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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
第三部 最弱冒険者編
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第十一章 今度こそ冒険者ギルドへ

「ようやく着いた……」

 色々と紆余曲折を経たものの、何とか日が沈む前に鋼は冒険者ギルドの前にたどり着くことができていた。

【おぬしは何でそんなに歩くのが遅いのじゃ!

 おぬしと比べたらナメクジだってシャ○専用機じゃよ!】

「うるさいな。こっちの世界に来たばっかりだから、まだうまく体が動かせないんだよ」

 なんて言い争いをしながら、ギルドの中に入る。


 ざわ… ざわ…


 鋼が入った途端、ギルドの中の空気が変わった、ような気がした。

 おまけに、どうやら部屋にいるほとんどの人から注目されているような気までして、鋼はたじろいだ。

「な、何でだ。もしかして、顔見知り以外あんまり出入りしないとか?」

【いや、どう考えても、おぬしが真っ金色じゃからじゃろ?】

 めずらしい、シロニャの呆れたような声。


 ハッとして鋼は自分の姿を見下ろした。

 金色の服に、金色の靴。帽子だって金色で、ついでに腕輪にチョーカーまで金。

 これで目立たないのだとしたら、むしろそっちの方が異常だった。


「なぁ、シロニャ。全身金色と全裸、どっちが目立たないと思う?」

【そこでワシが全裸と答えたら、おぬしはどうするのじゃ?】

「……………」

 実にもっともな指摘だったので、鋼は黙り込んだ。

 

 周りにいるのは全部野菜だと思い込むことにして、鋼は受付らしき場所に向かった。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。初めての方ですか?」

 ギルド員らしきお姉さんが対応してくれる。

「初めてですけど……よく、分かりましたね」

 もしかして、新人オーラでも出ているのだろうか。

 受付の人は愛想のいいちょっと美人のお姉さん、という印象だったが、意外にやり手かもしれない。

 鋼は心の中の警戒心メーターを少しだけ引き上げた。

「いえ。全身金色の装備でいらっしゃるような方は、あまりお見かけする機会がないもので」

 苦笑いで告げられる。

 やっぱり全身金づくめ(?)っておかしなことだよな、と自覚した。

 当たり前のことだったかもしれない。鋼は警戒心メーターを普通に戻した。


「冒険者としての登録に来たんです。あ、これ、紹介状です」

「紹介状、ですか? 登録だけなら、特に誰の紹介も必要ないのですが……」

「あ、そう、なんですか?」

 もしや、また騙されたのだろうか。

 そんな疑惑を鋼が持った時、紹介状を受け取った受付のお姉さんの表情が変わった。

 どこか呆れたような、納得したような複雑な顔をする。


「ああ。ミスレイからですか」

「もしかしてお知り合いなんですか?」

「はい。昔からの知り合いです。それはもう、散々お世話になった相手ですよ」

 そして表情を全く変えないまま、「ふふふふふ」と地の底から響くように笑う。

 よく分からないが、鋼の警戒心メーターは最大値まで振り切れた。


「も、もしかして、登録、無理ですか?」

 おっかなびっくりで聞いてみると、お姉さんはにこやかに答えてくれた。

「いいえ。もちろん問題ありません。紹介状は後で拝見いたします」

 しかしそこはやはりギルドで働くお姉さん。一瞬で私情を捨て去ったか、仕事をする顔に戻って鋼に向き直る。


「当ギルドに加入するにあたって、何点か注意事項がございますが、確認させていただいてもよろしいでしょうか」

「あ、は、はい」

「では、説明させていただきます。この冒険者ギルドは全大陸にある……」

 もしかするとこれが紹介状の効果なのか。色々と聞かれるかと覚悟していたのだが、思ったよりスムーズにギルドの説明に入っていく。


「基本的にそのギルドで禁止されていない限り他職のギルドに同時所属することは可能ですが……」

 この世界に不慣れな鋼にとって、たかだかギルドの通り一遍の説明でも大事な意味を持つ。

 鋼は一言も漏らすまいと、受付のお姉さんの話を聞いていた。

 が、そんな時に限って声をかけてくるのがシロニャである。


【なぁ、コウよ。どうでもいい話なんじゃが】

 ギルドに入ってからは比較的静かだったシロニャが、突然話しかけてきた。

「どうでもいい話なら後にしてくれよ。……何だ?」

 それでもさすがに無視するのはしのびなく思い、受け付けのお姉さんに気付かれないよう、仕方なく小声で対応する。


【知っとったか? 『ねだる』と『ゆする』って、どっちも『強請る』って書くんじゃよ?】

「本当にどうでもいい話だったよ! ほんとに後にしてくれ! 今は大事な話を……」

【ま、待つのじゃ! 『ざれごと』と『たわごと』もどっちも『戯言』って書くんじゃぞ?】

「だから何だよ!」

【ルビ振られてない場合どうやって見分けるんじゃろうな?】

「知るか!」

【あと『だいにんき』と『おとなげ』もどっちも『大人気』じゃが、こっちは文脈で確実に判別できると思うのじゃ】

「じゃあわざわざ今言うなよ!」

 耐え切れず、鋼は頭の中で怒鳴った。

 ちなみに、オラクルだと普通の会話では伝わらない漢字の表記まで正確に伝わる。念話の地味な優位性である。


「――というのが、当ギルドの規約になりますが、よろしいでしょうか?」

「え? あ、はい! 大丈夫です!」

 受け付けのお姉さんに確認され、つい反射的にそう答えてしまった。

 どうやらシロニャに気を取られている内に説明が終わってしまったらしい。

(くっそう。シロニャの奴めぇ!)

 内心で歯噛みするが、ここまで元気よくうなずいてから、やっぱりもう一回聞かせてくださいというのはかなりかっこ悪い。

 不安はあったが、鋼はこのまま押し通してしまうことにした。


「では、カードを作りますので、このカードにあなたの血をたらしてください」

「あ、は、はい!」

 そうして、白紙のカードと針を渡される。

 どちらも魔法の品なのか、現代日本のものよりずいぶん重く感じたが、当然持てないほどではない。

 

 根っからの現代人である鋼は、針で刺して血を出す時点でかなりの抵抗を感じたが、ナイフでなかっただけマシ、と思って人差し指の先を突き、にじんだ血をカードに押し付けた。

「はい。たしかに」

 当然だが、慣れているのだろう。受付のお姉さんは血のにじんだカードを表情筋一つ動かさずに受け取る。

「これで、あなたに目立った犯罪歴がなければ自動的にカードは完成するはずです」

「その、もし誤作動とかで犯罪歴があると判定された場合は?」

「その判定は、審判の神にお願いしていますから。間違うことは絶対にありません」

「はぁ……。神様が……」

 あっさりと神なんて言われてもピンと来ないが、きっとこの世界ではそういうものなのだろう。


 自分に犯罪の経験などないと分かっていても、その待ち時間はやはり少し鋼を緊張させた。

「はい。出ました」

 だから受付のお姉さんのその言葉を聞いて、ホッと体から力が抜けた気がした。

 お姉さんの手元を見ると、たしかに白紙だったはずのカードに文字が浮かび上がっているのが見えた。


「一応、項目の確認をしますね」

「はい」

「あなたの名前はハガネ・ユーキ。職業は学生。これで問題ありませんか?」

「…はい」

 なぜ職業が学生なんだろう、と一瞬だけ考えたが、日本で高校生をやっていたからだろう、とすぐに納得した。

 それにしても、血をたらしただけでそれだけの情報を読み取るとは、この世界の魔法の関わるシステムは、本当に現代日本より進んでいたりするらしい。


「続けます。……あら? あなたの名前、ハガネ・ユーキなのにニックネームがコウになっていますけど、これで合っていますか?」

「あ、ああ。大丈夫です。合ってます」

 ギルドカードにはニックネームまで設定されているのか、と驚かされる。

 ちなみに鋼の呼び名がコウなのは、ユウキという鋼と同じ名前を持つ同級生が他にいて、さらに鋼という字は音読みだとコウと読むから、なのだが、その辺りの事情が異世界に人に説明できるはずもなかった。


「それでは、次に能力の査定に参りますね」

「能力の査定?」

「はい。ギルドに加入した直後のギルドランクは、カードに示された加入時の能力によって決められます。

 基準としては、能力値の低い子供などは大抵ランクFから。

 逆に、たとえば筋力などの能力が際立って高い場合、最高でランクBからスタートすることができます」

「ランクって、いくつからいくつまであるんですか?」

 鋼が聞いた途端、お姉さんの目つきが摂氏20度くらいから、20ケルビンくらいに一気に下がった。実に273度もの落差の急速冷凍である。

「それは、さっき説明したはずですが」

 両目から、冷凍ビームみたいなものが発射されているような気がした。


「あ、あの、ちょっと緊張してて、よく聞き取れなくて……」

 苦しい言い訳をする鋼。

 しばらく心臓麻痺を起こしそうな冷たい沈黙が横たわったが、

「分かりました。もう一度説明します」

 受付のお姉さんが先に折れてくれた。

 だが、その目は「次はないぞ」と雄弁に語っている。

 鋼は必死でコクコクとうなずいた。


「通常の冒険者のランクは、現在確認されたところでG-から、A+まであります」

「現在確認されたところでは?」

「はい。最初の冒険者ランクは能力値によって機械的に振り分けられます。

 ですので理論的な下限はもっと下とされていますが、今のところG-以下をマークしたことはありません」

「G-の人ってどんな人だったんですか?」

「毒消し草です」

「……どくけしそう?」

 なんたるDQNネーム、と鋼は思ったとか思わなかったとか。

 まあ実際にはそんなことを思う前に、受付のお姉さんがきちんと説明をしてくれた。


「これも理論上の話ですが、冒険者カードは生き物なら何でも作ることが可能なはずなんです。

 そこで、初代の冒険者ギルドマスターが苦心の末そこらに落ちている草にカードを作らせたところ、G-になったとか」

「な、なるほど……」

 そもそも何で草を冒険者にしようとしたのかが鋼には既に意味不明だが、まあさすがに野草より弱い人間はいないだろう。

「ちなみにその時のカードのアビリティ欄に『解毒』があったことから、その草に解毒能力があると発見され、毒消し草と名づけられました。

 これが地味に初代冒険者ギルドマスターの最大の功績と言われています」

「なんですかそのプチ情報……」

 微妙すぎるエピソードに、反応に困った。


「そして、今言った冒険者のランクはあくまで『通常の』ランクで、A+の上に特別なランクとしてSランクがあります」

「Sランクにはどうやったらなれるんですか?」

「A+まではギルドの用意したクエストなどをこなしていけばランクを上げられますが、Sランクとなると国家を左右するレベルの功績を上げないと昇格できません。

 さらにSランクの次にS+ランク、S++ランク、S+++ランク、SSランク、SS+ランクと続いていき、最終的にSランクは百八式まであると言われています」

「嘘だッ!!」

「はい。嘘です。現在与えられたランクはSSSまでが最高です」

「あ、そ、うですよね」

 ボケのにおいをかぎつけて思わず叫んでしまったが、冷静に返されて怒鳴ってしまったことに赤面する鋼。


 その時、一度は退散した神様の気配がまた頭の中で膨れ上がった。

【のう。コウよ】

「あのな。今度こそお前に構ってる暇はないぞ」

【いや、おぬし、よいのか?】

「え? 何が?」

【じゃって、おぬしは三百万ポイントを使って、大量のタレントを取ったじゃろ?

 それがバレてもよいのかと聞いておるのじゃ】

「もしかして、あのカードって、そういうのも分かるのか?」

【当然じゃろ。むしろ、それを知るためのカードと言っても過言ではないのじゃ】


「念のため聞くけど、タレントをたくさん持ってるのって……」

【おるワケないじゃろ! 普通の人間より有利な転生者じゃって百だの二百だののポイントをやりくりするんじゃぞ。

 せいぜい二、三個持っておるのがせいぜいじゃ。

 おぬしの場合、下手すれば数百種類のタレントを持っておるからのう。大騒ぎになるぞー】

 気のせいかもしれないが、ずいぶんと楽しげに宣告するシロニャ。


 まだ右も左も分からないのに、こんなところで悪目立ちはしたくない。

 鋼はあわてて受付の人を制止しようとした。

「あ、あのですね。僕のタレントは……」

「そちらを先に確認しておきたいのですか? では」

 藪蛇だった。

【ぷ、ぷふーっ!】

 脳内でシロニャが吹き出すのが聞こえた。

「あ、ちょっと待っ……」


「あら?」


 受付のお姉さんの眉が寄るのを見て、鋼は終わった、と思った。

 しかし、

「アビリティとタレントの項目を選んでも閲覧不能になりますね」

 よく分からなかったが助かったようだった。

「それって、アビリティやタレントがないってことですか?」

「いいえ。その場合はなしと表示されるので。

 何かの隠蔽スキルが働いてるのかもしれませんね」

「ああー」

 心当たりはありすぎるほどあったので鋼は黙った。


「では、お待ちかねの能力査定に移りますね」

 にこやかにお姉さんが言ったので、鋼はまだピンチを抜け出していないことに気付いた。

(ど、どうしよう……)

 考えてみれば、危ないのはタレントだけではなかった。

 鋼は基礎能力のパラメータをいじって、ポイントを稼いでいた。

 問題はその時の記憶があいまいなことだ。


(99まで上げた後、僕はちゃんと能力値を普通くらいまで戻したっけ?)


 もし、いくつかの能力値が、いや、一つだけでも99だったら大騒ぎになる可能性がある。


「あの、質問ですけど、冒険者登録の時の能力値って、どのくらいが普通なんですか?」

「ん? そうですね。普通の成人の能力値平均は7とされています。

 冒険者に登録する人は平均より高い人が多いですけど、あなたくらいの年齢ならやっぱり7くらいが平均ですね」

「ち、ちなみに、今までで最高は…?」

「んー。個人の情報なので、あまり詳しくは言えませんけど、わたしが担当した中では、平均が大体35、一番高いのが50越え、という人が最高でしたね。

 魔術師として生計を立てていたのを、冒険者に転向することにした方だったと思います」

「そ、そうですか」

 やはり99なんてどう考えてもおかしいらしい。


 しかし、たとえ裏が取れても査定をやめさせるワケにはいかない。

 とりあえず冒険者として生計を立てるつもりの鋼としては、冒険者ランクが決まらなくても困ってしまうのだ。

 せめて、当時の鋼が、能力値を普通の値に戻していてくれたことを祈るしかない。


 だが、そんな鋼の祈りも虚しく、


「まさか……! こんな、ことって……!」


 鋼のカードに表示された能力値を一目見た途端、受付のお姉さんの顔が蒼白になる。


「これ、ご自分で、見てください。信じられない」


 そう言って、受付のお姉さんが震える手でカードをかざす。


「あなたって、本当に、すごく……」


 そこには……。



LV1 HP1 MP0

筋力0 知力0 魔力0

敏捷0 頑強0 抵抗0



「……すごく、弱いです」


 そこには、全項目が最低値をマークした、鋼の能力値一覧が表示されていた。



(も、戻しすぎてたぁぁああああああああああああああああああ!!!)



 今度は別の理由で顔を青くする鋼の脳裏には、


【ぷ、ぷふっ! さ、さいじゃく、最弱じゃ、ぷ、あひゃ、あひゃひゃひゃ!!】


 どこぞの失礼な神様の笑い声が、いつまでも響いていたという。






 以下の者を当ギルドのメンバーとして登録する。


 ハガネ・ユーキ

 LV1

 職業 学生


 冒険者ランク H (冒険者ギルド創設以来、最低ランク)






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[一言] しょ、将来性に期待だ。ギルド的には。
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