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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第73話

 ニッキが館の外の庭園にある、かつての先代が趣味の陶芸をするために建てた小屋に住みたいと言った事を私がソフィーリア婦人に伝えると、ソフィーリアは驚いた顔をして、あの小屋には水洗トイレやお風呂などの衛生設備がないから住むには適さないと言ったが、ニッキが残念そうな表情をしたので、私も残念そうな顔をして、さらにイザベルも残念そうな顔をしたので、ソフィーリアはリシャールに頼んで何とかしてもらおうと言った。


 私も資金の面と労働力の面でいくらでも協力すると言った。


 とりあえずリシャールの休憩時間までまだ時間があるので、いったんこの4人で小屋の様子を見に行く事にした。


 館の1階にあるテラスから出ればそれほど遠くない所に小屋はあり、ソフィーリアの言った通りレンガ造りの小屋は外装だけ見れば100年程経過した今でも全く問題なさそうだった。


 また、小屋の近くには小さな井戸もあり、フタを取って中を覗いてみると、水はまだ枯れていないようだった。


 窯があったと思われる跡は整地されてレンガが積まれてあり、何かに利用出来そうだった。


 早速中に入ってみると、それほど埃まみれという状態ではなく、部屋の角にいくつか蜘蛛の巣が張っているが、100年程も経過した割にはそこまで酷い状態じゃなかった。恐らく全く100年間何もしていなかったわけではなく、庭園管理の人がたまに清掃してくれているのだろうとソフィーリアは言った。


 ガラスのない木製窓を開けて空気と明かりを取り入れると部屋の中も明るくなり、手動式のろくろや土器を乾燥させるための棚があり、なるほどいかにも陶芸をしていたという形跡があった。


 また、水道管はないが大きな流し台があり、珍しく小上がりのお座敷もあった。恐らく横になって仮眠するなどに使っていたのではないだろうか。


『とても素敵な小屋です!ここに住みたいです!』


 確かに豪華すぎる館の部屋で天蓋付きのベッドで眠るよりも、こちらの小上がりでスヤスヤ眠っているニッキの方がしっくりくる気がした。


『私はこの通りの姿なので、寒さには強くて意外に暑さも平気でこれまで洞穴の中で暮らしていても普通に身体的な苦痛もなく生きてこれました、あと蚊とかの虫にもほとんど刺されたり噛まれたりしたこともないんですよ、井戸があれば水浴びも出来ますし、トイレは・・・穴を掘ってそこでしますから、このままでも私は十分快適に過ごせます』


 私は全く同じ言葉を続けて話しているだけで通訳はしていないのだが、何故か私が話すとソフィーリア達に通じるのであった。しかもまだ小さいイザベルもウンウン頷いていた。


 その後リシャールの休憩時間になったので、館に戻ってこれまでのいきさつを話すと、リシャールは即答で了承してくれて早速小屋の改修を建築士に依頼すると言ってくれた。


 ニッキは今のままでも十分だと言ったが、これからニッキには末永くここに住んでもらいたいので、便利で快適にしたいと言うリシャールのセリフに私も通訳の際に同意見を付け加えて、住みよい部屋に改修させてくれとお願いした。


 ニッキは深くお辞儀をして感謝したが、ペコリと頭を下げるそのヴィジュアルは実に可愛くて、何でもしてあげたくなってしまう程だった。


 それから昼食を挟んで、私の部屋に行ってイザベルはお昼寝の時間なので私が毎日寝ている天蓋付きのベッドで寝て、ニッキは部屋の執務室で紙に部屋の間取り図を描いた。


 ニッキの手には肉球がついていて、指は私よりも短いけれどそれでも本物のレッサーパンダとは違って、ちゃんと指先の作業が出来る程の長さがあり、ペンを持って絵を描くことが出来た。そしてそんな姿も実に可愛かった。


 その後イザベルは目を覚ましてニッキの横でお絵描きを楽しみ、夕食前には大体の間取り図が出来上がり、夕食時の団らんの際にリシャールから明日朝に建築士と大工がやってくると聞かされた。


 そうしてその日の夜になったのだが、大変なことにニッキは広くて豪華すぎる部屋に一人でいるのは落ち着かないので私の部屋で寝たいと言い、私は自然なフリを装うのに大分苦労した。もちろん心の中では嬉しさで万歳三唱していた。


 ニッキは毛が抜け落ちるので先に私にお風呂に入るように言い、何とも落ち着かない気分で私は風呂に入り、その後ニッキがお風呂に入ったが背中の毛に手が届かず、毛が浴槽に沢山入るのは迷惑なので手伝ってくれと言われて、私はさらに平静を装うのにかなり苦労しながらニッキの背中を流した。


 出会ってからずっとニッキはある意味裸のままなので、何も意識することはないのだが、何故か浴室で濡れたニッキの背中を流していると、猛烈に意識してしまい、私の心の中はなかなかに大変なことになっていた。


 その後ドライヤーなどない世界なので、私も手伝ってニッキの濡れた体毛をフカフカのタオルで拭いてあげたのだが、パッと見は凹凸のない身体でも柔らかくて腰はくびれて出ている所はしっかり出ているのでますます私の心の中はエライ事になった。


 その後二人でバルコニーに出てニッキはそよ風で体毛を乾かしながら、これまでの事を話し始めた。


 ニッキは10代後半で血液のがんである多発性骨髄腫にかかり、若かったために進行が早く20歳の誕生日を迎えた数日後に死亡したとのことだった。


 治療薬の影響で髪の毛は全て抜け落ちて、容姿もどんどん悪くなっていくことに酷く落ち込み、生まれ変わったらフサフサでモフモフの可愛い生き物になりたいと思っていたそうだ。


 死の数日前にはもう手の施しようがない状態になっていたため、痛みを和らげる強い鎮痛成分のある薬の投与を行っており、意識がある状態も少なくなり、やがて完全に意識が途絶え、その寸前にああこれで死ぬのかと思ったのだが、何故かまた目が覚めてしかも身体を起こす事が出来た事に驚いた。


 さらに驚いたことにさっきまで病室で寝ていたはずなのに周りは真っ暗で、しかもゴツゴツした岩の感触があり、その感触を確かめていた自分の手を見ると毛で覆われており、何が何だか分からない程驚きながら自分の身体を触ってみると全身が毛だらけになっていて、思わず悲鳴を上げたそうだ。


 そして遠くの先に光が見えたので急いでそこに向かったところ、自分でも信じられない位身体が軽やかで、暗闇にも目が慣れて足元や頭上の出っ張りを避けて跳ぶように走る事が出来て、すぐに驚きから嬉しさに変わった。


 あっという間に洞窟の入り口に辿り着いて外の世界を見ると一面緑の森で、少しだけフィンランドにも見えたが、木や草などの植生が違うのに気付き、近代的建築物が全くない事にも気が付いた。


 あまりにも身体が軽くてジャンプ力も桁違いで、断崖絶壁に近い斜面を見ても何故かまるで恐怖心がなかったので躊躇なく飛び降りて付近を探索した。


 あちこち見回って、やはり不思議な事に食べられそうなキノコや木の実が直感で分かり、しかも一口食べてみたところ、生のままなのにこれまで食べてきた病院食など比較にならない位美味しくて、例えどんな姿になっていようとも、この生きる喜びの前には苦ではないと思った。


 やがて小さな沢の先に1メートル位の小さな滝を見つけ、そこに出来た水溜まりに近づいてようやく初めて自分の顔を見たところ、我ながら物凄く可愛い生き物になっていてまたしても喜びの悲鳴をあげて喜び、神様に感謝したとのことだった。


 ニッキは病弱になってから日本のアニメを以前よりも多く見るようになり、その中でも異世界転生モノが大好きになり、自分も死んだら異世界に転生したいと思っていたそうだが、自分が思っていた以上の形でその願いがかなってとても幸せな気持ちになったのだった。

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