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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第一部 転生ドタバタ編
3/102

第三章 数字と遊ぼう


「なんじゃ? その、『どう見てもゲーム機とテレビです。本当にありがとうございました』と言いたげな顔は」

「どんな顔芸だよ! そんなこと思ってもないって!」

「ふん。どうじゃかな……」

 シロニャは疑いのまなざしを続けていたが、鋼は嘘ではないと伝えるようにその目を正面から見返した。すると、

「……な、なんじゃ、そんなに、見るでない」

 なぜかシロニャが照れて目を逸らしたのでうやむやになった。

 なんだかなぁ、とは鋼の心の声だ。


「昔、転生する者は、神様に口頭で希望を伝え、あるいは神様に勝手に能力を決められ、新天地へと飛ばされたらしい。

 しかし、今時そんなレトロでアナログなやりとりはナンセンスじゃ」

 気を取り直したシロニャが自慢げに説明をする。

「ふふん。ワシは平成生まれのヴァーチャル世代じゃからの。昔の神などとは一味違うのじゃ。

 IT、つまりインターネットのテクノロジーを駆使して転生を行う、次世代型転生神なのじゃ!」

「へぇー。まあ、ITは情報技術、インフォメーションテクノロジーの略だったと思うけど」

「ぬ、ぬぅぅ」

 肝心な所で締まらない神様である。


「とにかく、おぬしもテレビゲームくらいはやったことがあるじゃろ?

 アレのキャラクターメイキングと同じと考えればいいのじゃ」

「なるほど。じゃあタロットカードと占い師の質問とかで来世の能力値が決まるとか?」

「む。おぬし、なかなか話せるの。……ではなく、そういうタイプもまあワシは好きなんじゃが、ちがう。

 ボーナスポイントを振り分ける形でキャラクターの初期タイプや持っている素質を決めるのじゃ」

「ボーナスポイント? ということは、決定とキャンセルで厳選するタイプ?」

「おぬしは本当に話せるのう。じゃが、ボーナスポイントはこちらで決めるのじゃ。

 そこで出てくるのが、前に話した徳ポイントじゃな」


 鋼にも、なんとなく読めてきた。

「たしか、生前の善行で上がるポイントだったっけ?」

 はっきりとそう教えられたワケではなかったが、大体そんなものだったはずだ。

「そうじゃ。よく覚えておるじゃないか」

「つまり、生きている間にした良いことに応じて、来世が有利になるってこと?」

「その通りじゃ! おぬしは何しろ神助けをしてくれたからのう!

 奮発して、どーんとボーナス200ポイントを授けるのじゃ!」

「ザル計算というか、すごくテキトーだなぁ……」

 たぶん数ポイントの差がその後の人生の明暗を分けたりするんだろうが、神様にとってはどうでもいいんだろう。


「なんじゃ。嬉しくないのかの? 普通の転生者は100ポイントや50ポイントくらいなんじゃぞ?」

「いや。まあうれしいことはうれしいんだけど……」

 やっぱり、自分だけズルをしているような後ろめたい気持ちはぬぐえなかった。

「なんじゃ。やっぱりまだひっかかっておるのか?」

 鋼にとって意外なことに、シロニャは鋼の葛藤を見抜いているようだった。

 諭すように話し始める。

「ワシじゃって、もっとたくさんの人を公平に転生させた方が良いのではないかと思う時もあるんじゃがの。

 しかし、神が干渉しすぎると、事態は決まって悪くなってしまうそうなんじゃ」

「それは、因果律、とかそういうもの?」

「かもしれんの。例を出すと、ワシの母様は創世神じゃ。何しろ世界を創った神じゃからの。強い力を持っておる。

 その力を使えば、たとえば世界にいる病気の人間全てを完治させることくらいできるじゃろう。

 じゃが、そんなことをすれば力の揺り返しで大災害でも起こって、一年後には人類は滅亡しているかもしれない。

 そう、母様本人が言っておった」

 神は万能であっても全能ではないのだな、と鋼は悟った。

「じゃからの。そういうのをごまかしつつ、気まぐれに動くのが神の仕事なんじゃ。

 あとは、力を与えられた人間のがんばり次第じゃな」

 そう言って、シロニャは鋼を励ますようにうなずいてみせる。

 初めてシロニャが神様らしく見えた。

「あと、そういう世界救済とかがやりたかったら、シ〇アースとかシヴィライ〇ーションとかやればいいしの」

 色々と台無しになった。


「まあ習うより慣れろ、じゃ。色々といじってみればよいじゃろ」

 促されて、鋼はコントローラーを手に取った。

「すごいじゃろ。名人を超える秒間360連射を達成した、最強のコントローラーじゃぞ!」

 と自慢されたが、鋼はそれ絶対無駄機能だろうと断定した。

 とりあえず愛想笑いで対応し、テレビ画面を見る。

 大きめなそのディスプレイには『転生キャラクターエディター』という画面が最初から表示されていた。

「本当にゲーム感覚なんだな」

 呆れ半分、感心半分で鋼が感想を漏らす。

 それに対して、シロニャは「うむ!」と胸を張った。

 別にほめたワケではないのだが、いい加減そういう反応にも慣れてきたので鋼は当然スルー。それよりも、と画面を注視する。


 画面上部のバーに『残りポイント:200』と表示されていて、その下には『能力値』『アビリティ』『タレント』という三つの欄がある。

 そして、画面の一番下。画面下部のバーには『初期化』『決定』の二つが用意されている。

「『能力値』というのは、『筋力』や『知力』なんかの基礎的な能力の値で、これが高いほどその能力が高いことになる。

 『アビリティ』というのは、『カギ開け』や『魔法』などの技能のことで、アビリティレベルが高いほどその技能に熟達しておることになる。

 『タレント』というのは、その人間の才能や体質のことで、レベルはない。一番後付けしにくいパラメータじゃな。

 もちろん、能力値を上げたり、アビリティやタレントを取得するたびに、上の残りポイントが減っていくのじゃ。

 項目によって上げるのに必要なポイント数が違ったりするので、注意が必要じゃ」

「なるほど」

 鋼はためしに筋力を初期値の10から12まで上げてみる。

 すると、上に表示されていた残りのポイントが200から190になった。

 これは分かりやすいな、と思いながら鋼は筋力を10に戻した、のだが、

「あれ?」

 残りポイントは、192までしか戻らなかった。同じパラメータにしたはずなのに、初期値から8も減っている。


「ああ。これは注意じゃな。上げる時と下げる時では、ポイントのレートがちがう場合があるんじゃ。

 そういう時は初期化じゃな。そうすれば、最初の状態にもどる」

 鋼が初期化を選択すると、たしかにポイントは200まで戻った。

 理解不能なシステムだと鋼が首をかしげていると、シロニャが説明してくれた。

「もちろんポイントを上げたり下げたりしてポイントを無駄にするバカはおらんし、これはそのためのシステムではないのじゃ。

 前世ボーナスを有効活用するための措置じゃな」

「前世ボーナス?」

 また出てくる初めての単語に鋼はふたたび首をかしげた。


「生前の行動によるパラメータボーナスじゃ。ほれ」

 シロニャがコントローラーを奪い取って、アビリティの欄を選択する。

 表示された大抵のアビリティは0になっているが、何も設定していないのに、最初から5や6くらいあるアビリティもある。

 シロニャの指がその内の一つ、社交力の欄を指し示す。

「ほとんどの人間がアビリティボーナスを得られるのがこの社交力じゃ。

 具体的には、生前の交友関係の広さによってアビリティにボーナスが入る」

「なるほど」

 鋼が見ると、社交力のアビリティは最初から3になっていた。


「ちなみに、ここに来た奴らの社交力の平均は8じゃ。おぬし、相当友達おらんの」

「余計なお世話だよ! 僕は友達が少ないんだよ! 文句あるのか!」

「良いのではないか? まあ、今となっては係累は少ない方が良いじゃろ。

 おぬしは、これから新しい人生を始めるのじゃからな」

 言われて、ハッとした。

「……そうだった。ラッキーだった、のかも、な」

 どんなにバカらしい事情だろうと、どんなに現実感がなかろうと、鋼が一度死に、生き返るとしても別の世界に行くしかない、というのは事実なのだ。 


「と、とにかくじゃな。前世ボーナスのおかげで、生前力持ちだった人間は来世でも力自慢に、頭のよかった人間は来世でも賢い人間になりやすいのじゃ。

 能力を下げる時ポイントがあまりもどってこないのは、それを尊重するためじゃな」

「ん。あー、そっか。そこにレートの違いが関係してくるワケか」

 鋼は納得した。

 たとえば、前世ボーナスで筋力10、知力0の人がいたとして、能力値を上げるのと下げるのに使うポイントが同じだとしたら、ポイント消費なしで筋力0、知力10のキャラが作れてしまう。これでは前世ボーナスによる個性の違いが出ない。

 しかし、さっき試した所では能力値を上げるのに5ポイントずつ使うのに、能力値を下げても1ポイントずつしか戻ってこない。つまり、筋力を下げて知力を上げようとすると差し引きで4ポイントずつ損してしまうので、元々高い能力値はそのまま使った方が得だということになる。


「まあ細かいことは考えんでも、高い能力値は下げずにそのまま有効活用した方が良いぞ、ということじゃ」

「了解。他に注意することはある?」 

「そうじゃな。アビリティを上げる順番なんかも重要じゃぞ?

 たとえば『筋力成長+』のアビリティを上げれば筋力を上げるのに必要なポイントがわずかずつじゃが少なくなる。

 両方を上げる場合、筋力を上げる前に『筋力成長+』を上げなければ、結果的に損をすることになるのじゃ」

「なるほどなるほど」

「他にもアビリティ関係は転生したあとで訓練すれば比較的簡単に上げられるからあとまわしにしてもいいとか、色々あるが……」

「あるが?」

「その辺りはセレクトボタンで表示されるヘルプに書いておいたから、そっちを見ればよいじゃろ」

「投げやりだなぁ……」

「む。そのヘルプ、書き上げるのに一週間もかけたのじゃぞ。見てもらわねば働き損じゃろうが。

 それと、ワシはこれから片づけなければならない用があるからしばらく席を外すぞ」


「え? 行っちゃうのか?」

「うむ。その他にも、アビリティや能力値にカーソルを合わせて三角ボタンを押せば簡易説明文も見られるし、大丈夫じゃろ。

 またしばらくしたら来るから、その時何かあったら聞くとよい。

 あるいはもうこれでいいと思ったら、決定を押してもよいぞ。それで自動的に転生が開始する」

「分かった。でも、たぶんシロニャが来るまで待ってるよ」

「う、うむ。それはよい心がけじゃぞ」

 シロニャは、少しあわてたような顔で鼻の辺りをこすった。

「そうだ。生活に必要そうなものはあちらに用意してある。この世界でも腹が減ったりはするのでな。

 遠慮せずに使うがよい」

 シロナが示した方を見ると、今まで何もなかったはずの場所に小屋のようなものが建っていた。

 鋼はさすが神様、何でもありだな、と思ったが、

「分かった。ありがとう」

 と素直にうなずいておく。


 シロニャは今度こそ立ち去ろうとしたが、もう一度鋼を振り返って、にやりと性格の悪い笑みを浮かべた。

「考えるのは良いが、あんまり考えすぎるなよ。だいぶ前にやってきた男じゃがな。

 飲まず食わずのまま悩みに悩んで、三週間後くらいに様子を見に来た時にはすっかり干からびてミイラのようになっててのう。

 あの時はワシも本当に驚いたのじゃ」

「で? その人は?」

「もう仕方がないので死んだままで適当に動けるようにアビリティ設定して送り出したぞ。

 今ではグールCとかになって、第二の人生を謳歌しとるんじゃないか?」

「うげー」

 さすがに鋼も、第二の人生がアンデッドスタートとか勘弁してほしい。討伐エンドか成仏エンドしかゴールが見えないし。


「それではワシはもう行くぞ。心配せずともおぬしがミイラになる前に様子を見に来てやる」

「まあ、頼むよ」

 最後まで偉そうに胸を張って話すシロニャを、鋼は苦笑しながら見送った。

 鋼の視線を背中に受けながら、シロニャは、

「ふふふ。待っておれよ、ガ〇ラもどきめ。配管工の真の力、今こそ見せてやるわ」

 とか何とか言いながら去って行った。


「あいつ、用事とか言ってたけど明らかにゲームやりに行ってるよな」

 しかもたぶんヒゲオヤジが大活躍するあの某有名アクションゲームだ、と鋼は思った。

 だが、正直に言えば一人でじっくりとこの転生マシーンとやらに向き合いたいというのが鋼の本音だったから、それはそれで好都合ではあった。

 何しろ自分のその後の人生がかかっている。

 自分だけ転生できて不公平だとか神様は適当だとか文句をつけてはいたが、色々と理性とか理屈を取っ払ってしまった部分では、鋼だってまだ生きていたいと思っているし、第二の人生が少しでもより良いものになればいいとは考えているのだった。

「さってと。それじゃ、色々試してみますかね」

 鋼は本腰を入れて、『転生キャラエディター』に取り組むことを決めた。


 あまりデバックがされていないゲームや、慣れない制作陣が作ったゲームには、バランスの悪い部分というのが必ず存在する。

 たとえば属性武器が異様に強かったりとか、補助魔法が完全に死にアビリティになっていたりとか、レベル補正が高すぎて他のパラメータがほとんど意味をなさなくなっていたりとか、バグとまでは言えない仕様の穴のようなものが見つかることは多い。

 これをゲームとして見れば、まだ始まって三年も経っていない、おそらく数人しかプレイしたことのないゲームだ。

 穴なんていくらでもありそうである。

 鋼はできればそういう部分を見つけて、思いっきり得をするつもりでいた。


「まず、使えるポイントを確認してみるか」

 『社交力』などの前世ボーナスによって上がっているアビリティや、筋力や知力などの最初からいくらか数値が高いものを、全て最低値まで下げる。

 能力値だろうがアビリティだろうがタレントだろうが、どうやら1下げるごとに1ポイントしか戻ってこないようだ。

 しかし、その1ポイントずつでもかき集めると57ポイントまでになった。

 現在のポイントは初期値の200と合わせて257だ。

 一応これが、鋼が自由に使える最大ポイントということになる。

「実際には能力値を下げてポイントにするのは割に合わないし、やっぱり実質は200ってことになるか」

 しかし色々と試す分にはポイントは多い方がいい。


 実験の開始。

「じゃ、まずは『筋力成長+』っていうのを試してみるか」

 アビリティの欄を選択、その中から『筋力成長+』にカーソルを合わせ、三角ボタン。アビリティの説明文を見る。

〈このアビリティのレベルが1上がるごとに筋力の必要経験値を1割減らす〉

 これを見た瞬間、鋼の頭に電光が走った。


(1上げるごとに1割減るなら、10上げれば10割。つまり、ポイントなしで筋力が上げられるようになるんじゃないか?)


 そのひらめきに従って、即座に実験。


 実際にやってみるとアビリティ自体はたしかに10まで上がったのだが、

「やっぱりそんなにうまい話はないか」

 最終的に、筋力1に対してポイント2の消費に留まった。

 おそらく、アビリティレベルが上がるごとに100%から一割減って90%、さらに一割減って80%、さらに一割減って70%……となっていくのではなく、100%の一割減って90%、90%の一割減って81%、81%の一割減って72.9%、という具合になるのだろうと鋼は当たりをつけた。

 鋼が小屋の中で見つけた紙とペンで筆算した所によると、そんな風に計算していくと十回で最終的に35%くらいになる。

 アビリティなしで筋力を上げるのに必要なポイントは筋力1に対して5。『筋力成長+』がレベル10だった場合に必要なポイントは2。2÷5は0.4で、つまり『筋力成長+』がレベル10の時はレベル0の時の40%くらいのポイント消費で済んでいる計算になるので、計算は大体合う。


「200ポイントも使って、たった4割止まりか。割に合わないなぁ……」

 仮に残りの57ポイントを全部筋力につぎ込んだとしても、28しか上げられない。

 それよりも最初から全部のポイントを筋力につぎ込めば、257÷5で51上げられる。結果として二倍近い差が出てしまう。

 もちろん転生した後に筋力が上がりやすくなるというメリットはあるのだろうが、そのためだけに大量のポイントをつぎ込むのは効率が良いとは思えなかった。

「そうだ。このアビリティを使って筋力を上げて、筋力を十分に上げた後でこのアビリティを外せば……」

 と思ったが、ここでレートの違いが効いてくる。

 筋力を上げた後で『筋力成長+』を0まで戻したとして、返ってくるポイントはたったの10。割に合わないにもほどがある。

「んー。さすがによくできてるなぁ」

 想像していたよりもきちんとしたバランスをしているのかもしれない。

 鋼は方針の転換を決めた。


「じゃ、次はタレントを見てみるか」

 鋼はとりあえず画面を初期化、ポイントを200にまで戻して、タレントの画面へと飛んだ。

「数、多いなぁ……」

 アビリティを見た時にも思ったが、そこに表示されているタレントの数は膨大だった。

 画面いっぱいにタレントと必要ポイントが書かれているのはもちろん、画面下で下ボタンを押すと、さらに画面がスクロール。新しいタレント満載の画面が表示された。

「しかも……」

 よく見ると画面右側にバーがあり、そこを見る限りもっともっと下にスクロールできそうである。


「それにこの辺り、絶対にシロニャの趣味だろ」

 最初の方のページだからか、必要ポイントが10程度の効果の薄そうなタレントが並んでいるのだが、


『瞬間記憶復元』

〈思い出せそうで思い出せない芸能人の名前や昔の歌の歌詞などを瞬時に思い出すことができる〉


『絶対音感(駄)』

〈どんなアニメを見ても、キャラクターの声から声優の名前が分かる〉


 とかざっと見ただけでも百パーセント役に立たないだろうと断言できるようなものがたくさん交じっている。


「やっぱり中級以上のアビリティになると、役に立つのも増えてくるのかね」

 膨大な量のアビリティに辟易としながらも、鋼は画面をスクロール。

 適当な所で止めて能力を見てみる。

「なになに、アビリティ『幻想殺……って、思いっきりパクリじゃないか!」

 危ない所だった。何だかよく分からないが、たぶん危ない所だった。

 鋼は出て来てもいない汗をぬぐう。

「よく見ると、どこかで見たようなものがちらほらと……」

 『鶴亀仙流免許皆伝』に『ブランニュータイプ』、『絢爛舞踏者』『流派:東方では不敗』とか、せめてもうちょっとひねれよと言いたくなるギリギリな、しかもたぶんギリギリアウトなネーミングのものばかりだ。

「これもあいつの趣味、なんだろうな」

 ホントに遊び感覚なんだなぁ、と今更ながらに神様の気まぐれに巻き込まれた我が身を呪ってみる。


 しかし、おかげで使えそうなタレントを一つ見つけることができた。


『脳筋の誓い』

〈知力の必要経験値を10倍にする代わりに、筋力の必要経験値を半分にする〉


 必要ポイントは50。もちろん知力へのペナルティは痛いが、最初から筋力特化に決めるなら、200で4割の『筋力成長+』より、50で5割のこちらの方がはるかに効率がいい。

 試しに取得して、実際に筋力を上げてみる。

 1上げるのに3ポイント、さらにもう一度上げると、今度は2ポイントだけ消費された。

 5の半分は2.5だからだろう。どうやら小数点以下もきちんと計算されているらしい。

 前世ボーナスを全てポイントに変えて筋力に全振りすると、207÷2.5で82まで筋力を上げることができる計算だ。やっぱり今までで一番効率がいい。


 思わずうれしくなった鋼だが、そこで素朴な疑問が生じた。

「アビリティとタレントって、重複するのかな?」

 まあそんなものはただ試せばいいだけの話だ。

 ふたたび画面を初期化。ボーナスポイントを200に戻して、せっかくなので前世ボーナスを全てポイントに。で、257ポイント。

 『筋力成長+』をアビリティレベル10に。『脳筋の誓い』を取得。

 これで250ポイント使ったので、残りポイントはたったの7になってしまった。


 それでも実験する分には問題ない。

 残りのポイントを全て筋力につぎ込む。

 残った7ポイントの消費で、筋力は7まで上がった。

「んー。必要ポイント1ってことは、効果は重複するみたいだな。というか、とうとう元の2割まで行ったかぁ」

 それはつまり、転生後に筋力が通常の5倍の速度で上がるということになるだろう。

「5倍、5倍かぁ……」

 手持無沙汰に、筋力の値を増やしたり減らしたりしながら、鋼は考えを巡らせる。

「……まあでも、ないかな」

 成長率5倍という数値は魅力的だが、それ以外の全てと引き換えにしてまで手に入れるようなものではない。

 そんな結論に達した時だった。


「あれ…?」


 鋼は異変に気付いた。

 テレビ画面の中、筋力の値がいつのまにか8になっていた。

「さっきはたしか、7だった、よな?」

 その記憶には自信があった。

 最後にはポイントが7しか残らなくて、それを全て筋力に振り分けたら筋力の数値が7になった。そのはずだ。

 鋼を襲う強烈な違和感。

「一体何があった?」

 今度は注意深く画面を見つめながら、ふたたび十字キーを動かした。そして、

「今の!」

 筋力を上げ下げした時、稀に残りポイントが変動しない時があることに気付いた。

「これが、8になった理由?」


 もう少し観察を続け、鋼は正確には十回に一回、筋力を上げた時にポイントが消費されない現象が起こることを突き止めた。

「あー。考えてみれば別に変わったことでもないか」

 たぶん、筋力を1上げるのに必要なポイントが0.9くらいなのだろう。

 だから、10回上げるごとに一回、ポイントを使わずに能力値を上げられるだけだ。

 別におかしな所は何もない。

 試しに計算してみる。

「ええと……元の必要ポイントが5。アビリティで35%、さらにタレントで50%になるはずだから、5×0.35×0.5で……0.875か」

 やっぱりほとんど0.9だった。

 だからこの結果は当然だった。何も不自然なことはない。

 なのに、


「なんだ? 僕は何を見落としている?」

 

 違和感は、途切れることがない。

 筋力を0まで減らして、また上げていく。

 5から6に上がる所でポイントが減らなかった以外はスムーズに進み、12で止まる。

 これの、どこに……、



「って、あぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」



 気付いた瞬間、鋼は大声で叫んでしまっていた。

 気付いてしまえばなんてこともないというか、気付かなかった自分がバカだったとしか言えない。

 自分にがっかりして思わず両手で顔をおおって落ち込んでしまったほどだ。

 だが、


「仕様の穴、みーっけ!」


 次の瞬間顔を上げた鋼は、それはそれは邪悪な笑みを浮かべていたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまでグダグダ転生作業をしながら勢いの減衰しない作品があっただろうか。
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