第十四話 カラス
「ちょっと、リヤ」
腰を屈めたキーツが小声で呼んだ。
「何?」
「そんな普通に歩いていたら見つかるって」
「ああ、それなら気にするな」
リヤはごく普通のボリュームで返答した。
「あ、そうなんだ」
キーツも腰を伸ばして普通に話を始めた。
「入口のカメラに映ってるからさ、もうバレてるんだよ」
リヤはそう言って長い廊下の先、丁字の角に二度、引き金を引いた。
ドサッと米袋でも落としたような、重たく鈍い音がした。
「おいキーツ、あれイングラムだぜ。拾って攻撃力アップだな」
リヤが指差す先には、サブマシンガンが一丁落ちていた。
「M10かなM11かな」
リヤは小走りに丁字の角に向かった。
「ダメだリヤ!」
キーツが叫んだ瞬間、廊下の角の死角から転がりながら出て来た敵が三発撃った。
三発で止めたのは手応えを感じたのではなく、居るはずのリヤが居なかったから。
直前。
リヤは小走りを加速させて右の壁を蹴り、その反動で左の壁を蹴り上げ——
リヤは彼の直上に居た。
見上げた男の眉間に一発。
弾丸が下顎の付け根に抜けた。
「チッ」
角度が付きすぎたことを察したリヤは両手で天井を押して、男の背中に膝を落とした。
ゴキン!!
金属製の板バネが折れるような音が廊下に響いた。
男の指先が動きを止めた。
「おお、M10だ!今日はツイてるな」
「M11とどう違うんですか」
「一番の違いは弾だな。コイツと同じ9mmパラベラムが使える」
そう言って懐に収めたグロックを見せた。
「ってぇことは」
リヤは鼻歌混じりに二体の死体を漁り始めた。
その様子にキーツは目を背けながら「何を」と尋ねた。
「予備マガジンだよ」
リヤはもう既に手に入れたマガジン二つを振って答えた。
「なぁキーツ。生きるためにメシを食うだろ」
「えっ、ああ」
キーツは質問の意味が分からなかった。
瞬き回数が極端に増えたのは困惑の顕れだろう。
「今、私たちのメシのタネはこの弾丸だ。——尽きれば死ぬ」
無機質な廊下に、リヤの冷たい声が静かに消えていった。
キーツは背骨の折れた死体を仰向けに起こすと、懐や腰を探り始めた。
「路上に転がる猫に群がるカラスと、ナイフとフォークで肉を食べる人間に本質的な違いはないさ。手を汚すのが自分か他人かってだけだ」
リヤはイングラムを肩に掛けると、そう言って立ち上がった。




