第二十四章 護衛のABC
今、鋼の前には三人の少女が、いや、三人の美少女が並んでいた。
それを見たのか、シロニャが感動の声を上げる。
【こ、これは伝説のアレじゃな?
三人がシャッフルされて、その後『みぎ まんなか ひだり』の誰を雇うか決定するという……。
ワシは断然タマゴ持ちを推すのじゃ!】
(それ現実でやっても顔見ればすぐ分かるからシャッフルの意味ないぞ?)
【な、なんじゃと!?】
驚くシロニャは放っておいて、鋼はラトリスに紹介を頼んだ。
「はい。では僭越ながら私が紹介をさせて頂きます」
ラトリスは三人の横に並ぶと、バスガイドのように解説を始めた。。
「今日はハガネ様の護衛の候補としてA、B、C、それぞれのランクの冒険者に一人ずつ来て頂きました」
「では、左から順に紹介させて頂きます。まず、この方がAランク代表のララナ様です」
「ボクがララナだよ! よろしくコウくん!」
そうやって元気にあいさつしたララナは今の鋼とほぼ同じくらいの年だろうか。 見るからに小柄で元気な少女という雰囲気で、それは非常に好感が持てるのだが、
(あの耳、なんだ?)
思わず鋼が言葉を失い、凝視してしまうほどに立派な猫耳が生えていた。
鋼が内心首をかしげていると、早速ラトリスが説明してくれた。
「ララナ様はご覧になれば分かるように、猫耳族の女性です。特に素手での近接戦闘を得意とする格闘家になります」
(猫耳族…?)
しかし、鋼の疑問符は増えるばかりだ。
すると、こんな時ばかりは抜群に頼りになるシロニャが口を出した。
【うむ。驚くのも分かるんじゃが、猫耳族は母様がねじ込んだ種族でな】
(どういうことだ?)
【本当は猫系種族は猫人間的なフェルプールだけのはずじゃったんだが、そこで母様が激怒したんじゃ。顔が全部猫とか誰得だと。猫耳肉球な獣人こそが異世界のロマンである、とな。
そうしてできたのが、耳と尻尾と肉球だけが猫という猫耳族なんじゃ!】
(それ、本人たちが聞いたらショックだろうな……)
何だかそれだけで猫耳族に無条件で同情できてしまう鋼だった。
しかし、
「ふふふ。ちなみに君だけに教えるけれど、ララナというのは仮の名なんだ。
ボクの真名、つまりソウルネームは……」
「いえ、ララナという名前でカードには記載がありますが」
「だ、だから、ララナっていうのはカードとかに使っちゃう便利な仮の名で、真の名前は……」
「いえ、冒険者カードに虚偽の報告は出来ませんので、こちらが両親につけられた正式な名前だという事になるはずですが」
「う、うう。じ、実はボクの両親は今の両親とは別にいて……」
「いえ、事前に軽く身辺調査をさせて頂いた限り、ララナ様は両親と血のつながりがあるようですが」
「あ、う、うあぁあ……。で、でもボクはぁ……」
どうやら変人であることは間違いないようだった。
鋼からの、
「あの、もう次の方行っちゃってください」
という要望に応え、
「ぼ、ボクのソウルネーム……」
肩をがっくり落とすララナを置いて次の人の紹介が始まった。
「彼女はミレイユ。ランクBの冒険者です」
「あたしはそこそこ高いよ。払えるんなら、ま、よろしく」
「ちなみに彼女が昨日一日、ハガネ様の護衛をしていた方です」
あ、むしゃくしゃして背中刺そうとしてた人だ、と鋼は思ったが、必死で表情に出ないように押し殺した。
「実力については昨日の護衛でも理解して頂けると思います。
短剣の扱いと闇の魔法が得意で、各種状態異常攻撃の他、即死スキルのタナトスコールまで使えます」
「わ。ちょっと! ラトリスさんあたしの情報勝手に漏らさないでよ。
話すならせめて情報料払ってからにしてよね!」
変なところで食い下がるミレイユ。
どうやら彼女はお金にがめつい系のキャラなんだなと鋼は把握した。
「前々回の依頼、クエスト達成料が満額入ったのはどうしてでしょうね」
「う……。そ、そうやって部下の言論を封じようと……こ、この陰険メガネ!」
「そうですか。では、先月の依頼主に、依頼を期日内に終わらせるために守銭奴アサシンが何をしたかお話する他ないようですね」
「ウソだってば! それ洒落になってないから! いいよロハで! ロハ大好き!」
どうもラトリスとは親しいらしい。やり取りにどこか手慣れた感じがするというか、ラトリスも他の人と接する時とは若干違う態度を取っているように鋼には見えた。
「少なくとも、彼女の身元と実力については私が保証致します。
金銭に対する過度の執着を除けば非常に優秀な冒険者と言えるでしょう」
さっきまでのやり取りの陰など微塵も残さず、ラトリスが綺麗にまとめた。
鋼としても、昨日鋼にも気付かせずに色々な問題を処理してくれたという実績があるので彼女の腕に対しては信頼してもいいのではないかと考えていた。
ただ、気になることがあるとすれば、一つ。
(なぁ、シロニャ。タナトスコールって?)
【うん? 物理系の即死技じゃな。制限も多いんじゃが、暗殺にはもってこいの技じゃぞ。
技を使いながら相手を武器で傷をつけると、相手に死神を憑けられるんじゃ】
(死神か……。強そうだな)
【いや、タナトスコールで呼んだ死神は物理にも魔法にも極端に弱く、一撃でも攻撃を当てればまず倒せるのじゃ】
(それ、何の意味があるんだ?)
【じゃから、即死技じゃと言ったじゃろ。死神を憑けたまま三十秒経てば即死の効果が発動するのじゃ。これが破格の確率で、耐性にもよるんじゃが成功率は八割程度じゃろうな】
(三十秒、ぼうっとしてたらアウトってことか)
【寝込みを襲われたり、麻痺している時に使われたらまず死んだと思った方がいいのじゃ】
(うわ。そう考えると強くてえげつない技だな)
【うむ。しかしこんな技を使えるとなると、あの吝嗇娘はかなり高レベルなアサシンと考えられるのじゃ】
りんしょくとか、難しい言葉を知ってる三歳児だな、と鋼は思ったとかもあるが、とりあえずミレイユへの評価と警戒心を上方修正した。
いい加減に待っているラトリスたちが怪訝そうな顔をしていたが、鋼はどうしてもシロニャに聞いておきたいことを思いついてしまった。
(そういえば、大事なことを聞いてなかった。即死技があるのは分かったけど、その逆、蘇生とか復活の呪文とかってあるのか?)
【ぬ? 当たり前じゃろ? それならワシも今覚えとるところじゃぞ?】
(え? そんな簡単なもんなの?)
驚く鋼に、シロニャはあっさりと肯定する。
【じゃ、おぬしも覚えればいいのじゃ! 読むからよく聞くのじゃぞ。
せもぽぬめ のもぶよを しはしたわ
うとがりあ くどいあご よへちぼら】
(それは復活の呪文違いだよ!)
心の中で絶叫するが、これはこんなベッタベタなオチを見抜けなかった鋼の失態だったとも言える。
(そうじゃなくて、人を生き返らせる魔法とかないのかって話だよ!)
【なら最初からそう言うのじゃ! まあ、なくはない、かの】
(ふくみのある言い方だな)
【高位の神聖魔法などにあることはあるのじゃが、習得できる人間がほとんどいない上に、死後数分が経ってしまうと復活不可能なのじゃ】
(つまり、死んだら仲間に復活魔法を唱えられる人がいないとゲームオーバーってことか?)
【そう思っておいた方がいいじゃろうな】
あらためて自らの置かれたシビアかつファンタジックな現実を再認識した鋼だったが、もっと認識すべきは現在の状況だった。
「何か、気になる事でも御座いますか?」
ラトリス、キルリス、護衛候補の三人、後ついでに部屋の隅から突き刺さる恨みがましい元騎士の視線が、鋼を貫いていた。
「あ、あははは。何でもないです」
お得意のごまかし笑いを出して、ラトリスに先を促す。
そして、最後の一人になったのだが、
「では、右のこの方が、Cランクの代表で、名前は……」
ここへ来て初めて、ラトリスの立て板に水解説が止まった。
「失礼しました。名前が思い出せないのですが、貴方の名前をもう一度教えて頂きますか?」
「わたし、の、名前、は……」
少女がたどたどしく話し出す。
彼女は黒いゴスロリ服に身を包んだ十二、三歳くらいの少女であり、服の黒さにさえ目をつぶればシロニャと印象が被らなくもない。
しかし、
「わたしの、名前、なん、だっけ?」
と、天真爛漫に首をかしげる仕種は、シロニャにはない純朴なかわいらしさにあふれていた。
とはいえ、見ていた全員が、あまりの肩すかし感にかわいらしさを感じるどころではなかったのだが。
ただ一人だけ、シロニャのボケに鍛えられている鋼だけが、答えた。
「ええっと……クロニャ、とか?」
「じゃ、あ。それ、で」
見守る全員が「それでいいのか?」と思う中、ここにクロニャという名の冒険者が誕生した。らしい。
さすがと言うべきか、一番早く硬直から立ち直ったのはラトリスだった。
気を取り直して、続ける。
「では、Cランクの代表はこのクロニャです。
彼女の得意なことは……よく分かりません。苦手なことも、どの程度の能力を持っているかも未知数です」
「いやいや! だったら何で選んじゃったんですか?!」
条件がどうのと言っていたのは何だったのかと鋼は問いたい。まあ、Cランクの冒険者らしいから弱いということもないのだろうが、だからといって不安がぬぐえるワケでもない。
「輝きです」
「はぁ…」
そういえば可能性の輝きがどうとか言っていたというのは思い出したが、やはり鋼にはピンとこない。
「あとは勘です」
「勘なんですか!?」
「彼女の目を見た途端、分かりました。彼女は私が探している人材だと」
「はぁ……」
便利な話だなぁとしか言えないが、ラトリスの判断ならある程度は信用できる。それに、雇ってから色々聞くことだってできるだろう。
「では、これで三人の紹介を終わらせて頂きます。
そして最後に、護衛の代金は、危険手当等の諸経費込みで、Aランクなら3000マナ、Bランクなら2000マナ、Cランクなら1000マナとなっています。
もちろんこれは、護衛候補のお三方にも既に了解頂いている金額です」
「……分かりました」
鋼が巨竜を倒した賞金として65万マナを持っているにしても、かなりの額だった。例えばAランクのララナを雇えば、十日ごとに3万マナが消えることになる。
鋼が受けた最初の依頼の報酬が一日200マナだったことを考えると、やはり高額だ。しかし必要な出費だと感じた。
鋼はもう決断していた。
三人の話を聞いている途中から、もうこれでいくしかないなと思っていたのだが、最後のお金の話がある意味決め手になった。
「どなたか、雇ってもいいと思われる方はいましたか?」
ラトリスの言葉に、鋼は迷いなく、
「はい」
と答えた。
そして、
「僕は、一日3000マナを支払って……」
「おっ! さっすがボクだね! コウくんもやっぱりボクが一番だって分かってくれたんだー!」
選ばれた喜びを全身で現しすぎて鋼に飛びついてくる猫耳のララナを、
「って、あれぇ?」
ひょいとかわし、宣言した。
「ミレイユさんとクロニャさんの二人を、雇わせてもらいます!」
「え、えぇえええええええ!」
色々な面で肩すかしを食らったララナの声が、ギルドに響き渡った。