表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Nocturne -夜想曲-  作者: 浅見カフカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

第十一話 漆黒

「自動車密輸業者の仲間割れってとこだな」

「そんなお手軽な」

「お手軽さ。警察だってそれが解決ならそれで解決する」

ダッシュボードに足を乗せて、シートを倒した。

街の灯りにヤニで汚れた天井が見えた。


まだ何か言いたげなキーツに「警察が解決したと発表して、マスコミがもっともらしく報道する。これで真実の完成だ」と、タバコを持っていない方の手をヒラヒラさせて見せた。


「どうしてそんな事を?ちゃんと捜査すれば——いや、今回は困るけど......」

「国民の安心の為だろ。ちゃんと原因が分かってめでたしめでたしだ」

開いた口が塞がらないを実演しているキーツに「結果が報じられないニュース、結構あるだろ。あれは大抵がこれだ」と教えてやったが、これ以上は開かないらしかった。


「闇ですね。それも漆黒だ」

呻くようにキーツが言った。

そして車は速度を上げた。

「ところでお前、このドラテクはどうしたんだ?」

私はずっと気になっていた質問をした。

「上京前は走り屋でした」

顔が赤くなった。

「黒歴史だな」

「はい」

「闇だな。それも漆黒だ」

そう言ってからかうように笑った。


久しぶりにネオンに彩られた街の中に居る。

いつもはあの処理場の中から、僅かな明かりだけの港湾から眺めるだけの街。

こんな状況でなければ、ちゃんと笑えたかもしれない。


「リヤ、上からの指示は?」

キーツの声に思索が止まった。

「ああ、戻って来いって。別の入口から処理場に行く」

「分かった。方向は?」

「その前にコンビニ寄ろうぜ。ヤニ切れだ」

私はマルボロのソフトケースを握り潰した。

それと缶コーヒーが飲みたかった。

よく冷えたやつだ。


駐車場の端が空いていたのはツイていた。

それもレジ側の窓ガラスの無い方だ。

キーツをフロントグリルの前に立たせると、私はナンバープレートを引き抜いた。

下から別のナンバープレートが現れた。

リアのナンバーは、店を出てから同じように変える。

もちろん、最初のナンバーも新しいのも"本物"だ。


「首都高に乗って環状線を一周しろ」

マルボロの煙が立ち上った。

「?」

怪訝な表情のキーツを無視して缶コーヒーを開けた。

コーヒーとタバコの組み合わせは神だ。

「美味いな、これ」

キーツは不思議そうな顔のままで、ゲートを抜けた。


「いい加減に何処で降りるか、教えてくださいよ」

そろそろ一周する頃だった。

「なぁ、キーツ。後続車が居なくなったことあるか?」

「えっ!?」

「バカ、後ろ見るな」

振り向こうとするキーツを止めた。

「午前二時だぜ。普通、後続車なんて居ないだろ。居たとしても抜いてる」

「尾行——ですか?」

言い終えてキーツは唾を飲んだ。

「それを確かめる。そこ、上野線に入って入谷まで行け」

「了解です」

キーツはきっちりウィンカーをあげて1号を冠する首都高の盲腸、上野線へ進路を変えた。


「来ましたね」

「ビンゴだ」

後続車は距離を保って上野線に入って来た。

「次はどうしますか?」

「昭和通りに出たらすぐにUターンだ。信号は無視して構わない。やれるな?」

「了解、やります」

「OK、上等だ。そうしたらそのまま上野線に乗り直せ」

防音壁越しの右カーブ、上野駅が見えた。

あと数分で決まる。

「乗り直したらどうしますか?」

「終わりだ」

「え?」

「料金所を過ぎたら終わりだ。あとは好きな道で処理場の西ゲートに向かえ」


入谷の出口にはしっかりと赤い光が見えた。

「絶対に止まるなよ」

「しっかり掴まってて下さい」

キーツは私の指示に答えずに、逆に指示を出してきた。

私は天井のグリップを左手で掴んだ。

キーツは一気にハンドルを切ると同時にサイドブレーキを引いた。

けたたましい獣の悲鳴のような音が静寂を割いた。

急激なGが横にかかってドアに身体が押し当てられた。

後続車も慌てて同様のサイドターンで追い掛けてきた。

もうなりふり構わないらしい。


「いいか、ETCではしっかり減速するんだぞ」

「追いつかれますよ」

「追いつかせるんだよ」

「分かりました」

キーツはそう言うとゲート前でしっかりと減速した。

尾行する車両も行儀良く減速する。

「なんかシュールだな」

私が笑うとキーツもバックミラーを見ながら「シュールですね」と笑った。

その刹那——

パンという乾いた音が四つとマズルフラッシュが小さく見えた。

尾行車はゲートを徐行するようによろよろ抜けると、防音壁に当たって止まった。


ドアが開き、人影が乗り込むと尾行車は再び走り出した。

何事も無かったように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ