第93話
私達はお互いにもっと沢山話しをして情報交換したかったので、まずは丁度良いこの遺跡の土台を利用して簡易テントを作ろうとしたが、シルビアからの提案でシルビアがこの世界に出現して今も住んでいるという洞窟へ行く事にした。
私とシャルは身体能力が高いので、ムルギンはシルビアの背中に乗って移動することにした。といっても私とシャルの身体能力が桁外れなだけで、ムルギンだって普通の人に比べればかなり身体能力は高かった。
「わぁ!モフモフでフカフカで温かい!最高!」
『アハハ、少しくすぐったいです!』
「少しくすぐったいって」
「わっ、ごめんなさいシルビア様!」
ピョン!ピョン!ピョン!ピョン!
「凄い凄い!ジャングルの中なのにまるで馬で走ってるみたい!」
『タナカさんとシャルさんも凄いですね!そんな風に動ける人を見たことがありません!』
「シルビアは何と言っているのだ?かなた」
「シャルは凄いって褒めてるんだよ!」
「シャル、スゴイ」
「そうか!イヒヒヒヒ!」
そうしてシルビアの後に続いてどんどんジャングルの奥まで進んで行った。
ドドドドドド!
1時間程進んだ辺りで私達の目の前には高さ20メートルはありそうな大きな滝が出現した。滝つぼも結構深そうで、その後に流れる川も川幅は5メートルくらいありそうだった。
「アソコ、ワタシ、イエ、アンゼン」
「おおーっ!・・・って、ドコ?」
「きっと滝の裏に洞窟があるんだよ!」
「ソウ、タキ、ドウクツ、アル」
「やっぱり!」
滝の横の手前にある大きな丸い岩を飛び越えて、滝の側面に回り込むと、激しく落下する水の壁の奥に薄っすらと洞窟の入り口があるのが分かった。恐らく大きな丸い岩は猛獣や人間が容易に入ってこないように人為的に置かれていると推測した。
入り口自体はそれ程大きくなく、高さと幅が2メートルくらいの通路を5メートル程進んだところで扉があり、扉を開くとかなり広い空間が現れた。
「ウム、明かりが欲しいな」
「ちょっと待って、ランプを出すね」
「僕もランタンを出すよ」
私とムルギンが明かりを灯したところ、なんとこの空間は完全に人の手が入っているホールになっていて、床一面はしっかりした石畳だった。
「凄い!あの狭い入り口からどうやってこんなしっかりした空間を作ったんだ!?」
「やっ!壁を見ろ!凄い絵が描いてあるぞ!」
「わっ!ホントだ!壁一面が壁画になってる!」
「すっ・・・凄すぎるゥー!」
床だけでなく壁もモルタルのようなもので塗り固めたらしく、平らで滑らかな壁になっていて、さすがに大分色は落ちていたがそれでもどんな絵が描かれていたのかハッキリ分かった。
その絵には真ん中に大きなクモに見える幾何学的なマークのようなものが描かれていて、その下には人々がバンザイしているようなマークが描かれていたり、他にもやはり何かの猛獣を人と一緒にやっつけているような絵や、クモの糸で編んだように見える布を人に渡していたり、クモに噛まれた人が元気になってるような絵もあった。
「これってまさにクモガミ信仰そのものって感じの壁画じゃない?」
「千年前からクモガミ様はいたって事か!」
「ええと、シルビアはいつ頃からここにいたの?」
『一年くらい前にここで目覚めました、その時はまだ今みたいに体は大きくなかったです、最初は洞窟近くにあった果物とか木の実を食べていたんですけど、少しずつ外に出て魚や襲ってくる獣を食べて大きくなりました』
「へぇーそうなんだ」
「シルビアはなんて言ったんだ?」
「一年前くらいに生まれて、最初は今みたいに大きくなかったんだって、そのうち魚とかシルビアを襲ってきた猛獣を食べるようになって今みたいに大きくなったって言ってるよ」
ウンウン
シルビアは頷いたが、私はかなり見慣れてきて、その姿が結構可愛いと思うようになってきた。
それにしてもこの壁画にこの建物・・・まさか千年前にも地球からやってきた人がいたのだろうか?
「でもこの場所で生まれたっていう事は、シルビア様もクモガミ様という事ですよね!」
「シルビア、デ、イイ、サマ、イラナイ」
「わっ!えっ?でも、クモガミ様に失礼じゃないですか?」
「シルビア、ガ、イイ」
「凄いなシルビア!さすがクモの神様だ!言葉を覚えるのが凄く早い、頭がとても良いんだ!」
「ほんとだね!」
ニッキもきっとこんな感じでどんどん上達していったんだろうな。
「ヒトリデ、サビシイ、オハナシ、デキル、タノシイ」
「わぁ!私も嬉しいです!私も一人だと寂しく感じる時があったからお話し出来て嬉しいです!」
ムルギンとシルビアは大分打ち解けたようで、シルビアはムルギンがこれまで大樹海で過ごしてきた中で起きた様々な事を楽しそうに聞いていた。
途中で話しを中断して夕食の用意をして、ここに来る途中に仕留めたクロヒョウの肉を使った料理を作ったのだが、シルビアはちゃんと調味料で味が付けられた料理を食べたのは初めてだと言って、大感激して大喜びで骨ごと全部食べた。
その後も寝るまでおしゃべりして過ごし、ムルギンとシャルはシルビアに寄り添って寝た。フサフサして温かいシルビアは抱き心地最高らしく、シルビアの方も人の温もりを感じて寝るのは凄く嬉しくて心地良いとのことだった。
翌朝も近くの川で湯を沸かし、シルビアはクモの糸で編んだ投網を投げて滝つぼから大きな魚を獲ってきてくれて、イモモチや野菜やキノコを入れた汁を作って皆で美味しく食べた。シルビアは朝食も大喜びで、料理の際に余った魚の頭も尻尾も骨も内臓も全部食べた。
その後シルビアを連れてムルギンの家に戻ることにして、ムルギンはシルビアの背中に乗り、私とシャルは人並外れた機動力で後を追い、驚異的な速度でどんどん進んで夕方前にはムルギンの小屋に到着した。ちなみにこの距離ならばシルビアが本気を出して立体軌道で移動すれば2時間程度で到着出来そうだとのことだった。
「かなたどうする?シルビアの事は探検家組合に報告するか?」
「いや、僕はまだ言わない方が良いと思う」
「だと思った、アタイもそう思う」
「アタシもそれが良いと思う」
「ミナサンアリガトウ、ワタシモマダ、オオクノヒトニ、シラレルノハコワイデス」
「そうだね、古くからこの地域に住んでる人達はクモガミ様を大事にしてくれるとは思うけど、それ以外の人達の中にはシルビアで金儲けしようと思う人達がいるかもしれない」
シルビアの事は今後時間をかけて少しずつ周りから認知されていけば良く、もしも探検家組合からクモガミ捜索依頼が出された際は私達の誰かが発見者を装ってしっかりシルビアの身の安全を確保しようと話した。その際は組合本部長や貴族のリシャールを頼ってもいいかもしれない。
ともあれ、その日はムルギンの家でささやかな夕食会を開き、私とシャルは充分以上に良い経験をすることが出来たという事でシャルの祖父母のもとに帰る事にした。
翌朝、シルビアはまだムルギンの家で過ごすとのことで、またの再会を約束して私とシャルはムルギンの家を後にした。
そうしてシャルと二人で帰路についたが、これまでの間にシャルはかなり体力がついたようで、行きの時よりも休憩回数は半分以下になり、移動速度が低下するまでの時間もかなり長くなった。
その甲斐あって2日後の昼前には祖父母の家に到着した。探検の旅に行くと言って出発してから2週間もかからないうちに満足いく探検をして戻ってきたのであった。




