第四話 作業
「キーツ、そっち行った」
インカムを新人の喜一に入れた。
キーツは——
なんか良いかと思ってそう呼ぶことにした。
『無理ですって』
「いいから顔面にフルスイングだ。キメろ」
『死んじゃいますよ!』
ムカつく情けない声だった。
「殺すんだよ、じゃなきゃお前も処理のリスト入りだ」
ぶっちゃけ、躊躇なく人の顔面を攻撃出来る人間は稀だ。
人間はとても理性的だ。
そして強制的でもそれを成し遂げた人間は、次からは躊躇しない。
我々は実に人間的だ。
それでも非暴力を貫く聖人は——
『そっち、引き返しました』
「は?」
野生の勘か、虫の報せか。
まぁ、私を選んだのは正解だ。
キーツじゃ急所を外す。
誰だって苦しんで死ぬのは嫌だろう。
支給されたガバメントのスライドを引いた。
カチっと弾薬が装填される音が小さく鳴った。
コイツは、死をお届けする小さな配達人だ。
駆ける足音が聞こえた。
私は右手でガバメントを構えると、照準の先にターゲットが現れるのを待った。
呼吸の度に腕が揺れた。
僅かな揺れも距離が離れれば大きなズレとなる。
こういう時はヘッドショットよりも、ボディへの複数弾が基本だ。
パン。
乾いた音がひとつ響いた。
照準の先では、倒壊するビルのように人影が崩れた。
もうピクリとも動かない人影は、額にひとつの穴と両目を開けていた。
(コイツどこかで......)
しゃがみこんで見ていた私に「藤原公彦、国会議員じゃないですか!」と、頭上から驚く声がした。
「ああ、それか」
「総理の裏金献金疑惑を追及してましたよね。まさか——」
私はキーツの脛を蹴った。
「痛っ!!」
「作業について詮索すると、コイツになるぞ」
私の言葉にキーツは青ざめて口を噤んだ。
「お前、あのままコイツが来てたらフルスイングしてたか?」
無意味な質問だ。
だが興味があった。
「出来るわけないじゃないですか」
「そうか——」
私はポケットから出したマルボロに火をつけた。
(政府依頼の支給火器がガバメントかよ)
悪い冗談にため息を乗せて、紫煙を吐いた。
非暴力の聖人は、裏路地で壁の染みになる。
ここはそんな街だ。




