第94話
シャルの祖父母の家に戻って1日ゆっくりして過ごした際に、私はニッキの事をシャルに話すとシャルはニッキに会いたいと即答したので、早速翌日からニッキのいる西のハイラル家に行く事にした。
祖父母からはなんとも慌ただしい事だと思われるかもしれないが、私としてはこのままタダ飯を食べ続ける居候生活をするのも申し訳ないので、何かしら外で活動する方が気楽だった。
そうして翌朝、私とシャルは王侯貴族連合が治める西エリアに向かって出発した。もちろん事前にハイラル家に行く旨の手紙を送っておいた。
今回は真っ直ぐ北上して中央都市へと向かう街道を利用するのではなく、直接西のエリアに向かう左斜め方向に進む街道を利用することにした。
西エリアの最大都市まではおよそひと月程かかる予定で、急ぐ旅でもないしあちこち色々と観光して行こうと言うとシャルは快く同意してくれた。
シャルはさらに体力がついたようで、全く苦もなく私のペースで進む事が出来るようになり、途中でちゃんと休憩はとるが、それでも1日8時間程の徒歩移動で200キロもの距離を移動した。
シャルは最初から何の抵抗もなかったようだが、私の方はシャルと一緒の旅にも大分慣れて来て、同じ屋根の下で一緒に寝泊りしてもドキドキすることが大分少なくなってきた。とはいえ、風呂のない宿で身体を拭く時はどうしても意識してしまった。
そんな風に旅を続ける事10日あまりの午後、大分警戒が緩んでいた時に、とうとう好ましくない者達の歓迎を受ける事になった。
「盗賊がおるな」
「そうだね」
50メートル程先の街道の真ん中に木で作ったバリケードが置いてあるのが分かり、左右の木陰に明らかに人の気配があるのが分かった。目の良い人ならバリケードまでは気付くだろうが、人の気配まで察知するのは普通の人にはまず無理だろう。
「かなたはあまり人を斬りたくないだろうからアタイがやる、多分雷声で半分くらいは気絶させられるけど、それでも何人かは倒さねばならん」
「うん、盗賊とはいえ出来れば殺したくないなぁ」
「足の骨を折って追いかけられないようにするのが良いだろう」
「多分通じないと思うけど、一応前に盗賊団グマンの爪からもらった手出し無用の印を見せてみる」
「その前に・・・うん、あの木の枝を木刀代りにしよう、アタイの剣だと刃が欠けるからかなたのカタナで斬ってくれ」
「あっ、あの黒い木かい?なるほど、あれは硬そうな木だね、分かった」
私は丁度良い太さの部分の枝を斬り落として自分の分とシャルの分の即席の木刀をこしらえた。
「相変わらず不気味なくらい見事な切れ味だ」
「どう?」
ブンブン
「ウム、もう少し握りを細くして欲しい」
「分かった」
私はシャルの可愛い手に合うように刀でグリップ部を細く削った。
ヒュンヒュン
「ヨシ、大分良くなった」
さすが天才剣士、ただの木の枝が恐ろしい攻撃力を持つ剣に変貌した。
準備が整ったので私達はスタスタと、はたから見ればとても無防備な様子で近づいた。そして20メートルを過ぎた辺りでワラワラと木陰から盗賊達が出現してきた。
私は盗賊団グマンの爪からもらった手出し無用の印が彫られた金属片を掲げて見せ、盗賊達に大きな声で話しかけたが、盗賊達はヘラヘラ笑うだけでまるで眼中になかった。
「スゥ・・・」
私は耳を塞ぎ気を張った。
「・・・イアァーーーッ!!」
バタバタバタ・・・
目で確認出来た範囲で5人程は気絶して倒れた。
そこから目にも止まらぬ速さで、シャルが風のように盗賊達の間をすり抜け、一拍遅れてドサドサと倒れていった。
盗賊達は全く対処出来ていないようで、何が起きているのかすら認識出来ぬまま、シャルに倒されていった。しかもどうやらシャルは手加減して相手を一撃で気絶させているようだった。
「かなたは真似するなよ!オヌシではコヤツらの頭を木っ端微塵にしてしまう!」
「わ、わかった!」
確かに私はシャルのように絶妙な力加減で手加減することなど出来そうになかった。中途半端に弱すぎるか頭部が爆発する程の威力になりそうだ。
結局全員シャル一人で片付けてしまった。それも数分、いや、もしかしたら1分もかかっていないんじゃないだろうか。
「このまま済めばよいが、恐らく明日あたり強いのが出てくるだろうな」
「やっぱり、そうなる?」
「恐らくな・・・面倒だが、腕が鈍らない程度の相手としては役に立ってくれるだろう」
結局その後は盗賊は現れず、夕方近くに宿泊可能な村に到着し、まぁまぁ清潔な宿に泊って一夜を明かし、しっかりと朝食をとってから出発した。
出発してから2時間程過ぎた辺りでシャルの予想通り、またしても進路上にバリケードが設けられていて行く手を阻んでいるのが見えた。
「やっぱり強い人が出てくるのかな?」
「ウム、間違いないだろう」
私達は昨日手に入れた木刀を手にして進み、障害物まで20メートル程に達したあたりで木陰から盗賊が出現し、一番最後に明らかに他の盗賊よりも迫力が違う人物がゆっくりと剣を抜いて出てきた。
昨日と違って今日は槍を持っている者もいて、私達を取り囲むように近づいてきた。
「今日はかなたにも戦ってもらうぞ」
「うん・・・分かった」
よくあるヤラレ役のように誰一人脅し文句を言う者がいないので、かなり手練れた盗賊だとシャルは言ったが、それでも所詮盗賊は盗賊なので我らにとっては全く脅威ではないとも言った。
唯一不安要素があるとすれば私の優しさによる一瞬の躊躇か、上手に手加減出来ずに人体を破壊して残酷な光景を見て私がショックを受けて硬直してしまう事だそうだ。
ならばという事は私は木刀を地面に捨てて、鞘から刀を抜いた。いっそのことせめて苦しませずに一刀のもとに殺した方が良いと決心したのだ。
「そうだな、アタイもそうしよう、かなたよ、この先もこうした事はある、残念だがまだこういう世の中だし、この場ではこの解決方法しか出来ない、金を渡してもコヤツらには効かん、間違いなくかなたは殺され、アタイは犯された末に殺されるだろう」
「うん、僕はどんな事をしてもシャルにはそんな目には遭わせない」
「イヒヒヒ、まぁアタイがそんな目に遭うことは万が一にもないけど今の言葉は嬉しいぞ・・・スゥ」
「・・・イアァーーーッ!!」
シャルの雷声を合図に私はシャルとは反対側の方向に弾けるように飛び出し、最も近くにいて槍を構えようとしていた盗賊に対して一切躊躇なく刀を振るった。多分胴体が真っ二つになるだろう。
確実に刃が胴体を突き抜けて薙ぎ払ったので、胴体は真っ二つになっていたと思われるが、全くその手応えはなく、当然その後どうなったかなどゆっくり確認している暇など微塵もないので、すぐに何が起こっているのか全く思考が追いついていない様子の次の盗賊に肉薄して袈裟懸けに一刀両断した。
そうして一切の躊躇も一切の手加減も一切の容赦もなく、まるで戦闘マシーンのように次から次へと目についた対象物を切断していった。まさに何も考えずに感じたまま刀を振るっていた。
「かなた!!」
シャルの大きな一声で私はハッと我に返り、すぐにシャルの方に振り返った。
シャルは五体満足でしっかり立っていて、身体のどこにも血が付いておらず私は安堵したが、シャルの周りには惨たらしい姿の盗賊達が転がっていて、地面にはおびただしい血の水溜まりが出来ていた。
私はすぐに自分の周りを見回してみたが、誰一人として血を流して倒れている者はおらず、真っ二つになっているはずの胴体もしっかり繋がっていた。




