表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第五部 町内探索編
22/102

第二十一章 ファルザスの工房

「道に迷った……」

 

 鋼は、にぎわう街の雑踏から少し外れた裏路地をさまよっていた。

「ああもう、全く、防具屋までは順調だったのに……」

 金ぴかの装いをやめ、すっかり普通の服装になった鋼は街をさまよい歩く。



 キルリスに紹介してもらった防具屋には難なく着いた。

「今着ている服の、色違いとかってありませんか?」

 と聞いたらなんと、帽子と上着とズボンについてはデザインもサイズも全く同じものが見つかった。当然だが、聖王の法衣については同じものはないらしい。

 これ、本当に防具ってくくりでいいのかなー、とか思いつつ、上着とズボンを似たようなデザインのものを合わせて三着ずつ買い、その場で着替えさせてもらった。


 首輪をもらう時すごく重かった覚えがあるので警戒していたが、特に重さを感じることなく、普通に服は受け取れたし着れた。

 で、着替えたところで久しぶりに『黄金聖闘士化』を解除。普通人に戻る。

 その上から完全に透明になってしまった聖王の法衣を羽織るが、全く着ている感覚がない。


「ふふ! これぞインビジブルコート!」

 テンションが上がってつい叫んでしまうと、

【そのセンスはないんじゃよー】

 という脳内からのダメ出し。シロニャの存在をすっかり忘れていた。


「そ、そういえば、首輪はあんなに重かったのに服は重さを感じないのはどうしてだ? 防具は特別なのか?」

 あわててごまかす。

【いや、普通に重いはずじゃぞ? たぶんおぬしの筋力が常人レベルまで上がったのではないか?】

「え? そうなの?」

 そういえば、宿屋で目覚めてから首輪の重さを感じなくなっている気がした。


 あわててカードを取り出して、能力値が見たい、と念じる。

 すると、


LV24 HP6679 MP2218

筋力88  知力0   魔力0

敏捷44  頑強0   抵抗0


「……うん?」

 今、ずいぶんとバランス悪く魔改造されたステータスが見えたような…?

 鋼は思わず目をこすって見間違いではないかと期待したのだが、

【うは。チート乙、なのじゃ】

 その前に性悪猫神様が、それが事実だと態度で教えてくれた。


【ま、成長系のタレントは多いからそんなものじゃろ。

 特にHPMPの上がりは、レベルの数値と関連するものもあったしの】

「マジか……」

 うろ覚えだが、最初のキルリスの説明に、能力値は50を超えたら一流で100を超えたら超一流、みたいな話があった気がする。

 たった十日で90近くも能力値が上がったと聞けば、いくら何でもみんな不審に思うだろう。

 まあ赤ん坊以下の能力で15まで生きてきたという時点で不自然なことこの上ないのだが。


「っと、待てよ? これで今の服を普通に着られる理由は分かったけど……」

 それだけでは説明がつかないことがある。

「どうして初期装備は重いと感じなかったんだ?」

 アスティエールいわく、赤子より弱い鋼が初期装備の重さを感じなかったのはどうしてなのか。


 その答えはシロニャがあっさり出してくれた。

【それはきっと、『初期装備超軽量化』の効果じゃな。『初期装備軽量化』の上位タレントじゃ】

「効果は……大体想像つくけど」

【うむ。超便利なタレントじゃぞ。初期装備がどんなに重い装備でも、最低値まで軽量化される】

「おー。久しぶりに役立ちそうなタレント」

【うむうむ。そうじゃろうそうじゃろう。

 ただし、軽すぎて手を放すと空中に浮いたままになるので注意が必要じゃ。

 あと洗濯物として干す時、洗濯ばさみを使わないと絶対風で飛んでいくのでこれも要注意じゃな】

「お前は何でほどほどということができないのか……」


 そういえば、この透明聖王の法衣の着心地が全くないのは、重さがほとんどないからか。

 そりゃあ重量1グラムとかの服だったら、抵抗も何もないから着ていても邪魔にはならないはずだった。

 鋼は半分呆れながらも納得した。

「あいかわらずめちゃくちゃだな……」

【そういえばじゃが、めちゃくちゃついでに、おぬしのタレント、もう一つ判明したぞ】

「ん? どういうことだ?」


【正確に言えば、候補が見つかっただけじゃがな。

 おぬし、この世界に来てから女性にやたらと縁があるとは思わんか】

「あー。考えてみればそうかも。

 ミスレイさんにキルリスさん、一応アスティエールにラトリスさんまで……って、まさか?!」

【うむ。まず間違いなくタレントが関わっておるの。

 ワシの知る限り、異性に関するタレントは三種類じゃ】

 そう言って、シロニャはその三つのタレントについて説明を始めた。



『ハーレム系主人公体質』

【まず、これは単純に女性、特にキャラが立っている女性と出会いやすくなるタレントじゃな。

 特に出会い以上のイベントを起こすタレントではないから、マンガの主人公みたいにやつぎばやに厄介ごとに巻き込まれる効果はないので安心するのじゃ。

 ただ、街角で何気なくぶつかった相手が亡国の姫君じゃったりするから、結果的にそこから難題が発生することはある。注意するのじゃぞ?」

「それ何に気を付ければいいんだよ!」


『ヤンデレの誘引』

【二つ目はこれじゃが、残念ながらこれは徹夜明けに作ったタレントでよく覚えてないのじゃ。

 その時、学校での日々を赤裸々に描いたゲームをやっておったことは覚えてるんじゃが。

 まあたぶんヤンデレがわんさか出てくるか、周りの人がヤンデレになるタレントじゃろ。

 女性から頻繁に刺されるようになるので要注意じゃな】

「さらっと言うなよ! こんなの持ってた時点でゲームオーバーじゃないか!」


『ニコポの手管】

【これはアレじゃな。笑顔を媒介とすることで、会った女性を一瞬でほれさせるタレントじゃ。

 異性に限れば全方位、全年齢に使用可能じゃから、ロリでも熟女でもお婆さんでもリ〇レイアでも赤ん坊でもゾンビレディでもどんとこいじゃ!

 ただ一度ほれられちゃったらクーリングオフ不可なので、既婚者とかヤンデレとかを引き当てた場合、やっぱり高確率で刺されるので注意するのじゃ!】

「これを持っているなら、僕は一生笑わないと誓おう」



【まあ、今までの感じからすると、おぬしが持っておるのは十中八九『ハーレム系主人公体質』じゃろ。

 『ヤンデレの誘引』はまだ分からんが、『ニコポの手管』を持っていることはまずなさそうじゃしな】

 そう言ってシロニャは話を打ち切った。

「ということは、きっと明日会うことになる護衛候補の女の子たちもきっとキャラ立ちしてるってことで……。

 つまりはみんな、変わり者の可能性大、か。なんか、胃が痛くなってきた」

 鋼は前途の多難さを思って、ちょっとため息をついた。


【ふむ。まあそれはいいのじゃが、コウよ】

「ん?」

【おぬし、いったいどこに向かっておるのじゃ?】

「え? あれ? ここ、どこだ!?」

 シロニャとの会話に夢中になっていて、周りを見るのを忘れていた。

 周りの光景は鋼の見知った物ではなくなっていて、元の道に戻る方向さえも分からない。


「と、とにかく歩いてみよう。大きな通りに出られればなんとでもなる!」

【……そううまく行けばいいがのう】

 と漏らしたシロニャの不吉な予言の通り、歩けば歩くほど深みにはまり、最終的に人気のない裏路地に。

 で、冒頭に戻る、とこういうワケである。


【この付近、もしかすると方向感覚をかく乱する魔法でもかかっとるのかもしれんの】

「そんなの誰が何のために仕掛けたんだよ」

【そんなのは知らんのじゃ】

 などと言い争いながら街をさまよう。


「あー。まさか道聞いてたのに迷うはめになるとはなぁ」

 思わず、ふらふらと近くの壁に手をつく。

 しかしそれが間違いの素だった。

「ありゃっ?」

 手をついたはずの壁が、何の前触れもなく消え失せた。

 手が、壁のあったはずの場所をすり抜ける。

【コウ!?】

 シロニャの焦ったような声を聞きながら、鋼はどことも知れぬ建物の中に転がり込んだ。



 鋼が入り込んだ先は、

「ここ、武器屋…?」

 広々とした空間の壁一面に武器の立ち並ぶ、どう見ても武器屋の中としか思えない空間だった。


「テメェ! 一体どうやって入ってきやがった!」

 突然の罵声に鋼が顔を上げると、奥にはひげと筋肉の化け物みたいなおっさんがいた。

「え、と? ここは、どこなんですか?」

「そんなことも知らずに入って来たのかよ!

 ここは天下一の武器屋、『ファルザスの工房』よ!」


「はぁ……」

 対する鋼のリアクションは薄い。

 実は『ファルザスの工房』と言えば知る人ぞ知る幻の店なのだが、そんなことをこの世界に来たばかりの鋼が知るはずもなかった。

 そして、そんな反応は当然ながら店主にも伝わる。

「悪いがオレは気に入った相手以外には武器を売らねえことにしてるんだ。

 だから……ってお前! なんてもん装備してやがんだ!?」

 自分の店も知らないようなレベルなら大したことはないだろうと追い返そうとしたのだが、鋼が身にまとっている『見えない服』を見て目を見開いた。


「え? どれのことですか?」

「その服だよ! それ、聖王の法衣じゃねえか!

 しかも、最上級の透明化の魔法と軽量化の魔法がかかってる!

 ああ、いや、違うか。魔法じゃねえな? 神の祝福?」

「あー」

 初期装備強化系タレントの効果って、祝福に分類されるのか、と変なところに納得する鋼。


 だが当然店主のおっさんは、納得するどころかそれを知るとますます詰め寄ってくる。

「どこで手に入れたんだ、それ。

 いや、ちょっと待て。それだけじゃねえな。

 その腕輪! もしかして複製の腕輪じゃねえか!?」

「え? アイテムボックスじゃないんですか?」

「ば!? おめぇ何言ってんだ!?

 それはランクで言えばSS級のレアアイテム『複製の腕輪』だろ!?」

「SS級?!」

 アイテムにもランクあったのか、と思うと同時に、何でそんなものが、と驚く。

 ……まあ実際には、入手元なんて一つしかないのだが。


「うん。残念だがそいつにはもうアイテム入れちまってるらしいな。

 しかしさすがのオレも、現物は初めて見たぜ」

「あの、複製の腕輪ってどんな効果なんですか?」

「あ? 知らずにつけてたのか、もったいねぇ。

 まあ、ある意味使い捨ての便利アイテムだな。

 簡単に言えば最初に入れたアイテムをひたすら複製するアイテムボックスだ」

「ど、どういうことですか?」

「例えば最初に薬草入れると、次に何を入れてもひたすら全部薬草に変わるんだよ。

 だから最初に金塊でも入れて、それから大量に石でもツッコめば簡単に金持ちになれるし、レアなアイテムもいくらでも量産出来る。

 ま、装備品は最初のアイテムに出来ないって縛りがあるが、それでも大層なもんだろ?」


「なん、て、こった……」

 鋼は全てを悟って呆然とした。

【あー。そういえば初期装備のアイテムボックスを複製の腕輪に変えるタレントを作ったような作らなかったような……】

 能天気な神様の声が鋼の疑惑を確信に変えてくれる。


 たくさんのタレントを取ったはずなのに、『ちきゅうはかいばくだん』(という名の核爆弾)しかアイテムが入っていないなんて、鋼だっておかしいと思っていたのだ。

 本来なら、おそらく『ちきゅうはかいばくだん』1個と他のアイテムがたくさん手に入るはずだった。

 しかし、初期アイテムを入れるべきアイテムボックスが複製の腕輪に変わっていたため、『ちきゅうはかいばくだん』以降の998個のアイテムは全て複製の腕輪の効果で『ちきゅうはかいばくだん』に変わってしまったのだろう。

「は、はは……」

 かわいた笑いが漏れる。いつもならシロニャの考えなしさをなじっているところだが、今はそんな気力も湧かなかった。


 あまりのショックに鋼は正しくorzのポーズを取り、しばらく動けないでいた。と思いきや、

「ま、いっか」

 鋼は自分でも驚くほど早く立ち直ってしまった。

 どうせ中に入っていたのは、どれも『ちきゅうはかいばくだん』級の身の毛もよだつチートアイテムたちだろう。

 振り回されるよりは、全部なくなってくれていた方が気持ちとしては楽だ。


 一人百面相をする鋼を店主のおっさんは不気味そうに見ていたが、やがてその手に持った木の枝を見つけて目をむいた。

「お、おめえ、もしかしてその木の枝、お前の武器か?」

「え? あ、はい。まあ、そうですね」

 一応共に巨竜を倒した相棒であり、別に持ってくるつもりはなかったのだがなんとなく手に持ってしまっている。

 現状、武器らしい武器が何もない以上、これが武器だと言えるだろう。


「な、なんだと!」

 しかし鋼がそう答えると、店主のおっさんは驚愕の表情を浮かべた。

「え? 何か、まずいですか?

 も、もしかしてこの木の枝、ものすごいレアアイテムとか?」

 これは巨竜のブレスから燃え残ったのを取ってきただけだが、この一本がブレスを耐え抜いたのも実はこの木の枝が特別だったから、と考えれば合点がいく。


 その鋼の態度をいらだたしげに見ると、店主のおっさんは鋼に真実を告げた。

 すなわち、

「な!? テメェ、そんなことも分からねえのか!

 おめえ、それは、それは正真正銘……」




「ただの木の枝だよ!!」

「ですよねー!!」




 やっぱりただの木の枝だった。

 うん。だってまあそこら辺から拾ってきたし、見た目からして木の枝だし。

 鋼はちょっとがっかりする気持ちを抑えて自分を納得させた。


「つかおめえ、ホントなんなんだよ。駄目だろそりゃ!

 複製の腕輪とか聖王の法衣とか持ってるくせに、武器が木の枝ってどういうことだよ」

「いやぁ。ははは」

 笑ってごまかす鋼。笑ってごまかすのは得意だ。

「仕方ねえ。本当は一見さんお断りなんだが、特別サービスだ!

 ちょっと見ていきな、坊主!」


「はぁ。ありがとうございます、店主のおっさんさん」

「いや何だそれオレのこと言ってんのか!?

 オレはファルザスだよファルザス!

 ていうか店名に固有名詞入ってる段階で察してくれよ!」

 ちょっとした冗談であったのだが、どうやら通じなかったらしい。

 シロニャとのやり取りに慣れすぎてキラーパスが多くなってしまっているのかもしれない。

 鋼は反省しつつ、店内を見渡す。

 剣、槍、斧、弓矢、鎖鎌に十字手裏剣なんてものまである。


「えっと、じゃあ、ちょっと好きな物を見ても?」

「おう! 自由にしてくれ!

 ただ、中にはやばいもんもあるから気をつけるんだぜ?」

 意地の悪い視線を向けてくるおっさん改めファルザス。

 その様子では、どれが危険なのかは教えてくれなさそうだった。


【ま、その辺りは大丈夫じゃろ。

 聖王の法衣には呪い無効化がついとるんじゃから】

「あ、いたんだ」

【うむ。ずっと】

 若干ストーカーじみても聞こえるシロニャと話しながら、鋼は店を見て回る。


「目移りするけど……。どうするかな」

 今まで自分の戦闘スタイルなんてものを考えていなかったことに気付いた。

 接近戦専門になるのか、それとも遠距離からの攻撃を修めるのか、はたまた魔法使いになるのか。

 戦士としての展望が、鋼にはまったくなかった。

 とりあえず初心者でも扱いやすそうな短剣にしようかとも思ったが、むしろ腕力が上がったのだからでかい武器を振り回して間合いを伸ばした方が素人でもケガをしにくいのではないか、なんて考え方もできる。

(うん。さっぱり分からん……)

 それが正直な結論だった。


【別に武器の種類にこだわる必要はないじゃろ】

(え? そうなの?)

【まあワシも門外漢じゃが、とりあえず武器習熟系のタレントもあるはずじゃから、何を使おうとすぐ慣れるじゃろ】

(あー……)

【行き当たりばったりじゃが、まずは一番自分がビビッと来たもの。

 見た目とかで選んでしまってもよいのではないか?】


「うん。まああんまり考え込んでてもしょうがないか!」

 シロニャの言う通り、まずは使ってみて色々と変えていくことにして、鋼はとりあえず目についた剣を手に取った。

「これ、ちょっと試させてください」

 そう言って鋼がファルザスを振り返ると、ファルザスは驚愕のまなざしでこちらを見ていた。

「なっ! ぼ、坊主、どうしてそれを!」

 声がうわずるほど動揺している。

 それを不思議に思ったが、鋼としては別に理由はない。


「いえ、別に。とりあえず剣にしようかと思った時、一番前の方にあっただけですけど」

「ぐ、偶然かよ。……ま、使えるものなら使ってみな。

 ただ、物に当てないように注意してな」

 ファルザスの言葉に疑問を持ちながら、剣を片手に持って振ってみる。


「わ、お、っとと?」

 思わぬ重量に体がかしぐ。重心の変化に体がついていけなかった。

「くっく。言い忘れてたが、そいつを扱うには相当な筋力と剣の腕が必要だぜ?

 ま、坊主には無理じゃねえかな?」

「……まだ、慣らしているだけですから」

 ファルザスの言い方にちょっと反抗心が刺激され、鋼は意地になってもう一度剣を振る。

 やっぱり体は泳いでしまったが、さっきよりはマシになってきた気がした。


「もう一度! こ、の! この! この!」

 自分は剣など今まで一度も振ったことがないと思っていたが、実は経験があった。

 『天魔滅殺黒龍灰燼紅蓮撃』を使っていた時の斬撃のフォームを再現するつもりで必死で剣を振ることに慣れていこうとする。

「こん、な、感じか?」

 あまりに感覚の違う得物だったので、正直それが役に立ったのか分からないが、最初と比べると段々と滑らかに振るえるようになってきた。

 だが、

「だっ、しまった!」

 すっかり意識の外に追い出していた左手の木の枝に右手がぶつかって、つい右手から剣を放してしまった。

 カランと乾いた音を立てて剣が地面に落ちる。


 あわてて剣を拾ってファルザスに頭を下げる。

「す、すみません。ちょっと夢中になっちゃって……」

 しかし、怒っているかと思われたファルザスは、筋肉に覆われた体を考え込むように縮めていた。

「驚いたな。剣の振り方はまだ素人としか言えねえが、その剣を振り回すとは……。

 そいつは筋力が最低90はないと扱えないはずなんだが、まさかおめえみたいな坊主が、なぁ……」

「あはは」

 実は筋力88です、とは口に出しにくい雰囲気だった。


 ファルザスは、最初の侮るような態度でも、さっきまでの気安い態度でもなく、真摯に鋼に向かい合った。

「そいつはな、坊主。風の魔剣『グラン・ウィンド』。

 この店にある武器の中で一番の業物。いや……」

 そこでファルザスは言いよどみ、口に出そうか口に出すまいか迷うようなそぶりを見せて、しかし、結局、


「おそらくこの大陸にある全ての武器の中でも、最強だと呼べる武器だ」


 その言葉を、口にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ