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Nocturne -夜想曲-  作者: 浅見カフカ


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1/5

第一話 処理場にて

生ぬるい潮風が頬にまとわりつく。

どこかで霧笛が鳴った。

夜空の星々を塗り潰した街明かりは遠くにあった。

そして輝くことすら許されなかった星屑がふたつ、埠頭にあった。


「遺言があれば聞くぜ」

大人びた顔の少女は、右手の銃の安全装置セーフティを外した。

銃口が眉間から数センチの位置に置かれた。

「ありがとう......で」

「誰宛だ、ソレ」

「キミに」

「馬鹿か」


「萎えた」と少女は銃をおろした。

青年は少女に懇願する。

自ら銃身を握って額に押し当てた。

「ボクはこの街に搾取され続けて、もう何も無いんだ。これ以上は東京に奪わせない。ボクはもう奪われない」

涙と鼻水を垂れ流しながら無様な死の懇願。

「キモい」

少女は青年を海に蹴り落とした。


霧笛がまたひとつ、鳴った。




東京都湾岸倉庫群——

ここは底辺の坩堝るつぼだ。

枯れ果てた夢の坩堝は何も生み出しやしない。

都会の煌めきに焼かれ堕ちたイカロス達の末路がここだ。

そして私もそんなイカロス達のひとり......


複数のモニターの明かりがチラつく監視室。

そんなのをずっと眺めているとつまらないモノローグが去来する。

私は夜中このモニターで、ひたすら都市が排出する汚物を見続ける。

それは文字通りの汚物もあれば、産廃等多岐にわたる。

派遣会社にピンハネされながら、今夜もキラキラの対極に居た。

それでも異常さえなければ、この空調の効いた監視室に終日居られる。

この底辺の中では上等な待遇だった。


そういや夕べの殺し損ねたガキ、金どうしよう?

ああ、でも海に蹴り落としたから死んだか。

じゃぁ貰ってもいいか。

いや、でももし助かったら?

それは自分で助かったんだから、契約不履行じゃないよな。

自殺の手伝いなんて楽勝だと思っていたけど、アレはキモくてマジで無理だと思った。


ポケットから、くしゃくしゃになったマルボロを出した。

咥えてZIPPOの炎に顔を寄せる。

オイルの匂いがマルボロの香りに混じった。

机の上。

貼られた禁煙のシールに足を乗せて紫煙を吐く。

マルボロは最初の男が吸っていた煙草だった。

クソみたいな男だったが、マルボロとZIPPOは唯一良かった。

アイツみたいな煙の輪を吐こうと何度かやってみたが、私には出来なかった。

思い出すと腹が立ってきた。

夜勤が明けたらコンビニでビールを買おう。

もちろん第三でも発泡でもないホンモノだ。

ああ早く終わんねぇかな。

空き缶に吸い殻を入れた私は「だりぃ」とひとりごちた。


次の瞬間だった。


98番のモニターに赤ランプとアラートが点いた。

「クッソ、マジかよ」

この施設では十の桁が産廃の種類を表し一の桁がモニターの位置を示していた。

10番台が下水、20番台が汚泥......

そして90番台が放射線廃棄物だ。

「あーっもう!」

私は机を蹴って当たり散らした。

防護服は居るは、洗浄に時間は掛かるは、測定器で計られるは、身体検査までされるはで、ビールはお預け確定になった。

まぁ00番に比べたらまだマシだと思うが、嫌なものは嫌だった。

「で、8カメは何だってよ......って、あ"ーっ!?」

そこには【普通のツナギ】を着た男がオロオロと歩いていた。

(こんなの間に合わねぇ)

私はマイクで思い切り叫んだ。

「そこのクソ野郎、とっとと戻れクソったれ!!自殺してぇなら他所でやれ!このボケクソカスがぁ!!」

思いつく限りの悪口雑言吐いたつもりだったが、存外私にはボキャブラリーが無いようだった。

それでも男は何かを指差してカメラに向かって何かを言っていた。

集音マイクをonにすると「主任があのスイッチを押して来たら有給をくれるって言うんです」とスピーカーがコーンを揺らした。

「オマエ、そこが何の処理場か知らねえのか!?」

たまに、ちょくちょく、いや結構、派遣の派遣みたいな孫請け玄孫受けみたいなのが何も知らんで来るが......あっ。

思い付いたことを言ってみた。

「日雇いの派遣に有給なんかねーだろ」

正解。

男の動きが止まった。

いや、止まってない。

引き返した。

ホッとして力が抜けた私は、崩れるように椅子に座った。

——次の瞬間だった。

またアラートが鳴った。

「ったく、立て続けにどこだよ」

私はくわえたマルボロを箱に戻そうとして、落とした。

また98番だった。

中腰で立ち上がって私はフリーズした。

さっきのツナギの男がもう一人誰かを引き摺っていた。

片手にはスパナだろうか?

何か工具が握られている。

引き摺られてる男はぐったりしていて、抵抗の様子がまるでなかった。

血だ。

床に血が引き摺った場所に血の帯が引かれていた。

「何やってんだテメェ!!」

再びマイクで怒鳴ると男は私に向かって、ウンウンと頷いて画角から消えた。

そして間もなく防護服を着たヤツが現れて、グッタリしたそいつを隔壁の向こうに放り出した。

もうダメだ。

こんな事故、どうやって報告したらいい。

テンプレ使えねーじゃん。

どうする、どうする、どうしたらいい?

「あっ、あぁそっか。これ事故じゃないわ。殺人だ」

そう気付いた私は「なら関係ないな」と再び椅子に座った。



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