第79話
普段は屋内練習場である広い室内ホールの一番前は沢山の白い花の壁が設けられていて、その中央部にはシャルローの肖像画があり、その前に置かれた白いテーブルクロスの上には愛用の剣と最後に討ち取った鬼の怪人の頭も飾られていた。ちなみに愛用の剣は打ち直されて真っ直ぐになっていた。
その後ドラのようなドワァ~ンという音が何度か鳴り響いて、立派な衣装に身を包んだヴォルタークが登場し、参列者達へのお礼の挨拶と見送りの会の開始を宣言した。
最初にモルサール流の各分家代表が弔辞を述べ、続いて各流派の代表に続き、貴族、都市長や町長、そして組合長と続いていった。面白い所では刀鍛冶師や大好物だった団子屋の主人なども登場して弔辞を述べていった。もちろん単なるお世話役に過ぎない私などが弔辞を述べる事はなく、私自身もその方が良かった。
最後に全員に少量の酒が配られ、剣術家達が起立して鞘に入れたままの剣を高く掲げ、ドラの後に続いてオウ!と気合のこもった声を上げるのを3回繰り返してから全員一気に酒をあおった。
大変失礼なことに、当初は長い葬式は退屈だろうなぁなどと思っていたのだが、思いのほかこの見送りの会は面白い会だった。
それから食事が運ばれて来て、あらかじめ両サイドの壁側に置かれていた長テーブルの上に次々と料理が置かれていき立食パーティーへと変わった。
あちこちで小さなグループが出来て各々和やかなムードで談話をし始めた。他流派の代表同士がこうして一堂に会する事は滅多にないだろうから、大分盛り上がっているように見えた。
私は前回の大男討伐祝賀会の時と同様、誰にも相手にされていないのを良い事に、あまり手を付けられていない料理を一人楽しんでいた。
程なくしてロレオンとヴォルリッヒがやってきて久しぶりの再会を喜び合い、ヴォルリッヒの身体もすっかり良くなっているようで安心した。
「それにしてもお前さん、ヤバイヤツだとは思っておったが、改めて凄いヤツだと考え直したぞ」
「いやぁ~ハハハ・・・私の実力というよりほぼこの刀、じゃない、剣のおかげだと思っています」
「じゃがそのカタナとかいう剣に認めらているのはお前さんだけじゃ、つまりはお前さんの実力じゃ」
やはりロレオンは真相を知っているようだった。
「タナカ君、ホント君には感謝しているよ、それはもう色んな意味で感謝するべき事が沢山ある、いずれ私からもしっかりお礼はさせてもらうよ」
「いやいや、お気遣いなく」
「そうはいかないよ、それにホラ、これからも色々君の世話になるわけだしね」
「叔父のワシからもよろしく頼む、タナカよ」
「はい、おまかせください」
あまり長い時間話していると私が目立つだろうからと言って二人とも去っていってくれた。
それからリシャールがやってきてやはり同じように短く情報交換を行って去っていった。
ニッキは毎日子供達と仲良く過ごしていて、言葉もかなり上達しているとのことだった。また、ニッキの作る野菜はとても美味しくて驚いているとも教えてくれた。これは是非とも味わってみたい。
私の方からはこの後は南に行く大事な用事が出来た事をリシャールに伝え、ニッキやイザベルのためにも時折手紙を書いて欲しいと頼まれたので、なるべくこまめに書いて送ると答えた。
その後都市長や町長など公務がある人が退出し、それに続いて他の人達も少しずつ退出していき、無事何事もなく見送り会は終了した。
門下生の人達と一緒に私も後片付けを手伝っていると、ヴォルタークに呼ばれて初めて2階にある居住スペースに案内され、そこにはヴォルリッヒ、ロレオン、マリー、テリーズが揃っていた。
「タナカ カナタよ」
「はいっ!」
「これまでの働き、家族一同心から感謝する」
「ありがとうタナカ君」
「よくやったぞタナカよ」
「ありがとうカナタ」
「かなたさん有難うございます」
「わっ・・・っと、は、はい、こちらこそ、色々と有難うございます」
「これからも何かと世話になると思うが、どうかよろしく頼む」
「はい、おまかせください、最善を尽くします」
「これはこれまでのお礼とこれからの必要経費だ、どうかもらってくれ」
ここは断らず、素直にもらっておくのが礼儀だと思った。
「はい、有難うございます、頂戴いたします」
「それと・・・この手紙をシャルに渡しておいてくれ」
「はい、必ずや届けます」
「では行け、タナカ カナタよ!シャルをよろしく頼む!」
「はっ!行って参ります!」
「タナカ君、シャルを頼むね!」
「シャルとうまいことやれタナカよ、オヌシらは多分ウマが合うじゃろう」
「そうね、シャルとうまいことやってねカナタ」
「うまいことやらんでいい!が、頼むぞタナカ」
「かなたさん、姉さんをよろしくお願いします」
「分かりました!では皆さんまた会う日までどうかお元気で!」
そうして私はマリーが焼いたクッキーが沢山入った袋をもらって、モルサール家を後にした。
何というか、私の心はすこぶる晴れ渡っており、大いにヤルキに満ちていた。
足取りも軽やかで、夕方前には宿屋に到着し、宿主の中年女性に明日の朝チェックアウトする旨を伝えて宿泊料を清算し、その後ギャラガ達と一緒に最近毎日のように通っていた居酒屋食堂で送別会を開いた。
「なんだってまた南なんだ?」
「はい、南にはテリーズ婦人の親戚で探検家志望の方がいて、とても才能が有り将来有望らしく、組合の徒弟制度を利用して私にその方の師になって欲しいと頼まれました」
「ホウ!」
「南はいいぞ、オレの故郷だ」
「あ、スナギンさんは南の出身なんですね」
「ああ、年中暖かくて人も良いし色んな食べ物があるし自然豊かで楽しい場所だ、南に行ったらまず魚と果物を食ってみろウメェぞ」
「わっ!凄く楽しみです!必ずそうします!」
「あ~・・・ただな、もし探検家の依頼で洞窟とか密林に行くときは毒にだけは気を付けろ、毒虫、毒蛇、毒トカゲ、毒草、毒キノコ・・・とりあえず図書館で本を借りて勉強しておくか、その辺りに詳しい現地の探検家とかを頼るといいだろう、あと毒消しは絶対に持っていけよ」
「ゲッ・・・必ずそうします・・・」
その後も珍しく少しだけ夜遅くまで皆と色んな話しを楽しんで、帰りには皆で公衆浴場に行って汗を流して宿に戻った。
翌朝、部屋の扉の隙間に手紙が挟まれていて、開いてみるとそれはスナギンからの手紙で、もしも南の奥にある小さな村ヌルムワカに行くことがあれば探検家組合に行ってこの手紙を見せると、毒名人でスナギンの師匠であるムルギンが色々と教えてくれるだろうと書いてあった。
私は扉の外からでも聞こえてくるソルドンのいびきの音を聞きながら扉に頭を下げて1階に降りて、受付カウンターにある返却箱に部屋の鍵を入れて宿を後にした。
朝早くからやっている食事処で朝食を食べ、中央都市外縁南の端から街道に出て、朝日に照らされた黄金色に輝く小麦畑を横目に見ながらモルサール流歩方術で南へと向かった。
新たな新天地でシャルとの新しい冒険、いや、探検が待っているかと思うととてもワクワクして、ついついペースも早くなるのであった。




