第91話
「悔しいが、やはり魔の森の生き残りには敵わんなぁ・・・」
「アタシもずっと大樹海で過ごしてきて結構自身があったのにちょっと悔しいなぁ・・・」
「うう・・・すいません・・・」
「いや、せめてはおらん」
「うんアタシもだよ、だけどなんだろう、もしかして毛手長猿人だったりして」
「けてながえんじん?」
「うん、その名の通り毛と腕が長くて人間に近い猿のことなんだけど、とても大人しくて警戒心が強いから滅多に目撃されることはないんだけど、森で迷って弱っていた人間を介抱したという記録が残っているんだ」
「へぇ!優しい良い動物なんだな!」
「かなり昔に親とはぐれた子供の毛手長猿人を大事に育てたという事があったらしく、普通の猿よりも大分頭が良かったっていう文献を見た事がある」
私はまるで森の人、オランウータンのようだと思った。そしてまたしても何故こうした記憶については残っているのか不思議だった。ともあれ、オランウータンみたいな動物なら一安心だと思い、私は警戒をといた。
その後もたまに視線を感じたが依然として全く害意は感じず、少し不用心かも知れないが慣れてしまってあまり気にしなくなってしまった。
ところが小川に沿って歩いていたところで、明らかな殺意を感じる対象に出会ってしまった。
「多分大山猫だね、それも黒くて牙の長いやつだ、水を飲んでいたか、水を飲みに来た動物を狙ってやってきたか・・・とても厄介な相手だよ、水は平気だし、木登りも得意なんだ、そしてかなり獰猛な性格だよ」
「フム・・・まぁ大した相手じゃないのう、ここ最近腕がなまっておったから、ワシ、じゃない、アタイに殺らせてくれんか?かなたよ」
「分かった」
大丈夫?とかなるべく苦しませずに頼むねとか、そういう気遣いの言葉は全く無用だと思ったので、私はただ一言分かったとだけ言った。
「ムルギン、凄い大きな声を出すから耳を塞いでしっかり気張っていてくれ、じゃないと気絶する」
「わ・・・分かった・・・」
シャルはまるで普通に散歩でもしているかのように一人だけ前に出てとても静かに剣を抜いた。そして・・・
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「ウンッ!!」
一気に凄まじい殺気を放った。それはもうかなりあからさまな殺気で、相当鈍感な者でも気付かないはずがない程に全身から殺気を放った。
「ギヤオオオウ!!」
すると突然草藪の中から真っ黒い大きな影が凄まじい速度でシャルに向かってきた。瞬きする間もない程の速度でシャルに襲い掛かった。
「イアァーーーッ!!」
久しぶりにシャルの雷声が轟いた、まさに雷鳴のごとくビリビリと空気を震わすかのような凄まじい雷声が響き渡った。
そしてクロヒョウのような猛獣はバタリと地面に倒れた。しかもシャルは剣を振っていなかった。
「ムルギンよ」
「・・・」
「ムルギン!起きてるか!?」
「わっ、あっ、うん!起きてる!起きてるよ!」
「コヤツの心臓はどこら辺じゃ?」
「えっ!あっ、分かった!待って!」
ムルギンはクロヒョウに素早く近づいて、前脚を広げて胸をあらわにした。
「ここだよ!肋骨に当たらないように注意して!」
「分かった・・・許せ・・・」
・・・サクッ、ビクン!ビクビク・・・
「有難う、多分全く苦しまなかったと思う」
「ウム・・・ところで、これ美味しいかな?」
「うーん・・・こんな凄い獲物、食べたことがないから分からないけど、色んな動物を食べて育っているからきっと美味しいと思う・・・」
ムルギンは初めての獲物だと言ったが、かなり手際よくクロヒョウを解体していった。小川が近くにあるおかげですごく助かるといい、解体した肉は私とシャルで小川の水で綺麗に血を洗い流した。
それからムルギンはリュックの中から大きな葉っぱを取り出して何かの木の実を敷き詰めてから丁寧に肉を包んだ。防腐効果と血生臭さを取る効果があるそうだった。
内臓も出来れば全部欲しいらしいが、まだ探検は続くのでとりあえず心臓と肝臓だけ同じように葉っぱに包んで持っていく事にし、他の臓器などは地面に穴を掘って名残惜しそうに埋めた。
また、黒くて艶やかな毛皮を丁寧に剥いで軽く水洗いしている時に私に細くて長い枝が欲しいと頼んできたのですぐに注文の枝を集めると、器用に骨組みを作ってそれに毛皮を固定して、乾燥させたまま持ち歩けるようにした。私の体力なら何ら問題なく持ち運べる。しっかり乾いたら後でリュックにしまうとのことだった。
「いや~、それにしてもさっきは凄かった!シャルが突然人が変わったみたいになってさ、ちょっと怖かったけど、それ以上に凄く格好良かった!アタシの知ってる戦士の誰よりも凄かった!」
「イヒヒヒ、アタイ剣の方はそれなりに自身はあるんだ、まぁ上には上がいるんだけど・・・」
「それってかなたの事?」
「うん、それもあるけど、かなた以外にも勝てない相手がいてちょっとへこんだ、でもその後すぐにだからこそ面白いと今は思ってる」
「そうなんだ、凄いなぁシャルは・・・」
私の強さはシャルの真の強さに比べればズルして手に入れたようなもので、とりわけこの刀の力によるものが大きいと最近はしみじみ実感している。
その後は特に猛獣に出くわす事もなく小川の上流を歩き続けたが、小川から離れたところに遠くからでも分かる程に不自然に木が生えていない場所があるのを見つけた。
「あれはもしかしたら遺跡の跡かもしれない」
「やった!」
「ホントか!それは凄いぞ!」
とはいえ、それでもあくまでもムルギンは慎重にしっかり周りを確認しながらいつも通りのペースで進んだ。やはりこの辺りは本物のプロだった。
「やっ!柱だ!石の柱が見える!」
「ところどころ崩れてるけど階段もあるよ!」
「間違いない!あれは古代遺跡だ!」
「「「キャッホウ!!」」」
パチン!パチン!パチン!
私達の目の前には整地された跡と古代遺跡の跡が広がっており、互いに手を叩き合って喜んだ。
「凄い!よくこんな場所にこれだけの石を運んで建物を造ったなぁ!この土台だけでも結構大きな建物だったと思うよこれは」
「この柱も凄いぞ!」
「そうだね、これらが千年以上前に造られただなんて、ちょっと信じられないくらい凄いよ」
「ハァ~・・・ホント凄いなァ~・・・ところで、この遺跡も寺院とか神殿の跡なのかな?」
「だと思うよ、この立派な柱と階段からして、何かを祭るような建物だったんじゃないかなぁ」
「だとしたら壁画とか彫刻みたいなものがないだろうか?」
「なるほど!あるかもしれないね!」
「よし!皆で探そう!」
「あっ!うかつに石とか触って動かさないように気を付けて!毒虫とか毒蛇がいるかもしれないから、何か見つけたら必ず声を掛け合って!」
「「了解!」」
そうして各自あまり離れ過ぎないように注意しながら、古代遺跡の調査を開始した。
シャルは石柱を調べ、ムルギンは石畳を調べ、私は階段を降りて土台の側面を調べ始めた。
するとしばらく消えていた視線を再び感じた。今度は以前よりも明らかに近くに感じた。そしてついにソレは話しかけてきた。
『・・・もしもし・・・聞こえますか?』
「!!!」
『あの・・・私の言葉、分かりますか?』
とても小さなかすかな声でソレは私に語りかけてきた・・・




