第84話
シャルと一緒におよそ千年前の遺跡を見て回っていると、割と高い場所にまだ彫刻が残っている箇所を発見し、どうにも気になったのでほぼ無意識のうちにジャンプしてその場所に登っていった。
ピョンピョンピョン
「相変らずどういう修行をすればそんな風に出来るんだ?」
「えっ?あっ!つい好奇心のままやっちゃった」
「よしっアタイも行くぞ!やっ!はっ!とっ・・・ととと!」
ガシッ!
「あんがと」
シャルもかなりの跳躍力を駆使して跳んで来て、最後の一歩が足りずに落ちかけていたが、お互い阿吽の呼吸で手を伸ばして私は片手て難なくシャルを引き寄せた。
「やっ!これは凄い!ここだけ彫刻がハッキリ残ってるぞ!」
「そう!これが気になったんだ」
「フーム・・・コレ、何だ?クモ・・・か?」
「うん、僕もクモに見える」
「このクモの前にいるのは人間か?だとしたら大分大きいぞ」
「そうだね、こんな大きいクモなんかいたら僕は飛び上って気絶しそうだ」
「アタイもしばらく夢に出てきてうなされそうだ」
「でもこっちの絵はなんか仲良くしているみたいに見えるね」
「ホントだ、こっちのは一緒に猛獣をやっつけてるように見えるぞ」
「あ、本当だ、不思議な絵だねコレ」
「うん、帰ったら爺ちゃんに聞いてみよう」
なかなかに斬新で興味深い彫刻の絵が彫られていたのをシャルと二人で見て、他にも似たようなものがないか探してみたが後は大分風化していて良く分からなかった。
その後、当初の目的である探検家練習を兼ねたキノコや山菜探しを行い、シャルは結構勉強しているようで、シャル自身の復習がてら私に説明しながらこのキノコはここがこうなっているから毒キノコだと言いながら選別していた。
「コレは・・・うーん、難しいどっちだろう、似たようなのがあって、一方は凄く美味しいキノコで、もう一方は一週間は下痢が続く毒キノコなんだ」
一週間も下痢が続くのはヤだなぁ・・・
「コレどっちだと思う?」
正直初めて見るキノコなので全く分からないのだが、何故か私の直感がダメだと告げた。
「多分毒の方だと思う」
「やっ!ホントか?さすがだなかなた!・・・あっホントだ!これは毒の方だ!傘の裏側にヒダヒダがある!これがあるのはダメなんだった!」
「えっ?ホント?どれどれ・・・あっホントだ、ヒダヒダがある、確かにこれは見た目的にも気持ち悪いし、いかにも毒があるっぽく見えるね」
「危なかった、さすが師匠頼りになるな」
「いや~単なる直感だったんだけどね」
「いや、その動物的直観が大事なんだ、剣と同じでそういう直感が働いたときは大抵それが正しい」
「なるほど、そういうもんなんだね、それにしてもすごいなシャル、良く勉強してる」
「えへへ、結構楽しいから覚えてるんだ」
その後もキノコ以外に食べると美味しい山菜や、血止めや解熱や消毒などの効果がある薬草探しをしてシャルが持ってきた麻袋いっぱいになったので帰る事にした。
帰宅後は祖父母による戦利品チェックが行われ、全て合格点をもらったシャルは喜び、そのまま祖母と一緒に台所に行って料理の手伝いをしにいき、私は祖父と一緒に薬草を乾燥させたり、刻んで瓶に詰めたりするのを手伝った。
「お爺さんもお婆さんも凄く詳しいんですね」
「うん?ああ、ワシらが小さかった頃はまだこの町も自然が多くてな、今みたいに色んな物があって便利な世の中じゃなかったんじゃよ、でも美味しいキノコや果物や山菜、それに薬になる植物も豊富にあったからあまり苦労することはなかったのう」
「なるほど・・・あ、そういえば遺跡に大きなクモが描かれている彫刻を見つけたんですが、何かご存じありませんか?」
「大きなクモ?うーん・・・はてなぁ・・・」
「何だか人間と一緒に猛獣をやっつけている彫刻もありました」
「ああ!そうじゃ!あるある、確かにある!それはきっとクモガミ様の伝承じゃ!」
「クモ神ですか?そんな神様がいるんですね」
「そうじゃ、これは南の王朝時代の神話じゃのう、今の解釈ではクモの中には益虫というのもいて、家の中で殺さず放置しておけば害虫を食べてくれたりするクモもおるし、危険な毒グモもそこから血清を作ったり、その毒を弓矢の矢に塗って猛獣を退治したりして当時の人間生活に役に立ったと言われておる、恐らくそうした事を寺院の彫刻として残し、後世に伝えようとしたんじゃろう」
「なるほど!それは実に面白いですね!」
「今でもハエトリグモとかは家にいても殺さず放置している家もあるのう、まぁクモの巣がちょっと邪魔ではあるがのう」
「それはどれくらいの大きさのクモなんですか?」
「ああ、ハエトリグモはとても小さいぞ、小指の爪より小さいくらいじゃ」
「そうなんですね、私は虫が苦手で、大きいのはちょっとダメです」
「ああワシもデカイクモはダメじゃ、あと毛むくじゃらのも実に気持ち悪い」
「うわぁ・・・大きいのいるんですか?」
「この辺りは大分都会になったらほとんど見なくなったがここよりもっと南の方にはおる、手の平より大きいのがおるぞ」
お爺さんは手を広げて指をワサワサ動かし、自分でやっておいて「おお気色悪い」と言って、私も背中あたりがゾワァ~となった。昼間にカニの足を食べておいて良かった。
その後台所の方から実に良い香りが漂ってきて、またもや私の腹はグウと鳴り始め、程なくして待望のカニ甲羅揚げがやってきた。
それは大きなカニの甲羅にカニみそや今日採ってきたばかりのキノコと野菜がタップリ入ったクリームグラタンで、表面は少し焦げ目がついたパリパリの焼けたチーズにところどころポコポコと泡が弾けていてそこからなんともたまらない香りがした。
「ヤベェぞかなた!これは絶対ヤベェぞ!」
「うん!コレ絶対ヤベェヤツ!」
「ワハハハ、若者言葉は面白いのう」
実際本当にヤバイ程に美味しくて、これ程までに濃厚な旨味の詰まったクリームグラタンは生まれて初めてだった。表面に焦げ目のついたパリパリの焼けたチーズの塩加減とその下にあるカニみその旨味とクリームのまろやかさという美味しさの情報の渦に脳みそが飲み込まれてしまう程で、具材のキノコと山菜がさらに味のバラエティさを演出していて、幾ら食べも飽きなかった。
「シャルの言う通りお婆さんの料理の腕は超一級品だよ、お店をやったら大繁盛間違いなしだ」
「アタイもそう思う、婆ちゃんの料理は最高だ!」
「あらあらまぁまぁ有難う、でも私は自分で作った料理を食べるのが好きだから、お店は出せないわねぇ、同じ料理を何度も作るのは飽きちゃうし」
「婆ちゃんの孫で良かった!孫じゃなかったらこんなにウマイもの食べること出来なかった!」
確かにシャルの言う通り、お婆さんは店を開く気がないようなので、シャルが孫じゃなかったらこんなにも美味しい料理を食べる事はなかっただろう。
食後、シャルの祖父母に南の小さな村ヌルムワカについて尋ねてみたところ、ここからだと馬車で5日はかかるだろうと言われたが、私の足なら2日で到着出来そうだと答えると二人とも大いに驚き、さすが高ランクの探検家だと感心していた。
それくらいの距離ならば明日にでも出発しようとシャルは意気込んで、寝るまでの間に旅の準備をし始めたのであった。




