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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第六部 異世界勇者編
33/102

第二十九・五章 生と死のはじゃまで

「おお はがねよ しんでしまうとは なさけない」


「なにやってんの? シロニャ」

 鋼が気が付くと目の前にシロニャがいた。


 だがその鋼の淡白な反応にシロニャは大変ご立腹した。

「な、なんじゃよもー。ひさしぶりの再会じゃろ?

 こう、もっとあるじゃろ、なんか、こう!」

「え? ああ、うん。……ひさしぶり?」


「そうじゃないじゃろ! もっとこう、

 お、シロニャちゃん、だよね。やっぱかわいいねぇ。

 うん、写真でもかわいかったけど、実物はもっとかわいいよ。

 え? ほんとほんと、オレお世辞とか言わないし。

 あ、そうだ。この近くにオレの店あんだけど、寄ってかない?

 いやいや、怖くないって、大丈夫。

 シロニャちゃんならすぐ人気者になれるよ。

 ほら、友達だってできるし。行こうぜ!

 的な何かがあるじゃろ!」

「ねえよ! 何の勧誘だよ、それ!」


「いや、ほんと、何の勧誘じゃったんじゃろうな、あれ。

 ただのオフ会のはずじゃったんじゃが、やっぱり姉様の顔写真を載せたのがまずかったんじゃろうか。

 あの時はこわくなって急いで猫化して逃げたんじゃが……」

「ほんと何やってんの、お前!?」

 鋼は自分の状況も忘れて怒鳴った。


「じゃ、じゃが、ちょっとくらいほめてもバチはあたらんのじゃ。

 むしろほめないとバチを当てるのじゃ」

「神様職権乱用だな」

「ただし太鼓の方なのじゃ」

「地味に痛そうだ!」

 職権乱用ではなかった。


「ほめると言っても、ちょっと、その服どこで買ったの? 渋谷?

 とか言ってくれるだけでいいのじゃよ?」

「お前の中で渋谷が憧れの街だということは分かった」

「うむ! ああ夢の街428。いつかあそこに行って、ニュー〇ェネ事件に巻き込まれたり事ある毎に倒壊する1〇9(真ん中は伏字です)を見るのが夢なんじゃ」

「行っても無理な気はするけど、夢があるっていいことだよね」


「それと、あえてツッコまずにいたんだけど、それ、服、パジャマだよな?」

 シロニャが着ていたのは、青い水玉模様の、ひたすらにファンシーかつドリーミーかつ子供服丸出しなパジャマだった。

 渋谷発かは知らないが、たぶん違うだろう。

「う、うむ……」

 ここでなぜかシロニャの表情が曇った。


「実は、今ワシの家にお客がいるという話はしたと思うのじゃが、そいつがもうほんと、鬼なんじゃ」

「お前の近く、鬼多いな」

 かくいう鋼も鬼の一人である。

 たぶん鬼科鬼目のしりとり鬼。


「とにかく、そいつから逃れるため、ワシはこれみよがしにパジャマに着替え、三歳児ということを盾にもう眠るのじゃ宣言をして、ようやくここに……」

「あはは。シロニャが参るなんてめずらしいな」

 あんなに鈍感力高いのに、とは鋼の心の中の感想である。


「笑いごとじゃないのじゃ! あいつめ、ワシのことをシロニャンシロニャンと……あ!」

「ど、どうした?」

 突然シロニャが大声を出したので、鋼はビクッとして大声を出しそうになったが、その大声にシロニャがビクッとして大声を出したらまた鋼がビクッとして大声を……。

 とにかく鋼はビクッとしたが大声は出さなかった。


 だがシロニャには、鋼の葛藤も気にならないほどの懸案事項があるらしかった。

「そうじゃった。こんな話をしてる場合じゃないのじゃ!

 実はおぬしに、非常に驚くべき、残念なお知らせをしなくてはならないのじゃ」

「な、なんだよ?」

 いつにないシロニャの鬼気迫る様子に、鋼は鼻白んだ。


「言おうか言うまいか悩んでおったのじゃが、この話をせずに、おぬしと和気藹々と語らうことなど、ワシにはできぬのじゃ。

 よいか? すぐには冷静に受け止められぬかもしれぬが、落ち着いて聞くのじゃぞ?」

「あ、ああ」

 神妙な鋼の態度にシロニャも腹を決め、重い口を開く。



「じ、じつは……実はワシの本当の名前は、シロニャじゃない、シロナなのじゃ!!」

「いや、最初から知ってたよ!!」



「なんと!」

 びっくりするあまり口をОの字にするシロニャ。昭和のマンガ的演出である。

「さ、さすがじゃな。まさか、見破っておったとは……」

「いや、その、……うん」

 そういえばバレてないと思ってたのか、とうろ覚えの記憶を探る鋼である。


「もういっそ、シロニャってことにすれば?」

「う、うむ?!」

「今さらシロナでもないしさ。いっそ改名するとか」

「それは、しかし、うーむ」


「あ、あのじゃな。おぬしら肉体に縛られる人間や獣と違って、次元を渡り歩く我ら神などの存在は観念に縛られるものじゃからして、誰かの影響で名前を変えるなどというのはその……うむぅ」

 歯切れ悪くも饒舌なシロニャに首をかしげる鋼。


「で? 結局?」

「…………………………ワシは今日からシロニャなのじゃ!」

「よし! 神族シロニャ、コンゴトモヨロシク!」

「それはどっちかというとワシの台詞なのじゃ!」


 と、名前問題が一段落した後で、

「ところで、ここどこ?」

 鋼がここに来てから真っ先に言うべきだった質問をすると、いつもの軽い調子で返事が返ってくる。

「あ、ここはアレじゃ。生と死のはざまの世界」

「そっちの方が重要じゃね!?」

 と一応は鋼も驚いてみたが、実は結構想定の範囲内だった。


(やっぱり僕、完全に死んでた感じあったしなぁ)

 後はただ、最期の言葉がきちんと届いていることを祈るばかりである。

「で、シロニャはいったいどうしてここにいるんだ?」

 とりあえず考えるのは後回しにすることにして、鋼はとりあえずシロニャに向き直った。


「うむ。ここに呼びつけたのは他でもない。おぬしとの約束を、果たしに来たのじゃ」

「約束?」

 首をひねる鋼に、大きな何かと、小さな何かが渡される。

「ほれ。メガド〇イブとワンダース○ンカラーじゃ」

「まだ生きてたんだ!? そんな地味な伏線!!」


「本当は墓に供えるつもりじゃったんじゃが、こっちの方がいいじゃろ?」

「ん、んん、まあ……」

「ま、メガド○イブはもう壊れてるんじゃが」

「壊れてんのかよ!」


「う、うむ。やっぱり百円市で買えたのはおかしかったのじゃ」

「そして百円だったのかよ!」

「あ、税抜なので百五円じゃな」

「どうでもいいわそんなこと! 何で五円で勝ち誇ってるんだよ!?」


「そして一方、ワンダース○ンカラーじゃが」

「何事もなかったようにスルーかよ!」

「これは美品の名に恥じぬ保存状態じゃな。……百円にしては」

「こっちも百円市かぁああああああ!!」


 最後に鋼が一応叫んでオチがついたところで、ちょっとプレイしてみる流れになった。

「で、魔界塔士とロマンシング、どっちがいいのじゃ?」

「すでにSa・G○一択!?」

「ふふ。それがワシのさがなんじゃよ」

「だれうま!?」

 鋼はもはや完全に修学旅行の夜のテンションだった。


「冗談じゃよ。たしかに驚異の白鳥色には興味があるんじゃが、今日の目的は別にあるのじゃ!」

 そう言ってシロニャが出したのは、

「例の狩りゲーム!」

 しかもテレビ画面HD画質のド迫力バージョンである。


「せっかくおぬしが死んでフリーになったみたいじゃし、銀竜倒すの手伝ってほしくての。

 ワシは涙を飲んで不慣れなテレビ画面でやるから、おぬしはそっちの携帯機を使うのじゃぞ?」

「いや、今さらっと死んだって言ったよな!」

 と、それ自体も聞き捨てならなかったのだが、そう言ってシロニャが渡してきた携帯ゲーム機を見て、


「って、ショッキングレッド!」


 鋼はショッキングした。

 ちなみに実際にはラディアントというらしい。



 だが、その直後、


「こ、コウ!?」


 なんと、鋼の体が透け始めたのだ。


「ごめん。もう、時間みたいだ……」


 鋼は透き通って後ろが見えるようになった手で、ぽりぽりと頭をかく。


「な、なんじゃと!? そんな……こんな、早く!」


 狼狽するシロニャ。だが、鋼の体の透過はどんどん進んでいく。

 もう時間がないのは、誰の目にも明らかだった。


「僕も、さ。ひさしぶりにシロニャに会えて、うれしかったよ」


 鋼の穏やかな、あまりに穏やかな言葉にシロニャは涙を撒き散らしながら叫んだ。


「いやじゃ! いやなのじゃ! おぬしが、おぬしがいなくなったら……

 ワシは、ワシはどうやって……、

 銀竜を倒せばいいのじゃぁああああああああ!」


「銀竜の頭の近くで大きなタルの爆弾使うと頭部を破壊できて便利らしいよ」



「OKなのじゃ!」

 切り替えの早い神様だった。


 こうして、鋼とシロニャの久方ぶりの逢瀬?はあわただしくもこうして幕を閉じた。






 ただ、

「あ、連コン返してもらうの忘れたのじゃ」

 シロニャの小さな胸に、小さなしこりを残して……。


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[気になる点] 連コン、まだポケットに入ってるの? どっかに仕舞い込んであったら、ここに持ってこれないんじゃ…?
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