第96話
戦士組合のライセンスを取得したということで、せっかくだから何か依頼をこなしてみようかということになり掲示板を見てみたが、やはり探検家組合とは異なり戦士組合らしい依頼が貼られていた。
「パッと見た感じ護衛依頼が一番多いね」
「この辺りはあまり猛獣の類がいないみたいで討伐依頼の方はほとんどが盗賊の討伐だ、あと個人的な復讐っぽいのもあるのが興味深い」
「えっ?そんなのあるの?・・・あっホントだ、えーと・・・妻と娘の仇をとってくれ、他にも多くの女性を犯し殺した最悪の男ボロジキン、もしも奴の頭を斬り落として持って来てくれたら純金貨10枚を差し出すって・・・ひええ・・・」
「これいいな!これやろう!」
「えぇっ!?」
「コイツ剣の腕も相当のようだぞ、推奨ランク3級以上って書いてあるし、グリンジの使い手っていうところが面白い!是非戦ってみたい!」
「グリンジ?どんな流派なの?」
「厳密には流派じゃないんだが、大昔にグリンジという盗賊あがりの男がおって、こやつは一切道場に通ったことがなく、完全に自己流の戦闘方法で名のある剣士を倒した事で知られておる」
「それは凄いね」
「ウム、型にはまっていない独特な戦い方で、当然卑怯な事も平気でする、結構色んな流派から憎まれて大勢で寝込みを襲いにいったが、ゲリラ戦術で各個撃破されてまんまと逃げられたそうだ、その後顔を変えて行方をくらましたが、後にグリンジ流を名乗る戦士が何人か現れ、これがまたなかなかに強かったそうだ」
「うーん・・・」
「まぁアタイ達の敵じゃないと思うからそんなに心配はいらんと思うぞ、それにコイツを放っておけばさらに犠牲者が出る、マリーのように心優しい者がコイツの手にかかると思うと実に許せんのだ」
「それは許せん!断じて許せん!よし!やろう!」
「キシシシシシ!今のは父ちゃんみたいだったぞ、だがやろう!」
早速依頼書を手にして窓口に向かい、職員にライセンス証を提示して正式に受理してもらった。
「あの悪名高いゾルゾル団を討伐したお二人ならば必ずややってくれると思います、私の知り合いの身内の恋人もこの男によって酷い目にあわされ、気がおかしくなりました、多くの人が人生を壊されています、どうかこの方々の無念を晴らし、平穏を取り戻して下さい」
「まかせて下さい!」
「まかせておけ!」
「・・・と言ったはいいが、どうやってコヤツを探せばよいのだろう」
「あっ・・・」
「それなら心配ありません!探検家組合の方の依頼でボロジキンの行方を追う依頼が出ていて、わりと頻繁に目撃情報が届けられています!」
「ホントか!それは良い!早速探検家組合に行って情報を教えてもらおう」
「了解!」
そうしてすぐ近くにある探検家組合に戻って窓口にて事情を話したところ職員は大いに喜び、別の職員がすぐに資料を持ってやってきて、応接室にて地図を広げて説明してくれた。
ボロジキンはどうやらここから半日ほどの場所にある廃村にいるらしく、ボロジキン以外にも野盗が何人かいるとのことだった。といっても大人数で組織化された盗賊団ではないようで、流れ者が数人集まった程度のようだった。
「早速行ってみるかい?」
「そうだな、その前に剣を研いでもらいに出す、その後偵察に行こう」
「分かった」
シャルが今使っている剣はそれなりに良い剣ではあるようだが、それまで使っていた先代当主の愛用の剣よりはかなり劣るようだった。ちなみに現当主のヴォルタークが持つ黒い剣はシャルが知る限り世界の5本の指に入る程の良い剣だそうだが、最近そのランキングが変わり、私の刀が恐らく断トツで世界ナンバーワンだろうとのことだった。
組合の職員に聞いてこの村で腕の良い鍛冶師を紹介してもらい、シャルが今使っている剣を預けてメンテナンスしてもらうことにし、少し早いが昼食を食べてから偵察に行く事にした。
最初は気付かなかったが、この村に着いてからあまり若い女性を見かけておらず、食事処に入ると女性の店員は皆顔を布で覆って隠しており、笑顔で明るい様子で接客している人はいなかった。
「これもボロジキンのせいだろうな」
「そうだね、僕等でやっつけてこの村の女の人達が安心して暮らせるようにしないと・・・あ、日替わり定食お願いします」
「アタイも!」
「まぁダメですよアナタ!顔を隠さないと!こんなに綺麗で可愛い顔をしていたら恐ろしい盗賊に酷い目に遭いますよ!」
「ムッ!?・・・そ、そうする・・・」
「後で顔を隠す布を持ってきてあげるわ!」
「・・・キシシシシ、聞いたかかなた、アタイが綺麗で可愛いから襲われるそうだぞ」
「うん、シャルはめちゃめちゃ美人で可愛いからすぐに襲われると思う」
「にゃっ!?・・・イヒヒヒ!そうかそうか」
優しいお袋の味といった感じの素朴な田舎料理を美味しく味わった後、店の人から大きなスカーフのようなものをもらったシャルは店の人に目以外は全て布で覆ってもらった。服装に関しては私と同じような軽装の防具で当然肌の露出が少なくズボンを履いているのでそのままで問題なかった。
店を出て早速地図を頼りに廃村へと向かったが、普通の人の足では半日かもしれないが、私達の身体能力とモルサール流歩方術ならば2時間もかからずに到着すると思われた。
実際その通りで進み、廃村に近付いたあたりで道から逸れて林の中を進むことにした。
面白い事に林の中ではあちこちに足元に巧妙に隠したロープを張っていて、人や獣などの侵入を知らせる鳴子のようなトラップが仕掛けられていた。
先行するシャルはそれらを全て見破り、指をさして教えてくれたので私も引っかかることなく進むことが出来た。
そうして廃村の廃屋が目に見える距離にまで達したので、私はシャルの肩を叩いて自分を指差してから大きな木を指さして木の上から偵察をするとアイコンタクトで伝えると、シャルは一瞬目を大きく開いて驚きながらも頷いた。
シャルが先行して大木まで鳴子トラップを回避しながら連れて行ってくれて、私は音を立てずに常人には不可能と思われる腕と足の力だけで木を登っていった。
10メートル程登ったところで太い枝に乗って廃村を見渡すと、かなり良い具合に廃村が一望出来たので、私はリュックからロープを降ろしてシャルを軽々と引き上げた。
「おお、これは良い具合に一望できるぞ」
「シャル、あそこを見て」
「うん、煮炊きしているな、物干し竿もある、なるほどあの家に3人住んでるな、あとは・・・」
「あれがそうじゃない?」
「うん?・・・あっ、あれだな、アヤツがボロジキンだろう、一人だけまるで風格が違うし、腰に差している剣もなかなかの業物だ」
コロンコロンコロン!
突然遠くで鳴子が鳴ったが、ボロジキンを始め野盗達は特に警戒した様子もなく、野盗の一人が家の中に入った後弓矢を手にして出てきて、他の二人は家の出入り口近くに立てかけてあった槍を手にしてボロジキン以外の三人が鳴子が鳴った方へと向かっていった。
その間ボロジキンはその場に立ったままじっとして動かず、シャルは私の方を見て口に指を立てて音を出さないようにとゼスチャーで伝えた。
そのまま静かに待機していると遠くで獣の悲鳴が聞こえ、しばらくして野盗達が嬉しそうに捕まえた獣を持って戻って来た。
野盗達はまだ大人になっていないそこそこの大きさの猪のような獣を持ってきて、ボロジキンも嬉しそうに頷いた。その後捕まえた猪を解体し始め、家の中から鍋を持ってきたりしていたので、私達は撤収する事にし、シャルをロープで降ろしてから私は手と足の力だけで音を立てずに木から降りて、二人で静かに廃村を後にした。
「良い案が浮かんだぞ」
「あ、なんとなく僕にも分かったかも」
「ウム、明日は香りの良い果物か木の実を買って行こう」
「了解」
そうして二人は村へと戻っていった。




