第十二話 出頭
処理場の監視室に二人で立った。
いつもは各処理施設を映しているモニターだったが、今はモニター全体で一人の男を映していた。
これがどういう技術かは分からないが、心理的な効果はあった。
妙な仮面を被った男が、合成音声に言葉を乗せて話し始めた。
『大失態だな、リヤ』
「っつーか、なんだよアレ?新人連れてやる相手じゃないだろ」
私が悪態をつくとキーツが腕に縋って止めた。
「リヤ、リヤ」
「うっせーぞ、キーツ」
「謝っちゃいましょうよ」
「うぜぇ」
蹴り飛ばすと「ぐぇ」と面白い声で鳴きながら転がった。
「で、次はあるのか」
重要なのはそこだ。
ゴメンナサイでは無い。
『今回の落ち度はこちらにある。いたずらに君たちを危険に晒した。敵の詳細が分かり次第伝えるが——』
「マジかよ、敵の正体も分からんのに生贄を取り返せって」
「まぁまぁ、とりあえず首の皮一枚繋がったってことで」
なだめるキーツを、もう一度蹴飛ばした。
もう「ぐえ」と言わなくてイラついたから、もう一度蹴った。
「分かってるのは場所だけ。そこに持っていける武器なんて銃とナイフ程度だ。首の皮なんて、もう繋がっちゃいねぇよ」
「騒がしいな」
「真昼の東京なんて何年も見てません」
「憂鬱だな」
「はい」
私たちは小声でそう話しながら、地下鉄の構内に降りて行った。
奪還のリミットは今日の正午までだ。
理由は知らない。
知らされてはいないし、聞いても知らされない。
ブロイラーは唐突に首と胴が分かれる。
その刻限を知っているだけでも尊厳は保たれているような気がした。
少なくともニワトリよりはマシかと。
「キーツ、ホットスナック食うか?」
二人分のチキンを買って安っぽいカラフルなベンチに座った。
「ニワトリの方がマシかもな」
「なんのことです」
「私らは埋められるしか能が無いってことさ」
湿り気を帯びた空気が押し出されるように吹き始めた。
「来るぞ」
私たちはホームに並んで地下鉄を待った。
いくら命の刻限が決まっていると言ってもラッシュアワーは避けたかった。
そして命の刻限が決まっているからこそ、惰眠は貪りたかった。
つまり、早起きもラッシュアワーも避けた。
その結果があの処理場行きだった。
まぁ、人間なんてそう簡単に変わりはしない。
「死体でも構わないか?」
『生きていれば四肢が無くても構わない』
「チッ、生け捕りかよ」
『死体は喋らないから困るのだよ』
キーツにはスタングレネードを持たせた。
コイツはうっかり殺しかねない。
銃はT4Eを持たせた。
俗に言うゴム弾を発射するハンドガンだ。
運が悪くない限り死なない。
それがソイツの運なのか、私たちの運なのかは分からないが。
「降りるぞ」
東京有数の繁華街の駅とは思えないほどにシックな駅だ。
きっと地下鉄でなければ煌びやかな駅になっていただろう。
私達はLEDの下から階段を見上げた。
長方形の額縁に切り取られた天然光が注ぐ外の景色が、絵画のように見えた。
「ティツィアーノか」
「受胎告知ですか?見たかったなぁ」
詩人キーツは駅の出口に私と同じものを見ているのか。
可笑しくて口の端から空気が漏れた。
「見たい絵画は見ると死ぬからヤメておけ」
「そうなんですか?」
「ああ、でけぇ犬に連れて行かれるらしいぞ」
「ちょ、それって」
キーツの抗議を無視するように階段を登り始めた。
十三で終わるか続きがあるか——
安全装置はもう外した。




