第十三話 開戦
地上に上がる階段の先。
太陽の光の中、ロープの輪が見えた。
「ならず者は縛り首ってのが倣いってな」
「なんです?」
キーツが怪訝な表情を見せた。
「いや、なんでもない」
これは私だけの幻だ。
共有する必要は無い。
空調の無い自然の風。
排気ガスと湿度と埃が蒸し暑く頬を撫でた。
両脇のビルと高速道路が、直射日光を遮っているおかげで肌は焼かれずに済んだ。
「どうしてひと駅歩くんですか?」
キーツは額の汗を拭いながら疑問を口にした。
「顔バレしてたらホームで脳漿ブチまけて終わりだ」
指鉄砲をキーツの額に当てた。
そして「冗談、私が歩きたかっただけだ」と言った。
それは本当だった。
まだキラキラの東京だけが目に映っていた頃、こうして街を歩いた。
ショーウィンドウの中に飾られた華やかな夢達は、いつか手に入れる未来だと信じて疑わなかった。
「キーツ、あのビルだ。視線は向けるな」
私は満面の笑みを浮かべながら小声で話した。
「外国人の見張り二人を排除して、路地の裏口から地下に降りる」
「嘘でしょ。ゴリラを人間したのと、人間をゴリラしたのじゃない」
小声のキーツは実に良い笑顔だった。
キーツにはソフトクリームを持たせた。
私はクレープだ。
いちごソースを選んだ。
ビルの地下に向かう階段を、お喋りしながら降りた。
キーツのソフトクリームを横から舐めた。
「あっ、マジかよ」
キーツがそう言って微笑みかけた。
私は横目で見張りのひとりが来るのを確認した。
構わずイチャつきながら降りると、見張りは英語でまくし立ててきた。
私達は薄ら笑いを浮かべて困惑した表情を見せた。
「ココ、デテケ。OK?」
よく見るステレオタイプに安心したのか、見張りはまくし立てるのをやめて、カタコトの日本語で言った。
「ソーリーソーリー、サンキュー」とキーツが頭を下げて腕をバタバタさせた。
その拍子にソフトクリームがネクタイにぶつかった。
不幸な事故だ。
「ソーリー、ゴメンナサイ」
私はすかさずハンカチでソフトクリームを拭いながら、クレープに仕込んだナイフの刃を喉元に突き立てた。
まだ皮膚を裂く前だったが、刃はいちごソースで赤く濡れていた。
「グッバイ、ゴリラ人間」
喉仏の下から一気に斜め上に押し込んだ。
切っ先が脳幹に届いたと同時に、刃に全ての重みがのしかかった。
下から人間ゴリラが上って来ていた。
私たちを英語が分からない観光客とでも思ったのだろう。
「意外と良い奴らだったかもな」
キーツにそう言ったあと、ゴリラ人間の死体を蹴り落とした。
人間ゴリラは落下したゴリラ人間の下敷きになりながら階段を下まで滑り降りた。
「中身入れ替わってたりしてな」
私は古い映画を思い出していた。
「入れ替わってもどっちも死体ですよ」
キーツは首が二周した人間ゴリラを見てそう言った。




