第8話
短い間ではあったがとても癒された旅のお供の可愛い生き物と別れ、少し寂しい気持ちではあったが私も生き物と同じように振り返らず、新たなエリアへと歩み進んだ。
もちろん今度はこの川に沿って下って行くつもりで、下流に行けば必ずどこかで水源を利用した人里などに辿り着くだろうという確信があった。
そしてこれまでの小さな自然の用水路と違って、小さいながらもちゃんとした川なので河原があり、ちょっと大き目の石があって歩きにくくはあるが、それでも背丈以上もある藪の中を突き進んでいくよりは遥かに良さそうだった。
そこで私は最後に水浴びをしてから全く身体を洗っていないことに気付き、衣服やシーツの洗濯は今回は諦めて、せめて身体だけも洗おうと思った。
水浴びするのに良さそうな場所を探しながら川に沿って移動していると、平らな大きな岩とちょっとした淵になっている場所を発見した。
私は大きな岩に乗って淵になっている川の底を覗いてみると、とても澄んだ綺麗な川で私の背丈以上には深くなさそうだったのでここで身体を洗う事にした。
一応息をひそめて集中してじっくりと周辺を見回したが、大丈夫そうだったので私は服と靴を脱いで全裸になって川に飛び込んだ。
「わっ!冷たッ!」
と、思わず口から出たが、慣れれば心地良い冷たさで低体温症になるような冷たさではなかった。
そして思った通り水深も実に丁度良く、立った状態で肩の高さくらいで、私はそのまま身体中をこすった。
ここ数日間休みなく歩きっぱなしだったが、実は全く汗をかいておらず、自分では気付いていないだけかもしれないが、体臭もほとんどなかったと思う。それでも精神的に気になったので私はゴシゴシと身体中を素手でこすった。
一通り身体を洗った後で最後にしゃがんで潜って顔と頭をゴシゴシと洗った。
髪の毛もワシャワシャと洗っていると、全然息が苦しくない事に気付き、果たしてどのくらいの間息を止めていられるのか試してみようと思い、私は手を止めてそのまま水の中に潜り続けた。
目を開けて水の中を見ていると、徐々に魚の姿を確認することが出来て、さらに川底をみると小さなエビやカニの姿も発見した。しばらくの間そうして川の中を眺めていたが、一向に息苦しくなる気配がなく、それならばということで水中で平泳ぎをして身体を動かしてみたところ、結構な時間手足を動かし続けたところでようやく少し息苦しいと感じてきた。さらにそこからゆっくり数を数えて452を超えたところでようやく頭を出してプハッ!と息をした。
人類の息を止める世界最高記録が果たしてどれくらいの時間なのか分からないが、少なくとも尋常じゃないと思えるくらい長い間息を止められたんじゃないだろうか。
その後水から出て岩に上ってしばらくの間全裸姿で日光浴をしてある程度体を乾かしてから服を着て靴を履き、グルグル巻きのシーツをたすきがけして歩くのを再開した。
途中大きな倒木が幾つかあって、川に流されてきたせいか綺麗に樹皮が剥かれて割とツルツルで綺麗に見えた。
最初の数本を見た時は特に何も思わなかったが、さらに幾つか見ているうちにパッとアイディアが閃いた。
丸太でいかだを作って川下りしたらラクに進められるし楽しそうじゃないか?と。
そこで私はいかだ作りに欠かせない重要なアイテムがないか森の方を見た。すると実に都合の良い事にそれはあった。そのアイテムとはツタである。
これまで小さな小屋を出て可愛い生き物と一緒に歩いてきた森の中の木とは異なる木がここには沢山生えており、その木には大抵ツタが絡まっていた。
私は早速近くの木に近づいて無防備にも素手でツタを掴んで引っ張ってみたところ、思った以上にしっかりしていたのでさらに強く引っ張ってみた。
ツタはピンと張ってメリメリミシミシと音をたてたがそれでも切れることはなく、さらに強く引っ張るとメキッ!という音がして急に軽くなり、そこそこ太い枝ごとこちらに飛んで来た。
私は飛んで来た枝を頭だけ動かしてなんなくヒョイとかわした。
冷静に考えればその動体視力と反射神経に驚いても良いのだが、その時の私はそれよりもこれでいかだが作れるどころか、うまくいけば作れる物の範囲が広がるという事に夢中になって喜んだ。
私は嬉々として手に入れたツタを持って倒木の元にピョンピョン飛び跳ねていった。ウキウキした気分だったのと、ただ歩くよりも大き目の石の上を飛んで移動した方が速くてラクだったからだが、またしてもその驚異的な跳躍力とバランス能力については気付いていなかった。頭の中はいかだの完成形の想像と、どうやっていかだを作ろうかという事でいっぱいだったのだ。
お目当ての倒木に到着するとすぐに抜刀して両端をカットした。それはもう見事な切り口で伐採所の丸ノコで切ったかのようだった。続けて目検討で半分に切って他の倒木を探した。
十数メートル離れた先の対岸に何本かの倒木があるのを見つけたので、助走もせずにその場でピョンと対岸へと跳んで、そのままピョンピョン飛び跳ねながら倒木へと向かって行った。
お目当ての場所に倒木は4本あり、そのうち真っ直ぐで太さと長さが丁度良さそうなのが2本あったので私は抜刀して両端をカットしてまずは1本肩に担いでみたところ、これならもう1本担げそうだということでさらにもう1本肩に担いだ。ちなみに1本5メートル程で太さは直径30センチくらいあり、相当な力自慢じゃないと担ぐのは無理だったことだろう。
私は2本の倒木を抱えたままピョンピョン軽やかに跳んで元の場所に戻り、先ほど切ったものの横に並べて同じ長さに切り、まず4本の丸太を横に並べてから別の2本を前と後ろに直交するように置いた。
そしてツタを手にして丸太に巻こうとしたところで手を止めて考えたところ、ツタを巻き付けるところには溝を掘ってツタが滑って位置ずれして解けないようにしようというアイディアが閃いた。
早速刀を使って器用に丸太に溝を掘っていき、四か所の溝のラインを掘って、各溝にツタを巻いて力いっぱい引っ張ってしっかりと結んで、結構激しく揺らしてみても丸太同士ガッチリ繋がったままである事を確認して、簡易的ないかだが完成した。
私はもう一度森の方に向かって行き、追加で予備のツタを手に入れて、さらに細くてしなやかな木を選んで3メートル程の長さにカットした。これはいかだ用の杖として使うつもりだ。
残念ながら気が付くと日暮れ時になってしまっていたので、進水式は明日のお楽しみということで、私はいつも通り大きな木の上で一夜を明かす事にした。今回は大抵の木にはツタが絡んでいたので、木登りが大いにラクだった。
いよいよ手慣れた手つきであっという間に簡易ハンモックを作って明日の川下りを楽しみに想像しながら眠った。
翌朝、なかなかの空腹感で目が覚めたので、昨日食べれなかった白キノコと少し折って可愛い生き物にあげた黒紫キュウリの残りを食べた。
初めて白キノコを食べた時のようななかなかにヤバイ症状は発症しなかったが、この後の川下りが楽しみで少し興奮気味だった。
食後すぐに支度を整えて、とうとう私は木から飛び降りるどころか河原に向けて大ジャンプした。着地点はゴツゴツした岩や石だらけなのにも関わらず河原に向かってジャンプした。ひょっとしたら白キノコによる影響が出ていたのかもしれない。




