第71話
彼女、アイニッキには説明しなければならない事が山ほどあるが、今日のところはいったん戻って明日また来て一日かけて色々説明すると言うと、アイニッキは分かったと言って了承してくれた。
その後今日のお土産とソフィーリアからもらったフカフカのタオルを渡すとアイニッキはキャアキャア言って喜んだ。その姿はまさにレッサーパンダのようで思わずギュッと抱きしめたくなってしまう程の可愛さの破壊力に満ち溢れていた。
さぁこれはエライ事になった。どうやってアイニッキの健やかな住環境を整えようか・・・
って、そうだ!今ここには最大の権力と財力があるではないか!心優しき実に理想的な貴族がいるではないか!何という僥倖!奇跡!天命!これは戻って早速リシャール達に相談しなければ!
そういうわけで私はハイラル家の館に全速力で突っ走ったが、1時間でバテて途中の店に倒れ込むようにして入り、お茶を飲んで抜群に美味しい草団子を食べて復活した。
1時間も全速力で走り続け60キロ以上も進んだという馬鹿げた体力については気付いていなかった。さらに道中結構な人数の人に目撃されている事も気付いていなかった。
さておきやはり移動にはモルサール流歩方術の方が断然適していることを思い知り、急ぐ気持ちを抑えてモルサール流歩方術で館へと戻った。
ハイラル家の館に到着すると、ちょうどお茶の時間だったということで、リシャールも執務の合い間の休憩をとっていたので実に幸いだった。
「そのお顔から察するに、何か大きな進展がありましたね?」
察しが良くて助かるゥ~!さすが貴族の領主、頭の回転も良くて実に助かる!
すぐにリシャールと一緒に彼の執務室に移動し、事のあらましを説明した。
「なんと!・・・タナカ殿!なんとあなたは素晴らしいお方だ!わずか4日で、それもこれ以上ないという程素晴らしい結果を出してくれました!」
「いえ、リシャール様、素晴らしい結果はこれから作るんです!是非協力してくれませんか?」
ガシッ!
「もちろんです!私に出来る事は全てやります!是非協力させて下さい!」
リシャールは私の手を両手で力強く包んで力強く宣言してくれた。
それから具体的なプランをリシャールと共に検討し、明日は私がアイニッキに説明している間、リシャールの方では受け入れ準備を整えるために色々と動いてくれると言ってくれた。
その後夕食の場でリシャールは家族皆にアイニッキの事を説明した。ちなみに今日の夕食はキノコサラダにキノコシチューにキノコのソテーと、キノコづくしだったが、どれもガチで美味しかった。
「このとても美味しいキノコを採ってきてくれたのもアイニッキさんなんだよ、皆仲良くしてくれるかい?」
「「「仲良くする!」」」
「なかよしする!」
いやぁ良かった、実に良かった、この家族ならば皆親切にしてくれるだろうし、何よりこの広大な敷地ならばアイニッキがひっそりと、それでいて孤独で一人寂しく涙することもなく健やかなに穏やかに暮らしていけるだろう。
そうしてこの日は気分良くグッスリ眠ることが出来て、翌朝私は張り切ってアイニッキが待つお供えの場所に向かった。
イザベルには明日の朝戻ってくると言い、その時には可愛いアイニッキも一緒だと言うと両手をあげて喜んで見送ってくれた。
私も実に嬉しくて足取りもとても軽やかにモルサール流歩方術で快調に進んだ。
いつものようにおやつを食べてお土産を買って、もう5日目ということで店の人にも顔を覚えられて、見送りの言葉をかけられて先を進んだ。
昼にはいつもの店で昼食を食べて、店の奥にいる人も呼んでもらって事情を説明すると、皆大喜びでこちらの計画に賛同してくれて、アイニッキの分も含めた夕食のお弁当を渡してくれた。
そうしていつもの場所にいってアイニッキを呼ぼうとすると、アイニッキの方から姿を現した。
『こんにちはタナカさん!』
「こんにちはアイニッキさん、今日はとても良いお知らせがありますよ」
『わっ!そうなんですか?では、私が寝泊りしている洞窟に案内します、お話しはそちらで伺います』
そうして私とアイニッキは森の奥へと進んで行った。
「もっと速くても大丈夫ですよ・・・」
ピョンピョンピョン
「ホラ、これでも余裕なくらいです」
『わぁ凄い!それならすぐに着きます!』
ピョンピョンピョンピョンピョン
二人とも人間離れした跳躍力でどんどん森の奥へと進んでいった。
「おおー!これは絶景だ!凄い風景だ!これ全部が自然に出来た穴とは思えない!」
『はい、この穴のおかげで雨露や暑さ寒さをしのげます、この体のおかげでもありますけど』
「ええとその、お気を悪くしないでいただきたいのですが、そのお姿、とても可愛いですよ、本当に物凄く可愛いです」
『わっ!有難うございます、実は私も水面に映った自分の姿を見てとても可愛いと思っちゃいました、もしかしたら私の心のどこかにそうした願望があったからかも知れませんね』
「なるほど・・・それはあるかもしれませんね」
さらに私とアイニッキは命綱もなしに、ほぼ断崖絶壁に近い斜面をピョンピョン飛んで、風穴のある場所へと移動した。
『こちらが私の住処です、といってもただの穴ですけど』
女性の部屋にお邪魔するのもなかなかに気が引けるものがあるが、とりあえず洞窟の中に入ってみると大きな葉っぱで作られたベッドと、焚火の跡と、かなり雑に作られた木のお皿とスプーンが置いてあるだけで、他に人間らしい生活用品はまったくなかった。
私はそれを見て徐々に嗚咽を漏らし始め、大粒の涙が溢れて止まらなくなった。
『えっ!えっ!えぇっ!?どっ、どうしました?タナカさん、どこか具合が悪くなりましたか!?わっどうしましょう!』
「グスッ・・・ズゥーッ!・・・すいません、ここに独りぼっちで半年以上もいたのかと思うと・・・ウウウ・・・グスッ・・・」
『ああ・・・タナカさん・・・とってもお優しいんですね、でも大丈夫です、この身体ですから、これでも結構快適で楽しく暮らしているんですよ、夜はちょっと寂しいですけど・・・』
「アイニッキさん、これからはあなたを独りぼっちで寂しい思いにはさせません、綺麗な水洗トイレとお風呂のある人間的な温かい居住環境を提供する事をお約束します、といっても私が提供するわけじゃないですけど・・・」
そうして私は一から丁寧にゆっくりと説明し始めた。
湯を沸かしてハイラル家から持ってきたアイテムを使って甘いミルクティーを作り、とても喜ぶアイニッキのこの上なく可愛い姿を見て、見てるこちらの方こそ凄く癒されて幸せな気分になりながら、急がずゆっくりとこれまでの事とこれからの事をアイニッキに説明した。
私はこのままアイニッキは風穴で暮らし、ハイラル家の所にはいかないと言うのではないかと心配したが、アイニッキはハイラル家だけでなく、この近くの食事処の人達や、それ以外の周辺地域の人達の本心も知って大喜びして、喜んでハイラル家のところに行くと言ってくれた。
私はつい感情のまま体が先に反応してしまい、キャッホウ!と言って飛び跳ねて、しこたま洞窟の天上に頭を打ち付けたが、おかげでこれが夢じゃないと分かって痛みながらも喜んだ。




