第十六章 死の淵で
休憩時間になって鋼が街の方へ歩いていくのを、アスティエールはずっと見守っていた。
(分かっていたが、一度も振り返らないとは。
本当に私の存在など、あの男の眼中にはないのだな)
そんな風にひとりごちる。
実はこの時に限っては鋼も後頭部に刺さる彼女の視線を意識していて、むしろ絶対に振り返らないように注意していた。
つまりかなりアスティエールのことを意識していたと言えるのだが、彼女がそれに気付くことはなかったし、それが彼女にとって慰めになるかは分からなかった。
自分は意外と他人に注目されたがる人間だったのだな、などと再認識をしながら、一人で見張りを続ける。
「今頃あの男は、冒険者ギルドにでも行って、あの美人のギルド員でも口説いていそうだな」
などと実はかなり正確に鋼の状況を見抜いたりしつつ、たまに湧き出してくるスライムなどを適当に切り刻んでマナに変えていた。
そんな風に十数分くらいは真面目にやっていたのだが、
「こちらが懸命に働いている時に、向こうが休んでいるというのも業腹だな……」
そう考えたアスティエールは、少し楽をさせてもらうことにした。
高レベルになるか大きな功績を上げると取得できるアビリティ『風格』。
そして、それを覚えることによって使えるスキルに『威圧』というのがある。
自分の強さを誇示して弱い相手を近付けさせない特技だが、逆に強い相手を刺激してしまうこともある上、冒険者が探しているモンスターまで逃げ出してしまうこともあるため、特に街の近くで使うのは自重していた。
だが、もともとこの場所には魔物が少ないようだし、自分の近くだけならよいだろうと、アスティエールは『威圧』を発動させた。
空気に、自らの力をなじませていくような感覚。
自分の周りの空間に『ここは自分のものだ!』という意思を込め、縄張りを作っていくようなもの、と言えば分かりやすいだろうか。
街には被害がいかないように調節しながら、見通しの利かない森の方を中心に自分の気配を浸透させていく。
これでこの一帯にいるモンスターはここに近寄って来ないはずなのだが。
「……何だ、この妙な手応えは」
アスティエールは強烈な違和感に眉根を寄せた。
技がうまく発動しないのではない。むしろ逆。どれだけ『威圧』しても、簡単に浸透しすぎて反応に乏しいのだ。
まるで無人の荒野に力を通したような反応のなさ。それがアスティエールに強い違和感を残した。
「少し、範囲を広げて確かめてみるか」
アスティエールは一度『威圧』を引っ込め、力を充填、全身に力を横溢させる。
そして、体の中を荒れ狂うほど押し込めた力を、
「我が名はアスティエール! 我が剣を恐れぬ者は前に出よ!」
あらかじめ決めたキーワード、名乗りと共に撃ち放つ。
全力で放った『威圧』はさきほどと比べ物にならない範囲を網羅し、森を、平原を駆け抜ける。
やはりスカスカの手応え。
これは無駄なことをしたと自戒しようと思った矢先、
「――ッ!」
恐ろしく異質な感触を覚えたアスティエールは、反射的に自らの剣を抜いた。
だが、案に相違して何も起こらない。
強大な気配を感じたはずなのに、彼女の目に見える範囲で、そんな存在感を発揮しそうな生物は見当たらなかった。
「気のせいだったのか? いや……」
すぐに変化は訪れた。地面が揺れる。
「くっ!」
うめき声を漏らすが、おそらくパニックになっただろう街の人間と違い、彼女には事態の元凶が最初から見えていた。
ただの岩だとばかり思っていた山が、その身を起こそうとしている。
それは、見る間にその全体像を現し、巨大な、あまりに巨大な直立する竜の姿を取った。
「岩山と紛うほどの巨体。それに、覚醒した途端、ここまで押し寄せる火属性の圧力。
あれが封印されし巨竜、ラーバドラゴンか」
アスティエールはこの街の伝承などに縁はなかったが、強い魔物の情報は騎士時代に嫌というほど叩き込まれていた。
一瞬で巨竜の正体を看破する。
「そういうことか…!」
同時にアスティエールは、自らの失策を悟った。
事前に気付くべきだった。
この場所は、あまりにも魔物が少なすぎた。
それは、目覚めかけていたあの巨竜に怯え、魔物たちが逃げ出していたからだったのだ。
「騎士たらんとする者が、自らの軽挙で民を危険に晒すとは……未熟!」
だが、いつまでも後悔をしていられる状況でもない。
土に埋まった自分の体を掘り起こし、体にこびりついた土を振り払った巨竜は、体の自由を取り戻していた。
そしてその巨体をきしませ、大きさの割に機敏な動作でアスティエールの方へと押し寄せてくる。
「とても勝てるとも思えないが、私が立たねばならん、か」
気力には溢れている。隠し玉もあるにはある。
迫りくる巨竜を見つめ、アスティエールが戦う覚悟を固めようとした時、
「おーい! 生きてるー?」
いかにも間の抜けた声を出しながら、自分に駆け寄ってくる少年の姿を彼女は見つけてしまった。
これが緊迫した場面でなく、アスティエールが元騎士でなければ、「足、おっそ!」と叫びたくなるような速度で駆け寄ってくる。
「どうした?」
アスティエールの下までたどりついて息を切らしている鋼に、アスティエールは端的に聞いた。
「物見をするって依頼はまだ終わってないだろ。だから戻ってきた」
「心配する必要はない。ああいう災害級の魔物が出た場合、特例が認められる」
「そっか。なあ、アスティエール」
「いきなり呼び捨てか。何だ?」
「避難しよう」
ハガネという男は、アスティエールが想像したよりもストレートだった。
それを好ましく思ったが、残念ながら彼女の返事は決まっていた。
「……それは、出来ない相談だ」
実は、鋼がそう提案してきた時、アスティエールはあまり驚かなかった。
このハガネという少年は、きっとそのために戻ってきたのだろうと分かっていたからだ。
「理由を聞いても?」
「私がまいた種だ。後始末くらいは自分でつけなければな」
「君が、あいつを?」
「復活間近だったのを刺激してしまった」
「どうせいつか復活したんだろ? だったら君のせいじゃない」
「そうかもしれない。だが、もうそれは重要ではない」
アスティエールと鋼の視線が交錯して火花を散らす。だが、どちらも引かなかった。
「それより、ハガ……貴様はどうするつもりなんだ?」
感情を抑えてアスティエールは問いかけた。
鋼から無言で差し出されるカード。そこに表示された能力値を一瞥して、驚いた。
「赤子より弱いではないか!」
「あ、やっぱりそうなんだ……」
それを聞いて、軽く落ち込む仕種を見せる鋼に、アスティエールはこんな時なのに少しなごんでしまった。
「これで私に勝負だと? 勝てるはずがない」
「いや、勝負にかこつけて君に街を守ってもらって、僕はその分のお金をもらおうかと……」
「見下げ果てた計画だな。やはり貴様は最低の冒険者だ」
自分の義に従い、ハガネに辛辣な言葉を投げかけているつもりなのに、その語調は意図した十分の一もきつくはならなかった。
生死の境に立ち、剥き出しの自分の心と向き合ってみた時、なぜだろう。アスティエールは目の前の少年を嫌いになれない自分を感じていた。
「それでも、あんたでも、あいつに勝てるとは思えない」
「実力の決め付けは嫌いなのではなかったのか?」
「さっきあいつを見てたあんたの顔は、勝てるって顔じゃなかった。
なぁ、もう時間がない。一緒に避難を手伝ってほしい」
逃げる、ではなく、他人が逃げるのを手伝う、それはアスティエールを逃げやすくする方便だろう。
だが、それを彼女は一蹴した。
「時間、だと? そんなもの初めからあるはずがない。
見れば分かるはずだ」
そこで、彼女は哀しげに笑った。
「あれだけの速度だ。ここまで来るのに二分もかかるまい。
ならば、ここからほとんど離れていない街までたどり着くのに、一体どれだけの猶予があると思う?」
「つまり、街の人の避難なんて、不可能だって言いたいのか?」
鋼の問いに、アスティエールはもううなずく労すら惜しみ、ただ轟音と共に近付いてくる巨体を、一心に見つめていた。
「あの巨体にあの強さだ。街の門番程度では、足止めすらできまい。
だが、私なら、いや、私の持っている分不相応なタレントなら、奴の気を引くことも出来よう」
「それがあんたの、騎士道なのか?」
「どうだろうな? 死の淵に立って初めて分かった。
私にとって騎士道とは、単なる剣を振るうための大義名分だったのかもしれない」
「だったら……」
「だが、私は力を持っている。おそらくこの街で唯一、あの巨竜に比肩し得る力だ。
それを使わずに逃げるというのは、ただ、どうにも……性に合わない」
「そんなことで、命を捨てるのか?
あんたが頑張ったって、誰も、見てないんだぞ?」
「名誉のためではない。それに……貴様が見ている」
アスティエールがその透明な視線を向けると、鋼は目に見えてたじろいだ。
「勝算は?」
鋼の問いに、アイテムボックスから三粒の丸薬を取り出してみせる。
「『無敵の丸薬』。ひねりのない名前だが、これを使えば20秒間、HPとMPが減少しなくなる。
私の『不可侵の聖色』は強力だが、最大威力で使用すると、私の体力では15秒と持たないからな。
残念ながら丸薬の連続使用は出来ないが、これで最低でも35秒、あいつを足止め出来る」
「僕は、勝算を聞いたんだよ!」
自分を心配して、本気で怒ってくれる鋼に、アスティエールは胸に温かいものがあふれるのを感じた。
丸薬を一粒、その手に押し付けた。
「離れていて欲しい。そして、出来るなら生き延びて欲しい」
「アスティエール!」
「別に、私のすることを誰かに伝えて欲しいと望んでいる訳ではないんだ。
ただ私がどうしてあれに立ち向かったか。その理由を知っている者がいる。
……それが、私にとっての救いになる」
それ以上の問答を、アスティエールは自分に許さなかった。
未練を切り裂くように剣を抜き放つと、鋼から距離を取るように前方、巨竜へと駆ける。
そして走りざまに、全力の名乗りをあげる。
「我が名はアスティエール! 我が剣を恐れぬ者は前に出よ!」
全力の『威圧』。しかし、それこそ岩壁に剣を叩き付けたような、堅い感触が返ってくるだけ。
だが、それで構わない。
巨竜の注意が、自分に向いたことを確信した。
その巨体が、十分に近付いていることを確認して、丸薬を口に含み、一気に飲み込む。
「ん、く……」
その体に、活力が充満する。今ならどんな相手でも倒せそうな気分になる。
「全力を出すのは、何年ぶりかな」
そんな風につぶやく。
アスティエールは、いつも本気で戦っている。だが、自分の技量や技能にレベル、つまりHPMPが追いついていないため、どうしてもセーブして技を使わざるを得ない。
だが今は、『無敵の丸薬』の力でHPMPを温存する必要がない。気兼ねなく技を使い尽くせる。
即座に自己強化のエンチャントを二つ使用。
そして、本命、
「我が身に宿る聖色の加護よ! 今、我が血肉を糧とし、その力を顕現せん!」
キーワードを口にして、アスティエールのタレント『不可侵の聖色』を全力で展開。
可視化された白いオーラがアスティエールの体を覆う。
その時点で、既に巨竜との距離は50メートル。
人間にとっては容易に縮められない距離でも、巨竜にとっては吹けば飛ぶような距離。
だが、もうアスティエールの間合いの中でもあった。
「最初から、とっておきで行かせてもらう!」
体を巡る聖なる力を、利き手の剣へと集約させる。
「聖なる印をその身に刻め! サザン・クロス!」
強化された肉体を駆って、アスティエールが力強い所作で十字に剣を振るう。
横と縦、時間差で放たれた強大な聖光の斬撃が、狙い過たず、巨竜の腹で交差する。
次の瞬間、けたたましい音と光が、アスティエールの知覚を覆い隠した。
「どうだ!?」
普段は重ねがけなど出来ない高性能エンチャントをかけた状態で、最大HPの七割を消費するため実戦では使い道のなかったアスティエール最強の攻撃技『サザン・クロス』を使う。
これが現在のアスティエールが放てる掛け値なしの全力の攻撃。
「これで、終わってくれれば……」
期待を込めて、アスティエールは巨竜を見上げた。しかし、
「無傷、か……」
噴煙をかき分けるように現れた巨竜には、傷を負った様子すらない。
だが、だからこそ気落ちしている暇などなかった。
せめて丸薬の効果が続いている内に、もう一撃だけでも入れておきたい。
「神の十字をその身に受けろ! ノーザン・クロ……」
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
巨竜の咆哮。
物理的な圧力すら持つ、音の壁がアスティエールを襲った。
身の内に溜めたはずの力が、一瞬で吹き散らされた。
技に使うはずだった力は雲散霧消し、わずかに体が硬直する。
その隙を巨竜は見逃さなかった。
巨体ではありえない俊敏さで体を翻し、
「尻尾?!」
長大な、おそらく50メートル以上長さを誇るその尻尾を振り上げ、振り下ろす。
それはそれだけで、圧倒的な質量と速度を持った、強大無比なハンマーとなる。
「よ、け…!」
ギリギリで硬直から回復したアスティエールは横っ飛びに避ける。
「ぐ、ぅ…っ」
直撃は避けたものの、尻尾だけで人間の数十倍という高質量の攻撃を食らい、無傷という訳にはいかなかった。
尻尾が振り下ろされる瞬間、横に跳んだアスティエールは、これなら避けられる、と思った。
だがそれでも傷を負ったのは、ギリギリで丸薬の効果が切れていたことが災いしたというのもあるが、アスティエールが回避行動を取った瞬間、尻尾の軌道がわずかにアスティエールを追いかけるように変わったせいだ。
巨竜は大きいだけでも強いだけでもなく、熟達した戦士でもあった。
(聖色を使っていなければ、今の一撃で死んでいた!)
数秒遅れで、恐怖が寒気となってアスティエールを襲う。
もっとやれると思っていた。
勝てるなどとは思っていなくても、せめて手傷を負わせるか、数分くらいは時間を稼げるはずだと考えていた。
(甘かった。私は、無力だ…!)
せめてその無力な命を最大限に使おうと、アスティエールは傷ついた体に鞭打って、森の中に逃げ込んだ。
森の中にいれば巨竜の攻撃の精度も下がるはずだ。
このまま『不可侵の聖色』を発動し続けていれば、あと数秒も経たない内にMPが尽きて死ぬだろう。
何とか森に隠れてMPを温存して……などというアスティエールの目論見は、巨竜を見上げた瞬間、一瞬で崩れ去った。
巨竜はまっすぐにアスティエールを見下ろしていた。
その口は大きく開かれ、空気を取り込んでいる。
それが何の予備動作であるか、アスティエールにははっきりと分かってしまった。
『豪炎のブレス』
森を荒野に、平原を焦土へと変える灼熱のブレス。
かつて巨竜討伐に参加した騎士十数名を一撃で葬ったとも伝えられている。
今から走った所で避けられるような攻撃でないのはすぐに分かった。
「聖色よ!」
簡易キーワードで、『不可侵の聖色』を張り直すのが精一杯。
同時に巨竜の動きが一瞬止まり、次の瞬間、
――世界が炎に包まれた。
森など、ただの木など、障害どころか目くらましにもならない。
「あ、あぁぁああああぁああ!!」
我知らず獣のように叫んで、暴虐なる炎の嵐に対抗する。
(何だこれは、何なんだこれは!)
数秒前は普通の森だった場所が、今は煉獄へと変わっている。
視界は一面、炎に覆われていた。
アスティエールの身を隠してくれるはずの木は焼けただれ、一秒と持たずに灰になって吹き散らされていく。
自らの剣を地面に突き立て、必死にその場に留まる。
防御姿勢が崩れれば、たとえ『不可侵の聖色』の上からでもHPを奪われて削り殺されるのは明白だった。
(ま、ずい……。MPが……)
アスティエールは『豪炎のブレス』の攻撃をかろうじて防いでいたが、『不可侵の聖色』はMPを大量に消費する。
MPが目に見えて減っていく。このペースではブレスが終わる前にアスティエールのMPがなくなるのは明白だった。
(このままでは、あと三秒、持たない…!)
必死に打開策を探す。
だが思いつかない。この状況で使えそうな技は何もない。
使えそうな道具も思いつかないし、その前に、道具を使ったり技を使うための隙が全くない。
あと二秒。
(何か、何かあるはずだ…! まだ、私は……)
MPだけでなくHPも削られているのが分かる。
たとえ『不可侵の聖色』を使い続けられてもおそらく数秒持たない。
そんな絶望的な認識だけを残して、無為に時間が過ぎる。
あと一秒。
(終わる、終わるのか、私は……。まだ、何も成していないのに!)
最後の足掻きとばかりに巨竜をにらみつける。
視線がぶつかった。
巨竜は油断も緩みもない表情で、冷徹にこちらを見つめて、いや、観察していた。
(勝てない。私はこいつに、勝てない……)
アスティエールの心が、とうとう折れた。
あと……、
(駄目、か。父様、母様、申し訳ありません。私は、ここまでのようです。
それに……)
昨日会ったばかりの少年の顔が、最後に頭をよぎった。
同時に、MPが切れる。
いつもアスティエールを守護し続けた聖色のオーラが、一度だけ炎に抵抗するように明滅し……消えた。
アスティエールは無言で目を閉じた。
遮るものが消え、全てを燃やし尽くす炎の舌にとうとう少女の体が巻き込まれる、その寸前、
「え?」
アスティエールの体は、何かに引き倒された。
いや、抱きすくめられていた。
(……だ、れ?)
アスティエールの顔は『誰か』の胸に押し付けられていて、その正体は見えない。
だが、それでも分かることがある。
一つは、自分が今、守られているということ。
(ふしぎだ。ほのおが、まるでこの人をさけるみたいにながれていく……)
アスティエールの体を、その魂ごと焼き尽くすはずの豪炎は、『誰か』の背に当たって左右に流れていく。
そんなまるで夢のような光景を、アスティエールはただ『守られている』という実感と共にぼんやりと眺めていた。
そして、二つ目。
それは、朦朧とする意識の中、その『誰か』の胸の中にいることに、不思議な安らぎを覚えているということ。
(わたしは、この人を、知っている…?)
その奇妙な確信に後押しされ、アスティエールはその体を『誰か』の胸へとそっと寄せる。
生身で放り出されれば瞬時に命を落とす火炎の暴風の中にいるはずなのに、アスティエールの心は不思議と凪いでいた。
いったい、どれだけの時間が経ったのだろうか。
アスティエールにとってほんの刹那のようにも、あるいは永遠と等しいようにも感じた時が過ぎ、炎のブレスがやむ。
(私は、生きているのか…?)
自分が生き延びたことが信じられず、アスティエールは呆然と顔を上げる。
そこには、
「ハガ、ネ…?」
死を覚悟したその瞬間、彼女の頭に浮かんだ、最弱の冒険者の姿があったのだった。