まれ、ラトリスまでは届かなかった。




【お、恐ろしい敵だったのじゃ……。

 まさにヘンティカンヘンタイじゃな】

「お前は何もしてないだろ……」

 いつの間にか舞い戻ってきてまたどこかで聞きかじったようなことを言うシロニャに、鋼は冷たい声をかけた。


「というか、何かのタレントでこうなってるんじゃないだろうな」

 あまりにも出会う人出会う人変人すぎると比較的鈍感な鋼でも思う。

 実はタレント『変態製造なんたら』の効果、とか、ありそうで困る。

【いやいや、前にも言ったじゃろ。

 ワシ的に邪道じゃから、恋愛感情含め、人の内面に干渉するようなタレントはほとんどないのじゃ。

 心配するでない。これは純粋に、おぬし自身の能力(ちから)じゃよ】

「いや僕が望んだみたいな言い方するなよ!? つうか変なルビ振るな!」

 あやうく鋼に不名誉な能力が付きそうになった。


【そうじゃな。そんなに気になるなら、調べればよいのじゃ!】

「調べる? タレントをか?」

 しかし、『技能完全隠蔽』の効果でタレントがそれこそ完全に分からなくなっていると言っていたのはシロニャだったはずだ。

【ふふ。その考えは甘いのじゃよ。

 例えて言うなら、コーヒーとシュガーを0対100でブレンドしたコーヒーより甘々なのじゃ!】

「それもうコーヒーじゃなくてただの砂糖だぞ!?」

 加えて言うなら何もブレンドしていない。


【実はさっき完成したのじゃよ! ちょっと待つのじゃ……】

「おい…?」

 鋼が訝しげな声を上げたのとほぼ同時、鋼の前の空間に、見覚えのある渦巻きのような物が出現する。

「ワームホール?」

 最初の時はすぐに閉じてしまったため、よく観察できなかったワームホールである。

 どこでも行けるドアのように完全に平面で、奥に何があるのか見えないのは旅に不可欠なワープできる扉のようにも見える。

「おおっ?」

 そこから、黒い手帳のような物が出現した。


 どうやらシロニャが送ってきたらしい。

 おっかなびっくりで、拾ってみる。

「何だ、これ」

【ふふ。それこそが我が秘密兵器が一つ、『タレント感知クン』じゃよ!

 その手帳は、身に着けた者の発動したタレントを感知し、勝手に記録してくれるのじゃ】

「おお?! 何かうさんくさい発明品みたいな名前の割にすごい効果!?

 だけどそれ、『技能完全隠蔽』を持ってても使えるのか?」

【たしかに『技能完全隠蔽』は技能が存在することを完璧に隠してしまう。

 じゃが、実際効力が存在する以上、その発動までは隠すことができんのじゃよ。

 これはそのシステムの穴をついた『完全技能感知アイテム』なのじゃ!】

「す、すごいな。何か登場以来一番頭良さそうだぞ、今のお前……」

 毎回こんな感じなら尊敬もできるのに、と鋼は思った。


 ここが攻め時と思ったのか、さらにシロニャはアピールを始めた。

【ふふん。これはワシが毎晩夜なべして作ったオリジナルのアイテムなんじゃ。

 おかげでしばらく、昼寝の時間が八時間とかになってしまったのじゃぞ】

「びっくりするほどありがたみないな!?」

 それは夜なべではなくて、単に昼夜逆転しているだけだ。


「しかし、本当にすごいな。こんなのどうやって作ったんだ?」

 神様の物体を作る能力は謎に包まれている。

 夜なべということは、まさか手帳の紙を一枚一枚糊付けとかしたのだろうか。

 その神秘への答えは……。

【え? 念じたら一瞬でパッと出て来たんじゃが……】

「夜なべどこ行ったよ!」

 その時点からして嘘だった。

 まあ、有用そうなアイテムをわざわざ作ってくれたのだから、文句を言う筋合いはないのだが。


「と、とにかく、これを使って当初の予定通り僕の能力を色々調べてみようか?」

 せっかくのシロニャの功績が台無し感あふれるものになった所で、鋼はあわてて提案した。

【う、うむ。そうじゃなそうじゃな! それがいいのじゃ!】

 シロニャも雰囲気が微妙になったのは分かっていたのか、すぐに賛同する。

 が、その時、


「ハガネ様、宜しいでしょうか?」


 ノックの音と共に、さっき別れたはずのラトリスの声。

「な、何?」

 作業を中断して鋼が扉を開けると、ラトリスは慇懃に一礼し、

「申し訳ありません。先程はお伝えするのを忘れてしまったのですが」

「うん?」


「後五分ほどで、この船はキョートーの街に到着致します」


 短い空の旅の終わりを、鋼に告げたのだった。




「がんばりすぎでしょ、脳散らすクン」




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[一言] さすが最速の飛空挺
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