第87話
ムルギンは毒名人と言われている程の人物だから結構クセのある人物だとばかり思っていたのだが、目の前にいるムルギンはモデルのようなスリムな体型で少しクールな印象を与える美人で、最初の第一印象としては普通に社交性のある人で、言動からは特別変わった性格の人物には見えなかった。
「これから大樹海に入って遺跡発見の探検に行くというなら、図鑑だけじゃなく実地で実際に見て学んだほうが良いよ、アタシの採取を手伝ってくれるなら、現地で教えてあげるよ」
「ホントですか?それは有難いです!」
「やった!アタイ達でよければ幾らでも手伝う!かなたは凄い力持ちだから沢山採取出来るぞ!」
「へぇ!とてもそんな風には見えないけど、でも確かにスナギンの手紙にはもの凄い力持ちだって書いてあったね、あと凄く強いんだってねかなたは」
美人のムルギンも普通にかなたと言ってくれて少し嬉しかった。
「アタイも剣なら少しは自信あるぞ!」
「それは心強いね、でもアタシはもっぱら毒や罠で戦わずに猛獣を倒すのが信条なんだ、人間だからココで勝負するんだココで」
そう言ってムルギンは自分の頭をトントンと指で指し示した。クールな美人のムルギンがやるととてもサマになってて格好良かった。
「ムルギンは格好良いな!さすが毒名人だ!」
どうやらシャルも同感だったようだ。
「どうする?この後時間あるなら早速今から近くの森に行って実地勉強するかい?」
「「よろしくお願いします!」」
「ハハッ!君達息ピッタリだね」
「かなたはアタイの師匠なんだ!師弟関係はバッチリだ!」
「あっ、それって徒弟制度ってやつかい?」
「そうです、それです」
「ってことはかなたは大分高ランクなんだね」
「はい、探検家と戦士両方とも3級です」
「両方3級だって!?その見た目でかい!?」
「ええまぁ一応そうなってます」
「かなたは魔の森から生きて帰って来たんだ!グマンの王も一人で倒したんだぞ!あと大男・・・は、モルサールの先代当主が倒したんだけど、すぐ側で凄く活躍した・・・って、新聞で読んだ、ウン」
「スゲェーッ!かなたってそんな凄い奴なのか!」
「うん!かなたは凄いぞ!」
二人の美人からこうも褒められるとそりゃ悪い気はしないし嬉しいのだが、とても気恥ずかしいものがあった。
ところが数時間後・・・
「キャアーーー!ムリ!絶対ムリ!」
「アハハハハ!なんだよかなた!お前魔の森から唯一生き残った凄腕探検家なんだろう?」
「イヤァーーー!生理的にムリ!絶対にムリ!やめて!近づけないで!ヴィジュアルがダメ!」
「アハハハハ!その顔!ヒィーッ!ヒィーッ!」
「アッハッハッハッハ!アタイは慣れてきたぞ!」
ムルギンは細長い鉄の棒で串刺しにした全長30センチはある強烈に毒々しい見た目のムカデを私の顔に近づけていた。しかもまだ体のあちこちが動いていて、牙のあたりからカチカチと音もしていて、気絶しそうなくらい最悪な状況だった。
「ようしシャル、それならこれはどうだ?」
「キャアァァァァァーーーッ!それはダメだ!アタイ毛むくじゃらが一番ダメなんだ!ギャアアア!」
「アッハッハッハ!ヒィーッ!ヒィーッ!ヤベェ!笑い死ぬ!苦しィッ!いっ、息が!ヒィーッ!」
私達は大樹海のすぐ近くにあるムルギンの家に来ていて、いきなり毒虫の説明を受けていた。
最初に抱いた第一印象は完全にどこかに吹き飛んで、なるほどこの人物が毒名人と言われる理由を嫌と言う程思い知ったのであった。
「ハァ~~~ッ、生まれて初めてっていうくらい笑った、アタシ君達の事大好きになりそうだよ」
「オヌシ、よくそんな気持ち悪いもの捕まえられるのう・・・」
「ちゃんとこの子達の事を理解してあげれば、案外可愛く思えるようになるって、汚い心の人間の方がよっぽど気持ち悪いし恐ろしいよ」
「確かにムルギンの言う事は一理あるが、やはりどうにも見た目が生理的に受け付けん・・・」
「そうかなぁ、毛むくじゃらで愛嬌があるじゃん、この小さくてクリッとした目とか可愛いよ?」
「「オエェーーッ!」」
「アハハハハハ!君達息ピッタリだね!」
とりあえず最初にかなりショッキングな物を見せるというショック療法はムルギンの狙い以上に効果があったようで、これから行く初級の密林にはそうしたヤバイのは出ないから安心して良いとのことだった。ムルギンとしては知識なしで密林に入るというのはそれだけ危険なんだというのをまず最初に教えたかったのだそうだ。
その前にそろそろお昼だということで、昼食をご馳走になることにしたが、キノコや山菜までは特に何とも思わなかったのだが、来た時からずっと気になっていた大きな干したトカゲを手にした時はさすがに看過しえないものがあった。
「ムルギンよ、まさかとは思うが・・・それ食うのか・・・?」
「えっ?食べるよ、すっごく美味しいよ、今日あたりが一番美味しく食べられる頃合いだね、明日はこっちのヘビが食べごろだね、美味しいよ!」
「グ・・・グヌヌ・・・そうか・・・」
「僕はあまり食欲が・・・」
「大丈夫大丈夫!凄く美味しいし、身体にも良いから食欲がなくてもきっと気に入るよ!3日前から内臓を取り出して色んな薬草とか肉を柔らかくしたり旨味を増したりする草とか木の実を入れてるからね!そこらの高級料理店なんかじゃ食べれられない程美味しいよ!」
せっかくなので調理方法を覚えておくと良いと言われ、解体作業から間近で見ることになり、私の食欲はますます下降していった。しかしシャルの方はなかなか見上げた根性で、しっかりムルギンの説明を聞いていた。
そうして少し底が深いフライパンにバターをたっぷり乗せてキノコや山菜を入れて、ちょっと焦げ目がついたところで水を入れてトカゲの胴体と尻尾を入れて木の大きなフタをして蒸し始め、次に手足を串にさして秘伝のタレと称したツボの中に入れて、直火で炙り始めた。
途中からシャルが手伝って串を裏返したり、ツボに入れてタレを付け足してから、また直火に近づけて炙るのと繰り返した。
トカゲの剥いだ皮は綺麗に伸ばして木の上にピン止めして何かの液体を塗ってから日陰に干し、頭と手足の手先は網の上に置いて焼き始めた。完全に焼き上がった所でまたしても何かのツボを持ってきてフタを開けて中に放り込んだ。その際強いアルコール臭がした。
「こうしてしばらく浸けて寝かせると良い薬になるんだ、熱病とかで全身がだるくて食欲もない時はこれを飲めば大分元気になるぞ」
「フ、フーン・・・」
次にムルギンは山芋のような芋を蒸かしてすりつぶして乾燥させておいたというものを持ってきて、そのまま油で揚げ始めた。見た目は餅のようでこれは普通に美味しそうだった。
先にトカゲ足の直火焼きが良い頃合いになったということで、メインの蒸し焼きが出来るまでまだ時間がかかるから先に食べようということになったのだが、解体から一部始終見ていただけに相当な気合が必要だった。しかもまだ完全にトカゲの足の見た目だっただけに余計にキツイものがあった。
「さっ!遠慮しないで!大丈夫大丈夫!絶対美味しいから!ビックリするよ!」
「お・・・おう・・・確かに匂いはいいな」
「う・・・うん・・・匂いはいいね」
「味もいいよ!保証する!・・・ガブリ!モグモグ・・・ウンメェーーーッ!!」
私とシャルは見つめ合って頷き、意を決してガブリとかぶりつく事にした。




