第二十七章 激闘、異世界勇者!
アスティは、倒れ行く鋼を、何も出来ずにただ見つめていた。
「ハガネ殿…?」
倒れた鋼は、動かない。
代わりに安っぽい絵の具のような赤がしみだしてくる。
「……これ、で、死なない?」
立ち尽くすアスティを我に返らせたのは、皮肉にも鋼を討った裏切り者のささやきだった。
「き、さまぁあ!!」
叫び、斬り付ける。自らの感情を制御出来なかった。
「よくも、よくもよくも、ハガネ殿を! おぉぉ、ぁああああああああ!!」
そして、その必要もないと思った。
怒りに任せ、暴走に近い濃度で聖色を解放、渾身の力で切りかかる。
「すごい、気迫。でも……」
巨竜にこそ及ばなかったものの、数々のモンスターを一刀の下に切り捨ててきたアスティの剣が、
「……徒労」
空中で、ぴたりと静止する。
まるでクロニャの前で不可視の壁に受け止められたかのように、アスティがどんなに力をこめても全く押し込めない。
「何だ!? 一体、何をした!」
叫ぶアスティに、クロニャは答えない。
「やはり、いび、つ。
その、細腕に、トン単位の力、が、こめられて、いる。
この世界、でなければ、物理的、に、ありえないこと」
実験動物を観察するような目で、アスティを見るともなしに見ている。
剣を止められた手段は分からなかったが、鍔迫り合いでは分が悪いと感じたアスティは、一度後ろへ跳び、
「出し惜しみは、しない!」
ワンステップで姿勢を修正、膝を曲げ、全身にばねをためて、
「必殺必中! 白夜の静謐!!」
――瞬間、世界から音が消え、光が満ちた。
そして、知覚が奪われたその一瞬、まさにほんの瞬きの間、人が人であるが故に生まれる絶対的な意識の空白に、アスティは空を駆ける。
達人にとっては無に等しい距離を、一瞬のさらに数分の一の刹那で駆け抜け、勢いに任せてクロニャに痛烈な斬撃を浴びせ……られない!
「な、に…?」
斬り付けようと近付いたアスティの身体自体が、正体不明の何かに阻まれて止められていた。
「徒労と、言った」
気が付けば、アスティの身体は宙を舞っている。
防御の手段も、攻撃の手段も何もつかめなかった。
だが、訓練された肉体は己が役目を心得ている。空中で姿勢制御、きちんと両足から着地する。
正体不明の攻撃手段を持つ相手に、無策で突撃するのは下策の極み。
いつものアスティであれば、そのようなことを言って一度様子見をしたかもしれない。
だが、
「は、あぁあああああぁああぁああ!」
今のアスティは止まらない。そんなつもりは微塵もない。
ただ、たぎる怒りがアスティの胸にあって、それだけが今の彼女の原動力だった。
その怒りを、想いを、剣戟と言葉に変えて打ちつける。
「ハガネ殿が、あいつが、お前に何をした!」
一秒間に三撃入ると所属していた騎士団の間で恐れられた、アスティの神速の打ち込み。
「とくに、何も」
しかしそれは、クロニャの前では何の意味もなさない。
何らかの魔法で相殺している訳ではない、とアスティは判断する。
だってクロニャは、アスティの剣を、斬撃を、厳密な意味では見ていない。
どんなに速い一撃も、どんなに苛烈な打ち込みも、クロニャは全く目で追わない。
「では、なぜだ! なぜ、彼を?!」
ななめ下から足を狙ったアスティの剣は、
「この、世界、を、救わせない、ため」
やはり造作もなく防がれる。
だが、不可視の壁にぶつかっている、というのとも違うと今は分析できていた。
近くにやってきた斬撃だけ、最小の力で受け止められている。
「世界を救わせないため、だと!?
そんなことを望む貴様は、一体何者だ?
悪魔か? あるいはこの世を滅ぼすと伝えられる、魔王とでも!?」
嘲笑と共に剣を振るう。息もつかせぬ連続攻撃。
「……勇者」
「な、に…?」
だが、その言葉に、アスティの動きはたしかに一瞬だけ止まった。
それを気にも留めず、そもそもアスティの攻撃などないかのような無感動な仕種で、クロニャはアスティを見ている。
淡々と、ただ事実だけを述べるように、告げる。
「わ、たし、は、異世界の、勇者。無数、の、世界、を渡り、正義、を、為す者」
「勇者? それに、正義、だと!?
クロニャ! 言うに事欠いて貴様は……いや、貴様の本当の名は?」
あまりに想定外の答えに、アスティは飲まれまいと必死に気を張る。
「名前、など、ない。世界を、渡る、間に、すりきれて、消え、た…」
「名前が、ない?」
それは、アスティにどこか不吉なものを感じさせた。
名前とは、自身を形作る大事な物で、他者に自分を認識させる重要な物でもある。それが存在しないというのは、どういうことなのか。
「本質的、に、『果て無き放浪者』である、わた、しに、きまぐれ、で、も、思いつき、でも、名前をつけた、ことが、驚嘆すべ、き、事実。
だがそん、な例外事項、も、彼の死と、ともに、棄却、される」
「…っ!」
ただ立っているだけの少女から、アスティは圧倒的な威圧感を覚えた。
「くっ!」
アスティは後ろに跳んで、距離を取る。
このままでは埒が明かないという判断なのか、それともクロニャを名乗る少女の異質さに気圧されたのか、それは自分でも分からなかった。
だが、彼女を赦してはならないという想いだけは、消え去りはしない。
勇者などという世迷言を聞いて、アスティは目の前の少女を神敵として討つことを決めた。
「悪いが、我欲のために人を殺めた者に正義を名乗られては、元騎士の名が廃る!」
数メートルほどの距離を置いて、精神を集中。力を溜める。
この間に攻撃されては反撃のしようがないが、そんなことは起こらないだろうということをアスティは敏感に感じ取っていた。
そして、その力を一振りの剣に凝縮させ、放つ!
「神の十字をその身に刻め! ノーザン・クロス!!」
圧倒的威力を持つ、十字の斬撃が飛ぶ。
『白夜の静謐』が最速最高の奥義なら、この『ノーザン・クロス』は最大最強の奥義。消費HPが莫大という欠点を持ち、また弾速と取り回しという点では同系の『サザン・クロス』に一歩譲るものの、威力や貫通力という点では上回っている。
しかし、それも、
「これすら、効かないと言うのか…?」
クロニャには、何の意味もなさなかった。
「距離でも、大きさ、でも、速度でも、ない」
淡々と、クロニャは告げる。
「わたし、の、能力『絶対的隔意』は、悪意、敵意、害意、それらの感情を、その、発露、を、はばむ」
なぜなら、感情を荒立てる必要がないからだ。
「わたし、を、傷付けよ、うとする意志、それ、が、存在する、場所、すべて。そ、れが、わた、しの、絶対防御、領域」
アスティも、アスティの技も、クロニャにとって何の脅威でもないから。
アスティにも、それが痛いほどに分かってしまう。
だがそれが分かっていても、
「私は、剣を引く訳にはいかない!」
アスティは逃げたりしなかった。
その様子に、クロニャは首をかしげる。
「……なぜ?」
「愚問だ。それよりも、お前は私の質問に答え切っていない」
「聞く、意味がない」
「ある。あいつを、いや、ハガネ殿を殺めた理由を聞き、私も貴様を殺す」
「理屈、に、あわない」
なおも首をかしげるクロニャに、アスティは獰猛に笑ってみせた。
「理屈に合わない? いや、それだけが唯一の解答だ。
なぜなら、私は、私は今、怒り狂っているからだ!」
「!?」
放たれる、神速の踏み出しからの抜き打ち。
それは、絶対の防御に守られているクロニャを半歩後ずさりさせるほどの、気迫のこもった物だった。
だが当然のように、攻撃自体は全く届きもしない。容易に防がれる。
しかし、アスティはひるまない。
「もう一度、聞く! 異世界の勇者などではない、ほんの数時間だけ私たちの仲間だったクロニャに聞く!
なぜだ! なぜ、あいつを、ハガネを殺した!?」
アスティは、いつの間にか鋼を呼び捨てていた。だが、激情の中、その呼び方は妙にしっくり胸の内に収まった。
その、強すぎて人を巻き込まずにはいられない想いに、クロニャの表情が初めて揺れた。
そしてアスティは、カチリ、と、クロニャの中で、何かのスイッチが切り替わった音が聞こえた気がした。
「わたし、だって……。彼が無害であれば、もう少しクロニャを続けても構わなかった。けれど彼の力は常識外れに強力かつ無軌道で、だからわたしは放置する選択肢を取れなかった」
「く、ぅ?」
突然流暢になったクロニャは、防御にしか使っていなかった力を、わずかながら反撃に用いた。
不意打ちを受け、アスティは今度は受け身も取れずに地面に倒された。
「この世界、認識番号β34715地球型箱庭世界は、『新神類育成計画』という神様のもっとも危険で気まぐれな計画の中核であり、現存する世界の中で潜在的危険度がもっとも高い世界の一つ」
「いったい、何の……ぐっ!」
息つくヒマすらない。
聖色の加護を持っているはずのアスティが、クロニャの不可視の攻撃を、まるで防ぎ切れていない。
「異界の神が送り込んだ彼の力は、近く滅亡するはずのこの世界を救う一縷の希望となる可能性がある。危険な世界が存続する危惧を看過するのは、わたしの性質上許容できない。救世主の芽を摘むのは、わたしの役目。それがひいては真神へと成長・進化する可能性があるのなら、なおのこと」
「く、そ、そうそう思い通りに、は……」
空中であれ、地上であれ、クロニャの攻撃に制限はない。
そして、攻撃の瞬間だけ現れる圧力には、剣で対抗する術はない。
「この世界では、力も命も軽すぎる。誰もが簡単に強い力を使い、その力で簡単に人や動物や魔物が死んでいく。こんな歪な世界を、わたしが見逃していいはずがない。そしてその歪さの頂点が、彼の在り方だと感じた」
「どう、いう……」
もうアスティは、クロニャの攻撃に逆らうことをやめていた。
どうあっても防げず避けられないなら、甘んじてそれを受ける。
「わたしが他の世界で見てきた英雄と呼ばれる人間には、強大な自分の力に対する自覚と、それを制御する、あるいは行使する、強い意志と心があった。けれど、彼にはそれが全くない」
「それ、は……」
アスティは咄嗟には反駁出来なかった。その懸念は、アスティも心の奥底で感じていた。
「彼には強い力に見合う意思がない。彼には強い力に伴う責任がない。彼には強い力に殉じる覚悟がない。彼は無軌道で刹那的な、まるで無知で無邪気な子供。
だから、彼は……」
――彼は、害悪でしかない。
そう言い切って、クロニャは、その長い語りを終わらせた。
同時に、これまで絶え間ない激しい攻撃にさらされたアスティの体が、どたり、と地面に落ちた。
「これ、で、話は、おわり。わたし、は、彼、を、殺す」
クロニャの口調が元に戻る。
ボロ雑巾のように地面に転がるアスティを一瞥して、ふたたび鋼に視線を移そうとして、
「勝手に、話を、終わらせるな……」
ボロボロになりながらも立ち上がるアスティに、わずかに眉をひそめた。
「もう、そちらが勝つ、手段、など、ない。最初、から、徒労。
それと、も、わたしに、勝つ、手段が、あるいは、わたしに、勝る、大義、が、あるの、か?」
「大義なんて、ない。そして、そんなもの、必要ない」
アスティは鋼という人物に思いを馳せる。
彼女は鋼のことを尊敬し、敬愛し、あるいは恋慕しているという自覚はあるが、それがイコール彼が素晴らしい人間であることを意味しないのは理解している。
むしろ、感謝や憧憬、思慕の情というフィルターを抜きに彼を見れば、確かにクロニャの言う通りの人物造形に行き着く。
それでもアスティは、剣を取る。
「あいつは、ハガネは、たしかに先のことなんて何も考えていないし、面倒なことは愛想笑いで全部受け流そうとして、楽をするためなら平気で人を騙す、最低な奴で……」
「なぜ、あきらめな、い?」
もうその剣にはさっきまでの勢いはなくて、すぐに弾き返されるのに。
「自分では一番常識人で気が回ると思っていても、実際には人の気持ちなんて全然読み取れなくて、ツッコミを入れる時だけやたらと元気になる、おかしな男で……」
「なぜ、分からな、い?」
なのに諦め切れず、ふらふらと、それでもクロニャをしっかり見据えて、起き上がる。
「おまけにあいつと一緒にいると、バカなことにばかり巻き込まれる。この短い付き合いの中でも一体何度、こいつをぶん殴ってやりたいと思ったことか分からない。
聖人の器もなければ英雄の気概もない。おちゃらけた男だ。
だが、だがしかし、貴様も…!」
「なぜ、お前は……」
その様子に、クロニャも戸惑いを見せる。
そこにたたみかけるように、アスティは進む。
伝えるために、気付かせるために。
「貴様も、そんなあいつを見て、笑っていたではないか!!」
「笑って、ない」
アスティの剣はまたもや弾かれて、しかしクロニャに先程までの余裕も無関心もない。
そこには彼女がクロニャとして過ごした時と同じような、消しきれない感情が、動揺と逡巡の色がある。
「あいつと共に過ごして、楽しんで、いたではないかぁ!!」
「楽しんで、なんか、いない!」
今度の一撃に容赦はなかった。
アスティはあっけなく吹き飛んで、地面を転がる。
「そうだ。それで、いい」
だがそれは、クロニャが感情を見せたということ。
アスティの剣が、言葉が、クロニャにまで届いたという証でもある。
「だから少なくとも、徒労では、ない」
しかしクロニャも、自身にわずかなりとも変化を起こしたアスティを、ただ座して見ている訳ではない。
「さすがに、頑丈」
初めて、かもしれない。クロニャの視線が、きちんとアスティを『敵』として捉え始める。
それを敏感に感じ取ったアスティは、
「頭に血が上って、もう一つの切り札をすっかり忘れていた」
懐から丸薬を取り出して、即座に飲み下す。
「これで私は、『無敵』の戦士だ」
それは、かつて三個あった内の最後の一個。巨竜戦で使い切らなかった『無敵の丸薬』だ。
これを使って二十秒の間は、いかなる手段を用いても、服用者のHPやMPを減らすことはできない。
「関係、ない」
だが、クロニャの攻撃はその『無敵』をも貫く。
不可視の打撃がアスティを襲い、彼女はよろけ、吹き飛ばされ、呼吸を阻害され、地面に打ち倒される。
しかも、信じがたいことに、
「なぜ、痛みがある? ダメージを、負う?」
二十秒間、決して傷つくことのないはずの肉体が、損傷を負っていた。
「システム外能力」
「なに?」
「わたし、の、力は、異界の、もの。この世界の、理に依らない、能力。
それ、は、この世界の法、では、防げ、な、い」
アスティは、戦慄する。
その時、初めて本当に、このクロニャと名付けられた少女が『この世界のモノ』ではないことに気付かされた。
圧倒的に、異質。
(私、では、勝てないのか…?)
絶望が、アスティを襲う。
「そろ、そ、ろ。だまって、もら、う」
トドメを刺そうと言うのか、身動きできないアスティに、クロニャはその手を向けて、
カチャン!
その瞬間、クロニャの後ろから高速で飛来した何かが、クロニャの能力によって弾かれた。
地面に落ちたのは、小型の投げナイフだった。
「あなた、まで、無益な、真似を?」
アスティもナイフを投げた人物を求めて顔を上げる。
そこにいたのは、
「ミレイユ!」
「んー。完全に裏を取ったと思ったんだけど」
ナイフを片手に、ぽりぽりと頬をかく暗殺者の少女の姿だった。
クロニャは新たな襲撃者に向き直る。
アスティに背を向けたのは、アスティが何もできないと踏んだというより、自分の防御能力への絶対的な信頼からだろう。
「あなた、に、気付いては、なかっ、た。でも、無駄」
「ふぅん?」
「わた、しの、防御、は、自動的。
体力気力が、十全な、ら、睡眠中でも、悪意を、はばむ」
「つまりその防御を破りたいなら、疲れさせるか、傷でも負わせて弱らせろってワケね。
分かりやすい攻略法ありがと」
絶望的とも言える情報に、ミレイユは不敵な笑みを返す。
「ミレイユ? 一体、今まで何を?」
アスティの言葉に、ミレイユは渋い顔をした。
「何を、ってね。ま、護衛が仕事だし、こいつ何とかしたかったんだけど、アスティ強すぎて割って入る隙もないしさ。
アスティが勝てないのに、あたし程度が正面切って戦っても勝てるはずないし」
「それは、確かにそうだが、しかし…!」
「それにまあ、すっかり手遅れってワケでもないみたいだし。
ほら、あいつ、まだ生きてるみたいだよ」
悠然と構えつつ、クロニャから視線は外さないまま、ミレイユは指で鋼を示した。
アスティの声がにわかに喜色を帯びる。
「ハガネが!? あ、いや、ハガネ殿が?」
「うん。で、二人が戦っている間に一応こっそり回復とかしてみたけど、効かないんだよね。これがまた」
肩をすくめるミレイユに、クロニャが回答する。
「攻撃、まだ、してい、る。
むしろ、これだけ、やって、死なない、の、が、異常」
その言葉に、アスティはハッとして鋼を見た。
あの瞬間、鋼の胸を貫いた攻撃は、いまだに続いているのだ。
逆に言えば、胸を貫かれ続けてなお、鋼は生き永らえ続けているということだが。
そして、
「そう、いう、こと、だ……」
戦場に、少女たちが待ち望んだ声が響く。
「ハガネ!」
「あんた…」
「……………」
その少年、鋼は、はいつくばったまま、それでも自らの敵、クロニャと名付けた異世界の勇者から目を逸らさず、その口を開く。
「ぼくが、寝てるのを、いいことに、ずいぶ、がふっ!」
やっぱりしゃべるのは無茶だったのか、言葉と一緒に血まで吐いた。
「ハガネ!」
アスティが叫ぶが、それでも鋼は話すのをやめない。
「ずいぶん、好き勝手、言ってくれた、な! ……二人とも!」
まさに血と共に吐かれた言葉には、抑え切れない強い激情がこもっている、ように聞こえた。
だが、『二人とも』という言葉に、他二人より少し冷静なミレイユが首をひねった。
鋼は血反吐を吐きながらも、それでもどうしても言わなければならない言葉を口にするように、顔を上げ、口を開く。
「異世界の勇者、地球型箱庭世界、絶対防御領域、白夜の静謐、『新神類育成計画』、能力、異界の神、『絶対的隔意』、『無敵』の戦士、徒労、『果て無き放浪者』、世界滅亡、システム外能力、救世主、真神。
こんな魅惑の厨二タームばっかりじゃ……」
自らの体など取るに足りない問題だとばかりに、鋼は大きく息を吸い、
「ツッコミが、追いつかないじゃないかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああがぶぅぇぼはぁ!!!!!!」
大声を出しすぎて、最後に派手に吐血して倒れた。
まさに鋼が生命を削って放った魂の叫びに、
年齢も性格も、敵味方すら違う三人の少女の声が、この時ばかりは重なった。
「「「……はぁ?」」」
――こうして。敵味方双方の涙が出そうなくらい冷たい視線の中で、結城 鋼の大逆転劇は始まったのだった。