第九話 輸送任務
「リヤ、これは?」
「見ての通り、輸送だ」
キーツには呼び捨てを命じてあった。
一瞬が生死を分ける世界だ。
『さん』と言っている間に彼岸に居るだろう。
「深夜にご遺体......ですか」
「表向き、な」
先日、汚職を追及された総理のスケープゴート。
あの議員の"事故死"では収まらなかったらしい。
まぁ、無意味な仕事には慣れてる。
「リヤ、もったいぶらないでくれ」
キーツ痺れを切らした。
「入院したことにして海外の孤島でハーレム&カジノだよ」
「嘘——だろ」
愕然とするキーツに耳打ちした。
「嘘だよ」と。
私の顔を睨みつけるキーツに、更に耳打ちした。
「本人だけは孤島のヘヴンに胸を踊らせてるよ。セーフティは外しておけ」
今回はガバメントだ。
グロックとは違う。
病院の正面玄関から入った議員が、裏口からご遺体の搬送車に乗った。
ご丁寧にストレッチャーで運ばれて。
ハッチが閉められてワゴン車が動き出した。
「出せ」
私がそう言うと、キーツはアクセルを踏んだ。
「あ」
間の抜けたキーツの声に視線を追った。
前を走る寝台車のご遺体が、モゾモゾと起き上がった。
「ゾンビ映画だな」
押し殺すように笑う私に「B級ホラーよりも出来が悪いですよ」と呆れた風にキーツは言った。
寝台車は病院から晴海に向かうと停止した。
私たちは周囲や上空に何もないことを確認すると合図を送った。
最近はドローンの性能も良い。
念の為に各周波数にジャミングは入れておいた。
合図を確認すると、寝台車はそのまま海上コンテナに入った。
すぐに海上コンテナはそのままクレーンに吊られ、トレーラーの荷台に置かれた。
「次はトレーラーだ」
キーツが再び車を走らせた、
「無理に追わなくていい。行き先は"職場"だ」
トレーラーは処理施設に向かう。
議員の行き先は孤島のヘヴンではない。
リアルなヘヴンだ。
私たちは彼が安らかにヘヴンに辿り着くためのお手伝いをする。
それが今日の仕事だった。
順調だ——
そう思ったのがフラグだったのかもしれない。
同じバイクが三度、視界に入った。
私はコンパクトを取り出して化粧を直すフリをしながら、鏡に映してキーツに見せた。
この護衛車に気付いているのか、バイクはキーツの死角を維持しながら走っていた。
キーツはアクセルを踏み込むとトレーラーを抜いた。
異常事態が起きた時は抜く手筈だ。
バイクは付いてこない。
おそらくはトレーラーの尾行に切り替えたと思った。
トレーラーの護衛には別の車が入った筈だ。
その車の車種もメンバーも、私たちは知らされていない。
「このまま処分場に向かっていい」
私はコンパクトをポーチにしまった。
「先回りして、必要なら潰す」
そう言ってマルボロに火を着けた。
薄く開けた窓から細く煙が登っていった。




