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天啓的異世界転生譚  作者: ウスバー
最終部 最後は魔王とガチバトル編
100/102

第八十九章 オールスター大総力祭

お詫び

話の展開上、非常に重要なあるスキルの効果に致命的な見落としを発見したため、今回の話で若干恣意的かつ強引な解説を加えています

真面目に展開予想をされていた方にとっては些かアンフェアになってしまっていたことをここにお詫びします

申し訳ありませんでした

 予想もしなかった魔王のパワーアップに驚く鋼に、魔王が追い打ちをかける。

「そうだな。冥途の土産に、お主を冥府に送ることになる、我が武器の銘でも聞いておくか?」

「え? いや、別にいらないけど……」

「ふん! 下らん人間が! ならば勝手に聞くがいい!」

「って、結局話すのかよ!!」

 鋼は特に興味はなかったが、魔王は話す気満々だった。



 しかし魔王の言葉を聞いて、鋼はかつてないほどの衝撃に心臓を凍りつかせることになる。




「良いか。まずこの剣は、闇よりもなお昏い幻の物質『ダークマター』で作られた究極の剣、その名も……『てんしゃじゃんげちゅ』!」




「な!? て、てんしゃじゃんげちゅ、だと!?」

 ここへ来てのまさかのギリギリネームの登場に、戦慄を隠せない鋼。



 だが、魔王は止まらない。


「そして、この『てんしゃじゃんげちゅ』に魔力をこめて振ることにより、奥義『げちゅぎゃてんちょう』が使えるようになるのだ」


 さらなるギリギリ技の名前を無自覚にまき散らしていく。



【くっ! 魔王! なんて恐ろしい奴なのじゃ!】

 その暴挙には、あのシロニャまでが震える。

 しかし、鋼は退かなかった。

「まさかその名前、お前が考えたのか?」

 果敢に踏みとどまり、質問を投げかける。


「それこそまさかだ。これは我に武具を献上しに来た猫神が伝えた名前だ。

 猫形態でない時はやけに言葉が不明瞭で、この名前を聞き取るにも一苦労だったがな」

「……ええっと、それって」

 その魔王の言葉を聞いて、鋼の脳裏に一つの可能性がよぎる。

 つまり、魔王がつけている武器は、もしかしてまんま原作通りの名前がついていたのだけれども、クロナが噛みまくってうまく発音できなかったという可能性が……。


 神だけに噛みまくりというクロナ一流のギャグなんだろうか。

 それである意味救われたのだとしたら、実に複雑な気分だ。

 ちなみにそれを聞いてシロニャは、

【くぅうう!! 黒髪ロリ巨乳な上に舌っ足らずとか、どんだけ属性を重ねれば気が済むのじゃ!

 まるで萌えのデパート、いや、萌えの総合商社じゃよ!!】

 何だかよく分からないところで憤慨していたが、いつものことなので鋼は当然無視する。


「さて、では次は鎧だな。この鎧は……」

 しかし魔王がそんなことを気にするはずもなく、今度は鎧の説明を始めてしまった。

 もしクロナが猫形態で名前を言っていたりしたら、本当にやばい鎧名が出てしまうかもしれない。

「こうなったら、仕方ないか……」

 時間制限もある。

 これ以上魔王に付き合ってはいられないのだ。

 鋼はひそかに覚悟を決めた。


【よいのか、コウ。あいつは思ったよりも強力になっとるぞ?】

 その気配を察知してシロニャが心配そうに呼びかけるが、

(どの道ここで逃げるワケにもいかない。

 大丈夫。今までの冒険で得た物全部を出し切れば、何とかやれるよ)

 鋼の腹は決まっていた。


 そして、

「喰らえ、魔王!」

 心を決めた鋼は、なんと主人公にあるまじきことに、したり顔で解説中の魔王に先制攻撃をしかけた。

 隠し持っていた袋を開いて、魔王に投げつける。


「何のつもりだ?」

 だが、放たれた攻撃に、魔王は眉をひそめた。

 鋼が放ったのは、武器ではなく、ただの土だった。


 三日ほど前、ルファイナと一緒に行った球場で拾ってきた土である。

 しっとりとしていてそれでいて手にくっつかない、絶妙のばらけ具合を持っているその土は、魔王の頭上でばらけてさしもの魔王でも回避できないほど広範囲に広がって落ちていく。

 投石アビリティを持つ者が投げた物は何でも攻撃になる。

 とはいえ、ただの土が当たったところで、大した攻撃力を持つはずがない。

 魔王はそう高をくくっていたのだが……。


「…何っ?」


 魔王はわずかな驚きに、先ほどとは違う意味で眉をひそめた。

 魔王が頭上に気を取られたその隙に、鋼はどこからかスイッチを取り出すと、それを押し込んだ。

 鋼の周囲に結界が展開される。


 それとほぼ同時に、魔王に土の粒が当たる。

「むっ?!」

 本来であれば大した攻撃力しか持たないはずのそれは、魔王を驚かせるほどの強さで魔王を襲った。



 なぜ単なる土がそれほどの威力を持ったか、それは、鋼がスイッチを使って展開した200倍の加速空間でやっていたことと関係していた。

 加速空間の中で鋼は、前日シロニャとの買い物の時に買ってもらったエアキャップ、つまり梱包用のぷちぷちを、200倍の速度でひたすら潰していたのである。

 普通であればそんな物が戦闘に役立つはずもないが、鋼にはぷちぷちを一つ潰すごとに『次の攻撃』の攻撃力が10上がっていく『エアキャップ増強術』がある。

 そして、この世界の仕様では、『次の攻撃』というのは、『次に発動した攻撃』ではなく『次に命中した攻撃』となっている。

 その結果、土の粒自体には大した攻撃力がなくとも、それが魔王に当たった瞬間予想以上の威力を発揮する、というカラクリである。



 とはいえ、『エアキャップ増強術』で加算される攻撃力など、最大でも1000。

 かつて頑強が100しかなかった魔王にならともかく、鎧の効果で攻撃力と同じ値まで防御力を高めた魔王にそんな攻撃が通用するはずもない。

 だが、プライドが高く短気な魔王を苛立たせるには十分だった。


「姑息な手段で我を愚弄した罪、万死に値する。

 今すぐに、貴様を八つ裂きにしてくれよう!」

 かなり湧いた感じの台詞を口走り、一跳びで結界の前に。

 そして魔王が左手で結界に触れた瞬間、魔王も加速空間の中に移動したのだが、


「なにっ!?」


 そこで今度こそ、魔王は危機感の交じった声を漏らす。

 なぜなら、そこには鋼と、



「よし! タイミングばっちり!」



 そこら一面に積まれた、今にも爆発しそうな円筒形の物体、つまりは『ちきゅうはかいばくだん』があったのだから。



 ――このアイテムは、マズイ!


 魔王は、戦う者としての本能で、『ちきゅうはかいばくだん』の秘めた破壊力に気付いた。

 慌ててきびすを返し、結界から出ようとするが、果たせない。


「悪いね。この結界、一度中に入ったら出られないんだ。

 このスイッチを押して、結界を解除する以外ではね」

 余裕ぶった鋼の声に、魔王は逆上する。


「この爆弾の山の中では、貴様もただでは済まんぞ!

 もしや、相討ち狙いか!?」

「それはどうかな?」

 あくまでひょうひょうとした態度の鋼。


「付き合っていられるか! 貴様からそいつを奪って、我だけ脱出させてもらう!」

 魔王はすぐさま頭を切り替え、鋼からスイッチを奪おうと飛び出していくが、




「時間停止!」




 それより一瞬早く、鋼のスキルが発動した。

 鋼の体から半径二メートルほどに、黒いフィールドが形成される。


「ふん! その程度の障壁! 我の一撃をもってすれば……なにっ!?」


 絶対の攻撃力を持った魔王の一撃が、たかが人間ごときのスキルに阻まれるはずがない。

 そう考えた魔王は、黒いフィールドに剣を叩き付けるが、その一撃はフィールドによっていとも簡単に防がれた。

 この世界で最高の攻撃力を持つはずの魔王の攻撃が、全く通用しなかったのだ。 


 しかしそれもそのはず。

 いくら魔王が凄まじい攻撃力を有していても、時間が止まっている空間に干渉できるはずがない。

 鋼が使用したスキル『時間停止』は、『天魔滅殺黒龍灰燼紅蓮撃』と同じ時にシロニャから効果を説明してもらった技であるが、今まで日の目を見ることがなかった。

 何しろ使用中は身動きができなくなるばかりか、自転や公転をしている地球上で使えば即死の危険すらある地雷スキルなのだ。

 だが、最初から身動き一つしないつもりで、この自転も公転もしない赤い月の上で使えば、それは万能の盾になりえた。


「くそ! なぜだ! なぜだ! なぜ、壊れない! くそぉぉ!!」

 『ちきゅうはかいばくだん』の起爆時間が迫る。

 魔王は黒いフィールドをやたらめったらなぐりつけるが、何の効果もない。


 時間停止系の能力は発動したら最後、あらゆるスキル、アビリティ、タレントの力に優先して機能し、その能力すら停止させる。

 例えば魔王がスキル解除ができるスキルを持っていたところで、停止した時間には干渉できないのだ。

 いや、そもそも、魔王がこの時間停止に対抗できそうな能力など持っていないことなどは、鋼はとっくに確認しているのである。


 魔王が黒いフィールドを壊すことができないとようやく認めた時、すでに残り時間は一秒を切っていた。

 それならばこの『ちきゅうはかいばくだん』を壊していけば、と思ったが、全ては遅すぎた。

 とうとう設定した時間を迎え、




「嘘だッ!! こんなことで、まさか我が――」




 結界の中に配置された『ちきゅうはかいばくだん』が同時に爆発し、結界の中に凄まじい熱と光が吹き荒れた。
















「すっごいことになったなぁ……」


 そして、黒いフィールドを発動させてから、きっかり三十秒後。

 『時間停止』を終えた鋼が周りを見て、感嘆の息をついた。


 『時間停止』中に結界は解除して熱は散らしているものの、それでも辺りは焦熱地獄のよう。

 鋼が潰していたぷちぷちや、『ちきゅうはかいばくだん』の残骸すら跡形もなくなっている。


「中性子とか、怖いんだけどな……」

 鋼はそう言って肩をすくめた。

 熱を防ぐタレントなら持っているが、さすがに放射能に対応はしていなさそうだ。

 だが、今はとりあえず、攻撃が成功したことを喜ぶべきか。


 『ちきゅうはかいばくだん』の同時爆破は、それなりにリスクのある攻撃だった。

 そもそもこの『ちきゅうはかいばくだん』、とりあえず核爆弾だという話は聞いているが、所詮シロニャの言ったことなので、実際にはどんな物かよく分からない。

 本当に核爆弾だとしても、そもそも密閉された空間でうまく爆発するのかとか、同時にたくさん爆発させたりすると効果は本当に上がるのかとか、色々と分からないことがあった。

 だが、この様子なら成功だとしてもいいだろう。


「そうだろ、魔王?」

 そう言って、鋼は正面、まるでボロ雑巾のようになった魔王を見据える。


「……………………」

 魔王は答えない。

 あるいは、答えることができないのか。

 パッと見ただけでも傷ついていることが分かる魔王の体は、鋼の言葉にもぴくりとも動かなかった。


 だが、その直後、その体に異変が起こる。

 倒れ伏した魔王の背中、そこに亀裂が入り、


「なっ!? 嘘、だろ、そんな……」


 そこから新たな腕が伸びてきたのだ。

 変化はそれだけに留まらない。

 足は二股に分かれ、四本になり、頭は二つに割れて、中から一回り大きい頭がにゅっと生え出す。


 そして、ほんの数十秒の間に、



「コレ、ガ、ワレ、ノ、シンノスガタ、ダ!!!」



 第二形態となった魔王が、鋼の前にその禍々しい姿を現した。








 鋼はもう一度スイッチを押し、結界を発動させると、腰につけていた木の枝を抜いて、構えた。


「仕方ないな。最後は小細工なしのぶつかり合い、ガチなバトルと行きますか」


 それを見た魔王がわらう。


「オロカナ……。ワレニカテルト、オモウノカ……」


 魔王は第二形態になったことで体力は全快し、能力値も上がっている。

 その上、神の道具だったからか、クロナから渡された装備も健在。

 鋼に勝てる要素はないかと思われた。

 しかし、


「悪いけど、僕の武器は特別製でね。……頼むぞ、相棒!」


 そう言って鋼が振りかざす木の枝には、たしかに魔王を脅かしかねない力が宿っていた。


「ナルホド。ダガ…!」


 それも、鋼が『攻撃を当てられれば』のこと。

 その前に、魔王が振った剣先から、『げちゅがてんちょう』が飛び出し、鋼を襲う。

 たかが敏捷100程度の能力値では避けられないタイミングとスピード。

 だが、


「それが、どうしたっ!!」


 鋼は避けなかった。

 むしろその黒い斬撃に飛び込むように前進し、


「バカナッ…!?」


 ぶつかった『げちゅがてんちょう』をものともせず、魔王に肉薄する。


「これでっ!」


 それでも速度は魔王の方が数段上だ。

 鋼が繰り出した攻撃をからくも避け、代わりに鋼に斬撃を見舞うが、


「ナゼダッ!?」


 その斬撃すら、効果がない。

 たしかに当たった手ごたえがあるのに、鋼にダメージはないようだった。


「勝負はまだまだ、始まったばかりだぞ?」

 そして鋼自身、魔王の攻撃を受けてもけろっとした様子で戦闘の続行を宣言する。

「クッ…!」

 魔王は混乱しながらも、自らの武器を構えた。





 そこから一進一退の攻防が続く。

 狭い結界内で、魔王はまだ自分の生み出す速度に慣れていないために何度か鋼の攻撃に当たりそうになるが、今のところは何とか全て躱し、逆に数十発近く、鋼に攻撃を加えているのだが、鋼は一向に倒れる様子を見せなかった。

 だが、さらにもう一撃、魔王が鋼に斬撃を見舞った時、


「ヌッ!?」


 魔王は鋼の服についていた何かが砕ける光景を目の端に捉えた。

 そして、それをヒントに鋼の服をよく見てみると、


「ナ、ナンダ、ソレハッ!!」


 非常に巧妙かつさりげなく、鋼の服に大量の藁人形のような物が縫い込まれていることに気付いたのだ!


「気付いたか! これは身代わり人形! 致死性のダメージを一度だけ引き受けてくれるアイテムだ!」

「ナニィッ!?」


 ふたたび、魔王が驚きの声をあげる。

 というか魔王、さっきから驚いてばっかりである。



 これが、魔王と戦うに当たり、鋼が用意していた最大の仕込み。

 ミスレイ仕込みの常軌を逸した藁人形縫い込みテクによって、鋼の服には大量の身代わり人形が縫い込まれていたのだった。


 そもそもこの身代わり人形の出所だが、これは封印の巫女を探すために別行動する際、ララナが選別にと渡してくれた物だ。

 それを、やはり封印の巫女を探す為に別行動する際にラトリスが渡してくれた『税務長の手袋』と『複製の腕輪』を活用して増やしたのだ。


 『複製の腕輪』は『ちきゅうはかいばくだん』を999個にまで増やした元凶であり、要は特別なアイテムボックスだ。

 最初に入れたアイテムが取り出せなくなる代わりに、それ以降入れたアイテムが全て最初に入れたアイテムに変わるというおかしな道具である。

 だが、二日前。ラトリスとアイテムの整理をしている間、ふと思いついて、『複製の腕輪』に、アイテムボックスからアイテムを強制的に抜き取る効果を持つ『税務長の手袋』を使ってみると、一番初めに入れた『ちきゅうはかいばくだん』が取り出せてしまったのだ。

 鋼はこれ幸いと『複製の腕輪』の中に身代わり人形を入れ、大量に複製、それを服に仕込んだ、という次第である。



 つまり、魔王の攻撃は効いていなかったワケではなく、全て大量に用意された身代わり人形が肩代わりしていたということだった。

 これにはさすがの魔王も怒る。

「キサマッ! コザイクナシト、イッタジャナイカ! セコイゾ!!」

「黙れ魔王! 僕は僕の全てを懸けてお前を倒すと約束したんだ!」

 一見鋼の方がかっこいいことを言っているようだが、やっていることは結構最低である。



 しかし、その戦闘もいよいよ最終局面を迎える。


 鋼は右腕の上、一番目立つところにつけた身代わり人形が壊れたのを見て、


「――――ッ!」


 口早に、スキル名を唱え始める。

 そのほんの数瞬後、魔王が鋼のすぐ横に出現し、



 ――行ける!!



 鋼は、勝利を半ば確信した。

 元の場所に残像を残したまま鋼の横に出現した魔王は、鋼に痛烈な斬撃を与えようとしている。


 だがそれは、鋼の予測通りだった。

 この状況、確実に鋼に一撃を入れたい魔王としては、今まで使っていなかった転移技を使ってくると踏んでいた。


 『ジキル&ハイド&シーク&ビハインド』だったか。

 この転移技はたしかにその存在を知らない者にとっては脅威だが、そのスキル効果を知っている鋼にとっては予測できる攻撃の一つでしかない。

 それに、ここで魔王がこの技を使ったことが、鋼の予測の正しさを裏付ける。


「クラエッ!!」


 こちらも勝利を確信したような、魔王の叫び。

 転移技からの斬撃、これはたしかに回避はできない。

 だがそれは、ノーダメージで受けられる。

 そしてその直後なら、もう『あのスキル』が使えるはずだ。



 ララナは言った。


 ――際立った特殊能力を持っている者たちの戦いとは、パズルみたいな物だ、と。



 その言を借りるなら、鋼はずっと、この瞬間のためにパズルを組み立てていた。

 そう、全てはただ、この一瞬、この状況を作るために……。


「ッ!」


 魔王の攻撃が鋼の体に吸い込まれる。

 恐ろしい速度と力を持った一撃。

 しかしそれは鋼に何の痛痒を与えることもできない。


「――黒龍、」


 そして、それを見越した上で、鋼の腕はすでに魔王に向かって動いていた。

 同時に、口も動きを続ける。


「――灰燼、」


 魔王は想像すらできていないだろう。

 ここまでの全て、つまりは土による牽制、加速空間の構築、身代わり人形による防御、木の枝による攻撃全部、そして、あの『ちきゅうはかいばくだん』による密閉爆発さえも、全てが囮。



 ――それらは全て、こうして最強の攻撃を誘い込むための布石だったなどとは!




 鋼は勝利の笑みを浮かべ、どうやっても避けられるタイミングにはない一撃を、魔王に向かって放ち、



「紅蓮げ――」



 しかし、鋼がその技の名前を言い切る機会は、二度と来なかった。














「――オシカッタナ、ニンゲン」














 その瞬間、世界は、いや、鋼の時間は凍りついた。




 鋼の攻撃を中断させたモノ、そのために魔王が発動したスキルは、『ザ・世界が仰天するほど丸見え』。

 そのパクリ丸出しなしょうもないスキル名とは裏腹に、周りにいる生物の時間を止めて一方的に攻撃可能という超強力なスキルだ。

 敵に40回攻撃を加えないと発動できないという欠点はあるものの、その条件は鋼を攻撃することによってクリアした。

 そう、身代わり人形によって攻撃を防がれてはいたが、身代わり人形をもってしても攻撃がヒットしたという事実は消せなかったのだ。



「アワレダナ、ニンゲン、ヨ……」


 言いながら、魔王は固まった鋼の額をコンとつつく。

 しかし当然ながら鋼からは何の反応もなかった。


 少なくともこうなってしまえば鋼に反撃の手段はない。

 時間停止と同じだ。

 時間停止系の能力は発動したら最後、あらゆるスキル、アビリティ、タレントの力に優先して機能し、その能力すら停止させる。


 反撃するなら、時間停止が切れた時にやるしかないのだが、




「コレデ、オワリダ……」




 その前に、身動き一つできない鋼に向かって魔王が武器を振り上げる。

 そして、






『魔王煉獄万物滅尽炎殺撃』






 魔王の最強の技が、鋼に炸裂する。


 時間停止中の敵にしか使えない、魔王の最強スキル。

 通常の約三倍の威力の攻撃を、三十秒間に一億とんで二千発も繰り出すトンデモ技。

 あまりの速度に魔王の手はかすみ、その攻撃のひとつひとつを目で追うことなど到底できない。

 しかしその一億発以上の攻撃は、余すところなく全てが鋼の体に吸い込まれた。



「オワッテミレバ、アッケナイ」



 かすかな感慨を込め、魔王がつぶやく。

 このダメージが鋼に伝わるのは停止した時間が動き出した後だ。

 しかし、いくら鋼が優れた裁縫技術を持っていても、服に一億二千個もの身代わり人形を縫い付けることはさすがに不可能だろう。

 これで勝負は決したと魔王は確信する。

 だが、



「ネンニハ、ネンヲ、ダ」



 魔王はさらに、鋼の額に自らの右手を添え、ぶつぶつと何かを唱え出す。


 ――スキル『屈従の誓約』。


 相手の頭部に右手を当て誓約の文言を唱える必要があるため、停止した相手くらいにしか使えないが、その相手は魔王に対する一切の攻撃行動を取れなくなる。

 これで鋼が『魔王煉獄万物滅尽炎殺撃』のダメージをどうにかしてしのいだとしても、今後一切、魔王に攻撃をすることはできない。

 これで完全に『詰み』だ。



 そうして、一分のスキル効果時間が終わる直前、魔王はスタイリッシュにつぶやいた。






「ソシテ、トキハ、ウゴキダス……」



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