第三十三章 ある取材記録、もしくはバレバレな解決編
――さて、今回の『突撃! 英雄リポート!』は、『払暁の一角団』団長にして、『暁の奇蹟』ニコライ氏に突撃取材をさせて頂きます。どうぞ!
「よろしくお願いします」
(ここでニコライ氏、スタッフ一同に一礼。氏の礼儀正しい性格が伺える)
――今日はお忙しい中、わざわざお越し頂きありがとうございます。
「いえ。最近ちょうど大きな仕事が終わったところで。休暇中だから、毎日時間をもてあましてるんですよ」
――その大きな仕事というのは、やはりあの、群狼大量討伐作戦ですか。
「そんな大層なもんじゃないですが、はい。狼退治ですね」
――あの作戦によって、向こう十年間、狼被害は十分の一以下になると予想されていますが。
「難しい話はどうにも。それは仲間に任せているので。ただ、人のためになる仕事だというのは聞いていましたから、全力でやらせてもらいました」
――その誠実さ、謙虚さが英雄になる秘訣ですか?
「あはは。参りましたね。これは地の性格で。そんなんじゃありません」
――しかし、『払暁の一角団』のメンバーの方からのインタビューでは、戦いの時はいつも前に出て勇敢に仲間を守り、それでいて全く偉ぶることのない、最高のリーダーだという話をお聞きしましたが。
「あいつら、そんなことを言ってたんですか。参ったな……」
(氏、頭をかく。若干言葉を選ぶ様子)
「俺は元々、農家の二男坊だったんですよ。冒険者も片手間で、家計を助けるとかそんな意識でやってただけなんです。だからほんとに、偉い人間とかではないんですよ」
――偉業を成した後でも最初の心を忘れない。それがあいつの一番すごい所だ、と仰っていた方もいらっしゃいましたが。
「参りますね。何でもプラスに持ってこうとするんだから……」
(氏は困り顔で再び頭をかく)
――ではズバリ、ご本人からすると、ご自身がここまで来れた最大の要因は何だったと思いますか?
「そうですね。こう言うと幻滅される方もいらっしゃるかもしれませんが、やっぱり運ですね」
――運。幸運、ということでしょうか。
「はい。まず半分は、最高の仲間に巡り会えたという幸運。そして、残り半分は……これについては本当にただ幸運だったとしか言えません」
――それはどういう意味でしょうか。
「実は、俺は昔トーキョの街で冒険者をしていた頃、ダンジョンを完全制覇したことがあるんです」
――二つ名の由来にもなった、あの有名な『暁の奇蹟』事件ですね。何でもレベル60のダンジョンを、たった一日で制覇してしまったとか。
「はい。あれをやったのは俺ですけど、俺は何もしていないんです」
――何もしていない、というのは。
「その時の俺はレベル10そこそこの弱小冒険者で、レベル60のダンジョンでなんて、戦えるはずなかったんですよ」
――それは、あの奇跡の裏に何らかの不正があったという意味ですか。
(問題発言に、スタッフが湧き立つ。ただし責任者の判断で取材は続行)
「ああいえ。不正、と言うのかどうか。とにかく、納得して頂くには全部お話しするしかないでしょうね」
――お願いします。
「あの日、レベル60のダンジョンが見つかったってことで大騒ぎになった現場に、俺はちょうど居合わせたんです。何せレベル60ですからね。本当は俺なんかが役に立つことはないはずだったんですけど、高レベルの連中が軒並み作戦会議って時に、誰か見張りが必要だって話になって、その時に俺が立候補したんですよ」
――レベル差がかなりありますよね。それでも引き受けたんですか。
「怖かったですけど、報酬の高さに釣られたのが半分、あとはその場の空気と、とにかく何かやらなくちゃっていう気持ちもあったんだと思います。とにかくその選択が、俺の人生を大きく変えることになりました」
――その時、何があったんですか。
「見張りを始めてしばらくは、何も起こりませんでした。とにかくダンジョンの入り口が開いたら全速力で逃げてギルドに走ると決めて、びくびくしながら見張りをしていると、そこに人が近付いてきたんです」
――どんな人だったんですか。
「暗かったですし、相手はフードを目深に被ってましたので、顔は見ていません。でも、声の感じからするとまだ少年だったように思います。その彼が、俺に不思議な頼みごとをしてきたんです」
――頼みごと、ですか。
「はい。自分が持ってきたアイテムを、ダンジョンの中に置いて来て欲しい、というものでした」
――引き受けたんですか。
「ギルドからの要請だと言われて、断れなかったんです。今から考えればおかしな話ですし、後から聞いたらそんな事実はないって言われたんですけど、その時は普通の精神状態じゃなかったんですね」
――ちなみに、そのアイテムというのは。
「大きな楕円形の鉄の塊みたいな……ちょっと説明しにくいものですね。とにかくそれを持ってダンジョンの中に入って、スイッチを入れてすぐに出て来ること。それが頼みごとの内容だったんです」
――そのアイテムの名前は覚えていませんか。
(ここで氏は何かを思い出そうとする仕種をして、やがて首を振った)
「思い出せませんね。ずいぶんと変わった名前だったんですが。何か壊すとか、そんな名前だったような気はします。で、とにかく、それを持ってダンジョンの中に入ったんです」
――中にはモンスターがいるんですよね。怖くはなかったんですか。
「依頼を引き受けた時と同じですよ。めちゃくちゃ怖かったですけど、妙な使命感がありましてね。それに入ってすぐの場所に置いてスイッチを入れるだけでいいと聞いたので、とにかく入口にモンスターがいないことだけを祈ってました」
――入口近くにモンスターはいたんですか。
(そこで氏は苦い笑いを浮かべ、大げさに手を横に振った)
「いたら、俺はこの場にいませんよ。ただ、作業をしている間、入口の開閉は頼みごとをしてきた少年に任せてたんですけど、後悔しましたね。入った瞬間に、ダンジョンの中に閉じ込められたらどうしよう、とか。結局何もありませんでしたけど」
――じゃあ、作業は無事に終わったんですね。
「そうですね。ドキドキはしましたけど、あっけないくらい簡単に終わって、そうやって少し冷静になると俺もおかしいなと思い始めたんですよ。だから、その怪しい少年に、さっきのは一体何なんだと迫りました」
――その少年は、なんと答えたんですか。
「アイテムのことは、何も。ただ、冒険者カードを見ていた方がいい、と言いました。半信半疑というか、状況もよく分かりませんでしたけど、カードを取り出しました。すると、本当にとんでもないことが起こったんです」
――何が起こったんですか。
「カードが爆音を上げたんです」
――冒険者カードにはそんな機能がついているんですか。
「ああ、いえ。そうではなくて、一度に大量にレベルアップしたせいで、そう聞こえたんですね。音が鳴った後にカードを見ると、16だったはずの俺のレベルが、一気に94まで上がっていたんです」
――まさか。
「その時の俺が一番そう思ってましたよ。しかも直後に『ダンジョンを完全制覇しました』なんてメッセージが頭に浮かんでくるし、後ろを振り返ればさっきまであったはずのダンジョンが影も形もなくなっているしで、パニックになりました。そうやって混乱している内に、フードの少年もいつの間にかいなくなってましたしね」
――その時、一体何が起こったんでしょうか。
「俺が運んだアイテムが、ダンジョンの敵を一掃するような超強力なマジックアイテムだった、としか考えられませんね。それ以外に80近くもレベルが上がる原因に思い至らないというのもそうですけど、ダンジョン内に誰もいないのはそのフードの少年にもしつこく聞かれて確認しましたし、そうなるとダンジョンが完全制覇された説明がつかないですから」
――そんなことが本当にありえるんでしょうか。
「体験した俺でもまだ半信半疑ですよ。唯一の証拠になるはずのそのマジックアイテムはダンジョンごと消滅しちゃいましたしね」
――その少年の正体に心当たりはなかったんですか。
「当時も今も、心当たりは全くありませんよ。たぶん俺の生涯を通して一番の謎の人物で、恩人です」
――その少年を探そうと思ったことは。
「突然英雄に祭り上げられて忙しかったですからね。落ち着いてから少し探してみようとしましたけど、手がかりが何もなくて。でも今は、俺のところに来たその少年の姿をした誰かは、近くに隠遁していた賢者なのではないかと考えたりしています。強力な力を持っているのに、人里には出て来ない、そういう類の。だけど街の危機に黙っていられなくて、自分が表に出ない形でそれを解決しようとした。……まあ、全部俺の妄想ですけどね」
――そうですか……。『暁の奇蹟』が終わってからの偉業については、我々もよく知っている所ですが、そこからは英雄ニコライの伝説の通り、と考えてよろしいのでしょうか。
「英雄かどうかは知りませんが、きっとそうでしょうね。94なんて馬鹿げたレベルのおかげで、HPには事欠きませんでしたから、こんな自分を英雄なんて呼んでくれた恩返しに、と思って、積極的に前線に出て行くようになりました」
――なるほど。英雄ニコライ誕生の秘密は、そんな所にもあったということですね。
「はい。だからもし英雄志望の人間がいるとしても、俺の真似をするのはちょっと無理だと思います。誰もが怪しいフードの男に会えるわけじゃありませんから。それでも諦められない人は、仲間を信じること、努力を続けることを大切にしてください。真摯に向き合えば、どちらもきっとあなたに応えてくれると思います」
――最後まで謙虚さを忘れない、『暁の奇蹟』ニコライ氏でした。本日は本当にありがとうございました。
「ありがとうございました」
(取材終了。挨拶と共にスタッフが撤収を始める)
「あ、ちょっと待ってください」
(焦った様子で席を立つニコライ氏)
――何かありましたか。
「思い出しました。あの少年に渡されたマジックアイテムの名前。たしか、『何とか破壊爆弾』だったと思います。何を破壊するのかは忘れましたが。……あ、今さら言っても、使えませんよね」
――いえ、わざわざありがとうございます。もし出来たら、編集で差し込んでおきます。
「すみません。ありがとうございました」
(氏が再び一礼。最後まで本当に礼儀正しい人である)
(追記:なお、この取材については対象者の発言内容の一部に、世間に不要な混乱をもたらす可能性があるとの判断からお蔵入りが決定。記事については差し替え措置を取ることとする)