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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第77話

 とりあえず中におあがりになってと、テリーズと名乗るマリーとシャルロッテのお母さんから言われて私は久しぶりの離れの小屋の中に入った。


 当然の事ながらシャルロッテの姿はそこになく、現在は中央都市の外周にあるテリーズの知り合いが運営している宿屋に旅行者として滞在しているとのことだった。


 久しぶりにマリーの淹れてくれた美味しいお茶と手作りクッキーを口にしてとても幸せな気分に浸っていると、先程ここに来る途中で感じたのと同じ気配を察知し、しっかり身構えていると案の定ヴォルタークの姿が現れた。


「ホウ、少しはやるようになったか」


「ご無沙汰しておりますヴォルターク様」


「ウム、して、オヌシはこれまで一体どこで何をしておった?」


「西のハイラル家の護衛隊の方々に剣術指南をしておりました」


「何?お前がかのハイラル家の護衛隊に剣術指南役じゃと?」


「はい」


「あそこはポウェトゥール流剣術が盛んな地だぞ、それが何故オヌシに剣術指南を乞うというのだ」


「えぇと、魔の森で生き残った手腕を認められたからだと思います」


「フム・・・まぁその件はよい、さてタナカよ、オヌシは先代当主の見送り会に参加した後は南に行くのだ」


「えっ?南・・・ですか?それはまた何故でしょうか?」


「ねぇタナカさん、あなたシャルの事好き?」


ブゥーーーッ!!


 今お茶を盛大に吹いたのは私ではなくヴォルタークだった。私も吹きそうになったが代りに吹いてくれて良かった。危うくマリーの前で失態を演じるところだった。


 そんなヴォルタークをテリーズもマリーも華麗にスルーして、マリーは静かに雑巾がけした。


「ちょっ!おまっ!何をっ!?」


「あら、だってシャルにはタナカさんが必要よ?ごく少数の身内以外でシャルの事を知っているのはタナカさんだけで、私達身内がシャルのそばにいれば全部バレちゃうじゃない」


「それと好きとどう関係があるのだ!」


「好きじゃなければわざわざシャルに付き合って南まで行く理由がないわよ、謝礼金を出すから付いて行ってくれだなんて全くつまらないじゃない」


「つまるつまらないの話じゃない!」


「あの子にはこれまでホントくだらないメンツとかの理由で自由を縛ってきたのよ、これからは一人の若い女性として自由に楽しく人生を送って欲しいと思うのは親として当然です、だからこそこれまでみたいなつまらない人生じゃなくて楽しさが一杯つまった人生を歩ませたいのよ、当然マリーにも」


「グヌゥ・・・ワシとてそう思っておる」


「えっと・・・シャルさんは南へ行くんですか?」


「ええ、南は私の生まれ故郷なの、そこで私の親類という出自をあらたにでっちあげるのよ」


 でっちあげるんだ・・・


「あの子はタナカさんみたいに探検家になりたいと言っていたから、組合の徒弟制度をうまいこと利用して事情を知っているタナカさんにシャルの師になって欲しいの、南はそこのところ結構ゆるいから高ランクライセンスを持ってるタナカさんが師になってくれればすぐにシャルも探検家になれるわ!」


「分かりました、そういう事でしたら協力させていただきます」


「やってくれるのね!ありがとう!カカタ!」


「カカタじゃなくてカナタさんですよ」


「あら?オホホホホホ!ごめんなさい」


「・・・シャルを頼んだぞ」


「はい!おまかせ下さい!」


「あくまでも仕事の師としてだ!」


「・・・」


「何故そこで返事をせん!」


「はい!分かりました!」


 その後久しぶりにマリーの作るお昼ご飯を有難く噛みしめて味わい、テリーズからシャルロッテが滞在している宿を教えてもらって、すぐにその宿へと向かう事にした。


 城塞都市を抜けて4時間程で外周にあるお目当ての宿がある辺りの区画に到着したので、宿屋の看板がないか探しながら歩いているとこちらに向けられている気配を察知して、足を止めて辺りを見回してみると一人の少年がこちらに近づいて来た。


「ようあんちゃん!」


「???・・・って、えっ!?」


「キシシシシ!」


「シャッ!シャルッ!?」


「おう、あんちゃん!久しぶりだな!」


 なんと目の前にいる少年は、いや、美少年はシャルロッテだった。


 腰まであった髪の毛をバッサリ切ってズボンを履いて身体のラインを隠すために余裕のあるトップスを着ていた。


「いや~短い髪の毛はいいな!洗うのがラクだしすぐ乾くしメシ食う時も動くのにも邪魔にならないし軽いし実に快適だ!」


「良く似合ってるよ・・・でも・・・」


「そうガッカリすんな!また伸ばすから!」


「うん」


「そうだかなた、今どこに泊まってるんだ?」


「組合直営の宿に泊まってるけど、1泊10万ガーランドもするんだ」


「10万!?ヒェーッ!さすが3級探検家だ!うーんそしたらダメかなぁ・・・」


「何が?」


「オレの隣の部屋が空いてるからこっちに来ないかって言おうとしたんだよ、1泊5千で連泊だとかなり割引してくれて、トイレはちゃんと水洗で風呂桶やシャワーはないけど洗い場はあるんだ」


「分かった!そっちに引っ越す!」


 私は即断即決してすぐにUターンして城塞都市に戻ろうとした。


ガシッ!


「まぁ待てかなた、そんなに慌てなくても部屋はまだ大丈夫だって、それよりそろそろ夕食だから一緒に何か買って食べよう」


「うん、分かった」


 そうして美少年シャルと一緒に屋台巡りをして美味しそうなものを色々買い込んだ。


「ここに泊まってるんだ、建物は地味で目立たないけど静かで良い宿だぞ」


 そうして宿の受付窓口に行って奥から出てきたふくよかな中年女性に私を紹介し、一緒に食事を食べたら帰るのと、明日から隣の部屋を月末まで借りると言い、私もライセンス証を見せると女性は私の姿とライセンス証に刻まれた文字を見て驚き、部屋は確保しておくと言ってくれた。


 それからシャルの部屋に行って、小さなテーブルを移動させて二人で向かい合って座り、美味しそうな料理をテーブルいっぱいに並べて一緒に食べた。


 とても大事な秘密を共有しているシャルにはニッキの事を明かしても大丈夫だろうと思い、私はニッキの事を地球からやってきた人という事だけは言わずに心優しい獣人の女の子の事を話した。


「ホウ!それは是非とも会ってみたい!」


「うん、ニッキにもシャルを紹介したいし、とても素敵なハイラル家の人達にも紹介したい」


「・・・ところでかなた、そのシャルって呼んでくれるのはいいな!さんを付けられるよりもよっぽどいいぞ!」


「えっ?あぁ一応ホラ、他所からみたら自分が年下の少年に向かってさんを付けて呼んだら変だと思われるかもと思ったからなんだけど、でも気に入ってくれて良かった、自分も以前のお爺さんに変装した姿じゃない今の姿の君にはシャルって呼ぶ方がしっくりくる、そういえばシャルの方こそ田中じゃなくてかなたって呼んでくれて嬉しいよ」


「うん、姓で呼ぶのは何かよそよそしい感じだから名の方で呼ぶ事にしたんだ・・・ところで、母ちゃんから聞いてると思うが、オレと一緒に南の方に来てくれるか?」


「もちろん!探検家になるんだって?自分でよければ協力するよ!」


「キャッホウ!!」


 シャルはまさにこれからようやく自分の自由な人生を楽しむのだと大喜びだった。


 そんなキラキラして喜ぶ美少年を目にして私の心も大喜びだった。

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