表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨男

作者: 大澤豊

俺は雨男。

どこに行っても雨が降る。

小学校の運動会、遠足、林間学校、修学旅行…

今まで、ここぞという時、一度だって晴れたことはなかった。


でも、最近、そんな俺の考えを覆すようなことが頻発している。

部活の合宿、晴れ。

デート、晴れ。

旅行、晴れ。


一体どうしてなのか、まぁ、大体想像はつくのだが。


そう、俺の彼女は、晴れ女。

それも相当の。


「恵介、一応傘持ってく?」

「ああ」

由紀子はいつも太陽みたいに笑っている。正直、それに何度救われたか分からない。

彼女の、あの笑顔が太陽を引っぱり出すんじゃないかな、なんて思ってみたりする。

「今日、天気予報で雨マークだったのに、やっぱり晴れたね。よかった」

由紀子は助手席で微笑みながら携帯を取り出す。「今日はいいことばっかだなぁ」

俺は、お前がいるからな、と彼女を見遣ったが、気付いていない。


あの時。

俺が、引きこもりだった時。

まるで、太陽を引っぱり出すくらいのあの笑顔で、3ヶ月ぶりに俺に話しかけたのはお前だった。


生きている意味が分からなくて、毎日ただ退屈で、つらくて、最悪の気持ちで。

全てから逃げて引きこもっていた俺に、

「デート、行こうよ」

2コ下の近所の女の子が、突然ドアを開けて入って来た。

それが由紀子だった。


「ケイちゃん、鍵、閉めてないんだね」

俺は、PCの画面から振り向き、目を丸くして唖然としていた。「は」

「本当はさ」

由紀子はあの笑顔で言う。

「外、出たかったんでしょ」


それから、無理やり遊園地に連れていかれて。

そして、やっぱり。

雨が降ったんだ。


「俺、雨男だから雨降んだよ」

前髪が濡れてシャンプーの匂いが漂っている由紀子に、話しかける。

「どこ行っても、ぜってー雨降んの」

「あっそ」

由紀子は、俺達が雨宿りをしていた売店の軒先から一歩足を出す。

「じゃ、見てて」


そして、俺は見た。


虹。


太陽が顔を出す。光が、強い光が遊園地のカラフルな遊具を照らし出す。

眩しい。

俺が目を細めると、いつのまにか遠くに立っていた由紀子は、光の中で笑っていた。

「奇遇だ。ケイちゃん」

「あ?」

「私、晴れ女なんだ」


そしてニヤッと八重歯を見せる。

「太陽も、ケイちゃんも、私が引っぱり出してあげる」


思えば、あの瞬間。

雨が完全に止んで、青空が一面に広がったあの時、俺は君に引っぱり出された。

全て。


「なあ、何かいいことあったの」

俺はハンドルを握り、話しかける。明らかに由紀子は普段以上ににこにこしている。

由紀子は俺に振り向き、秘密、と笑う。

でも、俺はその瞬間に気付いた。

由紀子のお腹がほんの少し、ふっくらしたことに。


まさか。

でも。

俺のハンドルを握る手に力が入る。


やばい。どうしよう。


すごく、すごく嬉しい。


そして、はた、と思った。

雨男と晴れ女、混ざったらどうなるんだろう。

「虹!」

隣りから由紀子が指をさす。「向こう、雨降ってたんだー」


そうか、虹か。

俺は鼻がツンとなるのを感じながら、必死で泣くのをこらえていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 虹、いいですね。 良作だと思います。
2011/05/26 14:36 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ