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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第四部 勇者爆誕編
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第十九章 10days

 一日目。


 初めの内はみな避難にてんやわんやだったが、巨竜が襲って来ないとみると、冒険者を中心に様子を見に来る人間が増える。

 最初は恐々と巨竜とそれと戦い続ける少年を遠目で確認するだけだったが、しばらく危険がなさそうだと見るや、堂々と観戦する人間もぽつぽつと出てくる。

 それでも夜には見張りの人間と、一人だけどうしてもその場を動こうとしなかった騎士風の格好をした少女をのぞき、みな家に戻る。


 一方その頃。

 オラクルしかやることのない鋼は、シロニャとの古今東西で熱戦を繰り広げる。

 それは鋼勝利に終わったものの、次のゲームとしてしりとりが選ばれ、鋼とシロニャの間でしりとりブームが再燃。二人だけの徹夜のしりとり大会が開催される。



 二日目。


 さらに見物人が増える。

 冒険者ギルドの職員が避難を呼びかけるが、効果はなし。何を思ったか、弁当持参で観戦に来る者まで現れ始める。


 鋼、シロニャにしりとりで百連勝。一時、二人の仲が険悪になる。



 三日目。


 ご近所観光スポットとして定着。花見感覚で続々と人が集まる。

 冒険者ギルドも早々に説得をあきらめ、会場整理と酔った見物客によるトラブルの処理に回る。

 この時、「ハガネさん……」と気遣わしげに金色の少年を見る職員と、その隣で「これは、使えそうですね」と漏らすメガネの女性職員がいたという目撃証言もある。


 鋼、シロニャとの間でのしりとりの通算成績が、389勝0引き分け0敗になる。鋼はこの勝率に、『瞬間記憶復元』の効果で自分がしりとりに強くなったことに思い至る。



 四日目。


 この頃から噂を聞きつけ、街の外からも見物客がやってくるようになる。

 その流れをいち早く見抜いた冒険者ギルドが、戦いの見れる場所をブロック単位で区切り、場所代を取り始める。屋台も入り、さらににぎやかに。

 また、酒の入った見物客を中心にこの後の展開をああでもないこうでもないと予想するのが流行する。


 どうしても勝てない状況に錯乱したシロニャが、『サドンデス脱衣しりとり』なる狂気のゲームを提唱。当然のごとく却下される。



 五日目。


 冒険者ギルド主導による『巨竜と少年トトカルチョ』開始。

 賭けの項目は多岐に渡ったが、やはり目玉は巨竜と少年の戦いの結末であり、最終的なオッズは、少年の勝ち、巨竜の勝ち、引き分けが、それぞれ1.5:2:4という結果になった。やや少年びいきな結果と言えよう。

 実際少年の熱烈なファンらしき人も見受けられ、嘘か真か、目つきがキツいがとびきりの美少女が「これが私の全財産だ」と少年の勝利に全額を賭けたという豪快なエピソードも残されている。


 シロニャのごり押しで強行された『サドンデス脱衣しりとり』によってシロニャ五分で丸裸に。【ワシは常に全裸待機状態じゃ!】と強がる。



 六日目。


 トトカルチョの大盛況を受け、あちこちに予想屋も現れ、議論も大いに活発化する。

 『少年は強いよ巨竜も倒せるよ派』『巨竜は負けないよ少年死んじゃうよ派』の二大派閥が激突、その隙を縫って『どっちも強いよ決着つかないよ派』『少年は偉いよ命と引き換えに街を守るよ派』『このまま永遠に戦い続けるよ派』が連立、三つ目の勢力として台頭し、三巨頭体制が築かれる。

 そこに『少年と巨竜は仲直りするよ派』『少年かっこいいよ結婚したいよ派』などがゲリラ的に活動を開始、議論は乱戦の様相を呈し、予想合戦は戦国時代に突入する。


 『サドンデス脱衣しりとり』について、【よく考えたらおぬし手がふさがっとるから負けても脱衣できんじゃないか!】と物言いがつく。

 「どうせ見えないから脱衣とかどうでもいい」という鋼の意見もあったが無視され、シロニャは全裸の代わりに水着のセクシーショットを見せることで手を打つことに。



 七日目。


 今更ながら、巨竜と渡り合う少年の正体についての詮索と推測が活発になる。

 鋼のことを目撃した人間はほとんどいなかったため、『流れのS級ランカー説』『伝説の剣士の息子説』『神が遣わした黄金の闘士説』など様々な噂が好き勝手に流される。

 そのくらいならまだよかったのだが、『古代魔法文明時代からタイムスリップしてきた説』『全く別の世界から時空転移してきた勇者説』や、「オレ、一ヶ月くらい前にアイツがヤマダのとこの農園で働いてるの見たぜ。間違いねえよ」という『ヤマダ家の孫説』。さらには「実はあのゴワゴワしたさわり心地のいい服こそが本体であり、身体は見せかけである」という『ゴワゴワの人説』が出るに至って、議論は混迷を極めた。

 最後まで結論は出なかったが、まあとりあえず『ゴワゴワの人説』だけはないという方向で意見が一致し、最後まで強硬に『ゴワゴワの人説』を唱え続けた修道女が会議の場から強制退去させられたという。


 丸一日裸で過ごしたせいでシロニャが風邪をひく。ついでに延々続くひたすら徹夜で棒を振るう日々に耐えかね、鋼が心の風邪をひく。「ス〇リー、聞いてくれ、僕は……」「機関の妨害にあっている!」などの妄言を吐き始める。



 八日目。


 とうとう現場に騎士団が駆けつける。

 巨竜なんて大物が復活していたとしたらもっと早くやってきてもおかしくないはずだが、巨竜復活の報と同時に、巨竜を金色の棒切れでずっと殴り続けている少年がいる、という情報まで流れたためにイタズラだと判断され、初動が遅くなってしまったという事情があった。

 騎士団は巨竜を殴り続ける少年にひとしきり驚いた後、とりあえず巨竜を包囲。出来るだけ少年のいない場所を狙って攻撃をしかけてみたりもしたのだが、全く効果が見られず、それどころか見物をしていた人々から「少年に攻撃が当たったらどうする」と抗議が殺到したため、それ以上の行動は起こせずに様子見をすることになった。

 ちなみに、その騎士団の攻撃が止んだのは、「やめてくれ! 彼はわた……街のために、今もまだ戦っているんだ!」と言って、単身騎士団の前に立ちはだかった金髪の美少女の必死の説得が功を奏したからだ、という情報もあるが、真偽のほどは定かではない。


 鋼、とうとうしりとりの奥義を極める。たった十七手で確実にシロニャを敗北に追い込む『絶対運命方程式』を発見。同時に心の病も進行し、しりとり時以外の発言が「かゆ…」と「うま…」の二種類になる。



 九日目。


 危険度もよく分からず、解決策も見いだせなかった騎士団は三日間だけ滞在し、それで事態が動かなければ一部の団員を残して撤収することを決定する。

 騎士団とは言っても、今回駆けつけたのは所詮辺境を守る自警団に毛が生えた程度の部隊だったので、周りの冒険者や観光客に交じって観戦を始める。

 おかげで巨竜せんべいなどの土産物が売り上げを伸ばし、トトカルチョのチケットも完売する。


 鋼、精神崩壊。「あんぱん」以外の言葉を口にしなくなる。この隙にとシロニャがしりとり勝負を挑むが返り討ち。ふたたび全裸に。



 十日目。

 

 早朝。少年の最後の一撃を受け、巨竜がついに倒れる。

 同時に無数の歓呼の声と、ただの紙切れになったチケットが空に舞う。

 そして……。



「僕、は、しりとり、キング……」

 意味不明な言葉を漏らして、地面に倒れそうになる街を救った少年と、


「お疲れ様。……ありがとう」


 それを優しく抱き止めた金髪の元騎士の姿は、多くの人の語り草になったという。





 こうして、華々しくもバカバカしく、あるいはバカバカしくも華々しく、

 人々から尊敬と、それと同量の呆れを込め、『棒切れ勇者』と呼ばれる英雄が、ここに誕生したのだった。




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[一言] キングって、シロニャにしか勝ってないじゃん。
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