第99話
美味しいお茶をすすりながら待っていると、立派な服装と立派な髭を蓄えたなかなかに高貴で誠実な感じのする組合長がやってきた。
「職員から話しは聞いた、そして貴殿らのこれまでの活動内容も調べさせてもらった、実に見事なものだ、私からも感謝させてもらいたい」
私はペコリと頭を下げたがシャルはそこそこ偉そうな感じでウムと言った。
「さて・・・今回の件だが、相手が貴族という事でそう簡単にいかないという事は理解してもらえるだろうか?」
私は頷いたが、シャルはやはりそこそこ偉そうな感じでウムと言った。
「といってもただ手をこまねいて傍観してきたわけではなく、水面下で着実に証拠を集め、こちら側についてくれる貴族たちを集めてきたところだ、そしてあともう少しという所まできている」
私はしっかり頷き、またしてもシャルは偉そうな感じで今度はホウと言った。
「あと一つ、決定打となる現場の証拠を押さえれば確実に腐った貴族を断罪出来るのだが、それには貴族の館内部に潜入して性奴隷が監禁されている場所を特定しなければならない」
私は困った表情で頷いたのだが、シャルはきっぱりと答えた。
「アタイらが性奴隷になって侵入しよう」
「ウンウン・・・って、はいィッ!?」
シャルのアイディアでは、先ほど捉えた野盗達を死刑にしない代わりにこちらの言う通りに動くように誓わせて、私とシャルを誘拐した事にして、変態貴族の元に連れて行くという作戦だった。
「しかし・・・かなり危険だ、武器を一切持たずに潜入するなど危険過ぎる・・・まかり間違えれば貴殿たちの身が相当危険な状態に晒されるぞ」
「なに、貴族のへっぽこなど武器なしでもイチコロに出来る、それに武器はへっぽこ貴族やそんなへっぽこに仕えているへっぽこの護衛から奪えば良い」
「いや侮ってはいかん、確かに貴族はへっぽこかもしれんが、護衛の中にはポウェトゥール流の達人もいるし、探検家からの報告では危険なグリンジの使い手もいるのだ」
「ホウ!それは面白い!」
「面白いでは済まんぞ!4級ライセンスの探検家がグリンジの使い手によって2人殺されたのだ!」
「アタイの師匠はまだ3級だが、実際にはもっともっと強いぞ!世界一かもしれん!そんなヤツラなどまるで相手にならんだろう」
「先ほどから君はなかなかに大胆だな・・・師匠の方がよっぽど慎重に見えるぞ」
「やっ!これはいかん、反省反省・・・でもかなた師匠は魔の森からの生き残りで魔の剣を使う凄腕の戦士だ」
「知っているとも、だがそれが原因で大事な記憶を失っていることも知っている、それだけに万が一の事も想定しなければならんのだ」
「ムウ・・・アタイはそれよりも師匠がとても心根が優しい方が心配だ・・・そこが良い所でもあるのだが・・・」
しばらくの間沈黙が続いたが、結局シャルの作戦が今最も有力かつ有効で、これがうまくいけば完全な決定打になることは疑いの余地がなかったので、この作戦で行くことになった。
早速捕らえた野盗達に対して死刑にしない代わりにこちらの作戦通りに行動することを誓わせ、明日の夜に作戦を実行することになった。
どうやら4人とも意識はハッキリしているようで、誰も殺さず脳に障害を与えることもなくうまく手加減出来た事を知ってホッとした。
私とシャルはその後この町で評判の料理店に行って結構奮発してお高い料理を注文し、ちゃんと高い金額を払っただけの事はある美味しい料理に満足して、その後は私が望んでいた足を伸ばしてゆっくりと浸かることができる風呂のある料金高めのスパのような浴場に行ってしっかりとくつろいだ。
恐らく私達の知らない所では色んな人が尽力して明日の作戦に向けた準備をしている事だろうが、とりあえず最も危険で最も大事な任務を行う私とシャルは明日に備えてしっかりと英気を養うことに専念していた。
そうして心も体も大分整ったところで高級宿に戻り、フカフカのベッドに横になってしっかり眠って明日のために英気を養う事にした。
明けて翌朝、やはりお値段高めの場所で朝から結構ゴージャスなモーニングセットを食べて、シャルと二人で手刀と蹴り技中心の徒手空拳の格闘練習を行い、戦士組合に行って今夜の作戦内容の確認を行った。
昨日私達が美味しい物を食べて気持ち良く風呂に入っている裏で、多くの人達が今夜の作戦の準備に取り掛かっていたようで、私とシャルの作戦の成否に関わらず組合長の首をかけて今日の深夜に強行突入を開始するのと、その前から目と耳の良い探検家を周辺に配置し、さらに隠密行動が出来る者にも危険な区域まで潜入してもらうとのことだった。
また、信頼出来る一部の貴族も呼んでいて、決定的な証拠を押さえた際にはすぐに現地に入って承認者になってもらう協力を得たとのことだった。
ちなみに恐ろしい事に、野盗達には明日の午前中までに解毒薬を飲まないと死ぬという毒を飲ませていて、裏切りを防いでいるとのことだった。
その後昼食を挟んで私とシャルはこれから向かう貴族の館の広大な敷地の地図と現時点で知られている建物の間取り図を徹底的に頭に叩き込んだ。そこには性奴隷達が監禁されている可能性が高い怪しい場所もチェックされていた。
それから今回参加する探検家や戦士達と顔合わせをして、彼等が突入する際に間違ってお互い戦い合うことのないように確認した。突入部隊は判別しやすいように白い腕章をつけていた。
その後軽い夕食をとって、私とシャルは下着の上に簡素なワンピースだけを頭から被り、いつでも自力でちぎれるロープで手首を縛り、足の方もかろうじて歩ける程度の長さをもたせたロープで足首を縛った。私もシャルも常人を遥かに超える怪力なので特にロープに切れ込みを入れるなどの加工も必要なく割ときつく縛っていた。また、大声をあげられないように口には布で猿ぐつわを施された。
いよいよ作戦開始の時間となり、私とシャルは荷馬車の中で大きな麻袋に入って横になり、途中まで隠密侵入班の探検家達の見張りのもと、変態貴族のいる館の敷地へと向かった。
完全に日が沈み恐らく夜の9時頃になったあたりでいったん荷馬車は停止し、荷馬車の中を確認しているような物音と話し声がした後、鉄の門が開くような音がした後に荷馬車はまた動き出した。
馬の足跡が石畳を進んでいる音に変わり、荷馬車の揺れもかなり少なくなったので広大な敷地の中を進んでいるのが明らかに分かった。しかも時折右や左に曲がっている様子も分かり、事前に監禁されている可能性がある場所のうちの一つに向かっているらしいという事も分かった。
敷地の中を進むこと5分程で荷馬車は停車し、荷馬車の中に何人かが入って来て私とシャルは麻袋に入れられたまま運ばれた。この時私は演技ではなくガチで怖くてブルブル震えており、私を運んでいる男の下卑た笑い声が聞こえた。
これでしっかり頭に叩き込んだ地図のうちの別館に運ばれたことが確定したが、残念ながらこの別館の内部構造についてまでは調査されておらず、ここからは全てその場で対応しなければならなかった。もしも頑丈な鉄格子の檻に入れられたら、いくら怪力自慢の自分でも脱出は不可能に近い。
「・・・よし、立て」
どうやら目的地に到着したようで、男の声に従って私は自分の足で立ったが、緊張して足元がフラフラした感じだった。こんな調子で果たしてこの後うまくやれるんだろうか・・・




