第二話 食虫植物
サイアクだ。
今日は出勤するなり00番でアラートが鳴った。
「あそこはさすがに食欲失せるんだよな、私みたいな常識人には」
いや、待て。
これ私が入る前から鳴ってただろ。
絶対に前のシフトの奴が、シカトして帰ったに決まってる。
「高畑、今度ぶっ殺す」
私はそう言って00番処理場に向かった。
あそこは内部カメラが無い。
必ず現地を確認する必要があった。
地下の奥深くに降りた。
00番は放射性廃棄物よりも深い場所にある。
三重のハッチを開けると、それだけで吐き気をもよおした。
何度嗅いでも慣れることがなかった。
——死体の臭いは。
誰かにとって都合の悪い人間や、誰かにとって都合の良い人間が人体の一部となって流れてくる。
この街では行方不明者を探すことはしない。
この街は食虫植物だ。
魅力的な腐臭に群がる虫の様に、この街に群がる人間を全て飲み込む。
成功を収めた一部だけが、この街の特権を享受出来るシステム。
それ以外は私の様に、社会の暗部でインフラの維持をするか、ここに流れ着いて特権階級の生命の維持をするかしかない。
私もバイトで処理に困った時はここを使うから、00番処理場の倫理を問うつもりは無い。
ただ、流すなら規則通りのサイズ以下にして出せとだけは言いたかった。
「ああ、これか」
大抵が頭部が引っ掛かって詰まる。
今日もそれだった。
倫理観の無い連中でも頭部ってのは特別らしい。
別に知り合いって訳でもないなら、躊躇することもないだろうに。
これが人間性の矛盾か。
引っ掛かったそれを除くと欠片や一部やドロドロが一気に流れてきた。
私はそれを防護服の上から一気に浴びた。
「クソが!!」
私は罪の無い頭部に八つ当たりするように、ミルに叩きつけるように投げ込んだ。
骨の砕ける音とミルの作動音が反響するように鳴った。
この先は三度の焼却の後に、高濃度の塩素処理をして湾に放出される。
そうしてこの街の暗部は徹底的に秘匿されていた。
00番の処理は当日払いで手当が貰える。
更にシャワーを五分間無料で使える。
それでも正直やりたくは無い。
今日食べる為に買ったパンですら喉を通らない。
シフト表を見ながら「高畑今度ぶっ殺す」と、私は再び呟いていた。
そういやこの間の98カメ。
あれは結局00に流したのだろうか?
私は先日のトラブルを思い出していた。
上からは「殺人も次からは報告してくださいね」と、やんわり言われた。
まぁ始末書も何も書かされていないから、私の評価に影響は無い。
評価と言っても昇進や昇給の話ではない。
暗部を知る人間を査定の上リストラとなれば、私も00番に流れるということだ。
「蟹工船とどっちがマシかな」
まだ東京に憧れを抱いていた頃。
あの頃に読んだ小説を、少し思い出して独りごちた。




