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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第76話

 ハイラル家の子供達はいつも広大な館で暮らしているので小さな小屋が新鮮で、互いの肌が触れ合う距離で過ごすのを楽しんでいた。


 ニッキも凄く嬉しそうで、その笑顔を見ているだけでも私にとっては最高のご褒美報酬だった。


 その後布団や食器などの日用品の搬入作業を行ったが、使用人の人達だけでなく私やニッキ、そして子供達も一緒に運んでくれたのですぐに完了した。


「ミナサン、アリガトウ、トテモ、ウレシイ!ダイスキ!」


「「「わぁー!」」」


 いや~良かった・・・中央都市の鬼の怪人討伐祝賀会の場でリシャールからの声掛けでここまでやって来たが、本当に来て良かった。


 ハイラル家とのご縁が出来たこともさることながら、こうして同じ地球出身のニッキ、それもこれほど可愛くて心優しい善良な人に出会えたことは本当に良かった。


 鬼の怪人を討伐した後、実は結構空虚な気持ちになることがあったが、心温まるハイラル家の人達とニッキのおかげで私の心もとても健やかになった。


 私の方こそ本当に有難う、皆大好き!


 以上、タナカカナタのカタナ、完


 ・・・と、なることもなく、私のハイラル家の滞在は続いていた。


 それから10日程経ち、私は念願の乗馬がそこそこさまになるところまで来ていた。

 私がこの世界に来てから約3カ月、中央都市を出立してからおよそひと月という時間の経過だった。


 ニッキは花壇を作ったり、家庭菜園を作ったりしてとても充実した日々を送り、子供達も勉強の合い間などに毎日のように遊びに来てくれて、独り暮らしでも全く寂しい思いをすることがなかった。


 そんなある日の事、ハイラル家の護衛隊隊長のバリステレスからポウェトゥール流剣術の乗馬練習を教わっている時に、リシャール自らが新聞を手にして走って駆け付けてきた。


 すぐにこれはただ事じゃないなと察して馬から飛び降りリシャールの前に着地すると、リシャールはビックリした表情をしたのも束の間、すぐに新聞を広げて私に見せてくれた。


【訃報!モルサール流剣術本家先代当主、シャルリッヒ氏老衰により死去!!】


「あっ!!」


 そうか!ようやくシャルロッテが自由になる日が来たのか!やった!・・・ってイカン!喜んだらイカン!!


 私は心の中ではとても喜んでいるのだが、とても神妙な面持ちで目を閉じて黙とうした。


【葬儀は親族のみで内々に行われ、ひと月後にモルサール総本家本部道場にて見送りの会が開かれる】


「タナカ殿、いかがなさいますか?」


「はい、もちろん出席します、明日にでも発とうと思います!」


「分かりました、私達と一緒に馬車で行きますか?それとも先に馬で行きますか?」


「走っていきます!」


 確かに単発的な速度なら馬の方が早いが、馬は2時間おきくらいにしっかり休ませて水を飲ませなければならず、トータルとしてみた場合、朝と夕にしっかり食べておけばほぼ休みなく走り続けられる私の方が距離的にはほぼ倍の移動距離を稼げるので、私は自らの足で行く事にした。それにこちらの方が機動性にもすぐれているし、馬を止める場所を探す手間やエサやりの手間も省ける。


 その日の夕食の場にて、ハイラル家の人達とニッキに明日中央都市に向けて発つ事を説明したが、今はニッキがいてくれるのでイザベルが寂しくて泣き出す事もなくホッとした。


 翌朝、いつもより多めに朝食を食べて、お弁当の握りっこももらって、私はハイラル家の館を後にした。リシャール達もこの後準備出来次第出発して、ひと月後の見送り会に出席するとの事だった。


 行きの時はリシャール達と休憩多めのゆったりした優雅な馬車の旅だったが、帰りは速度重視で移動するので3日程度で到着したいと考えている。


 そうして私はモルサール流歩方術で移動を開始した。


 大分歩方術にも慣れたようで、まるで足が勝手に進んでくれるような錯覚までする程になり、上半身はほとんど力を込めておらず、腕を組んで考え事をすることまで出来る程だった。


 観光客や行商人に貴族の馬車などとすれ違い、そうした道行く人の驚く顔を横目に私は休みなく走りに近い速度で歩き続けていき、馬車だと1日の終わりに到着する距離の村を昼少し前に通り過ごし、途中道端で握りっこを食べ、夕方になって村に到着したのでようやくそこで休憩する事にした。


 宿探しの手間と時間が惜しいので前回も泊った宿に入り、ライセンス証を取り出そうとしたところでタナカ様ですね?と聞かれ、肯定したところそのまま部屋に案内された。


 こちらか理由を尋ねる前にリシャールからいつかタナカ様がお帰りの際に立ち寄るかもしれないのでその時はよろしく頼むと言われておりましたと説明してくれた。


 何という気遣い、そして財力と認知度、これが真の王侯貴族というものか・・・


 私は心の中でリシャールに最大限の感謝を述べながら、特上の部屋へと案内されたのであった。


 翌朝、もしも自腹で支払うと宿泊費用は一体幾らするのか分からない程の高級宿の高級モーニングをタップリ食べて、今日もほぼノンストップで中央都市に向けて出発した。


 行きに通った道だし、街道は広くて一直線で分かりやすいので迷うことなくひたすら進むことが出来た。おまけに王侯貴族連合エリアということで治安も良く、盗賊に行く手を阻まれる事もなかった。


 そうして道中一切トラブルやハプニングは起こらず、当初の予定通り3日目の午前中に中央都市に到着し、最初に来た時は中央都市の外周部から中心部のかつての城塞都市部に行くまでは1日かかっていたのを数時間に短縮して午後には組合直営の高級宿に到着した。


 宿でライセンス証を見せると受付の人は私を覚えていて、前に使っていた部屋は他の客が利用していて、今は最上級の有料の部屋しか空いていないと言われ、一応値段を確認すると高ランク組合員の割引価格でも1泊10万ガーランドという価格だったが、他に部屋が空いていないのと、この宿の水洗トイレにお風呂は何物にも代え難いのと、一応今や億万長者の私なので、その部屋に宿泊する事にした。さすがにマチャントはもうとっくに外周の宿に移っていたようだった。


 チェックインを済ませて荷物を置くと、辺りはすっかり夕暮れ時になったので、今からシャルロッテとマリーのいる離れの小屋に行くのは諦めて、この宿に隣接するお高さそうなレストランで夕食を食べた。とても美味しかったがお値段の方もかなりのものだった。


 翌朝、店を探すのが面倒なので昨日と同じお高いレストランでお高いモーニングを食べて一休みしてから、モルサール総本部道場へと向かった。


 ひと月以上ぶりの表門の前で一礼して入ると、やはり喪に服しているからか野外練習場で稽古をしている上級門下生の姿はなく、代りに珍しく花が飾られていた。


 私はそのまま離れの小屋へと向かうと、一瞬だけ人の気配を感じたので立ち止まり周りを見回したが誰もいなかったのでまた歩き始めた。


 その後は何の気配もなく、離れの小屋に到着し、ごめんくださいと声をあげたところ、扉が開き中からこれまで見たこともないとびきりの美人の女性が出てきた。


「あら・・・あっ!もしかしてあなたがあのタナカカナナさん!?」


「違いますよお母様、タナカカナカさんです」


 惜しい!


「田中かなたと申します」


「あっ、いけない私ったら!」


「ウフフフ!ごめんなさい、でもオホホホホホ!」


 うわ、これはとんでもない美人だ、ヴォルタークが惚れ込むのも分かる。そして確かにマリーやシャルロッテのお母さんだと分かる顔だ。笑いのツボも多分同じみたいだ。

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