第80話
私は1日約8時間、距離にして約200キロ進むというおよそ人間離れした進行速度で進んだ。これでもかなり体力的には余裕があり、しっかり宿で寝泊まりして休息しているし、食事もしっかり一日三食とっていた。
かなり大雑把な計算数値だが大体15日で日本の北から南まで進むことなり、お目当ての場所まではおよそひと月程度かかるようで、まさに日本一周する程の距離を進むことになるのだった。
道中ゆっくり進む馬車を追い抜き、単体で走る早馬には抜かれるが2時間おきに休む必要がある馬よりもトータルでは私の方が早く、先に村に到着するのは私の方だった。
そして常にお日様の下広い街道を進んでいるので盗賊に出くわすこともなく、快調に進んでいた。
さらに20日を過ぎる頃には完全に周りの草花木の植生が異なっていて、いかにも南国風の木々や草花だらけになり、飛んでる鳥もカラフルで変わった独特の鳴き声の鳥になっていった。
当然気温も高く半袖のシャツ一枚で過ごし、食べ物の味や食材も大分これまでとは違っていった。
残念ながら香味に使われる何かの葉っぱが口に合わなかったが、それと引き換えになんと醤油が登場したのは嬉しかった。といってもどうも日本の大豆醤油ではなく、魚介類をもとにして作られた魚醤のようだった。
それでもそれで煮込まれた豚の角煮のような煮込み肉や少し太くて縮れていないラーメンのような麺料理はすこぶる美味しくて大いに気に入った。
スナギンから教えてもらった魚と果物が美味しいエリアはあともう少し先のようで、とくにあんかけの魚と色んなフルーツが入ったかき氷は絶対に食べておけと食事処や宿屋の人から教えてもらった。
また懸案事項で最重要事項のトイレ問題だが、中央都市を出て5日目から15日目あたりの村は水洗トイレがない場所が多くて辛かったが、それでも気温が高い南の地域では腐敗が進むのが早いので、そこら辺に肥溜めがあると食中毒や伝染病など衛生上とても危険だという事がかなりの昔から知られており、しっかり対策されていた。
そうして中央都市から出発してちょうどひと月経ったところで南の最大都市に到着した。ここからさらに2日程南に向かった町にテリーズの両親の家があり、そこにシャルもいると知らされている。
そこはまさに南国ムード漂う感じで、建物の外観も大分異なり、そうした建物の外壁と道を歩く人達の服などは大変カラフルだった。
早速ちょっと高そうな宿にチェックインして、受付の人におすすめの料理屋を教えてもらってすぐにそこへ行くと、店の外に並んでいる人達が10人以上いて、どうしようか悩んだが一応最後尾に並び、待っていると店員が出てきて私の4人くらい前の人から利用人数を聞いて、私の番になった時に一人だと言うとカウンターで良ければ先に案内出来ると言ってくれて、今並んでいる人は大体4人一緒のグループだったので、私は先に店内に入ることが出来た。
私は早速あんかけの魚料理でおすすめをくれと注文し、食後にフルーツ盛り合わせかき氷を注文したが、かき氷はここではやっていないとのことで、普通のフルーツ盛り合わせを注文した。また、焼きそばもおすすめだと言われたのでそれも注文した。
その後運ばれてきた料理は見た目からしてとても豪華な感じで、赤い色の魚にトロリとした餡のべっ甲色に色とりどりの葉野菜が盛り付けられていて、ここでは箸の文化が広まっているようで、箸で魚の肉を取ると白身から湯気がホカホカ出てきて、餡をタップリ乗せて野菜と一緒に頬張って、ハフハフしながら食べると魚の白身の味と餡の旨味と野菜のシャキシャキ感が渾然一体となって、美味しさの情報の洪水が一気に脳に襲ってきた。
なんだこれ!凄くヤバイ!ウマイ!マジでガチでウマイ!ちょっと待って!コレ本当に美味しいんですけど!
結構大きな魚で30センチくらいはありそうだったが、箸が止まらずみるみるなくなっていった。
あっという間に食べ尽すともったいないので、別のおすすめ料理の焼きそばも食べてみたが、これがまたおすすめするのも納得の美味しさで、なんと嬉しい事にソース味で恐らく美味しい果物が豊富な南の地だからこそ、そうした果物などが煮込まれた濃厚な味のソースになっていて、くるっと丸まったプリプリのエビや貝と野菜が入っていてこれ単体でも主役級の美味しさだった。
両方の料理の皿は結構大きな皿だったが、あっという間に完食し、デザートのフルーツの盛り合わせも完全別腹で手が止まらない程美味しく、改めて南の食文化ヤベー!と感動したのであった。
その後宿に戻ってシャワーを浴びて、恐らく蚊やハエなどを寄せ付けない効果がありそうなお香が焚かれた寝室で蚊帳が張られたベッドの中に入って窓は開けたままの状態にして寝た。とても心地が良くてすぐに深い眠りに落ちていった。ちなみに今回はマイ枕はしっかり持ってきている。
翌日、窓から差し込む朝日の光で目が覚め、割とゆっくり朝食を食べてからチェックアウトして、さらに南の町へと向かった。
目の前にはこの世界に来て初めて目にする海が広がっていたと思ったのだが、それは巨大な湖だったらしく中央部に従って淡水から塩分濃度の高い塩湖になるとのことだった。そして南の地の魚が美味しいのはまさにこの湖とそれに繋がる大きな川のおかげなのだそうだ。
その湖は丸1日進んでもまだ対岸が見えない程に大きくて、そんな湖を抜群の眺めで見下ろすことが出来る湖畔の宿に泊ったのだが、夕日が湖に沈んでいく姿はいつまでも見ていられる程に美しかった。もちろんその日食べた夕食の魚料理も格別だった。
そして翌朝、この日は出来れば昼頃にシャルのいる町に到着したかったので、日の出前に宿を出発して少しペースをあげて移動した。
2時間程進んで大体朝の6時くらいに差し掛かったあたりで朝から活気のある村に到着し、以前マチャントと一緒に行った朝市のような市場があり、想定通り朝食を出している飯屋があり、中に入るとこれまた想定通り朝市で仕入れた新鮮な魚を使った海鮮丼そっくりの料理を頬張っている人が沢山いて、早速私も同じものを頼んで食べたが、今度は想定通りではなく、想定を大幅に超えた美味しい海鮮丼だった。何故ならばそれは醤油味だったからである。
といっても正確には日本お馴染みの大豆醤油ではなく魚醤なのだが、それでも酢飯に刺身に醤油という組み合わせはそれはもう涙が出る程嬉しくて美味しかった。あまりにも美味しかったのでもう一杯おかわりして食べて、胃袋だけでなく心のエナジーチャージもしっかり完了して移動を再開した。
その後何の問題もなく順調に進み、ようやく遥か彼方の先に湖の対岸が見えてきた辺りで目的の中規模の町に到着した。
2日前に訪れた南エリア最大の都市と違って背の高い建築物はほとんどなく、建物の間も余裕があって道路も混んでおらず人の数も少ないわけではないが大勢いるという程でもなく、全体的な印象としてはゆったりとした平和的な町といった感じだった。
とりあえず大通りを進むと中心部辺りに円形状の広場があり、その前にいかにも公の建物といった感じの大きな建物があったので、その建物に向かうと入り口に大きく町役場と書いてあり、入り口に入ったところ壁には大きな木製の地図があり、区画ごとに数字が書かれていた。
私はヴォルタークから受け取っていた手紙を取り出してシャルがお世話になっているらしいテリーズ婦人の両親の家の住所を確認し、大きな地図と照らし合わせた。
中心部の商業エリアから割と離れた住宅地エリアにお目当ての数字が書かれていたので、しっかり現在位置と該当の場所を確認して町役場を出た。
いよいよ自由になったシャルと再会だ。




